137 / 182
序章 きみが灰になったとしても
第18話 遥か彼方の君を
しおりを挟む「ちょっと、ノウト。話聞いてるの?」
「……えっ、ああ。ごめん」
「もう。ちゃんとしてよね。今日は大事な日なんだから」
ノウトは周りを見渡した。長机の短辺、ノウトの右側には魔皇が座り、正面にラウラ、左にロストガン、少し離れた位置にユークレイスの使いである森人族の女の子が座っている。彼女の名前はスピネで、ノウトが会ったのはこれで三回目だ。
「悪い。……ちょっと昨日見た夢のこと思い出してて」
「夢?」ラウラが首を傾げた。
「ああ」とノウトが頷く。
「夢を見たことは覚えてるんだけど、どんな夢だったか覚えてなくて。……それなのに、その夢が大切なことも知ってるんだ」
「意外です。ノウトセンパイってば、けっこうロマンチストなんですね~」
スピネが間延びした声でそう言った。
「ノウトは真の勇者になる者だから当然だな」
「ちょっと魔皇様。真顔で茶化さないで下さいよ」
「何を言っている。私は至って真面目だ」
魔皇が控え目に笑った。
「それで、……夢か。確か以前も似たようなものを見たと言ったな」
「ええ。大切で、忘れちゃいけないはずなのに、起きたら忘れてて」
「なにそれ、めちゃくちゃじゃん」
ラウラが鼻で笑った。
「ああ。我ながらおかしいと思うよ」
「いや、別におかしな話じゃねぇ」
ロストガンが机にどさっと足を乗っけた。魔皇がそこにいるのにこの男はそういうことはお構い無しだ。
「おもしれーじゃねェか。その夢ってやつ探れば勇者の謎がひとつ深まるかもな」
「勇者の謎……」
単純にノウトがそのフレーズを復唱する。
ノウトは勇者だ。
でも、勇者がなんなのかは自分自身でも分からない。
魔皇を倒せば記憶が戻ると言われて神技を持たされた記憶喪失の人間。正直な話、我ながら意味が分からないという感想しか出てこない。
「あとでメフィに相談するといい。それが一番手っ取り早いだろう」
そう言って魔皇が微笑む。
「そうですね。メフィスに会った時、少しこのことについて話してみようと思います」
ノウトはそう言ってから、頭の後ろに片手をやった。
「あ、……っと、すみません。話だいぶ逸れちゃいましたね」
「まったく、ちゃんとしてよね」
「ごめんって」
「まぁでも」ラウラは頬杖をついてノウトを見つめた。「ノウトがここまでくるなんてね。初めは全然そんな気しなかったよ」
「酷いなラウラ。俺は精一杯やってたのに」
「オレは初めから信じてたぜ、ノウト」
ロストガンがにィと笑う。
「修行内容はやばかったですけどね。何回か本当に死にかけましたし」
「でもそんなオレのことが~~?」
「好きです」
「イエェ~」
ノウトとロストガンがハイタッチする。「なんなのこの茶番……」とラウラが軽く引いていた。これでいいのだ。普段余裕を見せることもロストガンの戦術のひとつだと、そう教えられた。……まぁ、騙されてたら話は別だけど。
「ま、ノウトはオレの想像を超えて強くなった男だ。自信を持っていいぜ」
ロストガンが口許を歪ませた。
「半分はロス先輩のおかげです」
「もう半分はァ?」
「魔皇様のおかげです」
「いやあたしでしょ! アンタ本気でぶん殴るよ! いやもちろん魔皇様のおかげもあるけどね!」
「冗談だってラウラ」
「初めはあんなに純情だったノウトがロスに汚された……」
「んっんー」ロストガンは得意げにニヤけた。
「アンタのせいだからね、もう! 汚い戦術ばっかりノウトに叩き込んで!」
「でも~~、ラウラはそんなオレのことが~~?」
「死ね!」
ラウラがロストガンの頭を文字通り蹴り飛ばした。ころころと頭だけが転がり、瞬きをする間にそこから身体が再生する。血夜族の再生力はとんでもないが、その中でもロストガンは特にとんでもない。
「駄々こねてたら話進まないだろ、ラウラ」
「アンタも頭だけにしてやろうか……」
「冗談だって」
さすがのノウトも頭を蹴り飛ばされたくないので首を振った。
「はははっ」
魔皇が口を抑えて笑った。それをみんなで凝視してしまった。どうしてか、その様子を見て、とても可愛らしいとノウトは思ってしまった。
「いや、すまん。君らのやり取りがおもしろかったものでな」
「え、あ……、そうですか。……えへへ」
ラウラはなんだか満更でもない様子だ。
魔皇とノウトは目が合って、ノウトは目を逸らさなかった。魔皇のその魔眼が煌めいて見えた。
「ノウト、こっちに来てくれるか」
魔皇が言って、ノウトは立ち上がった。魔皇の傍により、それから頭を垂れて跪いた。
「こうして、ノウトを交えて皆で笑い合える日をずっと私は夢に見てたんだ。二年前にノウトと出会って、そこから日々を共にして、それで今日を迎えることが出来た」
この二年間は長かったようであっという間だった。たくさんの人にお世話になって、ノウトはここまで強くなれた。心も身体も、強くなれたのは他でもないみんなのおかげだ。
「ノウトはどんなことにも懸命に取り組み、確かな力を得た。そして、先の戦いでは見事純白騎士団団長ミェルキア・フォン=ネクエスを討ってみせた」
魔皇がノウトを見つめる。
「ノウト、君を正式に私直属の護衛兵に任命する」
ノウトは然と言葉を紡ぎ、
「その勅命、謹んで務めさせて頂きます」
頭を上げて、それから魔皇の手を取った。魔皇はノウトと合わせて、にっと笑った。
その笑顔が、ノウトと魔皇が初めて会ったあの日の笑顔を思い出させて、少し泣きそうになってしまったけれど、なんとか涙を抑えて、そして、ノウトも同じように笑ってみせた。
「なんだか、さっきのやり取りのあとだからかあまり締まらないな」
「そんなことないですよ。結構ぐっと来ました」
「それならいいんだが」
魔皇はどこか恥ずかしそうに笑った。
「キュン死させる気ですか!」
魔皇様ラブのラウラが叫ぶ。
「きゅ、きゅんし?」
「そういうところですよ、まったく!」
「怒らせたみたいなら謝るが……」
「そ、そういうところもですよ!」
「ノ、ノウト。ラウラが怖いんだが」
「心配しないでください。あれは彼女の発作です」
「そ、そうか」
魔皇は頷いたあと、やっぱり首を傾げた。結局、意味は分からなかったらしい。
「だが、これで四天王が四人ではなく五人になってしまったな」
「そのうち二人はここにいませんけどね~」スピネが苦笑いした。
「ユークはともかく、城の中にいるメフィが来ないのは結構な問題だよね」
「彼女は忙しいのもあって、暇さえ見つけたら寝てるからな」
魔皇は何かを思い付いたように顔を明るくした。
「そうだ、ノウト。いい機会だからメフィを私の元に呼んで来てくれないか?」
「………俺がですか?」
「露骨に嫌な顔しないでよ」ラウラが言った。
「あたしと約束したでしょ。帝都戻ったらメフィと会うって」
「……したっけ?」
「したよ。お酒のせいにしちゃダメだからね、ハイハイ行った行った」
「分かったよ」
ラウラに背を押されて、会議室の外まで連行される。廊下に締め出されてから、ノウトは振り返った。すると、そこにラウラが立っていて、後ろ手にドアノブを掴んでいた。
「……ねぇ」
「ん?」
ノウトがラウラ見ると、彼女は目を逸らした。そして、顔色を伺うようにノウトのことを上目遣いで見て、
「……アンタのこと、認める」
小さくそう言って、ノウトと目を合わせた。その頬はどこか赤らんでいるようにも見えた。
『あたしはアンタを認めない』
初めてラウラと出会った時に、そう言われた。強い人が放つ強い言葉だった。
この世界では勇者は忌み嫌われている。ラウラがノウトを認めなかったのは当たり前だ。ノウトが強くなれたのはラウラの力が大きいのかもしれない。ラウラに認めてもらう為に、辛い道のりも頑張れた。そんな気がする。
「ありがとな、ラウラ」
言うと、ラウラは「ふん」とそっぽを向いて、扉を閉めた。
あれから二年の時を経てノウトは最前線で戦い、敵将とも対峙できるようになった。敵から逃げて、誰かに守ってもらうことでしか戦場で成せなかったあの頃に比べたら大きな進歩だ。
胸の中がぼんやりと、でも確かに暖かくなるのを感じる。また涙が出そうになるのをなんとか堪える。
『泣かないで』
彼女にそう言われたのを思い出した。
俺は今、なんとか生きて頑張ってるよ。
彼女に告げるように、胸の中で呟いた。
ふと、彼女が『凄いね、ノウトくん』と、そう応援してる声が聞こえたような、そんな気がした。
0
あなたにおすすめの小説
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~
タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。
時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま!
「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」
ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは――
公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!?
おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。
「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」
精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約
Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。
腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。
地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。
彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。
「死んで、私の影になれ」
彼女は知っていた。
この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。
そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。
これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる