C-LOVERS

佑佳

文字の大きさ
111 / 126
LOVE

4-3 can you look over to me

しおりを挟む
 一二月の枝依中央ターミナル駅ショッピングビルは、セール期間にあたる。ビル内外のどこもかしこも、それを告げる極彩色のポスターが、大小各地点に下げられていた。
「視界全部が、色鮮やかで、学びを得ますね」
 そんな広告媒体からすらも、蜜葉の創作のアンテナは様々を常に受信している。声を弾ませ、目を輝かせ、口角が上がりっぱなしの表情が続く。
「クリスマスも近いしね。自然と煌びやかなものが多くなる時季だ」
 三階から順番にひとつずつ階を上がりながら、のんびりだらだらと『見て廻る』二人。蜜葉がどこかの店に寄りたいとは一切言わないので、言葉どおり本当に『ブラブラする』が成ってしまっている。
 エスコートがしたくて悶々とする善一は、五階の帽子屋に蜜葉を引き込んだ。何が欲しいわけでもなかったものの、自ら提案したことだが、目的不明に練り歩くのは善一の性分に最も合わない。
「わあ、柳田さんっ。これ見てください!」
 入店から二分もしないうちに、感嘆の声を上げた蜜葉。指していたのは、シンプルなキャスケット。
「うん? キャスケット欲しかった?」
「わたしじゃなくて、サムくんに似合いそうじゃ、ないですか?」
「ふんふん」
 アップルグリーンの爽やかな色味は、確かに彼に似合いそうだと納得をする。
「クリスマスに、わたしからプレゼント、してもいいかなぁ。も、もちろんエニーちゃんにも、なにか贈ります!」
「うん、絶対に喜ぶよ、二人とも」
 二人へ向ける優しさが嬉しい反面、自らに未だ向いていない悔しさで、笑顔がどんどんぎこちなくなる。
 「買ってきていいですか」と言う蜜葉を引き留めて、支払いは大人の自分がと名乗り出たものの、頑なに遠慮されてしまった。冷静に考えると、贈り物なのだからという理由なのは理解できるのに、どうも思考が上手く回っていない。
 勘違いと幼い嫉妬心が絡まって、善一の公的オフィシャルさは分刻みに無くなっていく。
「はあ、お待たせしました。ありがとうございます」
「ううん。次どこか決めてる?」
「えっと、そうですね。エニちゃんになにか、かわいいものを、探したいです」
「フフ、ざっくりだね」
 喉まで出かかっている「俺には?」という質問をこらえること、約一〇分。溜め息のような深呼吸で逃し、『我慢』の二文字で蓋をする。
「じゃあはす向かいのあの店、行ってみようか」
「はいっ」

 『親以外の誰か』と『買い物をする』などという単純な欲求を遂行している事実に、かなり浮き足立っている蜜葉。
 同じ年頃の、それも女子高生ならば簡単に叶えられるようなことですら、善一と出逢う前の蜜葉ならば夢のままで終わっていた。そんな事象なだけに、この興奮はなかなか醒めない。『彼』と並び歩き、目についた物を指し、談笑し、たまに目と目が合うなど、舞い上がらないわけもなく。

「柳田さん。マニキュアとか、ネイルシールとか、禁止してたりしますか?」
「へ? 禁止? してないしてない」
「わあ、よかったです! じゃあこれ、贈らせていただいてもいいですか?」
 提示されたのは、小瓶に詰められた鮮やかな色味のマニキュアが三本。一人の父親としては、思い付きもしなかった品物アイテムで、なるほどと真顔になる。
「やっぱり女の子の欲しいものは、女の子が一番よくわかるよなぁ」
「そう、ですか?」
「俺思い付かなかったもん」
 柔く笑むと、まるで鏡映しミラーリングしたかのように、へにゃりと照れ笑いが返ってきた。
「ありがとう。二人に贈り物を考えてくれて」
「いえ。わたしもお二人から、たくさん戴きましたから」
「たくさん?」
「はい。言葉に出来ないような、気持ちをたくさん、です」
 翻る制服の端。嬉々としてレジへ向かう蜜葉の明るくなった笑顔が、善一にはほんのりと痛かった。


