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第二部
27 愛しているより上の言葉
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湯を掻き分けこちらへやってきたラーティは、湯船の縁に腰を掛けているルーカスの前に立ち、一通りの話を済ませた。
そして今、半身が浸かった格好で熱心にルーカスを見上げている。
縁に座りながら足だけ湯船に浸かっていたルーカスの陰茎を、ラーティは片手で優しく握り。次いで、腰に他方の手を回され、体をグッと引き寄せられる。
自然、ラーティの腰を挟み込むように両足が開き、膝下ギリギリまで湯船に深く浸かった。互いの陰部が擦れ合う刺激に、軽く目を細め。それからソッと彼の肩に手を置く。
目線はルーカスの方が高い。普段とは逆の、稀な仕様で抱き合うように向かい合う。
互いの距離が近くなり、より夫の美しさが鮮明になった。
女のように美しい男でありながら、ラーティの体は逞しく。戦いの傷痕が無数に残る体は、より雄を感じさせる。
きめ細かい白肌に、品良く整った美貌を縁取る金の髪。すっと通った鼻梁。
穴の開くほどとは言うが、眺めていたらクスッと笑われた。
「何か?」と聞かれて反射的に「いえ何でもございません」と、動揺を悟られないよう、極力控えて答える。
それにルーカスはラーティを幼い頃から世話しているのだ。美形を相手にするのはオルガノやリュシー、古馴染みの面々で慣れている。免疫は十分すぎるほどある。しかし──
夫の清らかな蒼天を模したように澄んだ、透明感のある青い瞳。そこには、いつになく雄の匂いを漂わせた夫の気迫に呑まれ、完全に虜にされている自身の赤く火照った顔が映り込んでいた。
冷静な思考とは裏腹の、色気さえ帯びた表情。驚き、徐々に瞳孔が開いていく自身を見て、酔いから醒めたように理解する。
口元を手で押さえていない自分の顔は、こんなにも物欲しげな表情をしていたのだと。
求めているのは寧ろ──
「私の、方…………──っ!」
あまりの羞恥に呆然としながら、後方へルーカスは引き気味に体を動かす。
「ルーカス?」
「何でも、ございません……」
顔が燃えるように熱い。ルーカスは火照った顔で夫から目を逸らす。
矛盾を自覚したことも、ルーカスがラーティを求めていることも、ハッキリと彼に知られてしまった。きっともう、口元を隠すだけでは誤魔化されてくれない。
赤ら顔のまま、苦い物でも食べたように目を細め、内心「参ったな」と嘆息する。これではあまりに説得力がないではないか。
「申し訳ない。貴方には体に負担が掛かると断っておきながら、この体たらく。言い訳する言葉も浮かびません」
夫に抱かれる前だというのに、野暮な自身が招いた罪悪感に、ルーカスは顔を曇らせる。すると、腰に回されているラーティの腕が、気遣うように微かに動いた。
心底困り果てていたルーカスの体は、自制する心に反して素直にピクリと反応する。
「ルーカス、力を誇示する戦士だったお前が力を失い、従順に私に抱かれるのを、私がこれまで少しも望まなかったと思うのか?」
下から聞こえてきた柔らかな声に、立つ瀬がないと逸らしていた視線を戻す。
寛容にも夫は非難の一つもしない。ルーカスを問い詰めることはせず、散瞳した妻の異変を危惧し。そして、ただただ安心させるように、穏やかな顔でこちらを見上げていた。
「ラーティ様、私は……」
「どうした? 言いたいことがあるなら言えばいい」
ルーカスが言葉を濁すも、ラーティはひたすら包容する姿勢を崩すことがない。
ラーティの綺麗な口から出た、とんでもなく破廉恥な発言を聞いた惑いはあったが……ルーカスは苦笑して、安堵の息を漏らす。
「……どうやら私は、余計な心配をしたらしい」
