C-LOVERS

佑佳

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HOPE

1-3 can meet needs

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Attendreちょっと待って , Signoreシニョーレ敬斗けいと
 YOSSY the CLOWNの一声に、忠実なまでにピタリと止まるSPボディーガードの敬斗。ドアノブにかけた彼の左手がそっと離れ、服部若菜の肩に込めた力も緩む。
 突然解放された服部若菜は、思わずぱちくりとSP敬斗を見上げてから、YOSSY the CLOWNの背中をキョトンと見つめた。
「マジック、だって?」
 唸るように低く、YOSSY the CLOWNは何かを考え込むように首を捻っている。
Signorinaシニョリーナは、僕の弟子になったらマジックをやろうと思ってたの?」
「え」
 それは、今まで聴いていたYOSSY the CLOWNの声色ではなかった。恐らく地の──最もプライベートな彼の声色。服部若菜も、SP敬斗すらも息を呑む。まるで喉元に剣先を突きつけられているかのような寒気を纏う声色は、どんな返答も間違いだとされてしまいそうだ、と服部若菜にさとらせる。
 YOSSY the CLOWNは、華麗な一八〇度ターンで振り返った。
「なら、もーっとイイ人を紹介してあげるよ! それならいいでしょ!」
 一転、満面の笑み。
「へ?」
 『鳩が豆鉄砲を食らう』とはこのことだ。服部若菜もSP敬斗もぽかん、と口がだらしなく開く。しまいに顔を見合わせて、頭上に浮かんだハテナとハテナ。
「世界が認める凄腕マジシャンを知ってるんだ。マジックの腕は、僕より段違いにスゴいんだよ。僕からSignorinaを紹介してあげる!」
 そんな二人を気にも留めないYOSSY the CLOWNは、『OliccoDEoliccO®️』のテラテラに光っている黒革靴をツカツカと鳴らしながら、早足で再び服部若菜へ近付いた。その距離は、あっという間に頭一つ分にまで縮む。
「是非とも、彼に享受してもらいなさい。うんうん、我ながら名案だ」
 サングラス越しであることを忘れてしまうほどキラキラと輝く彼の瞳。口角も頬も益々きゅーっと上がって、まるでずっと欲しかったゲームを与えられた少年のようだ。彼のそんな一分前とは打って変わった態度に、困惑は終わらない。
「あーあの、私はYOS──」「彼を唸らせてごらん」
 被せられた言葉に、大人しく口をきゅんと噤む服部若菜。
「凄腕マジシャンの彼を、Signorinaのマジックで唸らせることができたら。その時は『必ず』僕の弟子にしてあげる」
 必ず、を刻むように発言したYOSSY the CLOWN。服部若菜は「ホントですかっ?!」と、飢えた獣のように食い入る。
「フフッ、本当さ。僕、マジックだけは彼を越えられないと思ってるんだよ。だから、そんな彼の下で修行すれば、きっといいマジシャンになれる」
「わ、わかりましたっ! 修行してきますっ」
 YOSSY the CLOWNは安堵したように柔らかく微笑むと、ようやくそっと服部若菜から離れた。
「それとひとつ、僕と約束してほしいんだけど」
「はい、なんなりと」
「どうか、彼の役に立つように動いてくれたら嬉しいな」
「役に、立つ?」
 そう、とYOSSY the CLOWNは小さく頷く。
「彼、掃除が苦手なんだ。幸いSignorinaは掃除がお得意ときてる。是非とも力になってあげてほしい」
「そんなことで、よければ」
 言いながら、YOSSY the CLOWNは『OliccoDEoliccO®️』の灰と茶の混グレージュ色スーツジャケットの内側から、一枚の紙を取り出した。
「彼、数年間ずぅっと一人きりなんだ。きっと今頃、人手がなくて困ってる。だから、彼の言うことはなるべく丁寧に聞いてあげてほしいんだよね」
 「ずっと一人きり」の言葉に、服部若菜は強く心を揺さぶられたような心地を抱く。なぜなら彼女も二一才になるまでの数年間、一人きりの時間を長く味わったためだ。
「『辛抱強い』キミなら、彼ときっと上手くやれる。どうか、この約束は忘れないで」
 「辛抱強い」とは良く言ったものだ。服部若菜の『しつこさ』に手を焼いた自らを、彼はそうして隠したのである。
 胸元から取り出した紙へ、壁を下敷きにツラツラと文字を書き込んでいく。
「Signorinaがここで修行していれば、近いうちにまた僕に会えるさ。必ずね」
 YOSSY the CLOWNの一言一言が、魔法であるかのように服部若菜の身に、心に、脳の奥に、染み入り、キラキラと輝く宝石となって残るようだった。
 渡された紙を、大事に大事に両手で受け取る。意気込んで、ガバリと深くひとつ頭を下げる服部若菜。
 それからいくつかの質問を経て、数分後には服部若菜自らの意思でドアノブを握った。


        ♧


「よろしかったんですか、あんな感じで」
 服部若菜が退出してから一〇秒後、SP敬斗は恐る恐るYOSSY the CLOWNの背中へと声をかけた。
「あんな感じ?」
 訊ね返され、ああいや、と濁すSP敬斗
「『弟子にしてくれ』だなんて、今時珍しいというか。わたくしめには、良さそうな話に聞こえてしまったものですから。突っぱねてしまっても、というか」
uh-huhうーんまぁ。別に嬉しくなかったわけじゃないし、邪険にし過ぎたかなーと思わなくもないけど」
 声色からは微塵もそんな風に思えないYOSSY the CLOWNの態度に、SP敬斗はひっそりと渋面を作った。
「僕の目的、目標は、公表してるそれよりもまだ少し続きがあってね」
 『世界を笑顔で満たし、そうして美しく変えること』──これが、YOSSY the CLOWNの公表している活動理念。「続き、ですか」とSP敬斗がなぞると、YOSSY the CLOWNはくるりと振り返った。
Signorina彼女は、その『続き』には向かないと思ったってのが、本音かな」
 『OliccoDEoliccO®️』の、薄い灰青ウェッジウッドブルー色レンズの奥では、何を考えているのかがさっぱり見抜けない。SP敬斗は、自らのかけている黒レンズのサングラスをそっと外した。
本当マジにそれだけ、ですか」
「うん。大マジにそれだけだよ」
「…………」
 ボクシングに長けているSP敬斗だが、YOSSY the CLOWN独特の圧にはつい、気圧されそうになる。
「失礼、いたしました」
「フフ、no matterどうってことないさ
 三〇秒ほどそうして見合っていた二人だったが、SP敬斗が視線を外し、サングラスをかけ直したことで、その緊張は壊れることになった。
 YOSSY the CLOWNの胸元で、スマートフォンが低く唸る。流れるように取り出し、いくつかタップを挟む。
「ほーん。僕が次に向かうのは、どうやらイギリスのようだ」
 受信メールでも読んだのだろう。スマートフォンを見つめてひとりごちるYOSSY the CLOWNは、ニタリと口角を上げた。
「着いてくる? Signoreシニョーレ敬斗」
 えっ、と返答に詰まる。思わず目を見開いてしまい、するとその動揺をYOSSY the CLOWNに簡単に覚られたようで。黒レンズをかけ直した直後だというに、彼の洞察力にSP敬斗は恐怖を感じる。
「フフッ! いいよいいよ、aucun problème大丈夫。この公演が終われば、ちゃんと本来の護衛対象ご主人の元へ帰してあげるよ」
「なんか、人質みたいな言い方しますね」
Signoreシニョーレのご主人からしてみたら、そんな心地だろうからね」
 優しくしかし意地悪く笑むYOSSY the CLOWNへ、SP敬斗はうっかり頬を染めてしまった。
「み、ミスター。あと一〇分でお時間です」
「うん、そうだね」
「舞台袖へ、向かわれますか」
「いや、一本電話してからにするよ。そんなに長くはかからないと思うから」
「え、どちらへ」
「国際電話さ」
「国際……って。服部さまの行き先へは、おかけにならないのですか?」
「そっちは後で。ていうか、Signorina彼女が着いたらあっちからかけてくるだろうから」
 横顔で、含みのある笑顔を向けてくるYOSSY the CLOWN。悪い顔をするなぁ、とひっそりSP敬斗は肩を落とした。

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