C-LOVERS

佑佳

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LOVE

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 二の句が継げず、「どういう……」とかすれた声を出してしまった俺──柳田善一。咳払いを小さく挟み、無理矢理に公的オフィシャルの顔を引っ張ってくる。
「えっと、よかったら詳しく話聞かせてくれる?」
 このに対しては、万事憶測で進めてはいけない。ここは一旦冷静に、ひとつひとつ訊ねた方が良さそうだな。
 姿勢を正した俺は、首肯が返ってきた彼女へ耳を傾ける。
「実は、両親はわたしの夢を、ひととおり聞いてはくれましたが、認めてくれたわけでは、ないんです」
「そうか……うん。それで?」
「かといって、反対されているわけでも、なくて」
 「ん?」と眉間が寄って、思考が一時停止フリーズ
「わたしの両親も、サムくんエニちゃんと、同じなんです。『中途半端な気持ちで、踏み込むんじゃない』と。そう言いたいんだと、だんだんわかってきて」
 そういうことか、とようやく再始動リブート。なんとなく手持ち無沙汰で、手にしていたホットココアを含む。
「わたしが、口でどれだけ『本気だ』と言っても、『応援する』だなんて言ってはくれない、両親です。真面目に取り組み続ける姿勢が、要ると。たとえ失敗しても、泣きついたりしない……簡単に諦めるような気持ちでないことを、証明していかなければいけない、と、言われました」
「うん、なるほど」
 彼女が言われたことは、よくわかる。俺もそれに賛同するし、そういう考えだし。素直に手放しで喜んでやるのが上手くないご両親なんだろうな、ってこともよくわかる。
 真正面遠くの大きな窓に、彼女の視線が向く。ターミナル駅周辺の景色をぼんやりと眺める彼女の横顔に、感覚的な成長が見えてしまったりして。
「なので、ちゃんと始めから、デザインを学ぼうと思うんです」
「ちゃんと、始めから?」
「はい。柳田さんとお二人が、わたしのデザインを、引き続き望んでくださるのであれば、もうこれ以上は、趣味では続けられないと思ったんです」
 そろりそろりと視線が戻ってくる。
「お二人へは、ただの趣味ではないデザインを、していきたい。そのためには、学問として習得するところから、わたしは始めなくちゃなんです。せっかくゴールにいるけど、スタートラインまで戻って、リトライしたいというか」
 この双眸を見ているときは、公的オフィシャルの自分で居続けるのが苦しいと思うようになってきたのは、なんでだ。
「柳田さんは、わたしの『今の』作品を気に入ってくださって、形にする経験をさせてくれて。あれは、わたしが将来を決める、大きなきっかけになったんです」
 そんなに言うほど、影響があっただなんて。なんだか、自分で自分の首を絞めたんじゃないだろうかと、後悔に近い気持ちがじわり。
「とっても感謝してて、わたし。だから、『たまたま気に入ったデザインが出来る人』、ではなくて、もっとしっかりしたものに、なりたいと思ったんです」
「うん」
「なので、お二人のデザイナーとして、胸を張り続けていられるように、一旦この身に余るほど嬉しい立ち位置から離れて、修行してきたいんです」
「…………」
 息を呑んだ俺。耳触りに覚えのあるその言葉は、いつかのあの日の縁側を思い起こさせた。

        ♧

  俺は、世界を飛び回ることで修行して、経験積んで、世界中が俺で笑顔になって……そうやって『完璧になりに』行くんだ──

        ♧

 あの時、祖父じいさんはどんな顔をして、どんな返答をした? どれだけ胸がざわついたろう。祖父じいさんがどう思うかなんて、考えたことがあったか?
 答えは何年も前から既に出ている、『否』であると。
「どう、思われますか?」
 不安に満ちた声で問い直されると、それだけで感覚が現実へ引き戻った。まばたきを重ねて、サングラスの位置を戻して……大してずれてないけど。
「あ、あぁ」
 なんと答えてやるのが正解だろう。YOSSY the CLOWNの答えと、柳田善一の答えが食い違っているがために、テンポがずれて、遅れて、滞っている。

 さっきは、YOSSY the CLOWNとして「いろんな方法を試してみたらいい」だのと言ってしまった手前、柳田善一としてのざわつきなんて、無視しなければいけないのに。言葉として上手く声が出ない。

「一応、訊くんだけど。二人にデザイン提供するのが、嫌になったわけじゃ、ないよね?」
「そっ、違います! 嫌だなんて、思うわけないです!」
 まるで向かい合うように視線を合わせる、俺と彼女。身を乗り出すような姿勢から見ても、彼女の『修行』は前向きな発想だ。
 そんなこと、わかってるのに。
「エニちゃん、ずっと仰ってました。自分たちは、真面目にやってるんだって。中途半端は要らないって。わたしも、そうだなって。中途半端な知識のまま、お二人のデザインを手掛け続けるのは、違うと思って」
「うん、ごめん。わかってるのに訊いた」
 不安なまなざしで見られていることは、わかっている。俺の公私がぐるんぐるんするせいで、彼女を不安にさせているんだって、わかってる。わかってるのに、どっちの俺で答えていいか、決着がつかないから。
 顎に手をやって、口元を隠して、三秒間で脳内会議を済ませて、深呼吸。
「えっとね。『僕』はキミの意思を、全力で後押しする気でいるよ。キミの『夢へ対する真摯な姿勢』は、万人が見習うべきだとさえ思うね。でも……」
 続きなんて言うべきじゃないけど、言わずにいることも出来なくて、申し訳なさと共に声が滑り出る。
「『俺』は、そのままのキミを引き留めておきたい、って思っちゃってることも、伝えときたいかな、なんて」
 意味が伝わるだろうか。『僕』と『俺』では意見が違うのだと、彼女はもうわかってくれているだろうか。
「ごめん。困らせてんのわかってんだけど、なんか今、上手く自分をコントロール出来てなくて」
「いえ、伝わります」
 言われて、ようやく視線を彼女へ向ける。
「どちらも、柳田さんのお気持ちですよね。とっても嬉しい、お返事です」
 弱く、照れがちに笑んだ彼女は、パタリと瞼を落として、縮み上げていた肩の力を抜いた。
「わたし、世界をいくYOSSY the CLOWNの選んだ人材なんだって、世界に向かって胸を張れるような、そういうデザイナーになりたいなって、思ったんです」
「……ん?」
 彼女の伏せた瞼が上がって、またこちらを見上ぐ。
「他の誰でなく、今はまだ趣味の段階のわたしがいずれ、サムくんもエニちゃんもYOSSY the CLOWNさんも引っ張るような。そんなデザイナーに、なりたいなって」
 あれ。やっぱり今、YOSSY the CLOWNて、言ってくれた?
「わたしは、みなさんの後ろから着いていくんじゃなくて、肩を並べて歩くんでもなくて、むしろ追い抜かしちゃうような。向こう側で待ってるくらいの、心持ちで居たいなって、思ってます」
「…………」
 うわ、ヤバい。そういうの……っていうか、なんか今の彼女全部が、どっち的にもホームランなんだけど。
 まるで、喉の奥で心臓が鳴っているみたいだ。
 出てきそうになった言葉とか想いをその都度呑み込んで、必死に堪えてんのに、彼女は無自覚のまま俺の下心にまで触れてくる。待て待て、彼女はまだほら、未成年ですから。

 YOSSY the CLOWNとしての答えを、今の彼女は欲しがってるはず。
 YOSSY the CLOWNとして、彼女に向かってないといけない。

 戒める言葉で頭を満たして、彼女に向き直る俺。
「キミは、全力で自分を信じて、スキルアップをしようと決めたんだね。二人のために」
「柳田さんの、ためにもです」
 またほら、そうして悪気なく俺を指してくる。ダメだって。揺らされるな、俺。
「うん、ありがとう」
 柔く笑んで、本心の自分を奥底に隠す。

 まっすぐに、真剣に、誠実に──『YOSSY the CLOWNが』耳も眼も心もそうして傾けていることが、彼女の信頼を最も得る行動だろう。それをこなせばいい。今の彼女は、あの時の俺と同じ。夢へ突き進む『希望』なのだから。

「納得のいくまで修行しておいで。キミのことだから慢心はないだろうけど、僕はいつだって、キミの本気のデザインを待ってる。サムとエニーもね」
「ありがとう、ございます」
「どうか、このことはなるべく忘れないで」
「はい」
 彼女が笑顔になることは嬉しいはずなのに、こんなに苦しくて辛いのはなぜだ。こんな気持ちだったのだろうかと、身をもって体験するまでわからなかったなんて。
「二人には、是非キミの口から説明してあげてくれる?」
「はい、もちろんですっ」
「ありがとう。近いうちに機会を設けようね」

 自分がとんでもない道化なのだと、俺は今になって気が付いた。

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