36 / 182
第一章 勇者殺しの勇者
第34話 誰が魔皇の協力者なのか
しおりを挟む「だぁぁあ疲れたぁぁぁ」
海で競泳をしていたナナセが陸に上がってすぐ砂浜にバタッと倒れ込む。
そんな彼にアイナが「お疲れ様」とタオルを投げる。ナナセは倒れたまま「あんがと」と適当に感謝する。
テオは未だ泳ぎ続けてる。なんだあのスタミナ。
意外だったのが、パトリツィアが泳ぐのがめちゃくちゃ速いということだ。彼女は案外肉体派だった。腹筋も割れかかっている。
「私の勝ちですね」
「流石パティだ」
ダーシュが間を置かずにパトリツィアをヨイショする。
「ダーシュもなかなか速かったですよ」
そうカミルが言うとダーシュはその鋭い目付きでカミルを睨み、「いやパティの方が速いからな」とよく分からないキレ方をしていた。カミルは「えぇ……。せっかくフォローしたのに……」と肩を落とした。
「時間も時間だし、もう宿へ向かおうか」
レンがノウト等のパーティの仲間たちに提案すると他のパーティであるミカエルやカンナまでも「さんせー」と手を挙げた。すっかり他のパーティだから、とかの隔たりは無くなった。
ミカエル達にだったら説得出来るかもしれない。「魔皇を殺すのはやめてくれ」と、言えるかもしれない。
今夜パーティ内のレン、フウカ、シャルロット、そしてミカエル達のパーティに言おう。そう心に念じた。
それよりもまず、リアと二人になってヴェロアから得た情報を共有しないと。
宿へとやっと向かおうという所でリアが「あぁっ! マシロちゃんが……見えなくなった……!」と取り乱していた。
振り返って見るとさっきまでそこにいたはずのマシロがまたしても見えなくなってしまった。
本当に彼女のことを忘れてしまうことがあるのだろうか。
あんなに楽しかった思い出も消えてしまうのだろうか。
実際にミカエル達はマシロと初対面で会った時のことを忘れてしまったと言っていた。本当に忘れてしまうのだと実感するとそれがとても恐ろしく感じられた。
「また、会えるよね」
「ああ。絶対に会えるよ」
ノウトはあくまで希望的観測でそう答えた。
誰だって彼女にまた会いたいはずだ。
「みんな、聞いてくれ!」
突然フェイは目を覚まして飛び起きたかと思えば、大袈裟に手を広げて大声でみんなに呼びかけた。何か嫌な予感がする。彼にみんなの視線が注がれる。
黄昏が皆に影を纏わせている。日は微かにその身を海から覗かせ、物見遊山のようにノウト達を見下していた。
「何? フェイ。くだらないことだったら無視るからね」
「いや酷いなアイナ。フョードル達が居ないけどここにいるみんなに伝えよう。大事なことだ」
彼は一拍間を置いてから、
「おれは、誰が魔皇の協力者か分かったんだ」
と笑いながら告白した。
一瞬、心臓がばくんと鳴ったのが聴こえた。いやいやいや、またフェイ特有の戯言だろう。落ち着け俺。
「いやあんたコリー君がそうだって言ってたじゃないっすか」
スクードがフェイの矛盾にツッコむ。
「スクード。あれは言わば布石さ。誰が魔皇の協力者か探すためのね」
ふつふつと怒りが湧き上がり、それと同時に焦りが生まれる。
コリーへの冒涜に対しての怒り。
そして自らが告発されかねない焦り。
「話を戻そう。まず結論より先にどうやってそれが分かったか、それを教えようと思う」
皆、彼の言葉一つ一つを鵜呑みにするつもりはないはずだった。
しかし、彼の話し方にはどこか信憑性がある。それに誰も口を挟めないほど彼は言葉巧みにつらつらと捲し立てる。
「正直に言おう。おれは〈運命〉の勇者なんだ」
彼は右手で左手甲にある鈍く輝く〈エムブレム〉を指さした。
「〈運命〉の勇者だって言われて何が出来るかすぐには分からないよね。おれも最初はよく分からなかった。簡潔に纏めれば、おれは『少し先の未来の選択肢が見えて、その中から一つを運命として決めることが出来る』っていう能力なんだ。《運命》っていう至極単純な神技名なんだけど」
ノウトは息を呑んだ。
合点がいった。コリーを即死させたのはそれを選択したからでその後、カンナやフウカの攻撃を避けたのも同じ理屈だ。規格外だ。もうそんなことが出来るなら神を名乗っても誰も疑わないだろう。
本当にそんな能力を持ってるならおそらくは、まさか、いや、まさかな。ははっ。
「じゃあ、あの突然居なくなったのはどういう理屈なの?」
シャルロットが腕を組んで問う。
「あれは別の〈神技〉さ。《新世界》っていう能力でこれも簡単に言っちゃえば『並行世界にいる自分のいる場所へ瞬間移動出来る』って神技かな」
「へいこうせかい……?」
カンナが首を傾げている。
