まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~

廉志

文字の大きさ
55 / 230
第四章 まるで茶番なお付き合い

CASE24 ヒュリアン・マグダウェル その1

しおりを挟む


現在、時刻は日の沈む頃。展開が早すぎる気もするが、混乱する頭を押さえるのに必死で、されるがまま今この場所にいる。
この場所というのも、アックスが務める教会の一室。先日案内された、応接室の中に、俺は居た。
なんでそんなところにいるのかと聞かれれば、俺が知るかと答えたい。
なんで俺が教会の一室で、結婚式用のタキシードに身を包んでいるのかとか、隣でドレスを着込んだパプカがブーケを持って立っているのかとか、俺だって説明して欲しい。まるで意味がわからない。
パプカのドレス姿は、なるほど。美少女だけあって非常に似合っている。こんなアホな展開のさなかでも、思わず彼女の姿にはドキッとしてしまいそうだ。
……してしまいそうなだけで、絶対にドキッとはしないがな。
俺は顔を赤らめること無く青ざめて、涙を流しながらパプカに詰め寄った。

「お前、どうしてくれるんだよぉ……結婚なんて聞いてねぇよ」
「わ、わたしだって聞いてませんよ。まさかここまで強硬手段に出るとは、思っていませんでしたし……」

バツの悪そうにうつむくパプカの様子を見るに、本当にこの展開は予想外だったらしい。
流石に、母親に男を直接紹介した翌日に、結婚式が待ち構えているとは思わないだろう。
参った、本当に参った……どうやって逃げよう? いや、この状況で逃げてしまえば、その後でどんな恐ろしいことが起きるかがわからない。
オッサンのように物理的な恐怖というよりも、俺にとっては未知の領域である魔法によって、どのような被害を被るのか。なまじ想像ができない分恐ろしい。

と、結婚式というよりもお通夜モードに突入している応接室の扉から、ノックをする音がした。
開かれた扉からは、正装を着込んだアックスが入室した。

「サトー君……裏切り者ぉ!」

なんか涙を流しながら。

「君がいつの間にかそんな遠くに行ってしまって居たなんて……くそぅ、おめでとう! でも裏切り者ぉ!」
「うるせぇ! 全然おめでたくねぇし、裏切ってもいねぇよ!」

事のあらましをかいつまんで説明した。アックスは真相を知ると、口をあんぐりと開けながら、

「ひゅ、ヒュリアンさんは、これと決めたら即行動をするタイプだから……災難だったね」
「災難の一言で片付けないでくれ! こっちはなんでか結婚させられそうになってるんだぞ!」
「アックスさん、お母さんに何か理由をつけて結婚式をとりやめさせることは出来ませんか? わたし、まだ結婚するつもりはないんです。特にサトーとは!」
「あれ? なんか俺のこと馬鹿にしたよな?」

サラリと出たパプカの本音に、俺は拳をグリグリとこめかみに押し付けた。
アックスは少し悩んでみせたが、意を決したように顔を上げた。

「うん。僕も聖職者の端くれだ。同意のない結婚をさせるわけにはいかないね。大丈夫! ヒュリアンさんには僕から話しをしてみるよ!」
「ほ、本当か!?」
「もちろん! 早速行ってくるから、少し待っててくれ」

と言って、アックスは応接室を後にした。
なんと心強い言葉だろう。思わず胸がジーンとしてしまった。何処か抜けてると思っていたアックスだけど、やる時はやる男なのかもしれない。

「なんか……カッコイイな、アックス」
「アックスさんはお母さんとお父さんに物言える、数少ない人間です。きっとなんとかしてくれるはずですよ」

なんて風に笑いあってしばらくすると、応接室の扉が開いてアックスが再入室。
どうやら話は終わったようだった。やけに早いが……ヒュリアンは分かってくれたのだろうか?

