余命三日の異世界譚

廉志

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第二十三話 稼業

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「ユーイチ、ご飯まだ?」
「ご飯まだ、ユーイチ?」
「つうか見てないで手伝えよ、お前らの家だろうが」

ブツブツと文句を言いながら、雄一は双子にせがまれつつ夕食の準備を行っていた。
ボロボロの住宅を隅々まで掃除して、溜まった洗濯物を洗い流し、表通りの店先から持ってきた食材を使って盗賊団に飯を作る。
まるで盗賊団の仕事ではないが、彼らの信頼を得るためと思い、とにかく仕事に励むことにしたのである。

「くっそー……生まれて初めてドロボーしちゃったよ。これで俺も日陰者か……」
「食材盗んだくらいで大げさなんだよお前は。盗賊団だぞ俺らは」
「そりゃそうかもしれないけどよ、俺ってば結構善人だったんだなぁって。やんちゃはしてきたけど、万引き恐喝はやったことなかったし」

思いのほか後味の悪い盗賊行為。大きなため息をつきながら野菜をきざむ。

「で、飯はまだか、ユーイチ」
「うるせぇ! もう出来るっつうの!」

野菜を炒めて料理が完成した。台所にある用具と設備では、大したものはできなかったが、それでも出来上がった料理を見て、三人組はよだれを垂らす。
そして食卓は戦場と化した。せっかくそれぞれに適量の盛り付けを行ったと言うのに、右から左へと手が伸びて、隣の飯まで奪う始末。
注意する間もなく、あっという間に食卓から食事が消え去った。雄一の分も強奪されて、口にふくむことが出来たのはパンの一欠片である。

「いやぁ、久々に人らしい食事ができた! ごちそうさん!」
「うう……お兄ちゃんがいれば、ご飯を食べてお腹を壊すこともなくなるね、ルトゥカ」
「うう……お兄ちゃんがいれば、ご飯を食べて倒れてしまうこともなくなるね、リトゥカ」
「お前ら、普段どんな食生活してるんだよ」

泣き出す双子と、遠い目をするダイクリッド。
普段彼らの世話をしているという、もうひとりの仲間とは一体どんな奴なのだろうか。当たりの惨状を見るだけで、そいつが少なくとも家事全般に関して無能であることはよく分かる。
とりあえず、そのような者に家事を任せるという選択肢がそもそもの間違いだろう。

「飯を平らげた所で本題だ。で? 俺は結局、ブラザーフッドに入れてもらえたのか?」
「ダイクリッド! ルトゥカは賛成だよ! ご飯、すごく美味しいし!」
「ダイクリッド! リトゥカも賛成だよ! 掃除、すごく綺麗だし!」
「まあ、こいつらも懐いちまったしな。良いだろう、よろしくな使用人」

顔が引きつる雄一。やはり使用人としての採用だったらしい。
雄一がブラザーフッドにはいった理由は、流石に使用人として働くためではない。これから接触するであろう、絶滅教団に少しでも近づくためである。
ならば家事全般をこなしている場合ではない。気になっていた教団に関してを尋ねてみた。

「今朝言ってた、絶滅教団の話。お前ら、本当に奴らと仕事してるのか?」
「……お前が言いたいことは分かる。まあ普通なら、教団なんかと仕事はしないな」

ダイクリッドは、食事を終えてリラックスしていた表情を険しくさせて、

「でもな、俺達は獣人だ。昔は隠していたが、一度噂が立てばもうおしまいだ。獣人じゃ表の仕事を受けるのは難しいし、裏稼業でさえ近づきたがらない。結局、俺達と仕事をしようなんて連中は、教団みたいな変人共しかいないんだよ」
「……そんなに獣人への風当たりは強いのか」
「獣人だとバレてる俺達が、面も割れて表通りを歩いたらどうなると思う? 言っておくが、捕縛なんてされないぞ? その場で首を斬られておしまいだ」

首に手刀を当てて横に薙ぐ。雄一にも、そのジェスチャーの意味は理解できた。

「こいつらを養うのには金がいる。盗みだろうが、教団との連携だろうがなんだってやってやるさ」
「…………ダイクリッドって、思ったよりも良いやつだよな」

見た目は凶悪。言動だって乱暴なダイクリッドだが、雄一の彼に対する印象は悪くない。
犯罪に手を染めるという行為を、全面的に肯定するわけではない。だが、彼らには彼らの苦労がある。それは雄一の常識で断罪できるものではないし、そもそも理解も出来ていない。
ならば、目の前の男の性格を見る以外に、雄一がダイクリッドの印象を答える方法はない。そして、子供たちのために働く彼の性格を、雄一は好印象に捉えていた。
ダイクリッドは照れくさそうに悪態をついた。双子とともに、そんな彼をからかっては笑い合う。