「まぁそうだね。今こうして君たちにおれの能力について話してる世界線もあれば何も話してない世界線もあるわけでしょ? つまりはそういった運命で選択しなかった自分の場所へワープ出来るんだ。つまりは時間が経てば経つほど魔皇の協力者は不利になっていくって訳だね」
「……ん? ど、どゆことっすかね。能力が超次元過ぎて全然ついていけないっす」
ノウトがスクードに補足する。
「例えばフェイはずっとここに立ち止まっているだけで魔皇の前まで辿り着けるんだ。並行世界にいる自分が魔皇の前に辿り着いた時にそこに飛べばいいんだからな」
フェイは指を鳴らして、
「流石ノウト君。まぁ新世界は一日1、2回くらいしか使えないくらい安定してないんだけどね。てなわけでおれは数多の選択肢を見てきた。ほぼ無数だ。おれが疲弊しない限り、選択肢を見続けることが出来る。その中で魔皇の協力者が誰だか分かったってわけさ」
終わったかもしれない。
手が震える。
怯えているのか、俺は。
「で、誰だ?」
ダーシュがぼさぼさ頭を掻きながら単刀直入に尋ねる。
「それは─────」
今すぐここから逃げ出したい。
耳を塞いでいたい。
リアやヴェロアに助けを乞うこともこの状況じゃ叶わない。
おそらく、いや絶対フェイは俺の名前を出すだろう。
そのはずだ。
いや、よく考えろ。
他世界の行動で俺が魔皇と繋がりがあるとフェイはどこで分かったんだ……?
俺が彼に告白することもないに決まってる。
どうやってバレた。
それを考えろ。
考えて考えて──────
──────って考えたところでこの状況が打破できるわけでもないか。
ただ自らの名前を呼ばれないように希う。
今迄、リア以外にバレなかったんだ。
ここでバレる訳ない。
そうだ、こんな所で終わる訳にはいかないんだ。
場合によってはフェイを殺すしかない。
汗か、はたまた海水か、何かが頬を伝う。
手が汗で滲む。
足裏に感じる砂は異様に柔らかい。
地面が揺らぐような感覚にも陥る。
心臓の鼓動がばくばくと五月蝿い。
黙れ。黙れ。黙れ。
この時、俺は一秒が何千回にも切り刻まれているようにスローに感じた。
それは走馬燈に近かった。
生きるために脳が無理矢理手繰り寄せた記憶の断片を、海馬の奥から引き摺り出そうとする。
だが、それは、無理な話だった。無を有にするのは不可能なのだ。
何か、何かないか。
打開策は。
何か。
俺は。
何も。
「リアさん、キミだ」
フェイは必然であるかのように、それが運命であると突き付けるようにリアを指さして、せせら笑いながら告発した。
0
あなたにおすすめの小説
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~
タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。
時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま!
「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」
ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは――
公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!?
おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。
「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」
精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約
Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。
腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。
地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。
彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。
「死んで、私の影になれ」
彼女は知っていた。
この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。
そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。
これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる