まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~

廉志

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第四章 まるで茶番なお付き合い

CASE24 ヒュリアン・マグダウェル その2

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この世界に「苺」と言う果物は存在しない。
ほぼ同じ存在である野苺はあれど、現代のような形の木苺は、品種改良やら何やらの関係上、まだ作られていないのである。
別に野苺を「苺」として認識して呼べばいいとも思うのだが、そうは行かない理由もあった。

プラントモンスター・イチゴ

クエストのランクでミスリルの危険性を持つモンスターである。
見た目は確かに、日本人が知るような苺である。その昔、その容姿を見た転生者が名付け親となったそうだ。
そんな風に名付けられてしまったモンスター。こちらの世界の人間達に、「イチゴ=超危険なモンスター」と言う固定概念を植え付けてしまったわけだ。
なんとか生き残った「野苺」と言う単語はともかく、残念ながら単なる「苺」と言う言葉は廃れてしまったのである。

ちなみにこのモンスター。実際に食べることが出来る。
その赤い体はまんま苺と同じような果実であり、味は天下一品。一粒何万円もする高級苺の、更に上を行くような極上の味わいを持つ……らしい。いや、どっちも食べたことはないが。
モンスターそのものの危険度も相まって、目が飛び出るほどの値段であるが、貴族などの金持ちの中には、好んで食するやつも居るらしい。
リンシュとヒュリアンが、この祝いの席に凶悪モンスターを乗せた特大ケーキを出したのも、苺が好物であるパプカを想ってのことなのかもしれない。
とはいえ、庶民の間では苺といえば野苺であり、それはパプカも例外じゃない。
そんなパプカが上げたのは喜びの声ではなく、イチゴの触手に体を絡め取られた際の悲鳴であった。

「きゃあああぁっ!?」
「パプカーっ!?」

触手はパプカ以外にも襲いかかる。ただしそこは冒険者集団。しかも超がつく凄腕冒険者が数人居るため、まるで問題はない様子だ。
アックスが切り刻み、ヒュリアンが燃やし尽くす。ゴルフリートのオッサンは……残念ながら身動きがとれないため、鎖ごと触手に巻き取られてしまった。

「ちょっ! お父さん!?」

イチゴは巻き取ったオッサンを持ち上げると、そのまま口の中に放り込んだ。

「ゴルフリート……尊い犠牲だったわ」
「諦め早いな!? アンタの夫だろ!」

やれやれと首を振るヒュリアンは、早々にオッサンの存在を諦めていた。
とは言え、オッサンの心配をしている場合でもない。パプカも同じように触手の餌食になっているのだし、そもそもオッサンなら一人でも脱出出来るだろう。

「サトー! 大変です! このままではわたし、触手の餌食にされてしまいます! はっ!? ひょっとして、これが噂の触手プレイと言うやつでしょうか!? 凄いですよ! 初体験です!」
「意外に余裕だな!? とにかく魔法でなんとかしろよ! お前魔法使いだろ!」
「正確に言うと、わたしは錬金術師です」
「そんな細かい設定、誰も覚えてねぇよ! いいからとっとと…………うおわっ!?」
「あ」

ツッコミを入れるのに気を取られ、近寄る触手に気が付かなかった。
結果として、俺もパプカやオッサンと同じく、哀れ触手の餌食となってしまったのである。どんな結婚式だよ。
冒険者でも何でもない一般人の俺は為す術無く、オッサンと同じ運命を辿ろうとしていた。わ、わぁい、大っきなお口ぃ……

「サトー、すみません。触媒を持ってきていないので魔法が使えないんです……諦めて下さい」
「諦め早……いやいや! 俺の命だから! 簡単に諦めるな!」
「お母さん! 今の私達では無理です! 助けてください!」

ヒュリアンはキョトンとした表情を浮かべ、何故か首をひねった。

「あら? パプカが最近、イチゴにハマってるって聞いて用意したんだけど」
「イチゴ違いですから! こんなの食べるほど偏食家ではありませんよ!」
「でも、せっかくだし食べてみれば? 生け捕りにするの、結構苦労したんだから。生食のほうが美味しいらしいから」

なんていらぬ世話だろうか。
食べる方じゃなくて、今まさに食べられようとしているんだが。

「リーンシュ! てめぇ絶対何処かで見てるだろ! このままじゃ死んじゃうから! 嫌がらせってレベルじゃないから!」
「ああ、リンシュならこの映像を執務室で見てると思うわよ? 絶対に爆笑してるわね、彼女」

容易にその光景が想像できることが腹立たしい。確かに、この状況を肴に酒の一杯でもやってそうだもんなぁ。
そんな風に嘆き悲しんでいると、とうとうお迎えのときがやって来たようだった。
よだれをネチャリと垂らした大口。植物のくせにやたらと鋭い牙を何本も光らせて、巨大な瞳が俺を見る。
口が開くと、喉奥の暗闇がこんにちわ。

「だああっ! 喰われるぅっ!!」
「さよならサトー! ひと足先に逝って、待っていて下さい!」
「いやだから諦めんなって! 待て待て! 順番的に言ったらパプカの方が先だろ! あいつを先に食えば腹一杯になるかもしれない! そして俺を喰うのを考え直せ!」
「ちょっと! 人を身代わりにしようとしないで下さい! イチゴさん! その男の方が贅肉たっぷりで美味しいですから! 遠慮なくパクっと行っちゃって下さい!」

人のこと言えない台詞吐いてますけど!?