「ま、使用人っていうのはこの際仕方がないか。でも、話を聞かせてもらった以上、俺も盗賊家業は手伝わせてもらうからな。」
「食料泥棒であたふたしてたやつがよく言うぜ」
「まあ見てろって。明日からの俺は、ブラザーフッドの使用人兼盗賊の佐山雄一だ!」











*    *

「まてや糞ガキ!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさーい!!」

啖呵を切っては見たものの、翌日の雄一は無様な様相を呈していた。
顔をバンダナで隠した彼を追いかけるのは、表通りで野菜を売っている八百屋のおっちゃん。手には棍棒、大きく振りかぶりながら雄一へと向けている。
極めて暴力的な行為だが、そんな彼に雄一は謝罪の言葉を連呼している。なぜならば、おっちゃんが怒っているのには正当性があるからだ。
先日に引き続き、野菜を大量に盗み出されたなら怒るのにも無理はないのである。

「八百屋のおっちゃん! 代金はいつか返すから! 出世払いだから!」
「いつかじゃなくて今返せ! 昨日の分と合わせて今返せ!」
「金がないんだから仕方がないんだよ! 金ができたら必ず返す! ……と思う!」
「せめて断言しろよ!?」

なんてふうに、盗賊としての仕事に精を出していた。傍から見ればただのチンピラであるし、実際にそう言われれば雄一は否定しないだろう。

鍛え上げられた足腰は、ふくよかに育ったおっちゃんの腹に負けるほど軟じゃない。いくらか走った所で簡単に撒くことが出来た。
その他の店から何人かが雄一に合流して街中を駆ける。双子が他の店から金品を盗んで来たのである。

「昨日までの同情心を返せ! やっぱただの盗賊じゃねぇか!」
「ルトゥカは盗賊だよ? 見てこの宝石!」
「リトゥカも盗賊だよ? 見てこの金貨!」

屈託のない笑顔を浮かべる双子が盗品を自慢してくる。思わず口元を抑えて泣けるような光景だ。
神様仏様、雄一は汚れてしまいました。信仰心は別に無いけど、なんとなく居心地が悪いんで謝罪しておきます。
雄一は心のなかで天を仰いで言葉を述べた。

「大体、ダイクリッドは何処に行った!? まさか教団と会ってるとかじゃないだろうな!?」
「会うのは明日って言ってたから違うんじゃないかな」
「今日はお城に迎えに行くって言ってたから違うんじゃないかな」
「迎えに? 誰を?」

そう尋ねると、双子は互いの顔を見てパアッと明るい笑顔を浮かべた。そして雄一の質問に答える事もなく、足早に自分たちのアジトへと走り去る。
子供ながらも、身体能力は人族の比ではない。あっという間に引き離されてしまった。

「一体何なんだよ……」

大量の食料を抱えながら、一人で家へと帰ることとなった。いくらかは双子に持ってもらおうと思っていた分、帰る足取りすら重くなる。
裏通りを歩きながら、雄一はそう言えばと思い出す。

「お姫さんたちに黙って出てきちまったけど、大丈夫かな? 解決したとしても、なんて言い訳をすれば……」

絶滅教団についてを調べるのが目的とは言え、城の外に出てきたのは不可抗力だ。前のループで逃げ出したのとは違い、城に帰るという意識は持っている。
ではシルフィにどのような説明をすれば許してもらえるだろう。ブラザーフッドと言う盗賊団と一緒に、外の世界へと飛び出した。これは流石に論外である。
それすなわち、ダイクリッドたちを逮捕させるのと同義であり、雄一の道徳心としてはやりたくない行為だ。
少なくとも、すべてを終えるまでの間に、言い訳を考えておく必要があるだろう。

そんな考え事をしている内に、アジトに通じる裏通りへと到着した。

「…………と言うことだそうです」

女性の声が聞こえた。まだ幼さが残るその声は、双子のものとは違う物だった。
何やら聞いたことのあるような声がした方向を見てみると、そこにはダイクリッドと彼のそばに居る小柄な女の子がいた。
大きなハンチング帽子を目深に被り、ワンピースの上にコルセットと飾り布。肩には布を羽織った女の子。
なぜ女の子が、見た目が凶悪なダイクリッドと一緒にいるのか。雄一は思考を巡らせた後、一つの結論に達した。

「コラァ! ダイクリッド! 女の子に絡んでんじゃねぇよ! 恐喝反対!」
「はぁ?」

振り返るダイクリッドの表情は呆れ顔だった。「お前は何を言ってるんだ」と言う文章が、顔面に現れているかのごとくである。
ダイクリッドが振り返った表紙に、彼の体で隠れていた女の子の顔がちらりと見えた。そしてそれは、雄一のよく知る人物のものであった。

「――フラン?」




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