C-LOVERS

佑佳

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HOPE

4-3 coin fills hunger

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 柳田探偵事務所内へと戻ってきた、良二と若菜。良二は応接用のセンターテーブルヘ、受け取ったビニル袋を静かに置いた。
 これの中身は、見ずともわかる。柳田探偵事務所を開業してまもない頃から、『花屋・マドンナリリー 二号店』の有澤店長との『取引内容』なのだから。
「柳田さん、それ何なんですか? それもやたらと軽かったですけど」
 中身を知らなかったらしい若菜を振り返る良二。定位置と化した三人がけソファへどすんと腰を下ろすと、早速タバコを胸元から取り出した。
「花だ」
「花?」
 見てみろとでも言うように、良二は若菜へ顎でそれを指す。しかし、その意味の読み取りに手間取った若菜は、四〇秒経過してからやっと閃いたような表情をして、ようやく中身を改めた。
「あ、これ柳田さんがこの前そこでやってたやつの」
 袋の中身は、まるで『首だけ切っちゃった』というような花が数個入れられていた。カーネーション、ミニバラ、ガーベラ、トルコキキョウ。どれもこれもが五分咲き程度。しかし、花束などをはじめ、売り物には出来ない長さのものばかり。
「なるほど、隣から貰ってたんですね」
「俺のマジック用にっつってな。探偵事務所ここの宣伝用のポケットティッシュ寄付する代わりなんだと」
「なんか、柳田さんばっか得してる気がする……」
 若菜の独り言を無視し、良二はそっとひとつ、トルコキキョウを左手でつまみ上げた。先端が深い紫色に滲んだような、白い花弁が柔らかな印象。
 それへ、良二はフゥッと息を吹きかける。
「うぇ?!」
 まばたきはしなかった。それにも関わらず、良二の左手の先にあったはずのトルコキキョウが無くなっている。
 落ちたわけではない。どこかへ『消した』のだ。お得意の、マジックで。
 良二は、目を白黒させている若菜へ両腕を広げて見せて、「ほらな」と肩を上下させた。トルコキキョウはみる影もない。若菜は眉間を狭めた。
「そんなの、盗もうにも盗めませんよ! トリック全然わかんないですもんっ」
「ま、そのうちわかるようになんじゃねぇの」
 胸元からマッチ箱を取り出し、一本を擦る。タバコへ近付けチリチリとさせ、白い煙が中空にまるく浮かんだ。
「そんなもんですかねぇ」
 いざ目の当たりにしてわかった。呆気なくかつ自然にやられてしまうと、どこで何をどう動かしたのかがひとつもわからない。
 動体視力うんぬんだと言うのなら、そんなもの無いに等しい。
 直感あれそれだと挙げられるのなら、そんなものどこで身に付けられるのやら。
 良二のマジックを見るのは二回目だった。出来る気がしない、というのが、現状の素直な感想。
 若菜は深く溜め息をついた。

 ぐきゅるぅぅ。

「あ」
 これは、腹の虫の音。若菜の胃がスカスカだと鳴いている。若菜は眉間を寄せ、耳やら頬やらを染めて、腹をさすった。
「や、柳田さんっ、今日の分ください」
 掌を向ける若菜。
「昨日までの残りは」
「え? もうありませんけど」
「はあ?」
 わざと大きく良二は呆れて見せる。
「テメーよ。なんで渡した分をきっちり一日で遣いきんだよ」
「え」
「ちっと残して、次の日の分にプラスしろや。例えば一〇〇〇円が一二〇〇円になると、買えるモン違ぇだろ」
 その提案に、若菜は大袈裟なほどに「ああ!」と驚嘆。

 若菜は、本当に無一文だった。
 初日、その日の食事にも困ると言うので、良二が財布を見せるよう要求。若菜が渋々開き見せた財布はボロボロ。そしておまけ程度に、合計で四二円がもの悲しくその中に転がされていた。
 見かねた良二は、給料として予定している中から、とりあえず毎日一〇〇〇円ずつを手渡すことにした模様で。

 赤茶けた天然パーマ気味の髪をガスガスと掻きながら、良二はやる気のない目を若菜へ向ける。
「テメー、なんでそんなに金の扱い方わかんねんだよ」
「いやあ。あると早めに無くした方がいいかな、と思っちゃったりして、つい」
「ついって何だ」
「癖ですね」
「ただちに治せ」
 フーッと長い白煙を吐き出す良二。
「例えば七割遣って三割は次回まわしにすんだよ。そうやって、なんか困ったときに遣える分に貯めとくんだ。それが金の扱い方だ」
 ほえー、とまぬけな声で頷く若菜。
「ほら」
 良二に向けられたそれは、一〇〇〇円札。若菜はつり目をルンと喜の色に輝かせて、警戒心無く手を伸ばす。
「わっ!」
 叫んだ声は、良二から発せられたもの。若菜はビグウッと肩を縮め飛び上がる。
「ぬわっ、なんですかいきなり?!」
 驚いたのも束の間。
 良二の手先からちょんと出ていたはずの一〇〇〇円札が無い。代わりにそこには、さっき無くなったはずのトルコキキョウ。
「あれ?! 花になってる!」
「こーいうのもできる」
 ズイ、と向けられるトルコキキョウ。受け取れということらしく、なかなか腕を下ろさない良二から若菜は渋々つまみ上げた。
「ホントに柳田さんて、レベル高いんですね」
「こんなんで満足してるようじゃあ、まだまだまだまだまだまだだな」
「どんだけまだまだ言うんですか」
「おら、五〇〇円」
「ちょっと。一〇〇〇円だって話だったじゃないですか」
「ウルセェ、無駄遣いする奴にゃ昼飯代なんざ半分で充分だっつの」
「じゃあ残りは夕飯代ですか?」
「そーだな。……つーか、なんで俺様がテメーの金遣いまで管理しねぇとなんねんだよクソ」
「じゃ、しなくていいので今日の分一気にください」
「ウルセェ、テメーが金の扱い方慣れるまでこうする」
「ええーっ?!」
「金カツカツで食うもんなくて掃除出来ねぇって言われちゃ困るんだよっ」
「もーっ、なんなんですか。それが本音ですかっ」
「あーあーそーだそーだ、わかったら早く飯食ってこい。一四時ンなったらファイリングの続きやんぞ」
「んまったく、誰のためだと思ってんですかっ」
「へっ。ワリーが俺様は雇用主で大家で管理人なんでね」
「あーもう! なんて人のとこに来ちゃったんだろ私!」

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