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HOPE
3-4 colorless eyes
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♧
YOSSY the CLOWNは、公的と私的の切り替えを癖付けて永い。そうしなければ、自分自身が誰であるのかがわからなくなりそうで恐かったためだ。
公的時は、常ににこやかに、決して怒りを露にせず、至極丁寧に誰とでも分け隔てない。一人称だって、『僕』で徹している。
かたや私的時も八割方にこやかにしているため、公的時と全く変わらないように見えるが、腹黒さや計算高さなどといった、利己的な面が押し出されるようになる。一人称だって『俺』へと変わってしまうほど、かなり気を緩める。
そのような自分自身へ他者を踏み入らせることは、YOSSY the CLOWNは恥だと思って生きている。
私的な自分自身を知られてしまうことは恐い。
求められている『人間』ではないと思われてしまうのではと、永く恐がっている。
それもあり、彼は常時笑顔を貼り付けている節がある。「口角が勝手に上がってしまう」と、言ってしまえるかもしれない。
固執した考えに、永く捕らわれている道化師。
それが今、私的を開示したいと思える相手と巡り逢えた。
♧
「ねぇ、サミュエル」
YOSSY the CLOWNがたった一言、名前を呼んだだけ。それだけで、サミュエルはビクリと凍りついた。
初めてYOSSY the CLOWNに射竦められたと感じた。
それを気付かれまいと、サミュエルは顎を引き体を斜に構える。目を強引に合わせてくるYOSSY the CLOWNから仰け反りたい──サミュエルの葛藤が始まる。
「な、なんだよ」
「一緒に世界を周ろう」
「イヤだ」
「おお、即答」
苦笑いのYOSSY the CLOWNへ、サミュエルは押し負けまいと口を開く。
「ボクたちは二人でひとつだ。どちらかだけにするなんて、絶対に、有り得ない」
「なんだ。そんなことしないよ」
「そんなことってなん──」「『俺』が必要としてるのは、二人ともだ」
笑みを消す、YOSSY the CLOWN。真顔は出来ないんじゃなかったのかよ、とサミュエルは心の中で苦笑を漏らす。
「それ、本音かよ」
「もちろん」
サミュエルの右肩に顔を埋め続けている女児──エノーラを、YOSSY the CLOWNは静かに覗き込む。
「だって、キミら『も』双子だろ?」
「えっ」
「…………」
優しい声色。柔らかなタオルケットのような、無垢の心をまるくくるむ心地よさがある声。エノーラの震えがピタリと止まる。
サミュエルは、エノーラを更に隠すように、右腕でエノーラをそっと押しやった。
「先にシスター達から聞いてたのか」
「いや、僕は入所してる誰のことも聞いてない。キミたちの名前と年齢だって、五分前まで知らなかったよ」
「それなのによくわかったな。エノーラの顔、まだ大して見てないのに」
「わかるさ。キミが兄貴だってこともわかったよ。そんなところも、俺と同じだから」
YOSSY the CLOWNはようやく笑みを薄く戻した。
含みのある言い方に、サミュエルはその言葉を一言一句違わぬように記憶する。
「二人とも頭が良い。いろんな感覚も『優れている』。愛情深くて、互いの絆は堅い。何よりも、誰よりも」
「そうだろ?」とサミュエルの瞳を見据えるYOSSY the CLOWN。数秒の後に、サミュエルは重く口を開いた。
「そーだね。エノーラのIQ値はボクほどじゃないけど、平均的な五才児とは比べ物にならないってことには変わりはない」
チラリと背後を気にするサミュエル。
「大人はみんな、ボクらを『異常だ』って言うんだ。いつだって腫れ物に触るみたいにする。オドオドしたり、珍しがったり。……しまいに、気味悪がって。それであとは──」
その先を躊躇うサミュエル。しかし、背後のエノーラが小さく小さく、続きを紡いだ。
「──暴言と、暴力で、捩じ伏せる」
ハッとする、YOSSY the CLOWN。サミュエルはグッと唇を噛んで俯いた。
ガタガタと止まらない震えを刻むほど、大人から浴びせられる恐怖や嫌悪を、どれだけ味わわされてきたのだろう。
五才よりも以前──二人がもっとずっと幼い頃に、大人に、人間に、どうして落胆しなければいけなかったのだろう。
サミュエルの睨みのまなざし。
