あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

文字の大きさ
27 / 182
第一章 勇者殺しの勇者

第26話 はじめての備忘録

しおりを挟む
 地平線の彼方に海が見え始めた。今日の昼頃には白海の国シェバイアの首都フリュードに着けるだろう。フリュードに着けばシャルロットの出す食事のレパートリーも増えるはずだ。何気にそれが楽しみなノウトだった。
 野営地から出発してから3時間が経とうとしていた。会話をしたり、客車内で〈神技スキル〉のちょっとした練習をしたりして──────ノウトはしなかった、というか出来なかったが──────時間を潰していたらあっという間だった。今は全員ぼーっとしていたり、時々談笑したり、または目を瞑って寝たりしている。


 そんな折、ノウトが意味もなく竜車の外を窓越しに眺めていたら、肩をとんとんと叩かれたので「ん?」と振り返ると、彼女がそこに立っていた。
 髪や肌は雪のように白く、その頭に生える二本の角は対照的に漆黒な彼女。そう、魔皇ヴェロアだ。
 昨日は一度も会うことがなかったため少し心配をしていたが無事そうでほっと肩を撫で下ろす。
 突然現れたことに少し驚きはしたが流石にもう慣れてしまった。

「ノウト、どうかした?」

 隣に座るシャルロットがノウトが急に振り返ったことに疑問を持ったのか怪訝そうな顔で質問する。

「いや、なんでもない」

 そこにヴェロアはいるはずなのに、ノウト以外誰も見えていない。
 改めて思うと不思議な光景だ。
 向かいに座っているリアと一瞬目が合うが直ぐに逸らす。
 ヴェロアはニカッと笑って、

『ノウト、おはよう』

(おはよう。……といってももう10時だけどな)

『仕方ないだろう。私は私でやることがあってだな』

(別に咎めてるわけじゃないよ。ごめん、こうしてるの周りから見たら不自然だから窓の外眺めながら会話する)

『ああ、問題ない』

 ノウトはもう一度窓の外を眺める。だいぶ海岸に近づいているのが分かった。

(────それで、ヴェロア。一つ報告することがあってさ)

『なんだ、誰か片付けたのか?』

(んー、当たらずとも遠からずというか。……そこに銀髪の女の子いるよな)

『ああ、いるな。なんかお前の後ろ姿をじっと見ているようだが……』

 マジかよ。今魔皇と交信していることもリアの察しの良さからしてバレている可能性はある。……いや、流石にないか。判断材料が少な過ぎるし。

(彼女、リアって言うんだけど。そいつに俺が魔皇の協力者ってことバレちゃってさ)

『……え、えぇっ!?』

(おっ、いい反応)

『言うとる場合か。……ん? バレてるならどうしてそこのリアという少女は今生きてるんだ? 早く仕留めるべきだろう』

(それが彼女、不死身でさ。俺の〈神技スキル〉効かなくって。あとリア、俺達の仲間になりたいって)

『ちょっと待て。流石の私も頭がこんがらがってきたぞ……』

 ノウトはヴェロアにこうなった経緯や諸々をざっくりと説明した。実行しようとしている作戦の内容も報告する。

『勇者の説得か……』

(だ、ダメ……?)

『いや、いい。物凄くいい。出来ることならば、それが最善とも言える。しかし、全滅よりも遥かに難易度が高いぞ』

(それは承知の上だよ)

 ヴェロアの顔は見えないがおそらく少し笑っている。小さな笑いが零れたのが聞こえた。

『……うむ、そうだな。お前が決めたことだ。やるしかない。それに、リアという少女に抵抗されたらお前は勝ち目がなさそうだしな』

(っておい)

『ははっ』

(……でも絶対に説得出来ないと確信したその時は、俺は殺すよ、そいつを)

『ノウト、無理はするなよ』

(……他人事みたいに言わないでくれよ)

『私は一度命を落としたも同然の身だからな。ノウトに任せて、その結果どうなっても何も悔いは無い』

(…………)

 目頭が熱くなってきた。あぁ、だめだ俺。涙腺が緩すぎる。

『よし、じゃあ早速、勇者達の神技スキルをおさらいするとしよう。遅くはなってしまったが、どっちにせよそれで相手の危険度は測った方がいい』

(それもそうだな)

 ノウトは自分の背嚢はいのうから何も書かれていないスクロールとペンを取り出す。竜車が走行中なのでがたがたと揺れ、文字を書きにくいにも程がある状況だが、この際仕方ない。

『用意周到だな』

(まぁね。……まずは俺のパーティか)

 つらつらと自分たちのパーティについて纏める。ノウト、レン、リア、シャルロット、フウカと書いているうちに、ふと疑問が生まれた。

(そういえば、俺のパーティの彼らと以前会ったことってあったりするのか? 例えば戦ったとか)

『う~ん、記憶にある程度だとないな。───いや、そこのちっちゃい女の子はいたような気がするな』

(シャルロットか)

『ああ、私のいるところまで辿り着いたのを考えるにロストガン、メフィ、それにユークが仕留め損ねた強者だな。もっとも私が消し炭にしてしまったが』

(リアやレン、フウカは見てないのか?)

『見てないな、多分。確か彼らは〈風〉と〈影〉と〈生〉の勇者だろう? 私もノウトもそういった手合いとは戦ってないはずだから、ロストガンかユークあたりにやられてしまったのだろうな』

(リアがやられる、なんておかしくないか?)

『不死だからって無敵って訳じゃないぞ、ノウト。例えば土砂で生き埋めにしたり海の底に沈めたり凍らせたり』

(あー……わかったわかった。何となくリアがどうやられたか察しちゃうからやめて)

 ノウトは頭を振って想像したことを忘れようとする。そして他のパーティのことについても書き始めた。圧倒的に〈神技スキル〉の情報が少ない。

(他の勇者の情報を教えてくれないか?)

『わかった。といっても教えられることは限られているがな。私は相手を瞬殺してしまったからノウトが相手した情報しか持ちえていないし私が遁走を余儀なくされた相手の能力は未知数だったからな』

(俺と魔皇だけが過去に戻ったっていうあれか)

『そうだ。ノウト曰く《触れたものを消す能力》、《炎を操る能力》、《死者を操る能力》そして《瞬間移動する能力》。これらを持つ勇者がいたとお前は言っていた』

 『炎を操る能力』っていうのはおそらく、いや絶対にレティシアのことだ。他は思い当たる節が全くない。
 ───おい待て。瞬間移動……? そんな能力を持った奴がいたら魔皇の所まで跳んで一瞬で殺されてしまうじゃないか。

『そう。ノウトの思っている通りだ。お前自身が一番危険視していた人物でもある』

(なるべく早くそいつを見つけ出さないとな。……そいつらの外見の特徴とかないか?)

『んん~。まず《触れたものを消す能力》、これは白髪の少年だったと言っていたな』

 白髪の少年。
 極めて特徴的な容姿。それに当てはまる人物は……。

(────ミカエルだ)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

処理中です...