「うおぉぉぉ! 植物なんぞに喰われてたまるかぁぁぁ…………あ?」

襲い来る牙を、腕と脚で防いでいると、イチゴの口の中でうごめくものが見えた。
徐々にその姿が鮮明になる。ゆっくりと口の中から現れたのは、

「お、オッサン!?」
「サトォ…………結婚なんか許すかボケェ!!」

などと喚きながら、イチゴの体内から脱出を果たしたオッサンは、その勢いのまま空高く舞い上がった。
まあ無事だとは思っていたが、脱出直後にあれだけアグレッシブに動けるとは……さすがオリハルコンと言ったところか。
空高く舞い上がったオッサンはそのまま自由落下。イチゴの頭頂部へと拳をめり込ませた。

「ブギャァッ!?」

なんて断末魔が響き渡った。
体を爆散させたイチゴは、体内から辺り一面に体液をばらまいた。血液……ではなく果汁である。懐かしい、イチゴの香りが漂った。
ばらまかれた果汁は無差別に客席を襲う。果汁の津波が席や客たちを押し流し、あとに残ったのは、防護魔法でちゃっかりと生き残ったヒュリアンだけであった。
パプカと俺は触手から開放されたは良いものの、そのまま放り出されて地面へと落下。骨が粉砕するかのような衝撃をケツに受け、更に俺の上にパプカが落ちてきたのだからたまらない。
イチゴの果汁を雨のように浴びて、体中ベタベタになってしまったが、生きているだけ良しとしよう。

「死ぬかと思っ……パプカ! 危ない!」
「ふえっ!?」

萌えキャラのような声を上げたパプカの背後に迫る影。
五メートルを超える特大ケーキ。その上のイチゴが爆散した衝撃によって、その巨体が倒れ始めたのである。
反射的にパプカの手を引いて、ケーキの落下予測地点から彼女を脱出させた。代わりと言っては何だが、反動で俺の体はケーキの落下予測地点にドンピシャリ。
ケーキのダイレクトアタックを体に受けて、甘い香りの物体に、俺の体は押しつぶされた。

「おお! ありがとうございますサトー! 今のはさすがのわたしもクラっと来ました! カッコいいですよ!」

なんて、ケーキ越しにパプカの声が耳に届く。
……いや、もう本当になんでこうなったのだろう。今日は俺の休日のはずなのだ。有給休暇のはずなのだ。
にも関わらず、昨日に引き続いてパプカに振り回されて、挙げ句の果てには結婚式だ。しかも主役が俺とパプカと来たもんだ。ハッキリ言って、これっぽっちも意味がわからない。
ああ、なるほど。これがいわゆる『巻き込まれ体質』と言うやつなのかもしれない。転生者や召喚者がすべからく持ち合わせる、特異体質のことだ。
俺だって無意味にしろ召喚者である。こういった強制イベントが襲いかかっても、まあ不思議ではないのかもしれない。
だがしかし、そう言った主人公属性的な特異体質の持ち主たちは、同じようにその解決能力も持ち合わせているものだ。
自分自身が圧倒的に強かったり、周りの女の子たちが、粉骨砕身して助けてくれたりエトセトラ。
一方の俺はどうだろう。周りの人間が助けてくれたりするのだろうか?
答えは否だ。むしろ、そいつらが進んでトラブルを持ち込んでくるのだから救われない。
ソレによって、俺に何の利益があるというのだろうか。ラッキースケベの一つも起こりはしないのだ。
ドキドキの同衾イベントは、ただ単純に同じ部屋で寝たと言うだけのこと。せっかく立てられたフラグが、回収されることもなくへし折られたのだ。厄介なイベントの時はすぐに回収するくせに、何なんだこの差は。
と言うか、こんな風に考え始めたら段々ムカついてきた。なんでこうまでしてパプカに付き合ってやらねばならないのか。いいや! 付き合う必要など、これっぽっちもありはしない!
嘘がバレてヒュリアンに何されるかわからない? たしかにそれも恐ろしい。だが、このまま行けば、どのみち俺の体は持たないだろう。
どちらがマシなのかと天秤にかけてみてみれば、現時点でオッサンに殺されかかっているのだから、今はこちらの方が恐ろしいという結論が出た。


「やってられるか!!」
「わっ!? びっくりした!」


全身に覆いかぶさったケーキを払い除け、俺は文句を叫びながら立ち上がった。
そしてまさに今、俺に襲いかかろうとしていたオッサンを睨みつけ、次いで近くで傍観していたヒュリアンを指差した。

「聞けやモンスターペアレンツ! 言うぞ! 俺は本当のことを!」
「ちょっ……サトー! 何を……」
「俺は! パプカ・マグダウェルと言う幼女と! 付き合ってなんか――――いない!!」







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