ようやく笑顔を見せた妻に、ラーティは落ち着き払った様相で「そうか」とだけ言って静かに寄り添い、見守っている。彼はもうすっかり、妻を守る夫だった。
──しかし、やはり気になることが一つ。
「あの、ラーティ様でも先程のように不埒なことを、お考えになられることがあるのですか?」
聞くと、「おやっ?」と言うように、ラーティが軽く目を瞬く。
「やれやれ、一応補足しておくが、私も男だ。お前が思うほど私は聖人君子ではないのだぞ? 好きな相手の懸想くらいする」
行為が行われる直前だが、結婚してすっかり大人の男の顔をするようになった夫の育ちすぎた性欲に衝撃を受け、ルーカスは育ての親としての責任を自らに問う。
ではいったいどこで、かように破廉恥な懸想を覚えてきたというのか。
産まれたときから傍にいて、ずっと見守っていた。今までそのような素振りを、ラーティはただの一度も見せたことはなかった。
心当たりがあるとすれば、目を離した一年前の魔王討伐のときだろう。どれほど拒絶されようとも、無理矢理にでもついていくべきだったのだ。「夜の街」という単語が頭をチラついた。
……致し方ない。後ほど、旅先でのラーティ様の素行を、ガロン達にそれとなく探りを入れてみるか。
ラーティの守護者としての、というより保護者としての意欲がメラっと高まり、焦ったガロンの青白い顔が目に浮かぶ。
「ルーカス、余計なことは考えていないな?」
夫には筒抜けだったらしい。先に、しっかり釘を刺されてしまったが……
「はい、ラーティ様。余計なことは考えておりません」
「…………」
端的に答える。けれどルーカスから漂う不審に、ラーティは短い溜息を吐き、次いで眉を顰めた。
「いいだろう。そんなに私のことが知りたいのなら教えてやる」
「──あっ!」
腰に回されている腕に、ラーティがグッと力を込め、その胸元へ引き寄せられる。ルーカスの陰茎を握っている他方の手が愛撫するように、僅かに動いた。
「つぅっ! ラーティ様っ! いったい何を……ぁっ」
先刻から、ルーカスの太腿より少し下の位置で立ち上がっているラーティの太く熱い雄の印が、微かにルーカスの陰部を擦れていた。それに反応して、蜜壺が密やかに濡れ始めていることに、彼は感付いたようだ。
「や……っ!」
ルーカスの陰茎から手を離し、代わりにそこを触れられる。腰に回していた手で背中を優しく宥めながら、武骨な夫の指が、繊細な蕾の具合を丹念に確かめている。
目を閉じ、夫の胸元に身を委ねる。なされるがまま、恥ずかしさを堪えていると──湯船の温水ではなく、愛液でぬったりと濡れていることを認識されてしまった。
「……まるで、初めてセックスを体験する処女のようだな」
「っ!」
産後では久々となる行為に、自然、体は強張っていた。それでも体は夫を受け入れる準備ができつつあると知って、ラーティは見ているこちらが蕩けそうなほど甘い笑顔になる。相当嬉しいようだ。
更には、夫の美しさに魅入って呆然とするルーカスの、赤くなっている頬にラーティはキスを落とし、口を耳元へ寄せてくる。
「私にはお前の成すこと全てが、小鳥のさえずりのように可愛らしく思えてならない」
「小、鳥……」
「ベッドの中で汗ばみ、私の腕に抱かれ、熱く子種を注がれるのを必死に受け止めるお前が妻としての役を果たしている最中にも思う。お前に触れるたび愛しさが増してしまう。そして──」
男の顔で、これまで聞いた中でも最大級の卑猥なことを呟かれた。
「な……」
けしからんことを考えていたと告白するラーティへの驚きに、ルーカスは戦慄き、目を剥く。
「貴方はなんて、破廉恥なことを考えておられるのか……!」
──などと、つい言ってしまった直後にも、ルーカスは夫に向かってとんでもない言葉を掛けたショックに絶句する。
ラーティは目を瞠り、酷く驚いた顔をしたが、次の瞬間──「はっはっはっ」と可笑しくてしょうがないといった様子で、爽快に笑った。滅多に見ることのできない笑みだった。
そうして一頻り笑った後、ラーティは固まっていた妻の唇に、優しくキスをくれた。
「だがこれも私だ。すまないが、お前が気に入らないと言っても、もう離してはやれない」
言い切られ、得も言われぬ余裕をラーティから感じてドキッと胸が高鳴る。
大器晩成を果たした者が持つ、隙のなさ。こちらを注目する、油断ならない青い眼差しの安らかさ。夫の熱い視線に感化され、ルーカスは心を溶かされた。
自分を取り戻すと、ゆったりとした動作で、湯船の中からこちらを上向く夫の頬に手を添える。
「肉体は若返ったとはいえ、一回り以上年上の四十男が貴方にとっては小鳥のように可愛いのですか?」
小鳥と思われるのは、流石に困る。溜息を殺した皮肉混じりの問答に、しかしラーティは決まり切った答えのように、サラリと言う。
「私の多彩な人生において出会った者は数多くいるが、お前ほど美しい男に出会ったことはない」
「っ!」
世迷い言を……それはこちらの台詞だと、よっぽど返したいところだ。けれども真剣な顔付きで話してくれた相手へ、わざわざ否定の言葉を掛けるべきではない。
妻へのひいき目だと分かってはいるが、気恥ずかしさを圧し殺し、赤ら顔で夫を見つめ返す。夫は目を合わせるなり、包み込むような微笑みを湛えた。
親しみと優美さを兼ね備えながらも、鋭く。妻と子供を守る為、頼り甲斐のある男へ成長したラーティの懐の深さを感じ、惚れ惚れする。
「ラーティ様、私にとっての幸せは、貴方の存在そのものだ。私が貴方に対し、気に入らないなどと。多少……いえ、多分に破廉恥なことを考えていると知ったからとて、今更そのような感情を私が抱くと本気でお思いか?」
──だとしたら貴方は私の愛情を見くびりすぎている。
先刻ラーティが言ったことと似た要領で聞き返されて、夫は「いや、つまらないことを言った」と穏和に返す。
時は経ち、未熟な子供から移り変わった大人の男としての真摯な表情も、結婚してから更に磨かれたように思う。
そしてルーカスが何事か返答するよりも先に、ラーティが「さて」と軽く一呼吸入れた。
「ルーカス。もうお前を抱いてもいいだろうか」
じゃれ合うような一時を経て、ついに話題は本題へと戻された。
ラーティが答えを求めて、下から顔を覗き込んでくる。
「ルーカス、抱かせてほしい」
再三、懇切丁寧に申し込まれる。
繊細な話題を、重すぎず軽すぎず、惑うことなく軽やかに言ってのけるのだから大したものだ。
ラーティは辛抱強く、こちらを見つめている。
昔はルーカスの保護を必要としていた、あの儚く小さかった王子が、健全な大人の男になったのだなと。幼き日の彼の姿を懐かしみ、今度こそルーカスはただただ顔を赤くしてコクリと頷く。
「……はい」
詳しく言葉にするまでもない。ルーカスがラーティを受け入れることは、一目瞭然だった。
顔を赤く、俯きがちに口を噤んでいると……すくい上げるように下方から唇を求められ、ねだるように深く唇を重ねられる。
「あっ、ん……」
愛していると示されて、ラーティの肩に置いていた手を、彼の首筋にキュッと回す。
次第に高まる夫の優しい舌の感触に促され、ゆっくりと口を開くと、熱い吐息と共に舌が中に入ってくる。
「はぁっ、はふっ、ふぁっ」
口腔内への深い侵入を許している間にも、ラーティは濡れたルーカス自身をクチュクチュと音を立てて扱き上げる。
「あっ、あっ、いやっラーティ様っ、ラーティ様……っ!」
夫の名を呼ぶたびに、ラーティは応えてルーカス自身を握った手を、上下に動かし刺激する。
ラーティは自らのそそり勃つ屹立を後回しに、ルーカスに集中している。あそこまで太く硬くなった状態で、耐えるのはよっぽどキツイだろうに。
