瑠璃色たまご 短編集

佑佳

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瑠璃色たまごは彼のもとへ帰する

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「る、うちゃ……ん」
 中秋の月明かりが、淡い風に揺れるカーテンの隙間から射している。それに照らされた琢心は困惑の表情で固まっていた。状況把握がままならないのか、目をしきりにしばたたかせている。
「忘れちゃった? あのとき、瑠由ちゃんのことは好きになったらダメだよって言ったの」
「う、っぐ」
「それは今も、変わらないんだよ?」
 近い瑠由の顔を見、自らの胸板に今にも乗りそうな柔く豊かな膨らみを見、股間に挟まれている彼女の左膝頭の圧をジンジン感じている。
 しかも部屋に入って間もなく自身の服を着せてしまったことで、自らの衣服の匂いと彼女の官能的な薫りが混ざり、媚薬的効果を発揮してしまっていることから、琢心の理性バロメーターは完全に振り切りショートしていた。
「だって瑠由ちゃんはね、琢ちゃんにとってこんっなに危ないお姉さんなんだもん。キミが瑠由ちゃんを好きな気持ちを逆手にとって、簡単にどうにでもしちゃうよ?」
 脇腹に挿してあった左掌を、彼の右頬へ寄せる。左手親指で、触れた頬をツウと外側へなぞる。
「なんっ、な、で」
「キミは、そんな危なくて怖ぁいお姉さんに簡単に捕まっちゃうような、悪い子だったのかな?」
 瑠由の左手は、彼の顎線をするりと上がっていく。耳たぶをもてあそび、唇に触れると、緊張に震える短い吐息がそこから漏れ出た。
「フフ、ほらぁ、怖いでしょ? こんな想いさせる人でも、キミは好きでい続けちゃうの?」
「す、っ好――」
 言いきらせないといわんばかりに、瑠由は腕一本分の距離をゼロにまで縮めた。
 幼さの残る彼の唇を、強引に自らのそれで塞ぐ。吸い付くように口付けては離し、またすぐに吸い付きに戻る。接吻の回数だけ、粘着質な音が室内に響く。
 わずか一センチだけ開いていたその隙間を縫うように、彼女はなまめかしく舌を挿し入れた。彼のそれを探す。見つけた途端に絡めて、味わい味わわせ、吸い付いてまた絡めて。
「ッハ、ハア、は」
「あは。お仕置きですよォ、琢心くん。散々ダメだって言ってるのにィ」
「るう、ちゃ、な、なんで」
 腹部に当たる隆起物が硬く熱い。上半身を起こし、彼の右腕を自身の左手で強く掴み、拘束。
「わかる? こうやって煽るだけ煽って、キミのこと遊びに使っちゃうんだよ。たくさん瑠由ちゃんのいいようにするんだよ」
 股の間の膝を抜き、彼の腰を挟み直す。腰を落として、彼の熱い隆起物の上に自らの秘部を布越しに密着させる。浅履きのタイトミニスカートは捲れ上がり、下着があらわになる。
「だっ、だめだよる……あ」
「今日の瑠由ちゃんの格好見て、たまたま興奮しちゃったんでしょ? えっちだもんねぇ、刺激的だもんねぇ。生身のグラビアモデルだから、興奮と好きを勘違いしたんだよね?」
 所在無さげな彼の左掌を持ち上げて自らへ寄せ、パーカーのジッパーをゆっくりと下ろさせていく。
「でも残念だったねぇ。だから服着せて一旦隠したのに、逆にもっと興奮しちゃったんだよね? 雑誌の中の瑠由ちゃんがボクの服着てるもんね?」
「っる、るうちゃ……」
「さぁ、琢ちゃん」
 カチリ、ジッパーが下がりきり、外れる。ボンテージ様の布一枚を隔てているとはいえ、そのあらわになった乳房は写真で見るよりも迫力がある。
「ごめんなさい、しよっか」
「へ?」
「これからは瑠由ちゃんのこと好きにならない、って言って」
「あぅ、い、っ」
 左掌を、ボンテージ様の布に触れさせる。握り掴むように強制する。
「琢ちゃん掌、とっても大きくなったけど、瑠由ちゃんのお胸のがまだ大きいねぇ」
「だっ、へ?!」
「下から持ち上げて、痛くないように触るんだよ。ん……そう、そんな感じィ。あぅ」
 更に押し当てさせる、左掌。拘束していた右掌も、同様の刑に処す。
「上手だよォ、琢ちゃん。あは、どう? 柔らかい?」
「るう、ちゃ……お、俺っ。こんな」
「あれぇ、触りたくなかった? そっかぁ、残念」
「ちぅ、違」
「じゃーあ、グラビアモデルの瑠由ちゃんが、健全男子高校生の琢ちゃんを、ゆっくり優しく触ってあげるね」
