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第四話 蔵書
しおりを挟む異世界生活二日目。
男たちとの組手を終えた後、雄一は空腹に耐えながらひたすら午前中の仕事をこなしていた。
本日の仕事は雄一だけ。見張りのデックスは居る物の、フランは休暇で、朝食を取ってすぐに街の方へと降りていった。
先日分と合わせ、雄一は午前だけで、本日分の仕事を消化してしまっていた。上司すら驚く仕事ぶりである。
その為、昼食を多めに取った後は自由時間。自由の身とは言えないものの、使用人が移動できる範囲ならば、城の中限定で行動を許可された。
「街には降りちゃ駄目なの?」
「駄目だ。一応、ユーイチは城の管理下に置けと、シルフィ様からのお達しだからな。城の中で我慢しろ」
城も、遠目で見ればファンタジーなのだろうが、内部から見る限りはただの建物。石造りは多少珍しいものの、雄一が思い描くような神秘的な建物とは言えなかった。
城下街に降りれば、多少面白いものが見れるかもと考えた雄一だったが、残念なことに行動の自由は制限されていた。
ならばと、昨晩考えていた通り、元の世界に帰る方法について考えを巡らせる。
有力なのは魔法だろう。しかし、雄一は魔法が使えないと、シルフィからお墨付きをもらっている。悲しいかなそれが現実。他の方法が無いかと考えてみた。
「……なぁ、この世界って、魔力がなくても魔法が使えるようになるようなアイテムってある?」
「マジックアイテムのことか? そりゃあるさ。恐ろしく高価なもんだけどな」
デックスが不思議そうに雄一をみた。何を言ってるんだこいつ、と言っているような視線である。
「でも、魔力がないなんて、獣人か”ギフト”保有者くらいのもんだろ? わざわざマジックアイテムに頼る必要なんて無いだろ?」
幾つか出てきた新しい単語。雄一は再度デックスに尋ねる。
「獣人ってことは……猫耳か! すげぇ! やっぱ居るんだ、ファンタジー!」
「ま、まあ王都ではまず見かけないけどな。獣人なんて、テロリストか奴隷位のもんだろ? 治安の良い王都じゃテロはほとんど起きないし、奴隷制は王国には無い制度だからな」
「へぇ……じゃあ、”ギフト”って言うのは何だ? それもアイテムの一つ……」
「待て待て! そんな常識的なことを今更聞くのか? 何処の田舎者だよお前は」
雄一が異世界出身者であることは、シルフィを除けば数人しか居ない。つまり、召喚の儀式の際に居合わせた人間だけ。
もちろん、デックスにも詳しい説明はされていない。ちなみに、デックスの雄一に対する認識は「使用人以上客分未満。ただし危険人物」である。
一方の雄一は、シルフィからあまり異世界人であることを口外しないようにと言いつけられていた。使用人たちに、要らぬ混乱を招かないためであると言う。
雄一は畳み掛けの質問を止めて、内容を改めて最後の質問をデックスにぶつけた。
「いやぁ、はるか遠くの辺境から来たもんで……そうだ。じゃあ図書室みたいなものは無いか? 場所さえ教えてもらえれば、自分で調べて見るからさ」
「? ああ。それなら、俺達の部屋のすぐ近くに蔵書室があるぞ。時間があるなら、今から行ってみるか?」
デックスの提案に賛成し、二人揃って蔵書室へと向かった。
* *
蔵書室。陽の光で本を傷めないように、窓一つ無い薄暗い部屋。”魔石”という発光する石を照明にした部屋は、幽霊が出てもおかしくないような不気味な雰囲気を放っている。
そんな場所にたどり着いた二人だったが、デックスはその部屋に入りたがらなそうに表情を歪めた。
「どうした?」
「いや、本が並んでいるのをみてると、頭が痛くなってな。悪いが、俺は扉の前で待たせてもらう。好きに調べ物をすると良い」
「え、監視して無くて良いのか?」
「出口はここだけだし、中の書物も複製品の資料ばかりだからな。特に問題ないだろう……あ、でも奥扉には入るな。鍵がかかってどうせ入れないだろうが、念のためにな」
「なにかあるのか?」
「知らん。だが、きつく入室禁止の命令が出てるんだよ。とにかく入るな」
何重にも念を押したデックスは、本当に雄一と入るつもりがないのか、ドアの前であぐらをかいて座り込んだ。
雄一はそんなデックスを置いて、蔵書室を覗き込む。
「ゴクリ…………幽霊とか、出ないよな?」
「今までゴーストが出たという報告は…………何件かあるが、全て除霊してあるから、多分大丈夫だ。多分」
「なんで”たぶん”に念を押すんだよ、怖いよ」
良いようのない不安を胸に、蔵書室へ入室。光を当てないために、すぐさま扉は閉められた。
廊下からの光もなくなった蔵書室内部は、場所によっては輪郭くらいしか分からないほど薄暗い。ドア近くにあった、魔石入りのランプを片手に、手探りながら奥へと進む。
興味本位で一冊本棚から拝借。ランプの光で表紙を照らした。
”絶滅教団の成り立ち”
恐ろしい単語が目に止まった。
いや、表面だけに囚われてはいけない。もしかしたら、中身は非常に哲学的な文章が並んでいて、「最後の数ページ、あなたはタイトルの意味に涙する」みたいな煽り文句があるに違いない!
そんな淡い期待を胸に、雄一はページを捲った。
”絶滅教団とは、人間の絶滅を目標にした宗教団体である”
雄一の淡い期待は、最初の一行で見事に打ち砕かれてしまった。
「そのまんまじゃねぇか!!」と、蔵書室の内部をツッコミが響いた。
とりあえず、獣人やギフトと言う単語には関係無さそうな物であり、雄一はそっと本を閉じた。
気を取り直して他の本を探す。そしてここでようやく、雄一はとある違和感を感じ取った。
「あれ? そう言えば、普通にこっちの文字読めてるな」
違和感の正体。それは、この世界の言語を、日本語しか読めないはずの雄一がスラスラと読み解いていることにあった。
もちろん、本に記述されている文字は日本語ではない。雄一が「ミミズがのたうち回ったような文字」と表現するような物。
そんな文字が読み解けることは、雄一にとって驚きではあるが、テンプレの範囲内として処理できた。つまりは「そういうものなんだから仕方がない」と言う思考停止である。
ふと、雄一の視線が部屋の奥へと注がれた。
デックスが言っていた奥部屋。「鍵がかかってどうせ入れない」とも言っていたその扉は、半開き状態で放置されていた。
中から漏れる淡い光は、雄一を刺そうようなおかしな雰囲気を放っていた。
というよりも、雄一は「入るな」と言われれば入りたがる生命体だ。「押すな」と言われる自爆ボタンは押すタイプなのである。
すなわち、彼の性格上この場合、奥部屋へ入るという自爆ボタンは、間髪入れずに押す選択肢一択だった。
「誰か居ますかー? 居ないなら返事してくださーい…………じゃあ入りまーす」
返事が帰ってこなかったという言い訳を経て、雄一は奥部屋の扉に手をかける。
内部は蔵書室よりもかなり狭いが、同じように本が大量に備えられた部屋。本棚に収まりきらず、平積みにされた本の数は、山と表現して良いものだ。
そしてその中央部。本の山に囲まれた狭いスペースに、何やら人影を確認した。
誰も居ないこと前提で独り言を大声で喚いていたのだ。その前提が崩れた事により、雄一の気恥ずかしさは冷や汗となって現れた。
「あの~……さっきの大声って、聞いてたりします?」
恐る恐る部屋の中の人物に声をかける雄一。しかし、返事は帰ってこない。かわりに、彼の肩に何かが乗る感触がした。
デックスの「ゴーストが出たという報告は何件かある」と言う言葉を思い出し、恐る恐る背後を見た。
「ばぁ」
魔石の淡い光が照らしたのは、暗闇に浮かび上がる、女性の顔面であった。
「あんぎゃぁああああああっ!?」
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