まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~

廉志

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第十一章 まるでやらせな接待業

CASE85 ルーン・ストーリスト その6

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 この世界は──少なくとも人間界に限っての話だが、基本的に中世ヨーロッパ風ファンタジーな世界観を持っている。
 水洗トイレや各種衣食などの現代レベルな部分はともかくとして、世界観を大きく損ねるような現代技術は使われていない。
 例えばテレビとか、洗濯機とか。いわゆる機械テクノロジーと言うものだ。
 召喚者が古来より山ほどいるのだから、本来であれば魔の国並みの発展を遂げていてもおかしくないのだが、人間界に降り立った召喚者たちはそこら辺を暗黙の了解として発展させてこなかったらしい。
 ゆえに、SFテクノロジーもまず見かけることは無い。
 エルフやドワーフが闊歩する中、宇宙船が空を飛びまわりロボットがガチャガチャ動いていたなら世界観台無しだからである。

「ロボだーーーー!?」

 つまり俺の第一声がこれでもおかしくないのである。

「ロボだ! ロボだよ! ロボ……ロボボボッ!?」
「落ち着いてくださいサトーさん!」

 女性のようなフォルムの素体に、機械的なパーツが組み合わさった見た目。全体的に青色が塗られ、ところどころにアクセントカラーがちりばめられる。
 関節部分はむき出しで、ロボットとしての印象付けを行っていた。
 極めつけは顔面部分。
 某旧型パソコンのような滑らかな四角いフォルムにスクリーンがはめられて、そこには単純な顔文字のような表情が浮かべられていた。

『イイエ、ロボジャナイデスヨ』
「ロボだーーーー!?」
「落ち着いて下さ……ああもうっ!」

 何から何までロボット要素。これは男の子として反応せざるを得なかった。
 我ながら夢見る男の子のようにうろたえてしまったが、冷めやらぬ興奮はディーヴァによる首筋への手刀で冷めた。
 仕方がないじゃないか。いつの時代でも、何歳になったとしても、男の子はロボットが大好きなのである。


「ごめん、取り乱した」

 手刀にて気を失い、この世に復帰すると目に入ったごくごく普通の院内風景。蛍光灯が煌々と内部を照らし、異世界に居ながら現代日本に居るような錯覚を覚えた。
 周りには俺を見下ろすディーヴァとロボット。そして後頭部に感じる柔らかな膝の感触はルーンの物であった。

「なんだ天国か」
「サトーさん、話が進みませんから……」

 どうやらいつの間にか病院内に運び込まれているようだった。

『デハ、改めましテ──【MINATSUクリニック(笑)】の院長にしテ医師にしテ看護師兼受付嬢かつ清掃員。SHR412XIシリーズMARK2と申しまス』
「通称シシィさんですわ。お久しぶりですわね」
「お久しぶりでス、ディーヴァさん。相変わらず売れないアイドルをしていらっしゃルのデスカ?」
「相変わらず口が悪いですわ」

 そういえば知り合いだと言っていたディーヴァとシシィ。友人特有の憎まれ口をたたいて握手を交わした。
 
 長ったらしい機械の製品番号のような名前を省略し、シシィと紹介されたロボット少女。
 自称がやけに多い彼女の勤務先である病院内は、確かに彼女以外の職員がいない様子であった。

「あ、俺はサトーと言います、こっちはルーン。マオー社長の紹介で来ました、どうぞよろしく」
『そういうのハ立ち上がって言うものでハ? 膝枕をしながら言われてモ……』
「あの、サトーさん。私もそろそろ痺れてきたので……」
「いや、話はぜひこのまま聞こう。なぜか首筋がまだ痛いからな。これは決してルーンの膝枕が気持ちいいとか止めたくないとかそういう話じゃないからな」
「もう一発手刀を落とせば治るかもしれませんわよ? 次は首が落ちるかもしれませんが」
「ごめんなさい」

 俺は起き上がった。

『話は聞いていまスよ。ええと、サトー様の頭の検査でしたッケ? すみませン、馬鹿に効く薬はまだ開発中でシテ』
「なんかめちゃくちゃ失礼なこと言われてない!?」
「さっきの様子を見ればさもありなんですわ」
「本当に失礼だな! ルーンの膝を堪能するのがそんなに馬鹿の所業って言うのかよ!」
『馬鹿ですネ』
「馬鹿ですわね」
「サトーさん……」

 なぜだ、なぜ俺がいたたまれない目で見られなければならないのか。

『冗談はさておいて、マオー様から話は聞いておりマス。ルーン様の症状についてですネ? しかしその前に、なぜディーヴァ様がご一緒なのですカ? 今日はお二人で来られると伺っていまシタ』
「ああ、私は道案内ですわ。ついでに挨拶でもしておこうかと思いまして」
『それはドウモ。これは手土産の一つもない知人にため息を禁じ得ないとハ、口が裂けても言えませんネ』
「本当に口が悪いですわ!!」
『まあまあ、とにかくまずはルーン様の件から済ませておきましょうカ────えい』

 そう言って、シシィはルーンのズボンを引っ張った。ゴム製のウエスト部分が伸び、シシィはルーンの局部を覗き込む。

「~~~~~!!?!?!?!???!?!?!??!??!??!?」

 顔を真っ赤にし、声にならない叫び声をあげたルーンは、あまりの唐突な出来事に抵抗もせず立ち尽くしてしまっていた。

「ああっ!? なんてけしから……いやうらやましい!! ちょっとそこ変われ!!」
「なんで不味い方に言葉を訂正するんですの、サトー」
『ふム? 性転換のトラップにかかったト聞いていましたガ、肉体的な特徴を見ると、こっちの方ガ正しいのでハ?』

 顎に手を置き、首をかしげるシシィはようやくルーンのズボンから手を離した。
 ようやく頭が追いついたのか、ルーンは即座に股を抑えつつ後退。院内の片隅に小さく丸まってシクシクと泣き始めた。

「も、もうお婿に行けません……」
「安心しろルーン! お前は俺が貰ってやる!!」
「そういう話ではありませんわ」
『え、と言うことは元は男の子なのデスカ? 肉体変化メタモルフォーゼ系の魔法にしては珍しい事例デスね。論文を発表すれば面白いことになるのでハ……』
「もう! 皆さん真面目に話してください!!」

 怒られてしまった。

『ともかく、まずハ精密検査からデスね。ルーン様、こちらの書類にサインをお願いしまス』
「あ、はい。ええと…………ん?」
「ん? どうした、読めない文字でもあったの…………あ?」

 詳細は省くが、ようやくすると以下のようなことが書かれていた。

【免責同意確認書:今回の治療に当たり、人間としての最低限度の羞恥行為を破る可能性があるが、これを了承する。また、最終的に八足歩行になる可能性も考慮し、義足の生産費用は自己負担とする。耳からところてんが出ても、これを訴えはしない。
加えて──】

『おっと間違えタ。今回の書類はこっちの方でしタ』

 文章を読んでいる途中でシシィは書類をひったくり、新たな書類を手渡した。
 どう考えても病院で聞くことのない単語がいくつか見受けられたのだが、その点についてはシシィの笑顔ではぐらかされる。

 最初から分かっていたことであったが──とんでもない場所に来てしまった気がする!!


 
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