C-LOVERS

佑佳

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LOVE

2-2 cloudy than sunny

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Hey Grandmaグランマ? This is ENOLAエノーラです
『エノーラ?! おぉ、エノーラ、あなたなのですね?!』
 右隣のボク──サムにまで漏れ聴こえるほどの、施設長グランマの感嘆。
 そりゃそうだろう。
 エニーは大人の女の人に対して、根深い嫌悪感とトラウマを抱えている。施設長グランマも、そのくくりの一人だ。まさか言葉を再び交わせるとは、思ってなかったに違いない。ボクだって、まして目の前のヨッシーだって、予測していなかったはずだ。
 エニーはスマートフォンを耳から少しだけ離すと、音声をスピーカーにして、そっとダイニングテーブルに置いた。
『電話に出てくれて感謝します、エノーラ』
「うん」
『そちらでも、変わりありませんか』
「ううん、変わった。大きく、変わった」
 視線をエニーに突き刺すボク。ドキッとした。何を言いたいんだろう、エニーは。
「もとの家に居たときよりも、そこに居たときよりも、ずっと幸せ。毎日毎日、笑えるから、アタシ」
 ヨッシーの、ヒュンと息を呑む音が聴こえた。
「ヨッシーの傍は、色の付いた、世界なの。離れたくない。こんな風に、思える場所は初めて。そのくらい、幸せに変わった」
 エニーは顔を上げない。本音を言うのは恥ずかしくて、照れくさくて、でもちょっとこっそり聴いてもらいたいのは、とってもよくわかる。
「アタシ、もっと変わる。幸せに変わるし、世界も変える。きっともっと、キラキラの世界に、アタシたちが変えるの」
「エニー……」
 ボクにも響いたエニーの言葉は、ヨッシーの仮面を簡単に剥ぐ。
「変わらないのは、元気なことだけ。寝込むこと、全然ないから」
『よかった、充分ですわ』
「じゃ、ヨッシーに、戻します」
 スピーカーがオフになる。ヨッシーへ向けられる、スマートフォン。
「あ、あぁ、うん。はい、代わりました。ええ」
 エニーと視線がかち合うボク。ボクはテーブルの下で、そっとエニーの右手を握った。
「すごい勇気だった、エニー」
「アタシは、サムに触発されただけ」
「ボクはいつも、エニーのことを守りたいだけだよ」
「サムに、盾になってもらうばっかりは、イヤ」
「盾にくらいなるよ。ボクはエニーの兄貴だもん」
「アタシだって、サムの隣に並びたいもん」
 ハの字眉のエニー。仕方ないなぁ、我が妹は実に頑固で。
「ありがと。エニーが前を向けるのは、ボクも嬉しいよ」
 満足気に笑むエニーは、やっぱり少し大人っぽくなった。
「──アハハ、そうですね。僕も先程の不意打ちには、正直驚きました」
 ヨッシーの電話への声が真っ直ぐに耳に入った。揃ってヨッシーへ顔を向けるボクとエニー。
「まぁしかし、僕にとっても彼らは──」
 視線に気が付いたヨッシーは、ボクとエニーに真っ直ぐ向き直って、いつもみたいな優しい笑みを深めた。
「サミュエルとエノーラは、あの日あの時から、僕の大切な一部なんです。心の支えであり、家族であり、我が身よりも尊く、切り離すことはない」
 それら言葉は、確かに施設長グランマへ説明していた言葉なんだけど……違う。

 今までのは、ボクとエニーへ向けた言葉だ。

「だからご安心ください、施設長グランマ。僕は父親として、二人の望むことを一生かけて行っていきます。そこは初めよりも、確固たる約束ができますね」
 不適に笑うヨッシーは、ボクたちの涙腺の蛇口を簡単に捻った。
「サミュエルとエノーラが安心できる場所を、僕が毎日整え、提示し続けていきます。それが、父親である僕の、生涯をもって成すべき事だと思っています」
 なに、それ。ズルいよヨッシー。
 ボクらにとっても、不意打ちだ。
「ヨッシー……」
「……ひぐっ」

