余命三日の異世界譚

廉志

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第三十七話 直面

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イグルサムから得た情報は二つ。
絶滅教団が警備の固い城の鐘を狙う理由とタイミング。
そしてアエルが惨劇の際に、城に居ない理由だ。

――――冷静になって考えてみると、大した情報じゃないよなぁ。

頭の中を整理してみて、そこまで価値のある情報ではないと感じてため息をつく。
今まで得た情報と経験に、説得力をもたせるだけの情報である。それも無理からぬ事だろう。
しかしその吐き出した息を振り払い、役に立たない情報はない。必ず何処かで役に立つと、考えを改めた。

「で? 俺に聞きたいことってなんだ? まったく、アエレシス様も面倒事を押し付けて下さる……」

簡素な椅子に座って雄一と向かい合っているのは、腕を組んでうんざりした表情を浮かべる、デックス・テンバーと言う青年だ。
イグルサムが住んでいる協会跡の地下空間。そこから戻って、城壁内にある詰め所でのやり取りである。
近くにアエルの姿は無い。一応、雄一のお目付け役として同行していたはずであるが、雄一がデックスと話している間待っているのが面倒くさいらしく、お目付け役をデックスに押し付けて帰ってしまったのだ。
だが一応、念のための措置が取られている。
雄一の右手。その甲に刻まれた赤色の模様。受けた説明では、雄一の居場所を感知して、アエルに伝える魔法であるらしい。

――なんか首輪をつけられたみたいで嫌だけど、一応自由行動が許されたみたいだし、このぐらいは良いか。

中二病心をくすぐる紋様をさすりながら、雄一は辺りを見渡した。
埃にまみれた薄暗い詰め所。そもそも、なぜデックスがこんなところで働いているのだろうかと思考する。
元々の職場はここなのだろうが、これほど城から距離のある場所の、一介の衛兵である彼に、わざわざ城にきてもらって雄一の監視役を頼む。
よく考えてみれば、これほど遠回りで無駄な手間はない。指示を出すなら、城の者に一声かければ済むことだろう。

「デックスって、もしかしてお偉いさん?」
「……なんだその質問。俺が高い地位についてるように見えるか? こんな場所で働いてる俺が」
「いやさ、アエルと顔見知りだって話だし、意外にも貴族様だったり……」
「ねぇよ。俺は一般庶民の出だし、アエレシス様と顔見知りといっても、普通の兵士よりも多少知ってもらっているだけだ」
「でも相性で呼ばれてただろ?」
「あの方は誰にでも愛称をつける。えーっと、雄一だったか? お前もつけられてるだろ?」

アエルの気さくさは、親しさの度合いに限らないようだ。

「まあいいや。とりあえず本題に入ろう。えーっと…………デックス、最近どうよ?」
「お前もう帰れよ」
「いやゴメン。省略しすぎた。そうじゃなくて……デックスって衛兵だろ? このあたりの治安って、この頃どうなのかなーって」

絶滅教団が惨劇の日、この街に現れることは確実である。
ならば、その日までの彼らの足取りはどうだ。これまでのループにおいて、教団員と接触できたのは最終日のみ。後手に回った結果、惨劇回避が出来ないことを理解する。
これまでの反省を踏まえ、今回は先手を取って、教団に相対することにしたのだ。
イグルサムやデックスからの情報収集もその一環である。

「俺、今絶滅教団について調べてるんだ。噂でもいいから、何か知らないか?」
「……まあ、アエレシス様に良くするよう言われてるからな――――絶滅教団については、最近幾つかの目撃情報は上がってる。でも、それ以上のことは全くだな。居場所がわかれば、すぐにでも衛兵隊を連れて制圧に行くんだが」
「そりゃそうか。…………目撃されたってのは、このあたりの貧民街でか?」
「いや、確か……中心街だったはずだ。教団のフードをかぶったやつがうろついていたと言う情報屋が居てな」

情報屋。その響きに、雄一は反応した。
専門家であるイグルサムが、絶滅教団についての歴史などに深く理解を持っているのだとしたら、情報屋は現在の情報についての理解が深いだろう。
もしかすると、何かしらの情報が引き出せるかもしれない。そう思い、雄一は腰掛けていた椅子から立ち上がった。

「よし、そんじゃ行くか」
「? なんだ、帰るのか?」
「そうじゃなくて、その情報屋のところにだよ」











*    *

「はぁ……俺にだって仕事があるんだがなぁ」
「まあまあ。一応治安維持の一環でもあるし、アエルの指示ってことで諦めてくれ」

大きくため息を付きながら、雄一と並んで歩くデックスは、詰め所での仕事を放置した上で、雄一の予定に付き合っていた。
アエルの指示とは言え、自分の仕事が出来ないのだから、ため息も仕方がない。おまけに、自分の仕事は帳消しになったわけではなく、後回しになっただけなのだ。

街を歩く雄一の表情は明るい。未だ惨劇回避のためのプレッシャーはあるものの、思えばまともに街中を歩いているというのは初体験であった。
日も昇らぬ時間帯に、人影から逃げ回っていたことや、八百屋から野菜を盗む為に駆け回ったことはある。しかし、異世界観光に洒落込むなどという、精神的余裕は無かった。
レンガ造りの街並みを見上げ、真上に登る太陽に目がくらむ。
公害などとは無縁の清々しい空気を吸い込んで、気分を切り替えるように吐き出した。

「で、目的地はそろそろか? とっとと全部終わらせて、帰るまでに観光したいんだけどな」
「俺を連れ回すお前が言うのか? はぁ……もう着いたよ。目の前の店がそれだ」

立ち止まったデックスが指差したのは、中央街から続く路地にある、様々な店が並んだ商店街。その一つ店である。
情報屋が居るにしては、やけに堂々とした店構え。だが、看板を見るに、どうやら情報屋と言うのは裏の顔のようだった。

「本屋じゃん」
「まあ本屋だな。そりゃ、情報屋が情報屋の看板を掲げているわけ無いだろ?」

「どうも情報屋です!」と店を構える人間に、近づきたがる者は居ない。自分の情報を調べに来たのではないかと警戒されるのが当然だ。
デックスは扉を開く。客が来たと知らせる呼び鈴が鳴り響き、二人揃って本屋の中へと入った。
城の密閉された空間とは違い、定期的に空気を入れ替えている店内は、紙の香りと相まって、外とは違う清々しさを印象づける。

「ん? これはこれは、デックス君。何か用かね? 今の時間帯は、城壁の詰め所に居るはずでは?」
「いえ、ちょっとお客さんの接待中でして。あれ? 首筋の包帯、怪我をされたんですか?」
「ああ、いやちょっと野犬に噛みつかれてしまってね。治安維持もいいが、野犬の駆除もお願いしたいところだよ」

二人を出迎える、中年男性と思しき声。デックスの背中に隠れ、その姿を見るのに遅れがあった雄一は、店内の空気を堪能した後、一歩進み出てその顔を見た。

「あ、どうも。お邪魔しま…………っ!?」

声の質と合致する中年男性。白髪交じりに顔面のシワが多く、にこやかな顔を持って雄一を見る。
首には野犬に襲われたという傷をかばうため、真っ白な包帯が巻かれている。
本屋の店員らしく、エプロン姿をしたその男性は、服装こそ違えど、雄一に見覚えのある人物。
見間違うことなどありえない。数々の惨劇の舞台に立った雄一だからこそ確信する。
その人物が、自分にとってどれほど恋い焦がれ、死を願ったことかと、歯を割れんばかりに噛み締めた。

「――――オリー……」

フランの喉を掻っ切り、ダイクリッドの体を乗っ取ってルトゥカを塔から突き落とした。
絶滅教団の一人。オリーがそこに居たのである。


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