39 / 230
第三章 まるで混沌な運動会
CASE15 ジュリアス・フロイライン③ その2
しおりを挟む
なんとも地味すぎる結果となってしまった二人三脚競争を終え、俺とジュリアスは天幕で作られたリンシュの仮設執務室にやってきていた。
競技のあと、リンシュ直々に呼び出しを受けたのである。
「な、なあサトー。呼び出されるなんて、私達何かやらかしたのだろうか」
「ジュリアスはともかく、俺は何もやっていないと思うんだがなぁ」
「ちょっと、今私はともかくって……」
「まああれだ、どんな理由にせよ、リンシュを相手にするんだから、最悪を想定しておくのが一番だ。どう転んでもろくな事にはならないからな」
「……苦労してるなぁ」
全くだよ。
扉を前に深呼吸を一つ。頭のなかで考えられる最悪の想定をイメージしてから、扉を4回ノックした。
「失礼致します。サトー及びジュリアス・フロイライン、只今参りました」
「どうぞ」
思いの外穏やかなリンシュの声に、少し胸をなでおろした俺とジュリアスは、扉を開けて執務室へと入った。
そこには運動会のさなかだと言うのに、書類仕事に勤しむリンシュの姿があった。さすがサブマス、こんな時にも仕事をしていないと追いつかないのだろう。
「何かご用件でしょうか、サブマスター」
「ええ、サトー君。ジュリアスさん。でもその前に……サイレンス」
リンシュが魔法を唱えた。
一定範囲の音を外に漏らさないための魔法だ。重要会議や密談に重宝され、下っ端職員や冒険者相手に使う魔法ではない。
魔力が部屋全体に行き渡り、魔法が確かに成功したことを確認すると、リンシュは態度を一変させた。
ハイヒールを脱ぎ捨てると、書類などお構いなしに机の上に足を投げる。
……その角度、スカートの中身が見えそうになるので止めてほしい。こっちが恥ずかしいわ。
「はぁー! 疲れた疲れた! サトー、お茶淹れなさい」
「俺はお茶くみじゃない」
「じゃあジュリアスでいいから早く」
「は、はい! 今すぐ!」
慌ててジュリアスが茶を淹れ始めた。茶っぱをぶちまけて辺りを汚しているので、淹れ終わるまで相当時間がかかるだろう。
「…………あれ? と言うか、ジュリアスの前なのに猫被らなくて良いのか?」
そう、リンシュは俺以外の前では猫を被りまくっている。目の前の姿が素なのだが、他の部下の前ではこうじゃない。
礼儀正しく折り目正しい。完全無欠の理想の上司を演じている。
だからこそ、リンシュという他人がいるにも関わらず、素の状態になるというのに違和感を覚えたのだ。
「大丈夫よ。ジュリアスは私の直属の部下だし、私的な付き合いもあるからね」
「えっ、そうなの?」
「ちなみに前に召喚者には監視がついてるって言ってたじゃない? ジュリアスはアンタ付きの監視役なのよ」
…………はい?
「ちょっ、ここでバラすのか!? 絶対秘密だって言っていたじゃないか、リンシュ!」
「アンタは黙ってお茶を淹れてなさい」
「うぐぅ……」
リンシュの一喝で茶を淹れに戻った。
「えっと…………悪い、ちょっと頭が追いつかないんだけど、ジュリアスが俺のなんだって?」
「召喚者に対する監視役」
「…………しかも直属の部下ってことは、ギルド職員ってことだよな?」
「ええ。一応護衛者に登録してあるわ」
本当に頭が追いつかない。
ジュリアスは護衛者資格を持っていて、なおかつ俺の監視役? 意味がわからない。
「順を追って説明しましょうか。もともとジュリアスと私は私的な付き合いがあったのだけれど、彼女が冒険者になると言い出したから、護衛者として私の部下に抜擢したの」
「ジュリアスの能力的に、色々と足りないと思うが」
「ジュリアスの能力的に、色々足りないわ。全然」
「うぉい! 二人して私をバカにするな!」
茶を淹れながら抗議の声を上げるジュリアスを無視して話を続ける。
「まあ、ちょっと口を利いて採用したってのはあるけどね。そこは今は関係ないから良いでしょ」
「職権乱用は関係なくないと思うが……」
「で、その後サトーが就職して他所へ行くことになったから、ついでにジュリアスを厄介払……異動させて、アンタの監視役にしたって訳」
「いま厄介払いって言ったな」
「言ったわ」
「濁したのにわざわざ言い直すな! 流石にそろそろ泣くぞ!」
無視して話を続ける。
「とまあそんな感じ。理解できた?」
「……つまり、ジュリアスが俺について回ってるのはそういう訳か…………あれ? でもコースケの阿呆のせいで、他の地域に行くってのは、ジュリアスの意思だったんじゃないか?」
「……たしかに、あの段階でお役御免だと私も思ってたんだ」
思いの外きれいに淹れることが出来た茶を盆に載せ、ジュリアスが会話に合流した。
「元々、サトーのことを定期報告する以外は、普通に冒険者をやって良いと言う条件だったしな。実際そうしてた」
「その結果があの相談の嵐か」
「ともかく、仕事の更新も頼まれなかったからな。サトーとはあそこで縁が切れたと思ってたんだ。けどすぐにサトーも追いついてきて…………本当になんの意味があったんだ?」
「あの時はキサラギのお馬鹿のせいで、手続きがスムーズに行ってなかったのよ」
コースケの一件の際は職員、冒険者含めて総動員だったからな。
「そもそも召喚者の監視を外すわけないじゃない。サトーには言ったけど、中央は本当にピリピリしてるんだから」
コースケが暴れるのはともかく、その他の召喚者や転生者も動きが派手だから、監視されているとかなんとか。
その説明は受けたが、だとすれば俺の監視をそこまで気合い入れてする必要もないだろうに。チートなんて欠片も持ってないし、問題だって彼らに比べればほぼ起こして無いんだぞ。
「文句もあるだろうけど、これはトップの指示だから。私でもどうしようもないわ」
「そういやアンタにも監視がついてるんだっけ?」
「もちろん懐柔済みだけどね」
恐ろしい女だ。
「で、これがアンタたちを呼び出した理由ね」
「……ん? ”これ”とは?」
「つまり、監視役の件。アンタ達、サブマスが三人いるってことは分かるわね?」
「そりゃまあ、流石にな」
サブマスターと呼ばれる、ギルド内で二番目に権力を持つ人間は三人いる。組織が巨大なだけに、それだけいないと仕事が回らないのだ。
一人は目の前のリンシュ・ハーケンソード。
その他に東部に一人。西部に一人いる。
それぞれがかなりの権力を有しており、常に権力争いをしているため、不仲であることはギルド職員の中では有名な話である。
「その序列争いが激化してるのよ。あまり私は興味ないけど、他人が私を顎で使えるようになるってのは気に入らないわ」
確かにそう言うタイプではないからな。
「はぁ……実は私、今の序列争いでは最下位なのよ。転生者って合法的に監視役がつけられるから、動きづら言ったらありゃしないわ」
「あ、分かった。つまりリンシュは、私たちにその序列争いを手伝えってことだな?」
「分かってないじゃないお馬鹿。何のためにアンタたちを辺境のそのまた奥に飛ばしたと思ってんのよ」
やはりあの人事はリンシュの差し金だったのか。
それについての文句は言うだけ無駄だろうから止めておこう。
「今回の運動会は、それぞれのサブマスの息の掛かったチームが沢山出場してて、ある意味その品評会みたいなものなの。サブマス本人は私以外来てないけどね」
「誰に対しての?」
「中央の重役と、王国の重鎮達ね。序列審査会はまだまだ先だけど、今から色々手回しがあるの」
「うん。だから私達がリンシュに協力すれば良いんじゃないのか?」
「アンタたちを辺境へ飛ばした理由は2つ。弱小すぎて役に立たないこと。召喚者として監視される上に、私と近すぎてあら捜しの材料にされかねないことよ」
俺がリンシュと親しいことは、一部の人間を除いて秘密である。やはり世間的に、職員と懇意にしているというのはよろしくないのだ。
ジュリアスも私的な付き合いがあるというのなら同じ理由だろう。
リンシュ自身にどれほど隙がなくとも、周りの人間も同じとは限らない。思わぬ弱点が他人から漏れてしまうこともあるだろう。
つまりリンシュは、俺たちがそう言ったマイナス要素になることを危惧しているのである。
「サトーがあと五年、就職が早ければ協力してもらったんだけどね。経験も人脈も何もかも足りないから、ハッキリ言って足手まとい」
「ってことは、運動会の最中はおとなしくしてろってことか?」
「別に全力を出してもらってかまわないわよ。中央チームも全力で行くから。私達とアンタたちの関係を知られないように、協力はしないことを伝えたかったの」
「そもそも協力なんてしてなかったがな」
「そう言えば、私達以外のチームは結構協力してたな。アレは派閥ごとにやっていたということなのか」
露骨に、というほどではないが、たしかに複数のチームが特定のチームを補佐するような動きがあった。
サブマスの傘下にあるチームを高順位に押し上げるためだったのだろう。なるほど合点がいった。
「でも、気にしすぎじゃないか? そもそも俺はアンタの弱みなんて知らないし、関係が知られた所でどうにも……」
「甘いわね。過去の序列審査会において、サブマスの関係者に死人が出るというのは珍しくないの。アンタはそうなりたくないでしょう?」
そんな殺伐とした行事だったのか……ギルドの闇部分を見た気がする
まあ、諸々の手配はリンシュがやってくれるようだし、俺達は普通に運動会に参加して良いそうだ。
元々俺の目的は、運動会における賞金の獲得なわけで、ことさらリンシュの一件を気にすることもないだろう。
「じゃあ、これ以上厄介な件を聞きたくないし、用事がないならそろそろ行くぞ?」
「あら、ジュリアスの本名の件について話そうと思っていたのだけれど、アンタが良いなら話さないでおくわ。バイバイ」
「は?」
「わーっ!! いや、なんでもない! なんでもないぞサトー! 私の名はジュリアス・フロイラインで間違いないからな!!」
急に慌てだしたジュリアスがリンシュの声を遮った。何をうろたえているのだろうか、この女は。
「そもそも”お嬢さん”なんて名字は無理があるわよねぇ。もうちょっと他になにか……」
「わーっ! わーっ! サトー、もう行くぞ! そろそろ次の競技の時間だろう!?」
俺の背中を押し、無理やり執務室から追い出したジュリアス。それほどまでに聞かれたくないことなのだろうか。
執務室から出ると、ジュリアスはもじもじしながら俺を見る。
「…………その、プライベートなことであって、あまり聞いてほしくないんだが……」
「ん? ああ、興味ないよ。偽名だとしてもリンシュの根回しもあるんだろう? なら俺は何も聞かん」
プライベートに干渉されたくない気持ちは嫌というほど分かるし、言った通り本当に興味ない。
ジュリアスの本名がなんだろうが、過度に干渉して厄介事に巻き込まれるのはゴメンだ。この件に関して、俺は絶対に首を突っ込まない。そう、絶対にだ!
何故か不満げに頬をふくらませるジュリアスに、軽く足を蹴り上げられた。
一体何だと言うのだろうか……
競技のあと、リンシュ直々に呼び出しを受けたのである。
「な、なあサトー。呼び出されるなんて、私達何かやらかしたのだろうか」
「ジュリアスはともかく、俺は何もやっていないと思うんだがなぁ」
「ちょっと、今私はともかくって……」
「まああれだ、どんな理由にせよ、リンシュを相手にするんだから、最悪を想定しておくのが一番だ。どう転んでもろくな事にはならないからな」
「……苦労してるなぁ」
全くだよ。
扉を前に深呼吸を一つ。頭のなかで考えられる最悪の想定をイメージしてから、扉を4回ノックした。
「失礼致します。サトー及びジュリアス・フロイライン、只今参りました」
「どうぞ」
思いの外穏やかなリンシュの声に、少し胸をなでおろした俺とジュリアスは、扉を開けて執務室へと入った。
そこには運動会のさなかだと言うのに、書類仕事に勤しむリンシュの姿があった。さすがサブマス、こんな時にも仕事をしていないと追いつかないのだろう。
「何かご用件でしょうか、サブマスター」
「ええ、サトー君。ジュリアスさん。でもその前に……サイレンス」
リンシュが魔法を唱えた。
一定範囲の音を外に漏らさないための魔法だ。重要会議や密談に重宝され、下っ端職員や冒険者相手に使う魔法ではない。
魔力が部屋全体に行き渡り、魔法が確かに成功したことを確認すると、リンシュは態度を一変させた。
ハイヒールを脱ぎ捨てると、書類などお構いなしに机の上に足を投げる。
……その角度、スカートの中身が見えそうになるので止めてほしい。こっちが恥ずかしいわ。
「はぁー! 疲れた疲れた! サトー、お茶淹れなさい」
「俺はお茶くみじゃない」
「じゃあジュリアスでいいから早く」
「は、はい! 今すぐ!」
慌ててジュリアスが茶を淹れ始めた。茶っぱをぶちまけて辺りを汚しているので、淹れ終わるまで相当時間がかかるだろう。
「…………あれ? と言うか、ジュリアスの前なのに猫被らなくて良いのか?」
そう、リンシュは俺以外の前では猫を被りまくっている。目の前の姿が素なのだが、他の部下の前ではこうじゃない。
礼儀正しく折り目正しい。完全無欠の理想の上司を演じている。
だからこそ、リンシュという他人がいるにも関わらず、素の状態になるというのに違和感を覚えたのだ。
「大丈夫よ。ジュリアスは私の直属の部下だし、私的な付き合いもあるからね」
「えっ、そうなの?」
「ちなみに前に召喚者には監視がついてるって言ってたじゃない? ジュリアスはアンタ付きの監視役なのよ」
…………はい?
「ちょっ、ここでバラすのか!? 絶対秘密だって言っていたじゃないか、リンシュ!」
「アンタは黙ってお茶を淹れてなさい」
「うぐぅ……」
リンシュの一喝で茶を淹れに戻った。
「えっと…………悪い、ちょっと頭が追いつかないんだけど、ジュリアスが俺のなんだって?」
「召喚者に対する監視役」
「…………しかも直属の部下ってことは、ギルド職員ってことだよな?」
「ええ。一応護衛者に登録してあるわ」
本当に頭が追いつかない。
ジュリアスは護衛者資格を持っていて、なおかつ俺の監視役? 意味がわからない。
「順を追って説明しましょうか。もともとジュリアスと私は私的な付き合いがあったのだけれど、彼女が冒険者になると言い出したから、護衛者として私の部下に抜擢したの」
「ジュリアスの能力的に、色々と足りないと思うが」
「ジュリアスの能力的に、色々足りないわ。全然」
「うぉい! 二人して私をバカにするな!」
茶を淹れながら抗議の声を上げるジュリアスを無視して話を続ける。
「まあ、ちょっと口を利いて採用したってのはあるけどね。そこは今は関係ないから良いでしょ」
「職権乱用は関係なくないと思うが……」
「で、その後サトーが就職して他所へ行くことになったから、ついでにジュリアスを厄介払……異動させて、アンタの監視役にしたって訳」
「いま厄介払いって言ったな」
「言ったわ」
「濁したのにわざわざ言い直すな! 流石にそろそろ泣くぞ!」
無視して話を続ける。
「とまあそんな感じ。理解できた?」
「……つまり、ジュリアスが俺について回ってるのはそういう訳か…………あれ? でもコースケの阿呆のせいで、他の地域に行くってのは、ジュリアスの意思だったんじゃないか?」
「……たしかに、あの段階でお役御免だと私も思ってたんだ」
思いの外きれいに淹れることが出来た茶を盆に載せ、ジュリアスが会話に合流した。
「元々、サトーのことを定期報告する以外は、普通に冒険者をやって良いと言う条件だったしな。実際そうしてた」
「その結果があの相談の嵐か」
「ともかく、仕事の更新も頼まれなかったからな。サトーとはあそこで縁が切れたと思ってたんだ。けどすぐにサトーも追いついてきて…………本当になんの意味があったんだ?」
「あの時はキサラギのお馬鹿のせいで、手続きがスムーズに行ってなかったのよ」
コースケの一件の際は職員、冒険者含めて総動員だったからな。
「そもそも召喚者の監視を外すわけないじゃない。サトーには言ったけど、中央は本当にピリピリしてるんだから」
コースケが暴れるのはともかく、その他の召喚者や転生者も動きが派手だから、監視されているとかなんとか。
その説明は受けたが、だとすれば俺の監視をそこまで気合い入れてする必要もないだろうに。チートなんて欠片も持ってないし、問題だって彼らに比べればほぼ起こして無いんだぞ。
「文句もあるだろうけど、これはトップの指示だから。私でもどうしようもないわ」
「そういやアンタにも監視がついてるんだっけ?」
「もちろん懐柔済みだけどね」
恐ろしい女だ。
「で、これがアンタたちを呼び出した理由ね」
「……ん? ”これ”とは?」
「つまり、監視役の件。アンタ達、サブマスが三人いるってことは分かるわね?」
「そりゃまあ、流石にな」
サブマスターと呼ばれる、ギルド内で二番目に権力を持つ人間は三人いる。組織が巨大なだけに、それだけいないと仕事が回らないのだ。
一人は目の前のリンシュ・ハーケンソード。
その他に東部に一人。西部に一人いる。
それぞれがかなりの権力を有しており、常に権力争いをしているため、不仲であることはギルド職員の中では有名な話である。
「その序列争いが激化してるのよ。あまり私は興味ないけど、他人が私を顎で使えるようになるってのは気に入らないわ」
確かにそう言うタイプではないからな。
「はぁ……実は私、今の序列争いでは最下位なのよ。転生者って合法的に監視役がつけられるから、動きづら言ったらありゃしないわ」
「あ、分かった。つまりリンシュは、私たちにその序列争いを手伝えってことだな?」
「分かってないじゃないお馬鹿。何のためにアンタたちを辺境のそのまた奥に飛ばしたと思ってんのよ」
やはりあの人事はリンシュの差し金だったのか。
それについての文句は言うだけ無駄だろうから止めておこう。
「今回の運動会は、それぞれのサブマスの息の掛かったチームが沢山出場してて、ある意味その品評会みたいなものなの。サブマス本人は私以外来てないけどね」
「誰に対しての?」
「中央の重役と、王国の重鎮達ね。序列審査会はまだまだ先だけど、今から色々手回しがあるの」
「うん。だから私達がリンシュに協力すれば良いんじゃないのか?」
「アンタたちを辺境へ飛ばした理由は2つ。弱小すぎて役に立たないこと。召喚者として監視される上に、私と近すぎてあら捜しの材料にされかねないことよ」
俺がリンシュと親しいことは、一部の人間を除いて秘密である。やはり世間的に、職員と懇意にしているというのはよろしくないのだ。
ジュリアスも私的な付き合いがあるというのなら同じ理由だろう。
リンシュ自身にどれほど隙がなくとも、周りの人間も同じとは限らない。思わぬ弱点が他人から漏れてしまうこともあるだろう。
つまりリンシュは、俺たちがそう言ったマイナス要素になることを危惧しているのである。
「サトーがあと五年、就職が早ければ協力してもらったんだけどね。経験も人脈も何もかも足りないから、ハッキリ言って足手まとい」
「ってことは、運動会の最中はおとなしくしてろってことか?」
「別に全力を出してもらってかまわないわよ。中央チームも全力で行くから。私達とアンタたちの関係を知られないように、協力はしないことを伝えたかったの」
「そもそも協力なんてしてなかったがな」
「そう言えば、私達以外のチームは結構協力してたな。アレは派閥ごとにやっていたということなのか」
露骨に、というほどではないが、たしかに複数のチームが特定のチームを補佐するような動きがあった。
サブマスの傘下にあるチームを高順位に押し上げるためだったのだろう。なるほど合点がいった。
「でも、気にしすぎじゃないか? そもそも俺はアンタの弱みなんて知らないし、関係が知られた所でどうにも……」
「甘いわね。過去の序列審査会において、サブマスの関係者に死人が出るというのは珍しくないの。アンタはそうなりたくないでしょう?」
そんな殺伐とした行事だったのか……ギルドの闇部分を見た気がする
まあ、諸々の手配はリンシュがやってくれるようだし、俺達は普通に運動会に参加して良いそうだ。