「あ、アックス? どうだった? ヒュリアンさんの様子は……」
「――――ネ」
「……は?」
「シキハイチジカンゴダカラネ。イソイデシタクスルンダヨ」

「「なんかカタコトだー!?」」

ヒュリアンに絶対何かされてるし! 唯一の良心(?)が早々に脱落しやがった!











*    *


結局、この世にいる良心は死んだ。なんかカタコトで、動きもロボットみたいに気持ちが悪い有様になっている。
披露宴はすでに始まっており、教会の庭に机や椅子を出して、屋外で飲み食いをしている。
ちらりと会場を見てみると、それほど大規模ではないらしく、殆どが俺とパプカの知り合いで占められていた。
まずはヒュリアン。隣りにいるのは……と言うかあるのは、鎖で雁字搦めにされたオッサン。もはや姿形も見えないが、まあヒュリアンのそばにあるのだからひとまずは安心といったところか。
他にはミントやギルドの同僚たち。ジュリアスとアックスのような知人が数人だ。
ボンズはすでに西部に発ったからいないのは当然として、俺は疑問に思うことが一つあった。

「なんでリンシュがいないんだろう?」

こんな面白そうなイベントに、彼女が顔を出さないわけがない。
絶対に良からぬことを考えているか、すでに行動に起こしているに違いない。

『えー続きまして、本日お越しになることができなかった、リンシュ・ハーケンソードサブギルドマスターから、手紙を預かっておりますので、読み上げさせていただきます』

司会者がそんな発言をした。
ほら来た! そら来たよ! 早速あのドS上司の嫌がらせだよ! 絶対ろくなもんじゃねぇよ!

『まずはサトー君、パプカさん。ご結婚おめでとうございます。普段から仕事仲間として活躍するお二人が、この度人生のパートナーとなると聞き、お二人ならきっと良い人生を歩んでいけるのだろうと確信致しました。当日は仕事の都合故、直接式に参加できないことが悔やまれますが、この手紙にて、めいいっぱいのおめでとうの言葉を遅らせていただきます』

……………ん?

「えっ、終わり?」
『え、はい。終わりですが……』

そ、そんな馬鹿な! あいつがこんな真面目な手紙をよこすとは思えない! 絶対裏がある! 流石に文章から副音声を読み取ることは出来ないが、絶対に何かあるに違いない!
俺は司会者から手紙を分捕って、その他に何かが書かれていないかどうか確認した。

「に、日本語のあとがきも無い……だと?」

何も無いというのが、これほど恐ろしいとは思わなかった。せめて何かしらの嫌がらせが無いと、逆に落ち着かない。
…………いや、落ち着け俺。これが当然であって、今までが異常だったのだ。
今まさに、窮地に立たされているのだから、ここにリンシュイベントが発動しないことは良いことではないか。
俺は深呼吸をしてから席に戻った。

『えーっと……気を取り直しまして。ハーケンソード様より、お二人へ特別なプレゼントがご用意されているそうです。では、どうぞ!』

明るい曲とともに、教会の裏庭から何やら影が現れた。
身の丈は優に五メートルを超え、色はビビットなピンク色。超特大サイズのケーキであった。

『えー、新婦様が大好きなイチゴのケーキを、王都の有名ケーキ店と、新婦様のお母様のご協力を得て作り上げた、ウェディングケーキだそうです!』

あまりのデカさに驚きおののく一同。と言うか、大きさは今回問題ではない。
ケーキの天辺に乗ったとある物体。それが一番の問題点なのだ。


「キシャアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!」


おかしな奇声を上げるそれは、真っ赤な体と緑色の触手を複数持つ存在。凶悪な一つ目と、鋭く尖った牙を持つソレは、クエストのランクで言えばミスリル。つまりパプカでさえ手も足も出ない凶悪モンスター。
名前を、プラントモンスター・イチゴと言う。

「ほらやっぱりだ! あの野郎期待を裏切らねぇな!」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...