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第十九話 決意
しおりを挟む目を覚ませばそこは城の一室。どうやら再びループを経験し、四週目の異世界生活初日に戻ったようだった。
高い天井の一点を見ながら、雄一は険しい表情を浮かべた。だがその一方で、彼は笑いたい気分でもあった。
「やっと尻尾を掴んだ……かな」
三週目のループにおいて、得るものは多かった。今まで分からなかったループの仕組み。そしてミーシャの正体とその特性。何より、惨劇の首謀者がアミックであると突き止めたのは大きい。
まずはループの仕組み。死亡説とタイムリミット説で悩んでいたが、どうやら死亡説が有力のようだった。一周目と三週目。三回の内、二回を死んでループした。
二週目については、急に意識を失ったため死亡したかどうかは分からないが、それでも二回を死亡でループしたなら、法則性はこちらに傾くと考えるべきだ。
次にミーシャの正体。これは、ルティアスと同一人物であると雄一は確信を持った。
理由として、世界に同じ能力は二つとないはずのギフトを、ミーシャとルティアスが持っていたからだ。『インフィニティ』と呼ばれるいわゆる超回復能力。木片が刺さって大量出血。それが回復した現象は、かつてミーシャが見せた物と同じだった。
更に加えて、死の直後に聞いた声だ。「くふっ、くふふっ」と言う特徴的な笑い声。間違いなくルティアスの声であり、ミーシャの声だったのだ。
ミーシャとルティアス。この二つの人格が変わる仕組みを、前述の出来事から雄一は予想した。
ルティアスとアミックが出会うこと。もしくは、アミックにルティアスが殺されること。これが、人格が入れ替わるきっかけである。
断言できるほどの情報ではないが、これなら多少の辻褄が合うのだ。
整理すると、
アミックが城を襲撃。ルティアスと接触して、ミーシャに人格が入れ替わる。その後、ミーシャとアミックと絶滅教団で城の内部を殲滅。一周目と二週目はこれに当たる。
もしくは、雄一がミーシャを街に引き止め、アミックが彼女を探しに来る。接触し、ミーシャに人格が入れ替わる。雄一はそこで死んだため以降は分からないが、同じ惨劇が起きたと予想できる。
「アミックとの接触で人格が入れ替わるなら、とにかくルティアスは隠しておけば良いのか? そうすれば、敵側の戦力はだいぶ下がるはず……」
ルティアスは味方だ。優しいメイドであり、シルフィに忠誠を誓う臣下でもある。なら、ミーシャに人格を奪われないまま、事を終わらせてしまえばいい。
敵の規模はそれでも大きい。街全体と城を同時に攻撃できるほどなのだから、生半可な人数ではないだろう。
それでも、チートと呼べるほどの能力を持つミーシャがいなければ、もしかすると城や街の兵士だけで制圧できるかもしれない。
最後にアミックという存在。絶滅教団幹部と名乗ったその男は、ミーシャと並んで惨劇の主役であることが見受けられる。
つまり、事前にこの二人を何とかすれば随分と楽になるはずだ。他に幹部がいないという保証はないが、現時点で判明しているこの二人の排除は必須事項だろう。
何より、雄一にとっては優先順位の上位に当たる。アミックに宣言した通り、彼は彼を殺すという決意を持っている。
恐怖から逃げ出して、なりふり構わず生き延びようとした事。それ自体を否定して、彼は怒りのままに宣戦布告をしたのだ。
「オーケイ、じゃあ……攻略開始だ」
改めて口に出すと、少しばかり臭いセリフ。言い放ってから数秒、少し気恥ずかしい雄一だった。
だが、ひとまず彼はやらなければならないことがある。大きく息を吸い込んで吐き出して、彼は頬を引きつらせた。
「――とりあえず牢屋から出ないとなぁ」
四週目の初っ端。格好の付かない事であるが、彼は牢屋に繋がれていた。シルフィに頭突きをかましたことが原因である。
* *
「本当に申し訳ありませんでした」
「うむ、潔さは美徳であるな」
乙女チックな内装のシルフィの部屋にて、雄一は彼女に土下座で謝罪をしていた。
牢屋へ投獄され、フランから食事をもらい、その後にシルフィとの面会というのは予定調和だ。一周目では、調子に乗った挙句に下男にされてしまった経験を元に、雄一は素直に謝っておくことにしたのだった。
雄一の潔い謝罪は好感触だったらしく、何とかこの場は収まりそうだった。
