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梅に惚れても桜に惚れぬ 同じ花でも散りやすい
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渉とは、これまでも特別、親しかったわけではない。
熱心な演者は九月初旬のおわらに向けて一年間、踊舞場で連日のように練習する。
しかし、千華が顔を出しても、男衆の輪にいる渉とは接点もなく、千華は女衆の輪の方で指導員から稽古をつけてもらっていた。
渉とは家が近いため、たまに路地ですれ違ったりしていたが、その時も挨拶程度の会話か会釈だ。
ただ、千華が今年の春から毎朝ジョギングをするようになってから、ジョギングコースの途中にある、神社の境内を掃除する渉と顔を合わせていた。
目が合えば、微笑み合って会釈した。
町内のほとんどが知り合いか親戚の 八尾地区だが、それだけに、二人だけで話をする場が得られない。
大抵は数人単位でまとまってしゃべる。
その輪が広がる。
朝の日課に渉が入ってきてからは、渉に対して親しみが湧いていた。
少しは距離が近くなっているのかな。
だが、それも全部自分だけの錯覚だったと知らされて、ふうっと肩で息をつく。
千華は早速指導員の永井から、混合踊り特有の、色香が漂う振りつけを習っているのに、心がどこか遠くにあるのを感じていた。
胸の中がしんと静まり返っている。
冷めている。
教わるままに手足を動かし、型だけ決めているだけだ。
おわらの男踊りは、左足で立ったまま右膝を直角に曲げて上げ、両腕を左右に開いて静止するなど、直線的な動作が多い。
逆に女踊りは、膝を曲げて腰を落とし、背を弓なりにしならせる曲線的な動きになる。
渉は長身で頭が小さく、手足も長い。
この、別名『 |案山子』の姿勢を保っているのは大変だ。
横目で盗み見していると、渉は一本足で左右に腕を開いても微動だにしなかった。
おわらの男踊りは、ポーズが決まると 粋で 雄々しい。
千華も思わず見惚れてしまう。目を奪われて息を呑む。
渉の男踊りのキレの良さは評判だ。千華もそれは知っていた。
だからといって女衆と絡むとなると、どうなるのか。
それはまだ未知数だ。
そもそも渉はまだ、やる気があるのかないのかも、わからない。
何回か踊ってみてから正式に受ける受けないを決めるつもりでいるのだろう。
混合踊りは、男踊り女踊りを舞いながら、つれない相手を振り向かせるため奮闘する、恋の駆け引きを表現した、 元花街の 鏡地区ならではの艶がある。
三味線や 胡弓に乗せて 唄われる、おわら小唄も、むせび泣く弦のように切なげだ。
演舞場には愛しい相手を恋い慕う小唄が伴奏として流されて、それに合わせて踊るのだが、小唄の歌詞が時折胸を刺すようで、千華は憮然としてしまう。
三味線の一が切れても、二、三が残る。
あなたと切れたら気が残る。
熱心な演者は九月初旬のおわらに向けて一年間、踊舞場で連日のように練習する。
しかし、千華が顔を出しても、男衆の輪にいる渉とは接点もなく、千華は女衆の輪の方で指導員から稽古をつけてもらっていた。
渉とは家が近いため、たまに路地ですれ違ったりしていたが、その時も挨拶程度の会話か会釈だ。
ただ、千華が今年の春から毎朝ジョギングをするようになってから、ジョギングコースの途中にある、神社の境内を掃除する渉と顔を合わせていた。
目が合えば、微笑み合って会釈した。
町内のほとんどが知り合いか親戚の 八尾地区だが、それだけに、二人だけで話をする場が得られない。
大抵は数人単位でまとまってしゃべる。
その輪が広がる。
朝の日課に渉が入ってきてからは、渉に対して親しみが湧いていた。
少しは距離が近くなっているのかな。
だが、それも全部自分だけの錯覚だったと知らされて、ふうっと肩で息をつく。
千華は早速指導員の永井から、混合踊り特有の、色香が漂う振りつけを習っているのに、心がどこか遠くにあるのを感じていた。
胸の中がしんと静まり返っている。
冷めている。
教わるままに手足を動かし、型だけ決めているだけだ。
おわらの男踊りは、左足で立ったまま右膝を直角に曲げて上げ、両腕を左右に開いて静止するなど、直線的な動作が多い。
逆に女踊りは、膝を曲げて腰を落とし、背を弓なりにしならせる曲線的な動きになる。
渉は長身で頭が小さく、手足も長い。
この、別名『 |案山子』の姿勢を保っているのは大変だ。
横目で盗み見していると、渉は一本足で左右に腕を開いても微動だにしなかった。
おわらの男踊りは、ポーズが決まると 粋で 雄々しい。
千華も思わず見惚れてしまう。目を奪われて息を呑む。
渉の男踊りのキレの良さは評判だ。千華もそれは知っていた。
だからといって女衆と絡むとなると、どうなるのか。
それはまだ未知数だ。
そもそも渉はまだ、やる気があるのかないのかも、わからない。
何回か踊ってみてから正式に受ける受けないを決めるつもりでいるのだろう。
混合踊りは、男踊り女踊りを舞いながら、つれない相手を振り向かせるため奮闘する、恋の駆け引きを表現した、 元花街の 鏡地区ならではの艶がある。
三味線や 胡弓に乗せて 唄われる、おわら小唄も、むせび泣く弦のように切なげだ。
演舞場には愛しい相手を恋い慕う小唄が伴奏として流されて、それに合わせて踊るのだが、小唄の歌詞が時折胸を刺すようで、千華は憮然としてしまう。
三味線の一が切れても、二、三が残る。
あなたと切れたら気が残る。
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