エノーラの震え。
それらから、深い悲しみや悔しさをYOSSY the CLOWNは改めて感じ取った。
「苦しかったな。随分と、『長い間』」
YOSSY the CLOWNは低く呟く。震えて堅く口を閉ざした二人へ、YOSSY the CLOWNは『OliccoDEoliccO®️』の薄い灰青色レンズのサングラスに右手を添えた。
「僕もね、『これ』を『異常だ』って、言われてきた子どもだったよ」
言いながら、そのサングラスを外すYOSSY the CLOWN。それはお気に入りの一品で、しかし『とあるコンプレックス隠し』で。風呂に入るギリギリになるまで外すこともないくらい、限界までかけていることが常であるそれを、顔から離す。
「こんなの、日本人にはまず居ないからさ」
閉じていた双眸が露になると、サミュエルもエノーラも息を呑んだ。
YOSSY the CLOWNの瞳の色は、澄みきったシルバーだった。白に近い銀──プラチナ色とでも言えようか。
まるで作り物の眼球のようだ。いやにつるりと見える。ガラス玉よりもガラス玉に似て見える。
「僕がいつもサングラスを外さないのは、すべて『この瞳の色を隠すため』なんだ。まぁ、このレンズの色が気に入ってるのもあるけど」
伏せた目元で、サングラスを撫でる。ほら、と二人へ、YOSSY the CLOWNはそのツルの部分を向けた。
「ここが太めのデザインなのが、特にいい。ここが細いと、横顔で目の色がバレちゃうからね」
「そんなに、その目が嫌い?」
細く訊ねるサミュエル。YOSSY the CLOWNの白銀の瞳がサミュエルを再び見つめる。
「好きになれない、が正解かな。これでかなり嫌な想いを、子どもの頃にしてきたからね」
「でも、えっと……」
サミュエルは、言葉を発せられなかった。
YOSSY the CLOWNを傷付けないで済むような、その瞳を表現する言葉が見当たらない。きっと何を言ったとしても、悪く取られてしまう気がしてならなかった。
もどかしい。歯痒い。サミュエルはそんな感情をエノーラ以外に初めて持つ。
どんな言葉なら、どんな表現なら、誤解なく彼に伝えられるだろう──。
「──きれいね」
「え」
隠れたままだったエノーラが、小さく消えそうな声で呟いた。
YOSSY the CLOWNは、公的と私的の切り替えを癖付けて永い。そうしなければ、自分自身が誰であるのかがわからなくなりそうで恐かったためだ。
公的時は、常ににこやかに、決して怒りを露にせず、至極丁寧に誰とでも分け隔てない。一人称だって、『僕』で徹している。
かたや私的時も八割方にこやかにしているため、公的時と全く変わらないように見えるが、腹黒さや計算高さなどといった、利己的な面が押し出されるようになる。一人称だって『俺』へと変わってしまうほど、かなり気を緩める。
そのような自分自身へ他者を踏み入らせることは、YOSSY the CLOWNは恥だと思って生きている。
私的な自分自身を知られてしまうことは恐い。
求められている『人間』ではないと思われてしまうのではと、永く恐がっている。
それもあり、彼は常時笑顔を貼り付けている節がある。「口角が勝手に上がってしまう」と、言ってしまえるかもしれない。
固執した考えに、永く捕らわれている道化師。
それが今、私的を開示したいと思える相手と巡り逢えた。
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「ねぇ、サミュエル」
YOSSY the CLOWNがたった一言、名前を呼んだだけ。それだけで、サミュエルはビクリと凍りついた。
初めてYOSSY the CLOWNに射竦められたと感じた。
それを気付かれまいと、サミュエルは顎を引き体を斜に構える。目を強引に合わせてくるYOSSY the CLOWNから仰け反りたい──サミュエルの葛藤が始まる。
「な、なんだよ」
「一緒に世界を周ろう」
「イヤだ」
「おお、即答」
苦笑いのYOSSY the CLOWNへ、サミュエルは押し負けまいと口を開く。
「ボクたちは二人でひとつだ。どちらかだけにするなんて、絶対に、有り得ない」
「なんだ。そんなことしないよ」
「そんなことってなん──」「『俺』が必要としてるのは、二人ともだ」
笑みを消す、YOSSY the CLOWN。真顔は出来ないんじゃなかったのかよ、とサミュエルは心の中で苦笑を漏らす。
「それ、本音かよ」
「もちろん」
