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第十一章 まるでやらせな接待業
CASE82 ミューズ・リンドブルム その3
しおりを挟む懐かしき学生の門出を思い出し、思わず眉をしかめてしまった俺は、大きなため息とともに現実世界へと帰還した。
目の前には魔王軍四天王が二人。傍らにはリール村のポンコツ冒険者が一人。
あまりに濃すぎる面子に、やはり色々文句を吐きつつ俺は召喚者なんだなぁと自覚する。まあ彼らから一目置かれたり、助けあう関係ではないのでコネクションと言う部分では無意味なのだが。
各所の大物たちと知り合いであるというのは、召喚者としての性質が関わっているのだろう。全く全然うれしくないが。
「サトー君が私たちの顔を見て深いため息を二回ついた件について」
「気にするな、サトーは基本こういう奴だ」
「まあいいけど…………ともかく、その冒険者ギルドのギルマスのおかげで私たちは大っっっ変な目にあったというわけなの」
俺の上司がどうもすみません。
でも俺の立場上そんな謝罪をしてしまうと他の皆々様にご迷惑が掛かってしまう可能性もあるし、何よりなんで俺が謝罪なんぞせにゃならんのだということもあるので、俺は申し訳なさを口に出すのをやめた。
そもそもミューズやメテオラは俺とマルタとの関係を知らない。いらぬとばっちりを受けぬように、この件については絶対に知られぬようにすっとぼけることにしよう。
「それはひどいな。うちのギルマスがそんな強い人だったなんて知らなかったよ。冒険者ギルドって言っても俺はほぼ末端だからな。魔王軍と戦える人間がいたというだけでも驚きだよ」
「あれ? ギルマスってリンシュのお母さまだろう? サトーとも面識があったと聞いたが」
ジュリアスが余計なことを言った。そういえば彼女とリンシュは上司と部下の関係。そういった話もするのであろう。
「──あの理不尽モンスターと知り合いなのかサトー!?」
魔王軍四天王が仮にも人間のマルタをモンスター扱いとはこれいかに。
「だめよサトー君! いくら召喚者のチートがあろうと、天然物の方が強いことだってあるの! 下手に近づいたら危険だから!」
「俺にチート能力なんてないが……いやそれはともかく、マルタギルマスってそんなボロクソに言うほどなのか? 確かに濃い人ではあるけど、悪い人間ではないと思うんだけど」
「それは奴と戦ったことがないから言えるのだ! 笑いながら十数体の神話級モンスターをけしかけられる身にもなって見ろ!」
どうやらマルタの戦力はフェンリルやフェアリーだけでないようである。
「私たち魔族には神性があるから、あの化け物のジョブの効果にはすこぶる相性が悪いのよね。そこに国家規模の武力で攻められるんだからたまったものじゃないわ」
「話を戻すが、マルタと言う女。こいつが接待ダンジョンにふらっと現れたことがあるのだがな、あまりに強すぎて最深部まで押し込まれた。ちなみにその時は8階層あるダンジョンで、オリハルコンでも最高到達は3階と言う超高難易度だったのだがな」
「オリハルコンで……って、それ俗にいう【魔王ダンジョン】か!?」
【魔王ダンジョン】
この世で最も難易度が高く、あまりの危険性からオリハルコン以外の冒険者には所在地が明かされていない最強のダンジョンである。
仕事をあっせんする立場である俺たち事務職員でも、その場所を知っているのはサブギルドマスター以上のみ。つまり、冒険者ギルドで認知しているのは3名のサブマス、1名のギルマス、6名のオリハルコンのみとなっている。
そもそもダンジョンにたどり着くことすら困難な場所にあるらしく、かの勇者パーティーによる攻略が行われた際は、全滅に近い憂き目にあったと聞く極悪ダンジョンだ。
そんなダンジョンにギルマスが突貫。オリハルコンが成しえなかった最深部まで到達したというのは、驚くべきと言うかむしろ呆れるべき情報であろう。
「あの女「なんか道に迷っちゃってしまいまして、てへぺろ」とか言ってやってきたからね。道に迷ってダンジョンってどういうこと!? どんな迷い方よ!」
「何やってんだあの人……」
「まあそれで、元々5階層までのシナリオしか考えてなかったから、急遽7階と8階分のシナリオを発注されちゃったの。しかもそれをあの女と戦いながら書けってんだから、無茶ぶりにも程があるわ」
「なんかもう……スケールがでかすぎてついていけないよな」
魔王軍四天王とマルタギルマスの死闘。しかもそこにマオーまで参加しているのだから、どんな終末戦争が巻き起こったのか。俺の乏しい想像力でも大惨事なのだ。現実はその創造のはるか斜め上を滑空しているのだろう。
と言うか情報の質が濃すぎて頭痛くなってきた。
「あーーっ!! 見つけたぞ!!」
通りの向こうから話の流れをぶった切る大声が聞こえた。
見ると、そこにはエプロンをかけた男の姿。見覚えは全くないが、状況を考えるとミューズを追いかけている本や関係者なのだろう。指先がミューズに向けられているのがその証拠だ。
そしてその関係者は仲間を呼び寄せる。数人からやがて数十人、数百人と膨れ上がった彼らは一斉にミューズを取り囲んだ。
「では俺様はこのあたりで。後はせいぜい頑張ってくれ」
「ちょっと!? 飛んでいくなら私も連れて行ってよ! この姿だと飛ぶこともできないし戦闘力も全然なんだから!」
「うーむ…………放っておいた方が面白そうだから嫌だ」
「こいつ……っ」
仲が良いのか悪いのか。いたずらっ子のようににやりと笑ったメテオラは、再びドラゴンの姿となって空の彼方へと飛んで行った。
「「「確保ーーっ!!」」」
「やめてー!! 私まだ死にたくないーー!!」
断末魔は響き渡り、犠牲者は本屋へと連行されていった。
「嫌な事件だったな」
「そうだな……まあ、私としては作者本人と話せたしサインももらえたからウハウハだ。はぁ……帰ったらパプカに固定化の魔法をかけてもらおう」
「本当に家宝にするつもりなのかよ」
まあいいや。サイン色紙に頬ずりしているところを見ると、ジュリアスはそれなりに満足してくれたようだ。
ミューズの話を聞くに、サプライズサイン会には10万人ほどの人が集まっているらしいし、それに並ぶことがなくなったと言うのはありがたい話だ。
あとは帰って、リール村に戻れるまで引きこもることにしよう。
「何言ってるんだサトー。今からサイン会にも行くに決まっているだろう?」
「…………は?」
「賢者曰く! 紳士たる者、サインは三つ所持するものだ────ってあれ!? サトーどこに行くんだ! まだ何も言ってないのに!」
俺は全てを察し、体力のすべてを振り絞ってその場から逃走した。
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