夫から丁寧に触れられ可愛がられている陰茎は萎えることはなく、湯煙で半ば曇った天井へ向けてピンとそそり勃ち、先走りにすっかり先端を濡らしている。
美形の夫にひたすら恋い焦がれるように愛を注がれて、心地良くないはずがない。
縮こまり、最大まで堪えながらも、程なくしてルーカスは女のように細い声で鳴いた。
「あぁっ……!」
酷く感じた拍子に、汗ばんだ体が夫の腕の中でしなる。弓なりに反れた震える体を、ラーティが慰めるように擦り、腕に強く抱き寄せた。
ラーティに抱かれるとき、男であるはずのルーカスを、彼はか弱い乙女のように扱う。そしていつも、そうなるようにされてしまうのだ。
潤んだ目を向けると、無防備にされてしまうルーカスの心細さを察して、ラーティは一層深く愛するようにキスをしてくれる。
今回は汗ばんだ胸元から始まり、そこから順々にキスをして、やがて唇に来るまでキスをしてくれた。
「ルーカス……愛しているより上の言葉があるのなら教えてくれ」
これ以上ない程真剣な顔付きで言うと、達したばかりでぐったりと放心している妻の陰茎を、ラーティは再び握った。陰茎を撫で摩り、勃起を促す。
どっぷり甘やかされている感覚に、ルーカスは涙ぐむ。
「ま、待ってくださぃ、まだイッたばかりで──ふぁっ! や、ぁっ、ラーティ様っあっ、ぁっ……」
与えられる快感に、夫の腕の中で身動ぎ乱れるルーカスを、彼は愛してしまう。そしてルーカスが果てるまでに、そう時間は掛からなかった。
「あ──っ!」
イッたばかりで喘ぐルーカスの唇に、ラーティは唇を寄せ、再び重ねられてしまう。
流れに任せて口を開くと、深く唇を合わせられる。互いの舌をねっとりと絡ませ合うようにされて、口の端から唾液が零れ落ちていく。
「んぅっ、はふっ、はっ……」
先への期待に、自然腰が揺れ始める。ラーティはそれを合図に、ルーカスの腰と尻に両腕を回すと、グッと自らの方へ引き寄せ抱き上げた。
パシャッと小さな水しぶきが立ち、ルーカスは体ごと再び湯船へ戻された。
そして今、半身が浸かった格好で熱心にルーカスを見上げている。
縁に座りながら足だけ湯船に浸かっていたルーカスの陰茎を、ラーティは片手で優しく握り。次いで、腰に他方の手を回され、体をグッと引き寄せられる。
自然、ラーティの腰を挟み込むように両足が開き、膝下ギリギリまで湯船に深く浸かった。互いの陰部が擦れ合う刺激に、軽く目を細め。それからソッと彼の肩に手を置く。
目線はルーカスの方が高い。普段とは逆の、稀な仕様で抱き合うように向かい合う。
互いの距離が近くなり、より夫の美しさが鮮明になった。
女のように美しい男でありながら、ラーティの体は逞しく。戦いの傷痕が無数に残る体は、より雄を感じさせる。
きめ細かい白肌に、品良く整った美貌を縁取る金の髪。すっと通った鼻梁。
穴の開くほどとは言うが、眺めていたらクスッと笑われた。
「何か?」と聞かれて反射的に「いえ何でもございません」と、動揺を悟られないよう、極力控えて答える。
それにルーカスはラーティを幼い頃から世話しているのだ。美形を相手にするのはオルガノやリュシー、古馴染みの面々で慣れている。免疫は十分すぎるほどある。しかし──
夫の清らかな蒼天を模したように澄んだ、透明感のある青い瞳。そこには、いつになく雄の匂いを漂わせた夫の気迫に呑まれ、完全に虜にされている自身の赤く火照った顔が映り込んでいた。
冷静な思考とは裏腹の、色気さえ帯びた表情。驚き、徐々に瞳孔が開いていく自身を見て、酔いから醒めたように理解する。
口元を手で押さえていない自分の顔は、こんなにも物欲しげな表情をしていたのだと。
求めているのは寧ろ──
「私の、方…………──っ!」
あまりの羞恥に呆然としながら、後方へルーカスは引き気味に体を動かす。
「ルーカス?」
「何でも、ございません……」
顔が燃えるように熱い。ルーカスは火照った顔で夫から目を逸らす。
矛盾を自覚したことも、ルーカスがラーティを求めていることも、ハッキリと彼に知られてしまった。きっともう、口元を隠すだけでは誤魔化されてくれない。
赤ら顔のまま、苦い物でも食べたように目を細め、内心「参ったな」と嘆息する。これではあまりに説得力がないではないか。
「申し訳ない。貴方には体に負担が掛かると断っておきながら、この体たらく。言い訳する言葉も浮かびません」
夫に抱かれる前だというのに、野暮な自身が招いた罪悪感に、ルーカスは顔を曇らせる。すると、腰に回されているラーティの腕が、気遣うように微かに動いた。
心底困り果てていたルーカスの体は、自制する心に反して素直にピクリと反応する。
「ルーカス、力を誇示する戦士だったお前が力を失い、従順に私に抱かれるのを、私がこれまで少しも望まなかったと思うのか?」
下から聞こえてきた柔らかな声に、立つ瀬がないと逸らしていた視線を戻す。
寛容にも夫は非難の一つもしない。ルーカスを問い詰めることはせず、散瞳した妻の異変を危惧し。そして、ただただ安心させるように、穏やかな顔でこちらを見上げていた。
「ラーティ様、私は……」
「どうした? 言いたいことがあるなら言えばいい」
ルーカスが言葉を濁すも、ラーティはひたすら包容する姿勢を崩すことがない。
ラーティの綺麗な口から出た、とんでもなく破廉恥な発言を聞いた惑いはあったが……ルーカスは苦笑して、安堵の息を漏らす。
「……どうやら私は、余計な心配をしたらしい」
ようやく笑顔を見せた妻に、ラーティは落ち着き払った様相で「そうか」とだけ言って静かに寄り添い、見守っている。彼はもうすっかり、妻を守る夫だった。
──しかし、やはり気になることが一つ。
「あの、ラーティ様でも先程のように不埒なことを、お考えになられることがあるのですか?」
聞くと、「おやっ?」と言うように、ラーティが軽く目を瞬く。
「やれやれ、一応補足しておくが、私も男だ。お前が思うほど私は聖人君子ではないのだぞ? 好きな相手の懸想くらいする」
行為が行われる直前だが、結婚してすっかり大人の男の顔をするようになった夫の育ちすぎた性欲に衝撃を受け、ルーカスは育ての親としての責任を自らに問う。
ではいったいどこで、かように破廉恥な懸想を覚えてきたというのか。
産まれたときから傍にいて、ずっと見守っていた。今までそのような素振りを、ラーティはただの一度も見せたことはなかった。
心当たりがあるとすれば、目を離した一年前の魔王討伐のときだろう。どれほど拒絶されようとも、無理矢理にでもついていくべきだったのだ。「夜の街」という単語が頭をチラついた。
……致し方ない。後ほど、旅先でのラーティ様の素行を、ガロン達にそれとなく探りを入れてみるか。
ラーティの守護者としての、というより保護者としての意欲がメラっと高まり、焦ったガロンの青白い顔が目に浮かぶ。
「ルーカス、余計なことは考えていないな?」
夫には筒抜けだったらしい。先に、しっかり釘を刺されてしまったが……
「はい、ラーティ様。余計なことは考えておりません」
「…………」
端的に答える。けれどルーカスから漂う不審に、ラーティは短い溜息を吐き、次いで眉を顰めた。
「いいだろう。そんなに私のことが知りたいのなら教えてやる」
「──あっ!」
腰に回されている腕に、ラーティがグッと力を込め、その胸元へ引き寄せられる。ルーカスの陰茎を握っている他方の手が愛撫するように、僅かに動いた。
「つぅっ! ラーティ様っ! いったい何を……ぁっ」
先刻から、ルーカスの太腿より少し下の位置で立ち上がっているラーティの太く熱い雄の印が、微かにルーカスの陰部を擦れていた。それに反応して、蜜壺が密やかに濡れ始めていることに、彼は感付いたようだ。
「や……っ!」