 両手で、左右それぞれの脇腹をなぞる。上衣をたくしあげ、あらわになった腹筋を舌先で刺激。
「くっ、ぁう」
「くすぐったい? やめてほしかったら、さっき言ったことちゃんと言ってみて」
 彼の胸の丸い小さな隆起粒を手探りで探し当て、爪でなぞり、弾く。ビクンと幼く跳ねた彼の膝に、彼女は気を良くした。
「あれれぇ? 抵抗しないんだぁ。本当に悪い子だなぁ」
 彼女の舌先が首筋を伝う。甘い吐息と共に口付けを落とし、胸元へ舐め寄る。そこで細かく蠢き、甘噛み、再び吐息を吹きかければ、その都度溜め息のような甘いそれで返応してくる。
 痺れに似た刺激が徐々に激しさを増し、彼の全身に廻る。声にならない吐息の喘ぎを繰り返し、彼は身悶えしている。腕を目元に押し当て耐えている様子が色めいた欲をそそったので、彼女は思わず胸元に強く吸い付き、自らの印を色濃く残した。
「っツゥ……」
「ンハ、つけちゃった」
 今度は股の布越しに、ゴリッと彼の隆起物を刺激。悲鳴の手前のような声を恥ずかしげもなく上げて、それに彼女は更に興奮した。
 右手で、その勃起物に触れる。熱い、硬い。上に、下にと撫でるようにまさぐり続ける。
「くっ、る、うちゃ、やめ、んっ」
「なぁに? 瑠由ちゃん、よく聞こえなぁい」
 クスクスと笑んで自らをもてあそぶ彼女をなんとかしなければと、琢心は彼女の肩を掴まえた。つられて上半身が三〇度ばかり起き上がる。
「こんな風にされて、俺、どうすればいいのさ!」
 手を止めた彼女。切な琢心の表情に見入る。
「抵抗したらいいの? 受け入れて欲しいの? 突然脅すみたいに煽って、興奮させて、性的に従順にさせて。まさかこんなこと程度で俺が瑠由ちゃんを嫌いになるとでも思ったワケ?」
「だって。琢ちゃんはもっと清純な女の子がいいはずだもん。不釣り合いだよ」
「勝手に決めないでくんない。俺は、あの頃からずっと瑠由ちゃんしか見てないんだってば」
「だぁかぁらぁ。私のこと恋愛対象として見るのは諦めてほしいから、こういうことしてるの。私は別に、琢ちゃんのことどうとも想ってないもん」
「た、たとえ瑠由ちゃんがどんだけ俺のこと遊び道具としか思ってなかったとしても、俺は――」
「――ダァメだってば」
 脱いだ白いジップアップパーカーを、琢心の両腕の拘束に使用する。『本業』の技術を使えば、彼の両腕をその頭上に持っていきその手首を縛り上げるなど、造作もない。そうしてトンと胸の中心を小突き、再びベッドへ押し倒す。
「強がり琢心くん。本当は怖いんでしょ? 知り合いとはいえ、他人に急にこんなことされたらさすがに嫌でしょ?」
「別にっ。っカ……、はぁ、こんな程度じゃ、怖がれないし嫌でもないけど?」
はずかしめられてるんだよ? 突然現れて、部屋に押しかけた私に。もっと幻滅してよ」
 真顔の瑠由は、ボンテージ様のチューブトップを脱いだ。左脇腹のジッパーをサッと下ろし、剥ぎ取り、その素肌をさらす。
「ほら。簡単に脱いじゃうよ、私。キミが知ってる瑠由ちゃんは、純潔でも可憐でもないよ? 真逆だよ?」
 程よく張りのある肉塊。重力に逆らい続ける反発性。呼吸の度にふるふると柔く揺れるそれは、カーテンの隙間から漏れる月明かりに照らされて美しく輝く。彼は目を奪われる。
「卑猥で、下劣で。キミが好きになるような素敵なお姉さんじゃあないの。はしたない女なんだよ。だから好きになっちゃダメだよ」
「じゃあ……そうやって自分削ってまで、俺を遠ざけようとすんのは、どうしてさ」
 拘束されたままの手首を、自らの胸元に持ってくる琢心。
「人の弱いとこいじって、触って、たせて。そうやってたのしんでるようにしてるけど、そんなの別に下劣でもなんでもないしっ」
 彼女の乳房の頭頂の突起は淡い暖色で、琢心はそれをとても綺麗だと思った。
「つぅか、瑠由ちゃんが無理してんのくらい、俺にはわかるんだからな」
 クッと下唇を噛む。思わぬ本音とのニアミスに、反応が遅れる。
「そもそも俺が、こんな風にマウントとられたり拘束されれば、マジでトラウマんなるくらい嫌がるとでも思ってんの?」
 腹筋で、その上半身を起こす琢心。下から睨みつけるような視線で瑠由を刺す。
「それってさ、『瑠由ちゃんが嫌だと思ってること』なんじゃないの? 瑠由ちゃんは、年下の俺に乱されたり主導権握られンのが嫌なんだろ」
「私相手に心理戦? あは、キミも大人になってきたね」
