C-LOVERS

佑佳

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HOPE

2-4 clarify the truth

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 柳田良二は、半開きの目をギンと服部若菜へ刺して、言葉をぶっきらぼうに連ねていく。
「俺は確かにマジックが出来る。アイツが言ったことがそのままマンマすぎてシャクだが、他のどんなヤツがやるよりも、俺様の方が俄然巧いことも間違いねぇ。マジックの腕が誰かよりも劣ってるとか思ったことはねぇしな」
「じゃ、じゃあやっぱり教えて! やって見せてとは言わない。やり方だけでいいからっ」
「寝言は寝て言え」
 むっ、と服部若菜も鼻筋にシワが寄る。柳田良二の睨みに、つい引けをとってしまった。
 柳田良二は、最後にタバコをひと吸いしてから、吸殻で剣山のようになっているアルミ製灰皿の中へ、ぎゅうと押し込む。
「まずテメー、誰にタメ口きいてんだ、あぁ? 俺様のが上だろ」
「知らないですよ。いくつなんですか」
「二五」
 顎を上げて、ふんぞり返る柳田良二・二五才。
 ぐぬっ、と苦渋をなめる服部若菜・二一才。
「大体よ、『世界が認める』だとかぬかしてやがったがな。まずそこが間違ってんだよ」
 首の後ろをゴリゴリ掻き、来た時とは違う道をスネで割って作りはじめる柳田良二。先が尖っているシルエットのために、柳田良二の黒い革靴はまるでワニの顔面のようだ。それが左右交互に、ズンズンザリザリと紙束をかき分けて、服部若菜へまっすぐに向かってくる。
「俺はアイツと違って、表舞台に立ったことは一度も無い」
「ん?」
「表彰だのされたことも無けりゃあ、大勢の観客なんてぇのに見られたことすら無い。つまり……」
 返事を探るように、口を開いたまま棒立ちの服部若菜。そんな彼女まであと五歩の距離に、ピタリと立ち止まる柳田良二。
「『世界が認める凄腕マジシャンだ』と、俺の事を評したのが一言一句違わなければそれは、『世界に認められたYOSSYアイツが、勝手に最高だと推すマジシャンだ』っつー意味だ」
 柳田良二は、両手をそれぞれのスーツパンツのポケットに突っ込んだ。
「え、と。それはつまり」
「だァら。俺が直接称賛された事はねぇんだよ。こんなのなんの肩書きでもねぇし、それで売ったこともねぇ。アイツが勝手に推しただけで、なんの価値もねぇっつってんだ」
「ウソ……」
「俺は、『ただマジックが世界レベルに上手い探偵』。以上」
「え、っええ?!」
 服部若菜の裏返った驚嘆に、柳田良二は鬱陶しそうな顔をした。してやられたな、と服部若菜が宙を仰げば、「てへー☆」とピースサインで『してやったり顔』をしたYOSSY the CLOWNが浮かぶ。
「あ、でも! マジックの腕は確かなんでしょ? それなら別に、有名とか有名じゃないとか関係ないです!」
「あんなぁ……」
 「まだ諦めねぇのか」と呆れ顔をつくる。ふーっと長い溜め息の後に、柳田良二は左掌でくしゃくしゃの前髪を後ろへいた。
「テメーはアイツに『してやられた』んだよ。早ぇとこ諦めろ。んで、下のコンビニで無料の求人雑誌貰ってから、ここ出てけ」
「い、イヤですっ!」
「イヤもへったくれもあるか」
「絶対に、マジック教えてくださいっ!」
「だァらっ、『マジックでどうこうなろうとしてる奴に肩入れするのは御免だ』っつってんだろ」
「いいじゃないですか、ちょっとくらい! アナタが今後マジックやる予定ないなら、その技私に譲渡してよっ。私がYOSSYさんと並んで、世界を認めさせます」
「無理だな」
「無理じゃないですっ」
「絶、対、に、無、理、だ」
「や、やってみないとわかんないでしょ!」
「テメーが出来んなら、俺様が既にやってんだよ」
「でもやってないじゃないですか。私がこれから鍛練して……」
「どっから出てくんだ、その自信」
「私もああなりたいんですっ!」
 ぎゅうっと目を瞑り、半ば叫ぶようにそう言ってしまった服部若菜。すっかり口にしてしまってから、「しまった」と目を開け柳田良二を向く。
「ああなりてぇだァー?」
 まるで地球外生命のグロテスク映像でも目の当たりにしたかのように、柳田良二は顔を歪ませていた。態度は悪くとも、まま調った顔をしている彼がここまで顔をひしゃげていると、服部若菜もさすがに背徳感で背筋が寒くなる。
「もうちっとマトモな人間に憧れらンねぇのか、テメーは」
「マトモな人間ってなんですか! 自慢じゃないけど、私は昔から、ずぅっとマトモじゃないんですっ」
 ぎゅっと下唇を噛み、足先に視線を落とす服部若菜。
「私、昔から上手く笑えないんです。精一杯自然に笑ったって、誰が見ても『不気味だ』って。まぁ、確かに不気味なのは自分でわかってますけど」
 再び、柳田良二の胸の奥の古傷がジクリといたむ。
「そんな私でも、自然に笑えちゃえるようなパフォーマンスを、YOSSY the CLOWNはやるんです。私みたいな人、世界中に沢山いると思う。でも……」
 そっと、右掌を出す服部若菜。
「例えば手から、たった一輪花を出すだけで、どんな人でもそれに目を奪われる。一瞬だったとしても、一回は『おっ』てなるんです」
「…………」
「凄いことだと思った。私も、私と同じような人達に『おっ』て思ってもらいたい! そんで、自然な笑顔させてあげたい。私も、誰かの自然な笑顔を引き出したいの!」
 二人は睨み合うようにしながら、長い沈黙を共にした。
「…………」
「…………」
 お互いの顔を見合うことに飽きだした頃。
 静かに目を閉じた柳田良二の大きな溜め息で、その張りつめていた沈黙が破られた。
「そんな演説で、俺様が簡単に落とされるだろうなんておごンなよ」
「わかってます。ホントに攻略すべきは、アナタじゃなくてYOSSYさんなんで」
 気怠けだるさをかもした柳田良二は、『事』の窓ガラスへ体を向けた。行く手をはばむ紙山を、やはりスネでザリザリと掻き分けながら数歩進み、その先の新聞山をザンザンと乱暴に避けていく。
 服部若菜は、頭上にハテナを二個三個と浮かべながら、ポカンとそれを眺めていた。
「おい」
「はい?」
 一分もしないうちに、柳田良二はそこから応接用の黒い本革の三人がけソファと、それと揃いの一人がけソファを二脚、掘り出した。三人がけの方はこちらを向いており、間に背の低いセンターテーブルを挟んでいる。一人がけの方は、まだ一脚分しか出ていないが、窓ガラスの方を向いて隙間無く並べられているように見える。
「ちょっとここ座ってろ」
 顎でくいっとそれらを指し、今度は来た道をきちんと滑らかに歩いてきた柳田良二。そのまま目を丸くしている服部若菜の右横をすり抜けると、アルミの扉に手をかけた。
「あの、どこ行くんですか?」
「喉渇いたんだよ。下で飲みもん買ってくっからそこで黙って待ってろ、いいな」
 柳田良二は背中で言い放ち、ガタンと扉をやや乱暴に閉めた。
 服部若菜は肩を落として、アルミの扉がほんの少しだけ揺れているのを眺めていた。

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