ルーカスの陰茎から手を離し、代わりにそこを触れられる。腰に回していた手で背中を優しく宥めながら、武骨な夫の指が、繊細な蕾の具合を丹念に確かめている。
目を閉じ、夫の胸元に身を委ねる。なされるがまま、恥ずかしさを堪えていると──湯船の温水ではなく、愛液でぬったりと濡れていることを認識されてしまった。
「……まるで、初めてセックスを体験する処女のようだな」
「っ!」
産後では久々となる行為に、自然、体は強張っていた。それでも体は夫を受け入れる準備ができつつあると知って、ラーティは見ているこちらが蕩けそうなほど甘い笑顔になる。相当嬉しいようだ。
更には、夫の美しさに魅入って呆然とするルーカスの、赤くなっている頬にラーティはキスを落とし、口を耳元へ寄せてくる。
「私にはお前の成すこと全てが、小鳥のさえずりのように可愛らしく思えてならない」
「小、鳥……」
「ベッドの中で汗ばみ、私の腕に抱かれ、熱く子種を注がれるのを必死に受け止めるお前が妻としての役を果たしている最中にも思う。お前に触れるたび愛しさが増してしまう。そして──」
男の顔で、これまで聞いた中でも最大級の卑猥なことを呟かれた。
「な……」
けしからんことを考えていたと告白するラーティへの驚きに、ルーカスは戦慄き、目を剥く。
「貴方はなんて、破廉恥なことを考えておられるのか……!」
──などと、つい言ってしまった直後にも、ルーカスは夫に向かってとんでもない言葉を掛けたショックに絶句する。
ラーティは目を瞠り、酷く驚いた顔をしたが、次の瞬間──「はっはっはっ」と可笑しくてしょうがないといった様子で、爽快に笑った。滅多に見ることのできない笑みだった。
そうして一頻り笑った後、ラーティは固まっていた妻の唇に、優しくキスをくれた。
「だがこれも私だ。すまないが、お前が気に入らないと言っても、もう離してはやれない」
言い切られ、得も言われぬ余裕をラーティから感じてドキッと胸が高鳴る。
大器晩成を果たした者が持つ、隙のなさ。こちらを注目する、油断ならない青い眼差しの安らかさ。夫の熱い視線に感化され、ルーカスは心を溶かされた。
自分を取り戻すと、ゆったりとした動作で、湯船の中からこちらを上向く夫の頬に手を添える。
「肉体は若返ったとはいえ、一回り以上年上の四十男が貴方にとっては小鳥のように可愛いのですか?」
小鳥と思われるのは、流石に困る。溜息を殺した皮肉混じりの問答に、しかしラーティは決まり切った答えのように、サラリと言う。
「私の多彩な人生において出会った者は数多くいるが、お前ほど美しい男に出会ったことはない」
「っ!」
世迷い言を……それはこちらの台詞だと、よっぽど返したいところだ。けれども真剣な顔付きで話してくれた相手へ、わざわざ否定の言葉を掛けるべきではない。
妻へのひいき目だと分かってはいるが、気恥ずかしさを圧し殺し、赤ら顔で夫を見つめ返す。夫は目を合わせるなり、包み込むような微笑みを湛えた。
親しみと優美さを兼ね備えながらも、鋭く。妻と子供を守る為、頼り甲斐のある男へ成長したラーティの懐の深さを感じ、惚れ惚れする。
「ラーティ様、私にとっての幸せは、貴方の存在そのものだ。私が貴方に対し、気に入らないなどと。多少……いえ、多分に破廉恥なことを考えていると知ったからとて、今更そのような感情を私が抱くと本気でお思いか?」
──だとしたら貴方は私の愛情を見くびりすぎている。
先刻ラーティが言ったことと似た要領で聞き返されて、夫は「いや、つまらないことを言った」と穏和に返す。
時は経ち、未熟な子供から移り変わった大人の男としての真摯な表情も、結婚してから更に磨かれたように思う。
そしてルーカスが何事か返答するよりも先に、ラーティが「さて」と軽く一呼吸入れた。
「ルーカス。もうお前を抱いてもいいだろうか」
じゃれ合うような一時を経て、ついに話題は本題へと戻された。
ラーティが答えを求めて、下から顔を覗き込んでくる。
「ルーカス、抱かせてほしい」
再三、懇切丁寧に申し込まれる。
繊細な話題を、重すぎず軽すぎず、惑うことなく軽やかに言ってのけるのだから大したものだ。
ラーティは辛抱強く、こちらを見つめている。
昔はルーカスの保護を必要としていた、あの儚く小さかった王子が、健全な大人の男になったのだなと。幼き日の彼の姿を懐かしみ、今度こそルーカスはただただ顔を赤くしてコクリと頷く。
「……はい」
詳しく言葉にするまでもない。ルーカスがラーティを受け入れることは、一目瞭然だった。
顔を赤く、俯きがちに口を噤んでいると……すくい上げるように下方から唇を求められ、ねだるように深く唇を重ねられる。
「あっ、ん……」
愛していると示されて、ラーティの肩に置いていた手を、彼の首筋にキュッと回す。
次第に高まる夫の優しい舌の感触に促され、ゆっくりと口を開くと、熱い吐息と共に舌が中に入ってくる。
「はぁっ、はふっ、ふぁっ」
口腔内への深い侵入を許している間にも、ラーティは濡れたルーカス自身をクチュクチュと音を立てて扱き上げる。
「あっ、あっ、いやっラーティ様っ、ラーティ様……っ!」
夫の名を呼ぶたびに、ラーティは応えてルーカス自身を握った手を、上下に動かし刺激する。
ラーティは自らのそそり勃つ屹立を後回しに、ルーカスに集中している。あそこまで太く硬くなった状態で、耐えるのはよっぽどキツイだろうに。
夫から丁寧に触れられ可愛がられている陰茎は萎えることはなく、湯煙で半ば曇った天井へ向けてピンとそそり勃ち、先走りにすっかり先端を濡らしている。
美形の夫にひたすら恋い焦がれるように愛を注がれて、心地良くないはずがない。
縮こまり、最大まで堪えながらも、程なくしてルーカスは女のように細い声で鳴いた。
「あぁっ……!」
酷く感じた拍子に、汗ばんだ体が夫の腕の中でしなる。弓なりに反れた震える体を、ラーティが慰めるように擦り、腕に強く抱き寄せた。
ラーティに抱かれるとき、男であるはずのルーカスを、彼はか弱い乙女のように扱う。そしていつも、そうなるようにされてしまうのだ。
潤んだ目を向けると、無防備にされてしまうルーカスの心細さを察して、ラーティは一層深く愛するようにキスをしてくれる。
今回は汗ばんだ胸元から始まり、そこから順々にキスをして、やがて唇に来るまでキスをしてくれた。
「ルーカス……愛しているより上の言葉があるのなら教えてくれ」
これ以上ない程真剣な顔付きで言うと、達したばかりでぐったりと放心している妻の陰茎を、ラーティは再び握った。陰茎を撫で摩り、勃起を促す。
どっぷり甘やかされている感覚に、ルーカスは涙ぐむ。
「ま、待ってくださぃ、まだイッたばかりで──ふぁっ! や、ぁっ、ラーティ様っあっ、ぁっ……」
与えられる快感に、夫の腕の中で身動ぎ乱れるルーカスを、彼は愛してしまう。そしてルーカスが果てるまでに、そう時間は掛からなかった。
「あ──っ!」
イッたばかりで喘ぐルーカスの唇に、ラーティは唇を寄せ、再び重ねられてしまう。
流れに任せて口を開くと、深く唇を合わせられる。互いの舌をねっとりと絡ませ合うようにされて、口の端から唾液が零れ落ちていく。
「んぅっ、はふっ、はっ……」
先への期待に、自然腰が揺れ始める。ラーティはそれを合図に、ルーカスの腰と尻に両腕を回すと、グッと自らの方へ引き寄せ抱き上げた。
パシャッと小さな水しぶきが立ち、ルーカスは体ごと再び湯船へ戻された。
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後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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