「ユーイチの態度次第では、下男に落とすことも考えていたのだが、予定通り客分として迎え入れることにしよう」
「そ、そりゃどうも」
一周目の下男生活が悪いものであったかと聞かれれば、少し逡巡してから否定するだろう。大変ではあったが、異世界に来てから最も楽しい日々だった。
とは言え、最も動きづらい状況であることは間違いない。行動が制限されて調べ物をするのにも一苦労だろう。
よって今回、襲撃の真相を突き止めるための第一条件は、客分として自由に動けること。シルフィに頭突きをしたのは想定外だったが、何とか修正は出来たようだ。
客室に案内されて、雄一はすぐさまベットに入った。疲れているからというわけではなく、すぐに行動に移るためである。
「悪いなルティアス、牢屋生活で疲れてるもんでな。今日はしばらく休ませてもらうよ」
ベットの中からそんな風にルティアスに告げる。これから取る行動に、ルティアスが居ては少し不都合があるのだ。
その為、まずは彼女を排除する事が先決である。起きている間、ルティアスは雄一に付き従って行動するため、単独で動くことは難しい。だが、寝ている間中一緒にいるとは思えない。
キョトンとするルティアスは、そんなに疲れているならと一礼し、
「じゃあ私はこれで。何か用事があれば、ベットの横にある呼び鈴を使ってね。外に出る時は必ず私を呼ぶこと。勝手に出歩くことがないようにお願いします」
「……まるで監禁されてるみたいだな」
「人聞きが悪いわ。でも、お城の中には入っちゃいけない場所もあるから、ユーイチ君に好き勝手されたら困るだけ」
それじゃ、おやすみなさい。と、ルティアスは扉へと手をかけた。
「あ、ルティアス」
「……なに?」
「あの……俺に構わず、休み取ってもらっても良いぞ? 監視って言うなら、そこらの兵士にでも任せれば良いし」
アミックと出会うことによって、ミーシャの人格に入れ替わるのだとしたら、城で働かせておくのは都合が悪い。かと言って、彼女の家はアミックにバレてしまっているのだから、何かしらの手は打っておかなければならないだろうが、それでも城にいるよりはよほど安全と言えるだろう。
そんな雄一の心配を知るよりもないルティアスは、クスクスと笑いながら、
「なぁに? 気を使ってくれているのかしら。ならご心配なく。お客様の面倒を見ることが私の仕事なの」
「そう……だよな。じゃあ、怪しいやつがいたら絶対に近づくなよ。兵士か誰かにすぐに報告を……」
「何をそんなに心配してるのかわからないけれど、お城の中は安全だから大丈夫よ。一体、どんな危ない世界から召喚されたのかしら」
ループ前の世界が異世界とするならば、極めて危険な世界から召喚されたと言えるかもしれない。何せ大虐殺が起きた場所から何度もやってきているのだから。
中々的を得た皮肉を言うと、ルティアスは客室を後にした。
それから数分。廊下から気配が消えたことを確認し、雄一はすぐさま行動に移る。
窓を開いて下を見る。何階建てかは分からないが、とりあえず落下すれば死んでしまう高さであることは見て取れた。
冷や汗をかくような高さだったが、壁の出っ張りを見るに、十分壁伝いに移動できそうだ。両手に息を吹きかけて、ゆっくりと窓の外へと移動する。
――ここで落ちて、ループしたら馬鹿みたいだな。
滴る汗が鬱陶しい。何度も滑り落ちそうになりながら、雄一は屋根の上に到着した。登りきっていない陽の光が、鐘が吊るされた塔の向こう側からあたりを照らす。
今から確認するのは、絶滅教団に関する唯一の手がかり。初日の日の出の時間帯に現れたと言う、ブラザーフッドとの接触だ。
最終日にしか姿を表さない絶滅教団。後手に回り、その日まで行動を起こさなければ惨劇は必ず起きる。城だけでなく、街にまで広がる被害は尋常ではない。
仮に雄一が殺されず、ループから抜け出せたとしても、シルフィやフラン、ルティアス達は死んでしまうかもしれない。
雄一の行動で、彼女たちが救えるかもしれないとわかった今、そんな選択肢を取るつもりは無かった。
「ループが俺に何をさせたいのか知らねぇが……やるなら徹底的に完璧を目指してやるぞ」
乱れる息を整えて、雄一は塔を睨みつける。
「全員もれなく救うまで、止めてやんねぇからな!」
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