C-LOVERS

佑佳

文字の大きさ
37 / 126
LUCK

1-3 came suddenly

しおりを挟む
「僕らはココアが欲しいなぁ」
 アルミの扉がギイーと音をたてて開くと、そこに立っていた人物が上機嫌をかもしながら、そんな風に暢気ノンキに発声した。
「はっ?!」
 固まる若菜。
 なぜなら、眼前にはニッコニッコと満面の笑みのYOSSY the CLOWNが立っていたわけで。
「よっよ、YOSSYさんっ?!」
Bonjourやあ! Signorinaシニョリーナ

 光を放つような、極上の爽やかスマイル。
 身に纏うは、『OliccoDEoliccO®️』の艶やかな濃紺色スーツ。
 ほんのりと薄紅色をした、シワのないYシャツ。
 その中央に正しく締められた、淡いエメラルドグリーンの艶やかなネクタイ。
 ゴールドに、小さなアメジストがはめられたタイピンが、わずかにキラリと光る。

「だークソ! 撒いたと思ったのに!」
 ソファにふんぞり返っていたはずの良二は、ぎゅうーっと眉を寄せ、ガシガシと後頭部を掻き、アルミの灰皿にタバコをぐりぐりと押し付けてから立ち上がった。
「フッフッフーん、残念でしたァ。撒かせたフリ、大成功!」
「てンめぇ、そもそも日本に何しに来やがった。つか、ここにそれ以上入ってくんな!」
 足を過剰ににダンダンと踏み鳴らし、あっという間に若菜を押し退け、扉ギリギリに立ち塞がる。

 YOSSY the CLOWNと、柳田良二。
 二人が鼻を付き合わせるようにして、事務所の開けられた扉の境界線を挟み、向かい合う。
 一八二センチの男が二人並ぶだけで、まるでツインタワーのように見えるので迫力満点。若菜は密やかに「ふおお」と漏らした。

「相変わらず冷たいなぁ、良二は。せーっかく会いに来たってのに」
「テメーがどこに居ようが俺にゃ関係ねぇ話だが、ここに来ていいとは一言も言ってねぇ!」
「あっれぇー? いいのかなぁー? 『僕』は依頼人だよ?」
「テメェの依頼なんざ引き受けねぇ」
「えーっ、差別だなぁーそれ。ちゃんと報酬カネも出すのに」
「ウルセェ。世界中をチャラチャラうろうろしてる奴に俺の行動をごちゃごちゃ言われたかねぇ」
「別にチャラチャラうろうろしてるわけじゃないってばァ」
「ハン! どーだかなっ」
「それはそうと──」
 ガシリ。良二の肩へ手を置くYOSSY the CLOWN。立ち塞がる良二を、ぐい、と一気にその場から引き剥がした。YOSSY the CLOWNの細身のどこにそんな力が、と若菜は目を丸くする。
「元気そうだね、Signorina。良二に追い出されてなくて何より」
 向けられたYOSSY the CLOWNの笑顔は、棒立ちになったままの若菜に刺さっていた。その視線にビシィと背筋が伸びる若菜。
「は、はひっ! おひしゃ──お久し振りですっ」
 噛んだ。ワンテンポ遅れてやってきた羞恥で、若菜の顔から火。反比例して、場は冷えきっていく。
 渋面と赤面の入り交じった顔面になる若菜。
「そうそう。良二を唸らせることは出来た?」
 痛いところを何の迷いもなく突き刺してくるYOSSY the CLOWN。気付かれまいと、キョロキョロする若菜。
「あっ、いやあー、それが──」「全っっっ然だ」
 仕返しにと言わんばかりのスピードで、棘をまとって割り込む良二。
「むわぁーだまだ、全っっ然送り返せそうにねぇから。安心してとっとと帰れ」
「ちょっと! 言い方酷いですよ柳田さんっ」
「まあ近いうちに、絶対ずぇったいに突っ返してやるけど?!」
「フフーん? keep on tryingがんばってー
 若菜は良二の背中をギリギリと睨むも、一向に振り返る様子はない。YOSSY the CLOWNへ集中しているような感触に、若菜は観客オブザーバーになろうとそっと気配を沈めた。
「良二が事務所に入れてくれないなら、とりあえずここでいいや。あのね、紹介したい人がいるんだよ」
「あ?」
「さーあさぁ、come in thereこっちおいで
 YOSSY the CLOWNの足下左右から、小さく幼い顔が半分ずつ覗いた。

