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復讐

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 「皆さん朝早くから集まってくれてありがとうございます。今から私は復讐を始めます。」いつもの笑顔で言うるなにネットでは『謎の美少女』や『なんか面白そう』『この制服って超お金持ち学校じゃん!』など、視聴者はどんどん増えていった。
「先生方、そして、いじめっ子たち屋上に来ようとしないでね。来たら飛び降りるから。」急に笑顔がなくなった。るなのこんな真剣な顔を私は初めて見た。
「さて、今からとある映像を流しまーす。」画面が切り替わって映像が流れてきた。それは今までのるながいじめられている時の映像が一本の動画に編集されたものだった。学校中、そしてネットで見ている人全員がパニックになった。中にはその状態を楽しむ者もいた。映像が終わった後るなは何か言いたげだった。しかし、何も言わずに次は、たくまが録音したものであろう音声を流し始めた。職員室からは電話の音が鳴り響いていた。すべての映像、録音を流し終わるとるなは、とある質問をした。
「もしあの映像、録音の場所に遭遇したら皆さんはどうしますか?スルーですか?それとも一緒になって笑いますか?いじめますか?」
「過去、もしくは現在、いじめをしたことはありますか?スルーしたことはありますか?人を傷つけたことはありますか?そもそもいじめの定義は何ですか?」たくさんコメントが流れている。真面目なコメントから、ふざけたコメント、アンチコメントまで。とめどなく流れるコメントが気持ち悪かった。るなが何をしたいのか私にはわからなかった。
「私のようにあからさまないじめでなくても、相手が嫌だと思ったらいじめなんです。傷つけてしまったらいじめなんです。些細な言葉一つで人の命は簡単に奪えるんです。これはいじめをしてきた人間への復讐です。名前をさらし、私の命を使っていじめを犯罪として法の下で罰する。材料集めには苦労しました。鈍感な教育実習生によって録画を何回も邪魔されました。この学校はお金持ちの家系しか通えない学校。そして将来社長や政治家になることが約束されている人たち。そんな奴らがいじめを行っている。そんなことはあってはならない。だから社会的地位をつぶしておかなければならない。いじめは罪だ。いくら子供だからって人の心を弄んで、傷つけて、殺していい理由にはならない。そして、いじめは間接的な殺人だ。罪には罰を。簡単にいじめが許される社会などくそくらえだ。ならば私がこの命をもって、いじめが犯罪として法の下で裁かれる未来を創る第一人者となろうと決めた。
おかしいと思いませんか。いじめた側は、いじめたことなんてすぐ忘れる。けれどいじめられた側は、ずっと覚えてる。ずっと苦しめられる。いじめによって人生がおかしくなるんです。今までできてたことができなくなる。普通の生活が、普通に学校に行って、友達と話して、勉強して、そんなごく当たり前の生活ができなくなる。人を恐れてしまうようになる。なぜ、被害者だけがハンデを背負わなければならないのか。いじめた側も被疑者として社会的ハンデを背負わせるべきだ。これを言っただけで何か変わるとも思っていない。だから私は自分の命を使って、いじめを犯罪として立件される第一回目となる。」その堂々とした言葉を最後に配信は切れた。コメント欄には同意の声や、批判、暴言まで流れていた。それはそれは見事なまでの荒れようで、すぐにトレンド入りとなっていた。

私とたくまは慌てて屋上の扉を開けた。扉が開くと同時に、るなは「だまされたね。二人とも」と静かに微笑んで、るなは飛んだ。元々鍵などかかっていなかった。るなが扉の前に座っていただけだった。私は膝から崩れ落ちた。周りの音がやけに小さく聞こえていた。るなはありさのもとへ逝ってしまった。自由になったのだ。
私とたくまは、るなの願いを絶対叶えようと誓った。
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