死か降伏かー新選組壬生の狼ー

手塚エマ

文字の大きさ
57 / 96
第三章 LOSE-LOSE

第四話 守護神

しおりを挟む
 通りの町屋の雨戸も閉ざされ、人通りも絶えた夜のしじま。

 ようやく家に戻った千尋は、ぬるい仕舞しまい湯で汗を流し、下帯を締め、浴衣の袖を通しただけで帯を持ち、這うようにして階段を上る。

 居室を二階に設けたことを悔やみつつ、疲労困憊ひろうこんぱいていで襖に手をかけた。
 しかし次の瞬間、覚醒し、腰を落として身構える。


「誰……!」
 
 襖を一気に開いた知日理は、窓枠に腰をかけた人影に、思わず誰何すいかしかけるも、すぐに気づいて弛緩する。

「……来てたのか」
「ええ」
 
 佑輔が、純白の寝着を折り目正しく身にまとい、首の辺りを団扇うちわで優雅に扇いでいる。
 足元では蚊避けの菊花線香が、白い煙をたなびかせていた。


「くどいな、お前も」
 
 慌てて浴衣の前を合わせ、憮然としながら帯を締める。


「俺は何を聞いても答えないぞ。いい加減あきらめろ」
「何も聞いていませんよ。あなたが無事なら、私はそれでいいんです」
 
 窓辺を離れた佑輔が、行灯の火を吹き消すと、座敷に吊るされた青い蚊帳が、闇の中に仄かに明るく浮かんで見える。

 無事さえ確認できれば、それでいい。

 だから今夜は、堤と門下生が寝起きする長屋に戻らず、このまま泊まるつもりらしい。
 千尋は聞こえよがしに太息たいそくした。
 

 いっそ追い帰したいところだが、こんな夜更けに一人歩きもさせられない。

 大体まだ前髪の子供のくせに、いつのまにか護衛者ぶって、まとわりついてくること自体も腹立たしかった。


 しかし、今では剣の腕も銃の腕も、佑輔にだけは敵わない。
 あっというまに背丈も越され、肩幅も胸の厚みも日を追うごとに男のそれになっていく。

 どちらも認めざるを得ない分、焦燥感が千尋の胸に渦巻いた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

花嫁

一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...