 その身長は一〇〇センチ程度。YOSSY the CLOWNの膝や太ももの裏から、控えめにそれぞれ顔を出している。
 透けるような白い肌。
 もっちりと柔らかそうな血色のいい頬や唇。
 引かれた顎はぽよんと幼さが見てとれる。
 そんな幼い彼らのブロンド色の髪の毛は、まるで絹糸のような柔さと滑らかさが窺える。陽の入らない探偵事務所にもかかわらず、蛍光灯の白色の明かりをわずかにキラリチラリと跳ね返す。
 灰色がかった深緑色の瞳は、まるで大切にしまってあった宝石粒かのようで。

「こっちがサムでこっちがエニー。五才の双子だよ」
「ふ、双子……」
 ボソリ、良二はそう呟いて息を呑んだ。その背後で、頭にハテナを浮かべている若菜。
「二人は、『俺』の子どもたち」
「子ど──ああん?! 『子ども』だァ?!」
 声を裏返し驚嘆する良二。その様を見て、びく、と肩を縮めたエニーは、YOSSY the CLOWNの後ろに隠れてしまった。
「テメ、いつ……っつーか母親はどこの誰だっ」
「待ってよ、俺まだ未婚だって。この前電話でイギリス行くっつったろ? 二週間くらい前だったっけ」
「あ? あぁ」
「その時に出逢って、養子にしてきたんだよ」
「よ、『よおし』って……チッ。いろいろ順番とかもおかしいだろ、何考えてんだマジで?!」
 憤慨した良二の追求に、YOSSY the CLOWNはその仮面を脱ぎ、善一としてそっと優しく微笑んだ。そのまま双子の目線位置になるようしゃがみ、双子の肩をそれぞれ抱える。
「だって。あのまま施設にいたら、二人が壊れてしまうと思って」
「そんなこと、テメーが養子に取んなきゃなんねぇ理由にはなんねーだろ」
「二人には世界で輝く素質がある。一緒に世界を廻って見せて、可能性を広げさせたいんだ」
「あんなぁ……コイツらは犬猫じゃあねんだぞっ」
「当然。ちゃんと合意のもと引き取ったし」
「合意ってなんだ。誰との合意だ」
「もちろん二人さ」
「あ?! まだ五才なんだろ?! わかるかよ」
「二人は賢い。特別なんだ。それを妬まれて、まだ五年しか生きてないのにツラい想いをしてきた」
「…………」
 押し黙る良二。その内側の古傷が傷んだためだ。

 良二から目線を外さず、薄い唇で弧を描き続ける善一。
 善一を鋭く睨みつつ、口をへの字に曲げ言葉を探る良二。

「きっと良二も、二人を好きになるさ」
「好みどうこうなんて問題にしてねぇ」
「『俺』の事をいつも理解してくれる。深く。だから俺には、二人が必要だと思った」
「ンだとォ?」
「二人も家族になったんだ、だからりょ──」「黙れっ」
 善一から、笑みが消える。良二の一喝に、事務所は静まり返った。
「テメーはいつだって勝手だ。いつだってそうだから、俺は腹立ってンだろ」
「勝手、って……」
「ひとつひとつケリつけてか──」「違うよ」
 その割り込んだ発声は、善一ではない。まして若菜でもない。
「ヨッシーは、勝手じゃないよ」
 善一の右腕をするりと抜け、二歩前へと歩み出でたのは、サムだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜

上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■ おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。 母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。 今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。 そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。 母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。 とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください! ※フィクションです。 ※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。 皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです! 今後も精進してまいります!

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

処理中です...