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第十三章 まるでカオスな視察団
CASE102 ゴルフリート②
しおりを挟む【片乳首殺人事件】
バーサーカーと言う役職柄、軽装備なゴルフリート。そのファッションセンスはいわゆる蛮族であり、片方の乳首が丸見えの歩くわいせつ罪。
おそらくそこから名付けられたであろう今回の事件の名称を口にしたパプカは、ふっふっふと笑いながら顎に手を当てて考え込んでいる。
間違いなくいつもの悪ふざけであろうが、オッサンの死因を調べる必要も確かにあるため、ひとまず何の期待もせずに聞いておこう。
「良いですか皆さん! これは巧妙なトリックが施されたミステリー事件なのです!」
「それはさっき聞いたが」
「まずはわたし、名探偵パプカが状況を整理してみましょう。初歩的な事ですよ、サトー君」
こいつ、絶対何か中二病をくすぐるような作品に影響を受けているな。
「おおっ! それはミナス・ハルバンの大冒険第56巻に出てくる台詞だなパプカ! 貸した分をちゃんと読んでくれていて嬉しいぞ!」
ジュリアスが原因であった。
「まあいい。で? その状況整理ってのはどうやるんだ?」
「ひとまずお父さんの体から魔力の残滓を測定します。外傷が無いので、死因は恐らく魔法でしょう」
「毒とかの可能性もあるんじゃないか?」
「お父さんは毒類に耐性がありますからね。死んじゃうとしても、耐性のおかげで無意味に時間をかけてから苦しんで死にます」
「悲惨な体質だな」
「という訳でやってみましょう──我が名のもとにその残滓を示せ! 【死体鑑定】!!」
一応錬金術師であるはずのパプカが、なぜ死体鑑定の魔法を覚えているのかはさておいて、呪文を唱え終わると同時にオッサンの体が紫色に光り輝いた。
クーデリアによる蘇生の時も思ったが、この神秘的な光景の中心に居るのがオッサンと言うのがちょっとシュールである。
紫色の光は徐々にオッサンの胸元へと集まり、吸いだされるように空中へと移動し、
ポンッ
という音をたてて霧散した。
「おや?」
「何か分かったのですか?」
「うーん……特に魔力の残滓は感じられませね」
「……つまり、魔法が原因で死んだわけじゃないって事か?」
「そうなりますね。微妙にお母さんの魔力を感じられなくもありませんが、お母さんなら鑑定でバレるような殺り方はしないはずですし」
なんだか恐ろしい事を言ってらっしゃる。
「お母さんの魔法はしょっちゅう食らっていますし、即蘇生かけられているのでそれが原因とは思えませんね」
「そもそもヒュリアンさんは中央に居るんだし、仮に殺人だとしても候補には上がらないだろ」
「いえ、お父さんはしょっちゅう転移魔法でお母さんに連れ去られてますし、やろうと思えば殺れますよ?」
何やってんだよあの人。
「とにかく、魔法が原因では無い事は確かですね。ふーむ…………この事件は迷宮入りです!」
「諦めがお早い名探偵ですね」
「まあ、実際素人の推理だしな。オッサンが目を覚ましたら直接聞けば分かることだ──ん?」
ふと目線をずらすと、何やら違和感を感じ取った。
豪快な寝息を立てるオッサンのその手の中。
固く握りしめられた手のひらから少しばかり覗く白い紙である。
「何だこれ?」
「おおっと!? 流石です我が助手! わたしの指示通り!」
「何の指示も受けてねぇし誰が助手だ」
「これはきっとダイイングメッセージです! 死の間際に犯人の名前を複雑な暗号にして書き置いた物なんですよ定番!」
「確かにそれは定番だ。かのミナス・ハルバンも被害者が書いた暗号を解き明かすのに随分な時間をかけたんだったな」
「なんでああいうミステリーって素直に犯人の名前を書かないんだろうな?」
それを疑問視してしまっては野暮なのだろうか。
「この紙を開いて暗号を解き明かせばその時こそ犯人が…………犯人がっ!! うぐぐぐぐぐっ!!」
ぎゅっと握りしめられたオッサンの拳を、パプカが両手を使って開こうと悪戦苦闘している。
だが根本的な筋肉量が違いすぎるためかビクともしていない。
「────ふぅっ、仕方ありません。クーデリアさん、お父さんの腕を切り落としてください。後でくっつけます」
「承知いたしました」
「承知いたさないで!?」
どこからかクナイを取り出したクーデリアは、パプカの指示通り切り落とす気満々であった。
俺とジュリアスが慌てて制止すると、「ちっ」という舌打ちを経て渋々引き下がった。
「いきなり物騒すぎるんだよ!! 名探偵なら推理で何とかしろよ!!」
「はんっ。名探偵とて推理の材料が無ければどうにもなりませんよ。というか、飽きてきたのでそろそろ帰りません?」
「お前の情緒どうなってんの!?」
どうやら言葉通り推理に飽きてきたらしく、大あくびをしてどかりと椅子に腰を下ろした。
「ふっふっふ、どうやら私の出番が来たようだな。この名探偵ジュリアスの出番が!」
「あ、そういうの良いんで」
「なぜぇ!?」
なぜって、お前が事件を解決できるビジョンが全く見えないからだよ。
「私だって探偵になってみたいんだ! 一度で良いからやらせてくれ!!」
「大丈夫ですよサトー様。ジュリアス様はこういった場には慣れてらっしゃいますので」
「クーデリア……」
「主に場を引っ掻き回す役柄として」
俺とパプカは「なるほどぉ」と大きくうなづいた。
「ちょっと泣いて良いか? ────ともかく! 私の推理は結構的を得ていると思うから聞いてくれ!」
「立ち直りが早いな」
「慣れてらっしゃいますので」
「良いか? 注目すべきはゴルフリート殿の実力だ。何せオリハルコンの冒険者だ。彼を死に追いやるなど、そこらの実力者では不可能だろう?」
何という事だ、的を得ている。
「すなわち、リール村に居るゴルフリート殿以上の実力者を集めればそれが容疑者という事だ!」
「しかし、お父さん以上の実力者なんてそういますか? ジュリアスが言った通り、オリハルコンの冒険者ですよ?」
「パプカ……ここはリール村だぞ?」
俺はパプカに対し、諭すようにそう言った。
世界に6人しかいない最上級冒険者であるオリハルコン。しかし、世界的に見てみればその実力者は結構いるらしい。
そしてなぜかリール村に集まって来るらしい。
少なくとも俺は、この村でオッサン以上の実力者を数人知っているのである。
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