まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~

廉志

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第十一章 まるでやらせな接待業

番外編 ハーケンソード その3

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 マルタ・ペンドリアス・ハーケンソード。
 人間社会の中で、彼女の名前を知らぬ人間はいないであろう超重要人物。何せ歴史の教科書にも、現代の政治学の教科書にも載っているのだ。
 かつて、当時の勇者と共に世界各地を巡って数々のダンジョンを攻略。数多のネームドモンスターを屠ったその実力はオリハルコンを軽く凌駕するという。
 人類最強の称号を軽く凌駕しちゃったらまずいだろうとツッコミたいが、実際に出会ってみてわかった。確かに軽く凌駕しちゃっているわこの人。

「うおぉっ!? 妖精フェアリーがいる!? しかも何匹も! あれって一匹一匹がオリハルコンクラスのモンスターだよな!?」
「そだよー。でも匹なんて数え方しちゃかわいそうだから止めてあげてくださいね。うっかり廃人にされちゃいますよ?」
「怖いっ!?」

 マルタの周りをふよふよと漂う色取り取りの光の球体。フェアリーと言う、世界に数体しか確認されていないはずの最強格のモンスターの一種である。
 そもそも発見が極めて困難な種族で、と言うか不意に発見してしまうとその魔力に充てられて廃人になるらしい。
 抗魔力のあるジョブか、何かしらのバフをかけている状態でなければ見ることすら叶わない伝説のモンスターなのだ。
 そんな伝説が複数目の前に居るのだから、ぜひ俺の驚きを理解してもらいたい。
 フェアリーたちはマルタの耳元へと移動すると、何やらクスクスという笑い声と共に談笑しているようだ。

「あの、フェアリー……さんは、なんて言ってるんですか?」
「ええと、「あの無礼なクソガキを絞めて良いっすかマスター」って」

 フェアリー、ファンシーなくせに案外口が悪い。

「「口が悪くて悪かったなクソガキ。脳みそいじくり倒して楽しい踊りを一生躍らせてやろうか?」とも言ってますねぇ」
「心を読まれてる!?」
「そりゃ読むわよ、相手はフェアリーよ? 精神系最強のモンスターとも呼ばれてるんだから」

 もう下手なことを言うのはやめよう。そうだ、無心だ。無心になるのだ。俺は空気俺は空気。

「あー……話が進まないのでフェアリーは大人しくさせてください」
「そうですね。フェアリーさん、と言うことなので後で遊びましょう」
「ちっ!!」

 今舌打ちが聞こえた気がするのだが、気にしないでおこう。

「ごめんなさいね。フェアリーさんはリンシュちゃんと相性が悪くって……ああ、ところで何の話だったかしら?」
「サトーがこの学校に入学したので、ご挨拶に来ました」
「あら、そんなかしこまらなくてよかったのに。私が家に帰った時にでも……」
「貴女家に帰ってこないでしょう。年がら年中ここに引きこもって小説を書いてるくせに」
「えへへ……でも編集者さんが全然採用してくれないんですよねぇ。おかげでこの没原稿の山です」
「これ書類とかじゃなかったんだ!?」

 机の上に山と成す紙は、どうやらすべて仕事には関係のないものだったらしい。

「というか、マルタ……さん? は、小説家なんですか?」
「全然売れていないけどね。下手の横好きってやつよ」
「エッセイは売れたんですけど、フィクション系がからっきしでして。編集者さんからも「自叙伝をもっと書け!」って言われてるんですが、好きなのはこっちなんですよね」
「そもそも小説なんて書かなくても、ネームド討伐報酬やらで一生遊んで暮らせるでしょうに」
「それとこれとは話が別です。趣味でもありますからね」

 地位と権力を手にした人間は、その後名声を得たいと考えると聞いたことがある。彼女もそのような口なのだろうか?

『おい、さっきから聞いていれば主殿に対し無礼だぞリンシュ。母に対する敬意をもっと払え』
「出たわね〇輪ボイス。これは家族同士の会話よ、他人が割って入るのは野暮じゃないかしら?」
『ほう、子供のころ我にビビって腰を抜かしていた小娘が強く出たな?』
「弱り切った子供相手にイキる駄犬がいると噂に聞いたことがあるわ。どうやらここに居たみたいね」

 フェンリルとリンシュの間に不穏な空気が流れた。どうやらこの二人、仲がすこぶる悪いらしい。
 モンスターの中でも最強と呼び声高いフェンリルと、俺の中で最狂と呼び声高いリンシュ。
 純粋な戦闘能力で言うならば、フェンリルに軍配が上がると予想するのが普通だろう。だが、俺の脳内にはリンシュが負ける姿がどうしても思い浮かばない。
 そもそも事務職であるリンシュが戦う姿も想像できないが、フェンリルに対する姿勢を見ると、彼女はかなり戦えるのかもしれない。
 この戦い、ある意味見てみたい気もするが、両者が戦った場合余波で俺が死ぬことは間違いないので、今のうちに辞世の句でも読んでおくべきだろうか。

「やめなさい」
「『はい』」

 マルタさん強ぇ!!
 一言で場を収めたマルタの一声。一触即発の雰囲気が一変し、フェンリルとリンシュは真顔でその指示に従った。
 
「二人とも、出会うたびにこんなだから大変なんですよ。さてサトー君、召喚されてから大変だったでしょうが、今は不便なことはありませんか?」
「あ、はい。リンシュ副本部長にも、いつもお世話(?)していただいてます」
「なんで(?)が付くのよ」

 金銭や住居に関してはリンシュ持ちだが、それらの管理や運用は俺の仕事だからだよ。

「あ、ところでサトー君の戸籍はハーケンソード家とは別にしてますからね。そういう関係になっても、全然問題ないから安心してくださいね」
「? そういう関係とは?」

 言葉の意味が理解できず、首をかしげながら聞き返す。
 すると、俺の隣にいたリンシュが頬を引きつらせ、やや赤らめつつ叫んだ。

「そういう勘繰りはやめてください! 今のこいつにはまだ早いことです!」
「あらあら、勘繰りってどういうことかしら? 私は何も言っていませんよ? あー、でもそろそろ孫の顔が見たいですねぇ。私も歳を取ったということでしょうか」

 マルタの最後の言葉。それにより、俺は彼女が何を言っているかようやく理解した。

「いいえ違います。リンシュと私は男女の仲ではありません。お孫さんをご所望なら、お見合いをあっせんされてはいかがですか?」
「うわ、めっちゃ冷静に返されました! リンシュちゃん、ちゃんとフラグ建てましたか? 全然攻略できてないじゃないですか」
「ですからサトーではまだ早いですと……あとサトー、アンタあとでお仕置き」

 なんでだよ。

「まあまあ。不便がないなら良いことですね。何かあったら遠慮なく相談してください。何ならお友達を幾人かお貸ししましょう」
「友達?」
「友達」

 俺の視線は左右へ振れる。
 右には巨大な白い狼。左には色とりどりの淡い光たち。
 いずれも単体で国を亡ぼせるレベルのつわもの達だ。
 ──────うん、絶対に彼女には相談しないようにしよう!!



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