サミュエルの右肩に顔を埋め続けている女児──エノーラを、YOSSY the CLOWNは静かに覗き込む。
「だって、キミら『も』双子だろ?」
「えっ」
「…………」
優しい声色。柔らかなタオルケットのような、無垢の心をまるくくるむ心地よさがある声。エノーラの震えがピタリと止まる。
サミュエルは、エノーラを更に隠すように、右腕でエノーラをそっと押しやった。
「先にシスター達から聞いてたのか」
「いや、僕は入所してる誰のことも聞いてない。キミたちの名前と年齢だって、五分前まで知らなかったよ」
「それなのによくわかったな。エノーラの顔、まだ大して見てないのに」
「わかるさ。キミが兄貴だってこともわかったよ。そんなところも、俺と同じだから」
YOSSY the CLOWNはようやく笑みを薄く戻した。
含みのある言い方に、サミュエルはその言葉を一言一句違わぬように記憶する。
「二人とも頭が良い。いろんな感覚も『優れている』。愛情深くて、互いの絆は堅い。何よりも、誰よりも」
「そうだろ?」とサミュエルの瞳を見据えるYOSSY the CLOWN。数秒の後に、サミュエルは重く口を開いた。
「そーだね。エノーラのIQ値はボクほどじゃないけど、平均的な五才児とは比べ物にならないってことには変わりはない」
チラリと背後を気にするサミュエル。
「大人はみんな、ボクらを『異常だ』って言うんだ。いつだって腫れ物に触るみたいにする。オドオドしたり、珍しがったり。……しまいに、気味悪がって。それであとは──」
その先を躊躇うサミュエル。しかし、背後のエノーラが小さく小さく、続きを紡いだ。
「──暴言と、暴力で、捩じ伏せる」
ハッとする、YOSSY the CLOWN。サミュエルはグッと唇を噛んで俯いた。
ガタガタと止まらない震えを刻むほど、大人から浴びせられる恐怖や嫌悪を、どれだけ味わわされてきたのだろう。
五才よりも以前──二人がもっとずっと幼い頃に、大人に、人間に、どうして落胆しなければいけなかったのだろう。
サミュエルの睨みのまなざし。
エノーラの震え。
それらから、深い悲しみや悔しさをYOSSY the CLOWNは改めて感じ取った。
「苦しかったな。随分と、『長い間』」
YOSSY the CLOWNは低く呟く。震えて堅く口を閉ざした二人へ、YOSSY the CLOWNは『OliccoDEoliccO®️』の薄い灰青色レンズのサングラスに右手を添えた。
「僕もね、『これ』を『異常だ』って、言われてきた子どもだったよ」
言いながら、そのサングラスを外すYOSSY the CLOWN。それはお気に入りの一品で、しかし『とあるコンプレックス隠し』で。風呂に入るギリギリになるまで外すこともないくらい、限界までかけていることが常であるそれを、顔から離す。
「こんなの、日本人にはまず居ないからさ」
閉じていた双眸が露になると、サミュエルもエノーラも息を呑んだ。
YOSSY the CLOWNの瞳の色は、澄みきったシルバーだった。白に近い銀──プラチナ色とでも言えようか。
まるで作り物の眼球のようだ。いやにつるりと見える。ガラス玉よりもガラス玉に似て見える。
「僕がいつもサングラスを外さないのは、すべて『この瞳の色を隠すため』なんだ。まぁ、このレンズの色が気に入ってるのもあるけど」
伏せた目元で、サングラスを撫でる。ほら、と二人へ、YOSSY the CLOWNはそのツルの部分を向けた。
「ここが太めのデザインなのが、特にいい。ここが細いと、横顔で目の色がバレちゃうからね」
「そんなに、その目が嫌い?」
細く訊ねるサミュエル。YOSSY the CLOWNの白銀の瞳がサミュエルを再び見つめる。
「好きになれない、が正解かな。これでかなり嫌な想いを、子どもの頃にしてきたからね」
「でも、えっと……」
サミュエルは、言葉を発せられなかった。
YOSSY the CLOWNを傷付けないで済むような、その瞳を表現する言葉が見当たらない。きっと何を言ったとしても、悪く取られてしまう気がしてならなかった。
もどかしい。歯痒い。サミュエルはそんな感情をエノーラ以外に初めて持つ。
どんな言葉なら、どんな表現なら、誤解なく彼に伝えられるだろう──。
「──きれいね」
「え」
隠れたままだったエノーラが、小さく消えそうな声で呟いた。
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