136 / 182
序章 きみが灰になったとしても
第17話 一生に一回くらいならどんなことだって
しおりを挟む「夜宴の帰り?」
「ああ。まぁそんなとこ。レンは何してるんだ?」
「俺は血夜族同士での集会がひと段落ついてさ。今は夜風に当たりながら散歩してたんだ」
「そっか」
当然だけど、レンは装着型神機闇衣を着ていなかった。私服と言っていいのだろうか。黒いローブに黒い血夜族特有の翼が合っていて、なんというか様になっていた。
「ここはいい街だね」
「そうだな。モファナはどの街も活気があって俺は好きだ」
「守れてよかったって強く思うよ」
「ああ、本当に」
ひゅう、と生暖かくも緩やかな風がノウトとレンの間に吹いた。
レンがローブのポケットに手を突っ込んで、ノウトの顔を見た。
「今日はお手柄だったね」
「ほとんどレンのおかげだけどな」
「そんなことない。ノウトやルーツァ、シャーファさんのおかげだよ」
臆面もなく、そんなことをレンが言ったからノウトは驚くと同時に少し安心してしまった。
「君は勇者だったんだね」
「驚いた?」
「少しね」
レンが口に手を当ててくすりと笑った。
「ミェルキアの振るう剣を素手で止めてたから何者だと思ったけど、それなら納得だ」
「あれにもコツがあるんだけどな。今日は上手くいってよかった」
ノウトが言うと、レンは頷いて、空に浮かぶ月を見て、それからノウトの顔をもう一度見た。
「君はさ。どうして俺のことをレンって呼ぶんだ?」
「え?」
一瞬、その言葉の意味が分からなくて、ノウトは返答に窮してしまった。
「だって、レンが自分の名前はレンだって言ったんじゃないか」
「それは、君が呼んだあとでしょ? っていうか、ははっ。なんか紛らわしいな、これ」
レンは頬を緩めた。そして、自らの胸に手を当てる。
「俺の名前はローレンス・ヴァン=レーヴェレンツ。俺と親しい人は俺のことを『レン』って呼ぶんだけど」
レンがノウトと目を合わせる。
「俺と君は今日が初対面だよね?」
「ああ、そのはずだけど」
「そうだよね。なんか、……なんて言えばいいのかな。不思議なんだよね」
「何が、って聞いていいか?」
「ああ。……そのさ、変に思うかもしれないけど、どうしてか、君とは初めて会った気がしないんだ」
レンはノウトから目線を外して、地面へと目をやった。
「前からずっとレンって呼ばれてたみたいで、……って変だよな、はは。ごめん、忘れてくれ」
レンが片手を頭の後ろにやって、苦笑いした。
「なぁ、俺と友達になってくれないか?」
「友達?」
「ああ。恥ずかしい話なんだけどさ。俺、同世代の友達が全然いなくって、ノウトみたいにきさくに話してくれるやつ、初めてなんだ。だから──」
「もちろんいいぜ」
ノウトは笑ってみせた。
「本当?」
「ああ、ほんと」
「うわ、まじ?」
「マジだよ」
「そっか、ははっ」
レンはなんだか楽しそうに笑った。
「それじゃ、宜しくな。ノウト」
「おう、よろしく」
ノウトが言った、その直後だった。
「坊ちゃん」
後ろから声がした。若い、女の人の声だった。
ノウトが振り向くと、そこに立っていたのは一人の血夜族だった。エスカに似てる、なんて思ってしまったけど別人だ。眼鏡をかけていて、如何にも真面目そうな風体を保っている。
「こんなところを彷徨いてたんですか。早く王都に帰りますよ」
彼女はノウトとレンの間に割って入った。
「分かったよ」
レンは頷いて、それからノウトを見た。
「それじゃ、ノウト。またいつかな」
「ああ、また」
彼らは翼をはためかせて、夜の空へと溶けていった。彼らが飛んでいった先を眺めながら、ノウトは夜風が肌をかすめるのを覚えながら宿までの帰路に着いた。
でも、血夜族の王子であるレンに友達になろうと言われるとは。ノウト自身、仲良くはなりたかったけど。まぁ、こういう日も人生に一回くらいならあるのだろう。
部屋に戻ったノウトはベッドに横になって、融けるように微睡みに満たされた。
◇◇◇
なんか、様子が変だなぁ……みたいな。
まぁ、蓮はいつも通りなんだけど。朝から誰にでも隔てなく、おはようと挨拶をするし、話しかけられたら何でも答える。それも適当に返事を返してる訳じゃない。知らないことは知らないと言うし、逆に知らないことは質問したりする。
同じ中学生とは思えないくらい、……大人? というかかっこいいんだよな。
驕りみたいだけど、蓮とは仲がいい方だと自分では思ってる。男女問わず顔が広い蓮にとって、俺は彼の同級生の一人でしかないのだろう。でも、俺にとっては蓮は数少ない友達のひとりだ。
登校してから帰るまでの間には、一度や二度は会話をする。時々だけど、話し込むことだってある。まぁ、これは俺としてはかなり仲がいい部類に入る。
ふと、俺は蓮の行動を観察することがある。
蓮は大人っぽいけど、どこか不思議だ。
本当に人当たりが良くて、誰とでもきちんと話せる。顔が整ってて、まぁかなりのイケメンなので黙って立ってても絵になるし、目立つ。
それなのに、ふと目を離すとどこにも姿が見当たらなかったりする。当然だけど蓮は女子の人気も高いから他のクラスの女子たちに「月嶋くんいない?」と聞かれて答えられなかったことが何度かある。
あんなに存在感があるのに、いざ探そうとすると不意にいなくなっている。それでいないなぁと思っていると突然現れたりする。蓮にはそんな不思議な所がある。
蓮は今日一度も姿を消していない。
授業中も休み時間も教室にいる。
もちろん、一人でいるわけじゃない。絶えず誰かと会話していて、笑い声さえ聞こえる。
おかしいところはあまり見つからない。ただ、少し椅子に座ってる時間が長いな、とはちょっと思ったりもした。要するに元気がないのかな、なんて俺は推測したのだろう。どうしたんだろう、とは思いもしてもこの程度では話しかけられない。
俺だって「今日、休み時間あんまり教室から出てないけど、どうしたの?」なんて聞かれたら、は? なんだこいつ、と思うだろう。
気にはなったりするけど、まあでも、友達のことだし。ああ、どうしようかな。
……なんて、そうこうしているうちに放課後になって、俺はいつも通り一人で帰り支度をして、学校を出た。一人でいるのは別に気にしてない。一人は気楽だ。ここに六華が加われば、それ以外には何もいらない。
家に帰るのは憂鬱だ。でも、どこにも行くあてはない。六華を迎えに行って、……まぁ、どうするか考えるのはそれからだ。
「綾都?」
「ふわっ!?」
考えごとをしながら歩いていたせいか、名前を呼ばれるまで気が付かなかった。
「え、……あ、蓮」
「こっちなんだ、帰り」
「あ、うん。……あ、れ? 蓮もこっち……だったっけ?」
「違うよ」
蓮はにこっと笑った。
でも、なんだかその顔が俺の主観に過ぎないけど薄っぺらというか偽物の笑顔のように見えた。
「……そうなんだ」
俺は頷いて、それから二人で通い慣れた道を肩を並べて歩いた。夕日がほんの少しだけ眩しい。蓮はしばらくの間喋らなかった。おかしな話だけど、苦痛ではなかった。俺自身、一日でも二日でも黙っていられる。
「どうしてって聞かないの?」
蓮が口を開かなければ、別れるまで喋らなかったと思う。
「まぁ、そういうときもあるのかなって」
「何となく、俺が綾都と帰りたいって思うとき?」
「生きてて一生に一回くらいはあるのかなー、……なんて」
「ふふっ」
俺の言葉に、蓮は吹き出して、それから左手で顔を覆って、ひとしきり笑い出した。
「……やっぱりおもしろいな、綾都は」
「そうかな」
「うん。おもしろい」
蓮は左手を顔からどけた。よく見ると、頬が少しだけ赤くなってる気がする。どこかにぶつけたりしたのだろうか。それとも、殴られたとか。
どうしたの、それ。とは聞かなかった。
一生に一回くらいならどんなことでもありえるのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~
タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。
時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま!
「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」
ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは――
公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!?
おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。
「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」
精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!
【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約
Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。
腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。
地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。
彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。
「死んで、私の影になれ」
彼女は知っていた。
この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。
そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。
これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる