まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~

廉志

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第一章 まるで無意味な召喚者

CASE4 サトー その1

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「一体俺が何をしたと言うんだ……」
「こ、ここでそれを言われても困るんですが……」

本日は俺の休日である。
いつもは部屋でゴロゴロするなり、酒場で昼から酒を飲む成り堕落の限りを尽くすのだが、今日は少し違う過ごし方をしている。
目の前にはルーン。そして今いるのは普段俺が働いている相談窓口だ。いつもと違って俺の代わりにルーンが事務側に座り俺が冒険者側に座っている。
相談窓口は基本冒険者専用の窓口で、そこらの農民や商人が来てもお断りさせていただく場所だ。
一応俺もブロンズのランクを持つ冒険者なので、ここを訪れる資格はある。
もちろんあまりいい顔はされない。普段なら本業冒険者が相談する場所で、誠に遺憾ながら例のポンコツなどがよく利用するために、俺のような事務員が場所を埋めてしまってはいけないのである。
そう……普段・・なら。
現在この街のギルドは、史上最大の危機に瀕している。

「いいじゃないか、どうせ誰もいない・・・・・んだから」

見渡す限り、ギルドの中に冒険者は居なかった。普段ワイワイと騒がしい場所だが、今は事務員がカリカリとペンを走らせる音が響くだけだ。
なぜこんなにも人がいないか、その理由は一人の冒険者にあった。
皆ご存じキサラギ・コースケ。
本当にろくなことをしないあの野郎は、ここ2週間ほどをこの街に長期滞在していた。
奴が滞在すると言うことは、それすなわちその街のギルドへの大打撃他ならない。
『歩くマッチポンプ』は伊達ではなく、巻き起こす事件は小規模なクエストをことごとく駆逐して、低ランクの冒険者の生活を脅かすのだ。
先日起きたカルト教団の一斉蜂起の際にも相当な打撃を受けたのに、それから少しの間もなく2週間の滞在だ。
低ランククエストはすでにただの一つも存在せず、あるのはミスリルやオリハルコンの任務だけ。ゴルフリートのオッサンと中央から来た凄腕冒険者がそれらを独占している状態である。
もちろんそんな状態に低ランク冒険者が耐えられるはずもなく、コースケ滞在1週間を皮切りに続々とこの街を離れて行ってしまったのだ。
冒険者が離れるとどうなるか、先ほど言った通りギルドへの大打撃だ。
中央から来ている凄腕冒険者がクエストをこなしてくれるとは言うものの、それでは中央から金が出て、中央の人間にその金が渡るだけ。この街に金が全く落とされないのだ。
金が入ってこないとなると、俺たちの給料は払えない。
払えなくなるとどうなるか?
……つまり、随分と遠回りな説明となったかもしれないが、一番最初の俺のセリフに戻るのだ。

「なんで俺が左遷なんだよー……人員整理で辺境地域担当にするか普通?」
「だからそれをここで言われても困ります……」
「冒険者の友達がみんなよそに行ったから、愚痴る相手がいないんだよ」

俺は左遷された。
この街に来てまだ半年と少し。にもかかわらずもうほかの地域への転属辞令が下されたのだ。
これが研修時代に働いていた中央や、ほかの地方都市ならば人員整理と言う名目も受け入れられただろう。
だが、名前すら知らない辺境への転属辞令となると話は別だ。交通の便も少なく、そもそも道中危険なモンスターがうろうろしているような未開拓の辺境地域だ。
辞令が書かれた書類に何と書いてあろうとも、これは左遷と言って差し支えないだろう。この街に来たことですら左遷と言っていたこの俺に、この人事はとてもじゃないが受け入れられなかった。

「で、でもすごいじゃないですか! 辺境地域だとしても、昇進して支部長・・・になったんでしょう? 普通その歳で支部長になんてなれませんよ!」
「正確には臨時支部長代理だ。しかも給料だって今とほぼ変わらないんだぞ? 役職だけいい感じにされても、左遷の言い訳にしか聞こえない……」

支部長と言う輝かしい役職に、”臨時”と”代理”と言う格を下げる文句を二つも付けられているのだ。どうしても無理やり感が否めない。

「……いや、俺もわかってるさ。この人事は仕方のないことってことはさ。ここの支部長も辞令の書類を渡すときにすっごい憐れんだ目で見てきたし。他にも異動する人はいるしな。確か、ルーンもだっけ?」
「はい。私も……ちょっと聞いたことの無い辺境地域に派遣される予定です」

遠い目をするルーン。俺よりも若いのに大変だな。
目の前にいるルーンも含め、この街のギルドの事務員はかなりの人数が異動対象となっている。受付の人たちを始め、一応居る護衛職の冒険者。果ては酒場を担当しているウェイターに至るまで。支部長、副支部長を除くと片手で数えられる人数までギルドの規模が縮小するらしい。
一応、コースケがこの街から離れさえすれば縮小された規模も元に戻るらしい。俺やルーンが呼び戻されるわけではなく、ほかの地域から新たな事務員が派遣されてくるのだ。
……ホント、いつまでコースケは滞在予定なのだろうか。俺が派遣されるまで滞在していたら、この街そのものが滅んでしまうのではなかろうか。




*    *



冒険者が続々と街を去る中、日課のごとく相談窓口に訪れるジュリアスの姿が目の前にあった
こんな状況下で毎度のご苦労なことである。

「サトー、実は話したいことが……」
「あなたは剣聖ソードマスターにはなれません」
「え、あ、いや……今日はそのことではなく……」
「なれません」
「…………ちょっとくらい夢見てもいいだろう!! そんなにべもなく切り捨てられたらさすがに傷つくんだが!! と言うか、今日はその話じゃない!」

俺の胸倉をつかみあげて抗議するジュリアスの表情は、例の魔剣騒動の時同様に真剣なものだった
いや、ジョブについての相談する時もいつだって真剣ではあるものの、いつもなら切り捨てた時点で泣き出すのだ。このように抗議してくるジュリアスは珍しい。
…………まさかまた厄介な魔剣でも拾ったんじゃないだろうな。

「実は…………この街を離れようと思う」
「そうですか。それでは離れた先でもお元気で」
「……………………えっ、それだけ!?」

えっ、それ以上に何か言うことがあるのか?
いかん、全く思いつかない。ちゃんとお客様に対して配慮したセリフを選んだつもりだったんだが
……くそっ、俺の客商売スキルもまだまだと言うことなのか!

「そ、そんな淡白な反応はさすがに予想外だ! え? わ、私たち一応友人だよな? もっと涙ぐましいやり取りを予想していたんだが!?」
「友人? …………………………あ。も、もちろんですよ! 当然私はあなたの友人ですとも!」
「今の長い間と吃音は何だ!? え、違うのか? 私がそう思い込んでいただけとかじゃないよな!? ……よせ! 私の目を見てくれサトー! 顔をそむけないでくれ!!」

友人……いや、うん、まあ…………友人……だよ? 多分。
それにしてもこのポンコツの焦りっぷりは見ていて不安になってくる。日頃から一人で過ごす姿が多いと思っていたが、まさか本当に友達いないのか?
中央から出てきて半年足らずの俺でも、同僚や冒険者に友人が何人かいるくらいなんだぞ?

「あの……私はあなたのことをちゃんと、友人だと認識していますから、その…………くじけないでください!」
「やめろ! 唐突に励ますな! 馬鹿にするなよ、サトー! 私にだって友人の2、3人くらいいるぞ!」
「……2、3人しかいないんですか?」
「えっ、2、3人って少な…………ち、違う! 言葉のあやだ! ちゃんとそれ以上いるさ!!」

反応を見るに、2、3人と言う数字も怪しく感じてしまうのは気のせいだろうか。
……いや、これ以上深く追及はすまい。こっちが悲しくなってくる。

「ところで、街を離れると言うことですが、やはり皆さんと同じ理由で?」
「あ、ああ。この街は私のような低ランク冒険者には手に負えない魔境になってしまったからな。ランクも上がったことだし、少し危険な地域に出向こうと思ってるんだ」