        ♧


 深く沈むような大型クッション様のソファに、ウッドテイストのローテーブル。暖色灯のペンダントライトがまるい空気を作り出すここは、それなりに雰囲気がいい。
「憧れてました。こういうところで、お茶するの」
「あはは。そういうのひとつずつやっていくのが、今日の目的だからね?」
「そっ、そうでした!」
 彼女がエニーへのマニキュアを購入した後、七階の小さなカフェで小休止を提案した俺──柳田善一。うきうきと頬を染めた彼女は、ホットロイヤルミルクティで暖まっている。
「まだ行ってみたいとこあったら、遠慮しないで言ってね」
「はいっ」
 今回は人目もあることから、自宅に招いたときとは違って、彼女の肩へ手を回したりはしていない。近すぎず遠すぎずの絶妙な距離を保ちつつ、俺は彼女の右隣に大人しく背を埋めている。
「この前電話したときの『詰め込み作業』は、上手くいった?」
「はい。お陰さまで、八割は取れました」
「なんの小テストだったの?」
「世界史です。ただ覚えるのって、なんだか苦手で。だからいつも詰め込みで、なんとかしてるというか。ホントはダメなんでしょうけど」
「あはは、いいんじゃない? この前も言ったけど、何事もいろんな方法を試してみたらいいと思うんだ。自分に合ったやり方って、いろんなパターンを試したことがないと見つけられないよね」
 手にしていたホットココアを、わずかに口に含む。
「進路とか将来も、思い描く方へ向かうのはあんまり簡単じゃないことが多いかもしれない。自分だけのやり方で遅かれ早かれ行くとして、その都度現れる障害物をどう処理していくのかが、『自分なりの方法』なんだと僕は思ってるよ」
 自分なりの方法、と彼女が小さくなぞる。まばたきの度に視線を下げ、徐々にロイヤルミルクティのカップを見つめていく。
「あの、この前から両親と、えと、話を詰めていて、ちゃんと決めつつあることが、あるんですけれど」
「うん?」
「わたし……わたしこの前、ちゃんと進路を、決めたんです」
 おお、と驚嘆きょうたんを漏らした俺。
「いやあ、本当にものすごい進展具合だね」
「い、いえ。進学準備とか、しなきゃいけなくなっちゃうので、早めに、と急かされていたから」
 視線を逸らしたままの彼女のこの横顔、なんだか固いような気がする。ロイヤルミルクティを含んで、かすかに深呼吸をして。
「で、そのことで、あの、きちんとお話ししておきたいことと、正直なご意見、戴きたいんです。前と同じく、『忖度なし』っていう」
 ぐりんとこっちを向き直ったまなざしが、さっきとは一変して不安に満ちていた。反射的にギクリとしてしまう俺。
「あぁ、最初にデザインノート見せてもらったときに言ったやつ?」
「は、はい。まぁ、進路はわたしの決めたこと、なんですが、どうしても柳田さんに、その道のりについて、ご意見戴きたいんです」
「フフ、では仰せのままに。立派なことは何も言えないと思うけど、ご指名とあらば喜び勇んでご尽力いたしますよ、Signorina」
 オフィシャルの感じで返答してみたけど、緊張している様子の彼女はそれどころじゃない。言葉の合間に、かすかに唇が震えているのがその証拠。
「まずわたし、終わらせなきゃいけないことが、あるんです」
「終わらせなきゃいけないこと?」
「はい」
 首肯の続きを、言い出しにくそうにする彼女。促してやろうかなと思って、「なんだろう」と柔く静かに問う。
「結論から、言うと」
「うん」
「まず始めに、このまま、お二人の専属デザイナーを続けていくことを、終わらせなきゃ、と、思ってます」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜

上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■ おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。 母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。 今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。 そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。 母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。 とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください! ※フィクションです。 ※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。 皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです! 今後も精進してまいります!

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

処理中です...