元々俺の目的は、運動会における賞金の獲得なわけで、ことさらリンシュの一件を気にすることもないだろう。
「じゃあ、これ以上厄介な件を聞きたくないし、用事がないならそろそろ行くぞ?」
「あら、ジュリアスの本名の件について話そうと思っていたのだけれど、アンタが良いなら話さないでおくわ。バイバイ」
「は?」
「わーっ!! いや、なんでもない! なんでもないぞサトー! 私の名はジュリアス・フロイラインで間違いないからな!!」
急に慌てだしたジュリアスがリンシュの声を遮った。何をうろたえているのだろうか、この女は。
「そもそも”お嬢さん”なんて名字は無理があるわよねぇ。もうちょっと他になにか……」
「わーっ! わーっ! サトー、もう行くぞ! そろそろ次の競技の時間だろう!?」
俺の背中を押し、無理やり執務室から追い出したジュリアス。それほどまでに聞かれたくないことなのだろうか。
執務室から出ると、ジュリアスはもじもじしながら俺を見る。
「…………その、プライベートなことであって、あまり聞いてほしくないんだが……」
「ん? ああ、興味ないよ。偽名だとしてもリンシュの根回しもあるんだろう? なら俺は何も聞かん」
プライベートに干渉されたくない気持ちは嫌というほど分かるし、言った通り本当に興味ない。
ジュリアスの本名がなんだろうが、過度に干渉して厄介事に巻き込まれるのはゴメンだ。この件に関して、俺は絶対に首を突っ込まない。そう、絶対にだ!
何故か不満げに頬をふくらませるジュリアスに、軽く足を蹴り上げられた。
一体何だと言うのだろうか……
0
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
天才王子、引き篭もる……いや、引き篭もれない
戯言の遊び
ファンタジー
平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」
辺境に飛ばされた“元サラリーマン王子”、引き篭もるつもりが領地再生の英雄に――!
現代日本で社畜生活を送っていた青年・レオンは、ある日突然、
中世ヨーロッパ風の王国「リステリア」の第五王子として転生する。
怠惰で引き篭もり体質なレオンは、父王により“国の厄介払い”として
荒れ果てた辺境〈グレイア領〉の領主を任される。
だが、現代知識と合理的な発想で領内を改革していくうちに、
貧困の村は活気を取り戻し――気づけば人々からこう呼ばれていた。
『良領主様』――いや、『天才王子』と。
領民想いのメイド・ミリア、少女リィナ、そして個性派冒険者たちと共に、
引き篭もり王子のスローライフ(予定)は、今日もなぜか忙しい!
「平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」
社畜転生王子、引き篭もりたいのに領地がどんどん発展していく!
――働きたくないけど、働かざるを得ない異世界領主譚!
こちらは、以前使っていたプロットを再構成して投稿しています
是非、通学や通勤のお供に、夜眠る前のお供に、ゆるりとお楽しみ下さい
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす
蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。
追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。
しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。
港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。
イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。
犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。
被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。
追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。
この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。
・世界観・設定の管理補助
・プロット段階の壁打ち
・作者による執筆後の校正
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる