C-LOVERS

佑佳

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HOPE

3-1 CLOWN's performance

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 児童養護施設の周りの天気は晴れ間があり、タクシーを下りたYOSSY the CLOWNは肩で溜め息をついた。『OliccoDEoliccO®️』の薄い灰青ウェッジウッドブルー色のレンズに、児童養護施設の建物が眩しく反射する。
「ミスター ・YOSSY the CLOWNでいらっしゃいます?」
 タクシーを見送ったその入れ違いのタイミングで、黒い修道服の若い女性が一人、児童養護施設内から駆け出てきた。青い瞳が色深く清々しい。
「ええいかにも。僕があの世界的に有名なパフォーマー、YOSSY the CLOWNです」
 一三〇センチ高の鉄製の黒い門扉に手をかけて、目尻を優しく下げた修道服の彼女。肩で息をする彼女へYOSSY the CLOWNがニコリと微笑めば、キイーと金属音を高く響かせて門扉をそっと開けた。
「この度は、お招きいただきありがとうございます」
「こちらこそ。日本からの長旅でお疲れのところ、早速になってごめんなさいね」
「いえ。しっかりと機内で眠ってきましたから」
 冗談めかせば、彼女はフフフと修道服の黒を揺らした。
「さぁさ、みんなお待ちかねですのよ。ついてらしてください」
 鉄製の黒い門扉を抜け、草花が青々と茂る穏やかな園庭を二〇〇メートルほど進む。辺りには他に目立った建物がないので、陸の孤島のような印象を抱いたYOSSY the CLOWN。
わたくし、シスター・ローザと申します。ご案内役を務めさせていただきますわ。短い間でしょうが、ご質問があればお気軽にお呼び立てくださいませね」

 児童養護施設の扉は木製で、かなり厚みがある。シスター・ローザが上半身を使うようにして押し開けると、そのまま児童養護施設の職員室へ通された。
 施設職員であるシスター達にも挨拶をし、YOSSY the CLOWNは軽いマジックでその場をひと沸かせ。
 続いて、シスター・ローザと数名のシスター達に同行し、施設内の礼拝堂でお祈りをした。礼拝堂の天井は抜けるように高く、飾られたステンドグラスは荘厳そうごんで目映い。

「駆け足に進めてしまってごめんなさい。最終目的地の大広間へ向かいましょう」
「ええ」
「大広間は、日曜のミサの後に毎週ヤードセールの場として民間に開放したり、炊き出しやイベント事を行う場として活用しておりますの」
 シスター・ローザの説明を流し聞き、瞬く間にYOSSY the CLOWNの舞台用の顔を作る。
 大広間の扉がギギギギ、と重たく開くと、そこには養護施設の子ども達全員が集まっていた。
 ざわざわとした空気、年相応の無邪気さや活気、知らない大人の来訪へ肩を縮める姿まで見受けられる。
「みなさん、お静かに。世界でご活躍のミスター・YOSSY the CLOWNがお見えになりましたわよ」
 シスター・ローザの手を打つ音で、子どもたちはまばらなりにも静かになった。
 子どもは全員で二五名おり、下は乳児、上は一四才までいるという。
「やあ、初めまして。僕はYOSSY the CLOWNです。今日はシスターたちのお招きを受けて、地球の裏側から飛んできたよ!」
 YOSSY the CLOWNがそう声を張ると、一様に子どもたちがハテナを浮かべて固まった。その表情を、YOSSY the CLOWNは好機と捉えて、更ににんまりと笑みを濃くする。
 まとわりついていたはずの恐怖心は、それを機にボロボロと崩れて剥がれて。

 シスター・ローザが観客側に廻ると、YOSSY the CLOWNはまず胸元から大きな布を取り出した。ゆらり、ひらり、闘牛士のようにひるがえし、とあるタイミングでそれはビーチボール大のボールへと変化した。それをポン、と子どもたちへ放る。
 シスター・ローザが拍手をしたので、幼い年頃の子どもから順に手を打って返してきた。
 子どもたちへ放ったそれが返ってくると、今度はそれへ『玉乗り』をするYOSSY the CLOWN。『OliccoDEoliccO®️』のスーツジャケットの内背からジャグリング・クラブこん棒を取り出して見せて、三本、四本、五本と空中へ放っていく。ジャグリング交差の後に、トントントン、と縦にクラブを積み立てて、三本が重なると拍手を貰った。
 グラリ、バランスを崩したように大袈裟な転倒のパントマイム。しかし、積み上がったクラブは見事「崩れることなくそのままでした」、というショートストーリーで締める。
 新体操選手顔負けの前方倒立回転飛びハンドスプリングが一回、二回、三回目は捻りが加えられて。からの、側転、側転四分の一捻りロンダートを経て、バク宙で拍手を貰う。

 YOSSY the CLOWNが着用するスーツに関しては、彼の可動についてこられるように、『OliccoDEoliccO®️』が彼のアクロバットを見越して作成するようになった。それが、彼が当ブランドの広報キャラクターに抜擢された最大理由。

 華麗なターンの後の、小さなマジック。数多の花を袖から出して見せては、一人一人へとプレゼント。風船が苦手な子どもを数名除き、バルーンアートもこなした。その数名の子どもたちへは、切り絵を贈る。

 そうしてやがて距離が近づくと、子どもたちほぼ全員が、興味津々とYOSSY the CLOWNへ寄っていった。
 教えをねだる子どもたちへは、簡単で危険のないマジックを教えた。
 話をしたがる子どもたちへは、鼻を突き合わせるようにして話をした。
 絵を描いて感動や感謝を伝えに来る子もいたので、きちんとその絵を受け取り、丁寧に交流をもった。
 YOSSY the CLOWNが作り出したその一時間半という時間は、あまりにも深く、濃いものとなって、子どもたちの心の真ん中に感動という結晶の輝きを与えた。子どもたちが続々と晴れやかな表情になっていく様を見て、心の底から安堵に包まれる。

 やがて、子どもたちがポツリポツリと「サヨナラ」を言い、それぞれの部屋へと戻っていく姿を見送る時間がやってきた。
 出入口の傍で、一人一人へ手を振り別れるYOSSY the CLOWN。最後の一人を見送ってから、YOSSY the CLOWNはスックと背後を振り返った。
「さてと」
 それは、広間の隅から絶えず向けられていた鋭い視線。パフォーマンスを始める前から既にずっと、YOSSY the CLOWNを刺し続けている。
「その挑戦、受けてたちますか」
 YOSSY the CLOWNは、パフォーマンスではない微笑みをその端整な顔に貼り付けた。

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