あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

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第一章 勇者殺しの勇者

第34話 誰が魔皇の協力者なのか

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「だぁぁあ疲れたぁぁぁ」
 
 海で競泳をしていたナナセが陸に上がってすぐ砂浜にバタッと倒れ込む。
 そんな彼にアイナが「お疲れ様」とタオルを投げる。ナナセは倒れたまま「あんがと」と適当に感謝する。
 テオは未だ泳ぎ続けてる。なんだあのスタミナ。
 意外だったのが、パトリツィアが泳ぐのがめちゃくちゃ速いということだ。彼女は案外肉体派だった。腹筋も割れかかっている。

わたくしの勝ちですね」

「流石パティだ」

 ダーシュが間を置かずにパトリツィアをヨイショする。

「ダーシュもなかなか速かったですよ」

 そうカミルが言うとダーシュはその鋭い目付きでカミルを睨み、「いやパティの方が速いからな」とよく分からないキレ方をしていた。カミルは「えぇ……。せっかくフォローしたのに……」と肩を落とした。

「時間も時間だし、もう宿へ向かおうか」

 レンがノウト等のパーティの仲間たちに提案すると他のパーティであるミカエルやカンナまでも「さんせー」と手を挙げた。すっかり他のパーティだから、とかの隔たりは無くなった。
 ミカエル達にだったら説得出来るかもしれない。「魔皇を殺すのはやめてくれ」と、言えるかもしれない。
 今夜パーティ内のレン、フウカ、シャルロット、そしてミカエル達のパーティに言おう。そう心に念じた。
 それよりもまず、リアと二人になってヴェロアから得た情報を共有しないと。
 宿へとやっと向かおうという所でリアが「あぁっ! マシロちゃんが……見えなくなった……!」と取り乱していた。
 振り返って見るとさっきまでそこにいたはずのマシロがまたしても見えなくなってしまった。
 本当に彼女のことを忘れてしまうことがあるのだろうか。
 あんなに楽しかった思い出も消えてしまうのだろうか。
 実際にミカエル達はマシロと初対面で会った時のことを忘れてしまったと言っていた。本当に忘れてしまうのだと実感するとそれがとても恐ろしく感じられた。

「また、会えるよね」

「ああ。絶対に会えるよ」

 ノウトはあくまで希望的観測でそう答えた。
 誰だって彼女にまた会いたいはずだ。

「みんな、聞いてくれ!」

 突然フェイは目を覚まして飛び起きたかと思えば、大袈裟に手を広げて大声でみんなに呼びかけた。何か嫌な予感がする。彼にみんなの視線が注がれる。
 
 黄昏が皆に影を纏わせている。日は微かにその身を海から覗かせ、物見遊山のようにノウト達を見下していた。

「何? フェイ。くだらないことだったら無視るからね」

「いや酷いなアイナ。フョードル達が居ないけどここにいるみんなに伝えよう。大事なことだ」

 彼は一拍間を置いてから、

「おれは、誰が魔皇の協力者か分かったんだ」

 と笑いながら告白した。
 一瞬、心臓がばくんと鳴ったのが聴こえた。いやいやいや、またフェイ特有の戯言だろう。落ち着け俺。

「いやあんたコリー君がそうだって言ってたじゃないっすか」

 スクードがフェイの矛盾にツッコむ。

「スクード。あれは言わば布石さ。誰が魔皇の協力者か探すためのね」

 ふつふつと怒りが湧き上がり、それと同時に焦りが生まれる。
 コリーへの冒涜に対しての怒り。
 そして自らが告発されかねない焦り。

「話を戻そう。まず結論より先にどうやってそれが分かったか、それを教えようと思う」

 皆、彼の言葉一つ一つを鵜呑みにするつもりはないはずだった。
 しかし、彼の話し方にはどこか信憑性がある。それに誰も口を挟めないほど彼は言葉巧みにつらつらと捲し立てる。