「俺のことどんな風にしたとしても、俺は瑠由ちゃんを好きでいる。どんな瑠由ちゃんだって、ハア、瑠由ちゃんはいつでもかわいいし、綺麗だ」
「そう言いさえすれば私が喜ぶと思う?」
「喜ばせたいだけなら、もっと別のことしてるね。俺はただ本心言ってるだけ、ずっと。昔から俺は、瑠由ちゃんに本心しか言ってない」
「本心……そん、琢ちゃんいい加減に――」
「ほら、わかるっしょ? 俺、『瑠由ちゃんで』ガチガチになるくらい興奮してるよ」
 興奮の勃起物を、下着の薄布越しの秘部めがけて突き上げる。わずかに動揺した彼女を見逃さなかった。
「俺だって潔くもなんともない。自分ばっかりが卑猥だと思わないでよ」
 グリグリと押し付けられる勃起物。彼女は反射的にか細く甲高い悦の声を上げてしまう。
「ハアー……瑠由ちゃんがこんなエロいお姉さんで、マジヤバいよ。理想以上で超好き。瑠由ちゃんが馬乗りになってくれて、めちゃめちゃ興奮する」
「た、琢ちゃん、何……」
「挑発的なお姉さん瑠由ちゃんこそ屈伏させたくなるしさぁ、ぶっちゃけ願ったり叶ったりでしょ。最高のシチュエーションだよ」
 拘束されている両手で、彼女のあられもない胸部を覆う。同時に、今度は彼が彼女を押し倒しにかかる。
「ね。今まで何人の人に、瑠由ちゃんのこの綺麗な裸見せたの?」
「きっ、綺麗って」
「むしろ見せたことない? 人前で脱いだの、もしかしてこれが初めて? じゃあシたことある? ない?」
「そんなこと、お姉さんに訊くもんじゃないのっ」
「そう、いろんなこと初めてだったんだ。やったぁ」
 彼女の抵抗は続く。倒されてしまった姿勢を返そうともがく。
「ひゃっ、あっ」
 触れている乳房を柔く握った彼。掌に彼女の小さな突起が当たる。
「ハア、ヤバ。かっわいい。大好きだよ瑠由ちゃん」
「だめだって、私のことすきにならないで」
「こっちが近付いても離れようとするとこ、マジで昔から変わんないよね。最高。ほんとそういうの最高」
「琢ちゃんは『こっち』来ちゃだめ。遠くから見――」
 形勢逆転の口付けが落とされる。さっき彼女がしたことを、彼はそのまま彼女へ行動で返す。
「たくっ、た……ハア、んっ」
 なまめかしい粘着音が繰り返される。甘い吐息が混ざり、絡まり、合間に彼の感情がかすれて囁かれる。
「瑠由ちゃんだって、ほんとは俺のこと好きなんでしょ? ダメだよ、未成年好きになったら」
「琢っ、こ……こんな」
 くらりと揺らぐ。瑠由は、挑発的な笑みをする琢心に惑わされていく。
 彼女の左胸の内側に、彼はキツく印をつけた。ひとつ、ふたつ、と数を増やし、両胸の柔肌に赤黒い点状の印が多数ついてしまう。
「そんなつけたら、水着に」
「響かないようにつけたから平気。どんだけ瑠由ちゃんのグラビア見てると思う? 範囲くらい覚えてるよ」
 優しい声色なのに、優しく聞こえない。配慮であるのに、もどかしさが増す。
「俺はずぅっと、瑠由ちゃんのものだよ。昔も、今も、これからも。瑠由ちゃんだけが、俺のこと好きにしていいよ」
「そ、そんっ」
「瑠由ちゃんはこれからどうしたい? 俺にどうして欲しい? どうされたい?」
「は、離し……ひゃんっ」
「俺の手縛ったまま、瑠由ちゃんはが俺にしようとしてた卑猥なことの続き、一緒にやっちゃう?」
 表情は笑っているのに、目の奥が笑っていない。
「俺の『初めて』盗んでくれていいよ。瑠由ちゃんのためにとっといてるんだ。たとえ瑠由ちゃんが初めてじゃなくても、俺は瑠由ちゃんの最後の人になるからね」
 拘束の手先が、彼女の素肌の太ももへ触れる。指先がなまめかしく這い、鼠径そけい部に達し、下着の中へ潜り込む。
「俺はね、どんな瑠由ちゃんだって大好きだよ」
「く……ふぁあっ」
「俺に嫌われようとしてる瑠由ちゃん、すんげーかわいかった。むちゃくちゃ好み。嫌えるわけないよ、だって全部ご褒美だったもん」
「た、琢ちゃ……」
 月明かりが照らした琢心の笑みを見て、逃れようにも逃れられないとさとる。
「瑠由ちゃん。俺のこと怖い?」
 覆い被さる琢心を、確と見つめる瑠由。
「自分が俺に何をしたか、よくわかった?」
「わ、私……」
「ん?」
「私ね――」
 彼を引き寄せ、その耳へいくつか囁く。深く口付け合い、声を殺したまま、やがて夢幻へ溶けていく。

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