 無償の愛っていうのは、聖書の中だけの話かと思ってた。
 本当にあるんだと知ることができたのは、ヨッシーがそれを毎日毎日、止まることなくボクとエニーへ示し続けてくれるからだ。

 やがて二言、三言、施設長グランマと軽い挨拶を交わし頷いたヨッシーは、まもなく電話を切った。
「やあ、驚いた。あの施設は本当に突然電話をかけてくるんだね」
 椅子を引き、そこへ腰かけたヨッシー。肩を小さくすくめて、きゅんと口角を上げる。
「どうしたの二人とも、そんな顔して」
 反対に、ボクはポンと椅子を降りる。頭を撫でて抱き締めてもらいたいと思っていたんだけど、ボクからヨッシーへそうしたくなったから。
「ボクたちばっかりが、ヨッシーのこと失くしたくないって、思ってたのに」
「アタシたちばっかり、幸せにしてもらっててね、ヨッシーがどう思ってたかなんて、知らなくって、わかんなくって」
 ボクの後に続いて、椅子を降りるエニー。胸の前でぎゅ、と握った手を、カタカタ小さく震わせている。
 椅子から降りたヨッシー。膝を折って、目線を合わせてくれた。たまらなくなって、それぞれにヨッシーの胸元へ静かに飛び込んでいく。
「ヨッシーもボクたちが大切なの? ホントに? 『普通と違うから』じゃなくて?」
 ボクは言葉を日本語に換えて、確かめる。
「普段から思ってることを言ったまでだよ」
 いい匂いがする。優しい匂い。胸の浅いところから深いところまでをジワジワと揺らされるみたいな、それでたまにわんわん泣いて、嗅ぎながら眠ってしまいたくなるような。
「二人は俺の宝物。もし誰かが『譲ってください』って言っても、どんな大金と引き換えだろうとも、絶対に誰にも渡さないよ」
「もう、ヨッシー。ヒトをモノみたいに言ったらダメ」
 ぷうと頬を膨らませたエニーが、赤い目元でヨッシーを見上げた。
「フフ、はぁい。ゴメンナサイ」
 楽しそうなヨッシー。やがてエニーもフフ、と笑んで。
 抱きついていた手を、そっと離すボクとエニー。
「さっきの電話でね、施設長グランマから提案があったんだ」
「提案?」
「なあに?」
「『キミたちの気が向いたら、いつか施設へ公演ステージをやりに来ないか』──だって」
「ボ、ボクらが?!」
 顔を見合わせるボクとエニー。目を真ん丸に見開いて、驚いて。「そうだよ」と挟まれる、ヨッシーの相槌。
「施設出身の二人がやるから意味があるんだ。そこに残っている子どもたちやシスターたちに、輝く姿を見せても良いと思えたら、『キミたちに』是非来てほしいんだって」
 どうかな、と首を傾ぐヨッシー。
「サムもエニーも、大きな壁トラウマをひとつ乗り越えられたように、俺には見えたけど。まぁ、すぐに決めなくたって問題はないんだけどさ」
「やろう、サム」
「え、エニー?」
「もっと練習して、パフォーマンス種類バリエーション増やして、蜜葉の衣装着て、やるの!」
 あ、エニー、キラキラしてる。ボクと同じ灰色がかった深緑色の瞳の奥が、楽しそうにきらめいてる。
 エニーの変化に嬉しくなって、ボクはにんまりと笑んでみる。
「うん、そうだね。ボクたちにもう少し、パフォーマンス的にも気持ち的にも余裕ができたら──」
「──イギリスに凱旋帰国、しようね」

 二度と帰ってやるもんか──生まれ育った国のことを、二ヶ月前まではそんな風に思っていたんだ。
 あの国のすべてが憎くて、苦痛で、解き放たれたくて。

 ヨッシーが変えてくれたんだ。ボクたちの狭い世界を壊して、それだけじゃないことを教えてくれたんだ。
 考えが変わって、そしたら可能性さえ広がって、ポジティブな夢まで見られるようになった、ボクとエニー。

「おめでとう、二人とも」
 ヨッシーは静かにそう言って、もう一度ボクとエニーを強く強く、優しく抱き締めてくれたんだ。

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