ブロンズランクのクエスト。犬の散歩ですら失敗する人間が、それ以上の難度のクエストをこなせる様子が思い浮かばない。
無理せずこの機会を持って冒険者家業をやめればいいのに。
それかとっとと諦めて、盗賊にジョブチェンジして勇者とともに魔王に突撃するべきだ。金なんて心配なくなる位ガッポガッポと稼げるようになるだろう。

「半年か……長いようで短い付き合いだったな」

そりゃ、仕事のある日はほぼ間違いなく顔を合わせにやってきていたのだから、半年という短い期間でも相当密度は高かっただろう。
あれ? そう考えると、この街の友人たちと過ごした時間とそう変わらない時間をジュリアスと付き合っていたと言うことになるのか……つかどんだけ暇なんだよこの女。

「数年ここで冒険者をやっていたが、もしかしたらサトーが来た半年が一番充実していたのかもしれないな。ほかに移っても、この思い出は胸に刻み込んで忘れないだろう」
「……私も、ここ半年のことは忘れたくても忘れられません。本当にすごい半年間でした」

もちろん悪い意味でだが。

「その……なんだ。そう思うと今更だが寂しくなってきたな…………いや、湿っぽいのはよそう。冒険者とギルド職員だしな。どこかで会うこともあるだろう」

そう言い残してジュリアスはこの街を後にした。
どこかで会うこともあるだろう? いいえ、あなたとはどこに行っても会いたくないです。
行く先々でジュリアスのような極めて面倒くさい客を相手にできるほど、俺の胃腸は強くない。
出来れば彼女には、彼方の街で俺以外の事務職員の胃を締め付けていただきたい。俺じゃなきゃ誰に相談しに行ってもいいんだよ。俺じゃなきゃな。





*    *


「実はわたしもこの街を去ることになりました」

飲み仲間のパプカはスルメをかじりながらそう切り出した。

「……そらまた急だな。お前とオッサンならこの街でもやってけるだろ? と言うかコースケの馬鹿に付き合える数少ない馬鹿じゃないか」
「わたしやお父さんはお金に困っていないので、必ずしも高難易度のクエストをやる必要はないのです。まああの変態は好んでやっているようですが、わたし自身にそんな目的はありません…………ん? 最後馬鹿って言いませんでした?」
「そういえば聞いたことないけど、パプカの目的って何なんだ? 金があるなら冒険者なんてする必要はないだろ」

俺の言葉にパプカはぐいっとジョッキを傾けてスペシャルドリンクを呷った。
もちろんノンアルコールなので一気飲みをしようと倒れることはない。
しかし、ジョッキを空にしたところでパプカは急に机に突っ伏してしまった。

「…………彼氏がほじい~」

………………は?
伏したパプカにひと声かけようとした時に謎の言葉が耳に入った。涙声で。

「えっと……なんだって?」
「彼氏ですよ彼氏! わたし、もうすぐ十代が終わるというのに彼氏の一人もできたことがないんです! 処女なんですよ、わかりますか!?」
「ちょ、待て。その単語はあまり大声で言うものじゃない」

さすがに酒場にいるほかの人たちの視線が痛い。が、そんなものを気にすることもなくパプカは話を続ける。

「わたしは美少女だと思うのですよ」

スルメをかじりながら言うことか?

「見た目がロリっ子なのは認めますが、わたしは美少女です。昨今ソレ・・は需要があるらしいじゃないですか。なのになんで言い寄ってくる人間がいないのですか。街行くおばあちゃんに「かわいいね~」とか言われてもあまりうれしくありません」
「知らんがな。つーか彼氏が欲しいって話と冒険者やってる理由がどう繋がるんだ?」
「いいですか、サトー? ロリは基本的に傍から見て愛でる対象です。恋愛の対象にはなり難いのです。しかしですよ? それが一流の冒険者だったらどうです? ロリに付加価値が付くのですよ。そうなればもうただのロリではありません。カッコいいロリです! これなら寄ってくる男の一人や二人いるでしょう?」
「そんなにロリロリ言うな。とりあえず意味は全く理解できないが、熱意は伝わったよ」

こいつそんな不純な動機で冒険者やってたのかよ。しかもそれで上級職のプラチナランク。
世の冒険者たちが聞いたら青筋を立てるだけで誰も言い寄っては来ないだろう。

「ちなみに誰でも良いってわけではありません。収入は安定してて、それなりの地位にある職に就いてて、尚且つハンサムな人が良いです。間違ってもサトーのような死んだ魚のような眼をしていてはいけません。そして優しい人が良いですね。サトーのように傍若無人なのはいただけません」
「おい、理想を語るうえで俺を比較対象に設定するな。あと理想が高すぎるんだよ。ロリだどうだのいう前にそれも原因の一つなんじゃねぇの?」

そこまで言うと、パプカは遠い目をしてため息をついた。

「他に原因があるとすれば、それはあの年中片一方の乳首を世の中に見せつけている変態でしょう」

つまりゴルフリートのことである。

「クエストは大体お父さんがついてきますし、一緒に冒険してくれる仲間が少ないんです」
「ああ、やっぱり高難易度についてこれる奴がいないんだな」
「それもありますが……ほら、いつかサトーが冒険についてきたことがあったじゃないですか。あの時、強いモンスターを引き寄せたりしてたでしょう? あれは敵の強さの感覚がマヒしてただけじゃなくて、サトーへの嫌がらせも含まれてたのだと思いますよ」

普段プラチナランクまでのモンスターしか出ない地域に、ドラゴンだのリッチーだの高ランクモンスターが出たのはコースケのせいだ。
しかし、それをわざわざ俺たちの元へ引き寄せたのはオッサンである。頭のねじが飛んでるとは思っていたが、嫌がらせ目的であれほどのことをやっていたとは、さすがに思っていなかった。

「つまり何か? 娘に彼氏ができてほしくないから、モンスターけしかけてぶっ殺しておこうと?」
「たぶん殺すとまではいかないと思います。寸前で救出して、一生もののトラウマは植え付ける目的でしょうが」

性質悪いな。

「そういったわけで、せっかく高ランク冒険者になったのに、一緒に冒険してくれる男性がいないのです。はあ……せめて十代のうちに男の人と手をつなぐくらいはしたいです……………………ん? 何の話をしてたんでしたっけ?」
「お前が街から離れるって話」
「ああそうでした。というわけでわたしは街を離れます。この街にはまともな冒険者は寄り付かなくなりましたからね。新天地でいい男をひっ捕まえてきますよ」

動機は不純だが、パプカの意志は固いようだった。聞くと、出発するのは俺が街を出る日と同じ。それもどうやら、俺が乗る御者の護衛を担当するということらしい。
もちろんあのオッサンも一緒である。前みたいにモンスターをけしかけなければいいのだが。

「サトーが派遣されるという街までは危険なモンスターもいるそうですし、バッチリ護衛をしてあげますよ。よかったですねぇ、こんな美少女が道中一緒に旅をしてくれるのですよ?」
「一緒にモンスターペアレントがついてくると思うと胃が痛いよ」

俺は片手をパプカに向かって差し出した。

「ん? なんですか?」
「いや、ほら。なんだかんだで世話になったというか……お前と飲むの、結構楽しかったしな」
「おやおやなんですか? センチメンタルですか? まだ数日一緒に旅をするというのに気が早いですね…………でも、そうですね。わたしも楽しかったですよ? またいつか一緒に飲みたいですね」

そう言って俺の手を握り返した。
出発は明日。いよいよ俺の旅立ちの日が迫っている。ルーンやほかの同僚たちはすでにこの街を去った。
俺が出て行った後の街はどうなるのだろうか。いかんな、やっぱりパプカのいう通りセンチメンタルになってしまっているのかもしれないな。

「あ」
「ん? どうした」
「これって男の人と手をつないだってことになるんですかね」

…………ならないと思う。





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