「正直に言おう。おれは〈〉の勇者なんだ」

 彼は右手で左手甲にある鈍く輝く〈エムブレム〉を指さした。

「〈運命〉の勇者だって言われて何が出来るかすぐには分からないよね。おれも最初はよく分からなかった。簡潔に纏めれば、おれは『少し先の未来の選択肢が見えて、その中から一つを運命として決めることが出来る』っていう能力なんだ。《運命フェイト》っていう至極単純な神技スキル名なんだけど」

 ノウトは息を呑んだ。
 合点がいった。コリーを即死させたのはそれを選択したからでその後、カンナやフウカの攻撃を避けたのも同じ理屈だ。規格外だ。もうそんなことが出来るなら神を名乗っても誰も疑わないだろう。
 本当にそんな能力を持ってるならおそらくは、まさか、いや、まさかな。ははっ。

「じゃあ、あの突然居なくなったのはどういう理屈なの?」

 シャルロットが腕を組んで問う。

「あれは別の〈神技スキル〉さ。《新世界ラグナロク》っていう能力でこれも簡単に言っちゃえば『並行世界にいる自分のいる場所へ瞬間移動出来る』って神技かな」

「へいこうせかい……?」

 カンナが首を傾げている。

「まぁそうだね。今こうして君たちにおれの能力について話してる世界線もあれば何も話してない世界線もあるわけでしょ? つまりはそういった運命フェイトで選択しなかった自分の場所へワープ出来るんだ。つまりは時間が経てば経つほど魔皇の協力者は不利になっていくって訳だね」

「……ん? ど、どゆことっすかね。能力が超次元過ぎて全然ついていけないっす」

 ノウトがスクードに補足する。

「例えばフェイはずっとここに立ち止まっているだけで魔皇の前まで辿り着けるんだ。並行世界にいる自分が魔皇の前に辿り着いた時にそこに飛べばいいんだからな」

 フェイは指を鳴らして、

「流石ノウト君。まぁ新世界ラグナロクは一日1、2回くらいしか使えないくらい安定してないんだけどね。てなわけでおれは数多の選択肢を見てきた。ほぼ無数だ。おれが疲弊しない限り、選択肢を見続けることが出来る。その中で魔皇の協力者が誰だか分かったってわけさ」

 終わったかもしれない。

 手が震える。

 怯えているのか、俺は。

「で、誰だ?」

 ダーシュがぼさぼさ頭を掻きながら単刀直入に尋ねる。


「それは─────」


 今すぐここから逃げ出したい。

 耳を塞いでいたい。

 リアやヴェロアに助けを乞うこともこの状況じゃ叶わない。

 おそらく、いや絶対フェイは俺の名前を出すだろう。

 そのはずだ。

 いや、よく考えろ。

 他世界の行動で俺が魔皇と繋がりがあるとフェイはどこで分かったんだ……?

 俺が彼に告白することもないに決まってる。
 
 どうやってバレた。
 それを考えろ。
 考えて考えて──────

 ──────って考えたところでこの状況が打破できるわけでもないか。

 ただ自らの名前を呼ばれないように希う。

 今迄、リア以外にバレなかったんだ。
 ここでバレる訳ない。
 そうだ、こんな所で終わる訳にはいかないんだ。

 場合によってはフェイを殺すしかない。


 汗か、はたまた海水か、何かが頬を伝う。


 手が汗で滲む。


 足裏に感じる砂は異様に柔らかい。


 地面が揺らぐような感覚にも陥る。


 心臓の鼓動がばくばくと五月蝿い。


 黙れ。黙れ。黙れ。






 この時、俺は一秒が何千回にも切り刻まれているようにスローに感じた。





 それは走馬燈に近かった。

 生きるために脳が無理矢理手繰り寄せた記憶の断片を、海馬の奥から引き摺り出そうとする。

 だが、それは、無理な話だった。無を有にするのは不可能なのだ。


 何か、何かないか。


 打開策は。


 何か。


 俺は。


 何も。






















「リアさん、キミだ」


 フェイは必然であるかのように、それが運命であると突き付けるようにリアを指さして、せせら笑いながら告発した。
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