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第三章 LOSE-LOSE
第四話 守護神
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通りの町屋の雨戸も閉ざされ、人通りも絶えた夜のしじま。
ようやく家に戻った千尋は、ぬるい仕舞い湯で汗を流し、下帯を締め、浴衣の袖を通しただけで帯を持ち、這うようにして階段を上る。
居室を二階に設けたことを悔やみつつ、疲労困憊の体で襖に手をかけた。
しかし次の瞬間、覚醒し、腰を落として身構える。
「誰……!」
襖を一気に開いた知日理は、窓枠に腰をかけた人影に、思わず誰何しかけるも、すぐに気づいて弛緩する。
「……来てたのか」
「ええ」
佑輔が、純白の寝着を折り目正しく身にまとい、首の辺りを団扇で優雅に扇いでいる。
足元では蚊避けの菊花線香が、白い煙をたなびかせていた。
「くどいな、お前も」
慌てて浴衣の前を合わせ、憮然としながら帯を締める。
「俺は何を聞いても答えないぞ。いい加減あきらめろ」
「何も聞いていませんよ。あなたが無事なら、私はそれでいいんです」
窓辺を離れた佑輔が、行灯の火を吹き消すと、座敷に吊るされた青い蚊帳が、闇の中に仄かに明るく浮かんで見える。
無事さえ確認できれば、それでいい。
だから今夜は、堤と門下生が寝起きする長屋に戻らず、このまま泊まるつもりらしい。
千尋は聞こえよがしに太息した。
いっそ追い帰したいところだが、こんな夜更けに一人歩きもさせられない。
大体まだ前髪の子供のくせに、いつのまにか護衛者ぶって、まとわりついてくること自体も腹立たしかった。
しかし、今では剣の腕も銃の腕も、佑輔にだけは敵わない。
あっというまに背丈も越され、肩幅も胸の厚みも日を追うごとに男のそれになっていく。
どちらも認めざるを得ない分、焦燥感が千尋の胸に渦巻いた。
ようやく家に戻った千尋は、ぬるい仕舞い湯で汗を流し、下帯を締め、浴衣の袖を通しただけで帯を持ち、這うようにして階段を上る。
居室を二階に設けたことを悔やみつつ、疲労困憊の体で襖に手をかけた。
しかし次の瞬間、覚醒し、腰を落として身構える。
「誰……!」
襖を一気に開いた知日理は、窓枠に腰をかけた人影に、思わず誰何しかけるも、すぐに気づいて弛緩する。
「……来てたのか」
「ええ」
佑輔が、純白の寝着を折り目正しく身にまとい、首の辺りを団扇で優雅に扇いでいる。
足元では蚊避けの菊花線香が、白い煙をたなびかせていた。
「くどいな、お前も」
慌てて浴衣の前を合わせ、憮然としながら帯を締める。
「俺は何を聞いても答えないぞ。いい加減あきらめろ」
「何も聞いていませんよ。あなたが無事なら、私はそれでいいんです」
窓辺を離れた佑輔が、行灯の火を吹き消すと、座敷に吊るされた青い蚊帳が、闇の中に仄かに明るく浮かんで見える。
無事さえ確認できれば、それでいい。
だから今夜は、堤と門下生が寝起きする長屋に戻らず、このまま泊まるつもりらしい。
千尋は聞こえよがしに太息した。
いっそ追い帰したいところだが、こんな夜更けに一人歩きもさせられない。
大体まだ前髪の子供のくせに、いつのまにか護衛者ぶって、まとわりついてくること自体も腹立たしかった。
しかし、今では剣の腕も銃の腕も、佑輔にだけは敵わない。
あっというまに背丈も越され、肩幅も胸の厚みも日を追うごとに男のそれになっていく。
どちらも認めざるを得ない分、焦燥感が千尋の胸に渦巻いた。
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