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序章 きみが灰になったとしても
第31話 変な意味
しおりを挟むふいに、風の音で目を覚ました。
何か夢を見ていたような気もするし、何も夢なんか見ていないような気もする。要するに、曖昧だ。はっきりとしない。まぁ、いつものことだ。何も気にしない。
周りを見ると、ダーシュだけが横になって寝ていた。ほかの仲間はここにはいない。
「………どこか、行ったのか?」
ノウトが呟くと、それは虚空に溶けて消えて行った。何となく、もの寂しくて歩き出した。少し歩いたところに川があって、そこで誰かが座り込んでた。
泣いている。
洟をすする音が聞こえる。
「ラウラ?」
声をかけると、ラウラはびくっと身体を震わせてから、ごしごし目をこすった。それからこちらを振り向かずに、ただ一言。
「………なに?」
そう言葉にした。
その声を聞いて、声をかけたことを後悔した。ラウラは泣いていた。どうして泣いてたのか聞くのは無粋だろう。「大丈夫?」と声をかけるのも違う。ラウラが泣いているところなんて初めて見た。彼女は今まで他人に見せないだけで、ノウトの知らないところで泣いていたのだろうか。
ラウラが泣いている理由は多分、いや、絶対シャーファたちのことだ。シャーファも、ルーツァも、ミファナも、そしてフィーユも。ノウトと同じで、ラウラにとって大事なひとたちだったのだ。失うのがつらいのは当然だ。でも、どうしたらいい。俺は、どう声をかければいいんだろう。
なんて声をかけるのが正解なのか、遂には分からなかった。
ノウトは黙ってラウラの隣に座った。
ラウラは怪訝そうな目でノウトを見てから、ノウトと離れたところに座り直した。ノウトはそれに倣って、ラウラに近寄った。ラウラはもう一歩向こうに行く。ノウトもそれに着いていく。
ラウラは全力で変な奴を見る顔をノウトに向けてから立ち上がって、すたすたと離れて行った。
ノウトも同様に立ち上がり、ラウラの後ろを追いかける。
「もう!」
沈黙の戦いに痺れを切らしたラウラが足を止めて、声を張り上げた。
「なんなのアンタ! ダーシュごっこでもしてあたしをおちょくってるわけ!? ブッ飛ばすよほんとに!」
そう言ってノウトの胸を指でつついた。ラウラの目は潤んでいる。
「ごめん、違う」
ノウトはラウラから一歩離れた。
「なんて言えばいいのか、分からなかったんだ」
俯きながら言うと、ラウラは鼻を鳴らして、
「そ。ご心配どーも」
そう言って野営地に戻ろうとした。
どんどんラウラの背中が遠くなっていく。
……違うだろ。そうじゃないだろ。
何やってんだよ、俺。
泣いてるラウラにかける言葉が分からない? そんなのクソ喰らえだ。正解なんて、この世界にあるわけないだろ。
自分が言いたいことを言え。それが正解だ。
「ラウラ!」
ノウトは比較的大きな声で呼びかけた。ラウラは止まらない。
「俺さ、泣きたいときは泣いていいと思う!」
ノウトがそう言うと、ラウラは足を止めた。そして、振り返る。
「はぁ?」
ずんずんとラウラがこちらに歩いてきた。
「あたしが泣く? ありえないんですけど」
「いや、泣いてただろ」
「泣いてない」
「泣いてた」
「泣いてないっ」
「泣いてたよ」
「泣いてっ………!」
ラウラは目を瞑って、下を向いた。
「……ないよ、ばか」
ラウラは手で瞼を抑えた。その柔い手に涙が伝う。
「……あの子らを……守ってたつもりだったのに……いつの間にか手からこぼれ落ちてて。……あたしは、…姫失格だ」
その様子を見て、ノウトは微笑んだ。
「何笑ってんの、あほ。あほあほ」
ラウラは泣きながらノウトの胸を叩いた。
「ごめんごめん。その、さ」
ノウトはラウラのぽこぽことした攻撃を止めずに言った。
「ラウラも人間なんだなーって」
「はぁ? 意味わかんないんだけど」
「今回の遠征さ」
ノウトは星空を仰いだ。
「ラウラは来ないと思ってたんだ。きっと、彼らのことで長い間落ち込んでしまうと思ってたから。でも、ラウラは自分から参加するって言って。俺は、ラウラってやっぱり凄いなって思ったんだ。俺がラウラの立場だったらきっと無理だから」
「あたしが泣いてて失望した?」
「いや、もっと好きになった」
「はあぁっ!?」
ラウラは大きな目をさらにおおきくしてして、後ろに飛び退いた。
「………いやそういやアンタはそういうやつだった。いきなり来ると心臓に悪いからほんとやめてよね」
小声でぶつぶつ言ってるが、ノウトには聞こえなかった。
「ごめん、なんて?」
「きもいって言ったの」
「ひどくね!?」
「アンタ、誰彼問わずに好きって言って八方美人やるの、きもちわるいからやめな。ほんと吐き気催しって感じだから」
「いや」
ノウトはラウラの目を見た。
「ラウラはそう言うけど、言うて俺好きな人にしか好きって言ってないからな?」
「……えっ?」
「だから、道行く誰でも好きってわけじゃないよ、俺だって。当然嫌いになってしまう人もいる。でも、だからって殺すとかは、なし。したくない。それが俺の信条だから。言っとくけど、本当に好きなやつにだけだから。俺が好きって言うの。例えば、レンとかダーシュとか魔皇様とかロス先輩とかメフィとか……っていいだしたらキリがないな、これ。あと、俺が人に好きって言うのはそれが真の勇者っぽいかなって思ってのことだから勘違いしないでもらいたい」
まくし立てるように言うと、ラウラは数秒固まって、それから吹き出した。
「あはははははははははっっ!!」
「いや、笑うところ……?」
「アンタってほんとにばかだ」
ラウラは目尻に浮かぶ涙を拭いながら言った。
「まぁ、自覚はあるけど」
ノウトが言うとラウラはにっ、と笑ってノウトのことを見た。
「あたしもアンタのこと、好きだよ」
「……………………………………………」
ノウトは黙って口元を片手で覆う。
「どした?」
「…………………いや、……」
なんだ、これ。……言われる側めちゃくちゃ恥ずかしいじゃねぇか。
やばい。なんか死にたくなってきた。俺、今までこんなことやってたのかよ。
客観視できてなかった。
ずっと自己中心的な発想で自らの『真の勇者』を人に押し付けてたんだな、俺。
これからはもっと客観的にものごとを見ていこう。そうだ。俯瞰するイメージ。それを頭に叩き込め。俯瞰。俯瞰。フカン。
「……ってあれ」
突然、ラウラがノウトの肩を叩いた。
「フウカじゃない?」
ラウラが遠くを見るように目を細める。その先をノウトも見る。
「……ほんとだ」
人影が月明かりの下、照らされている。
「レンもいるように見えるな」
「そうだね。二人なにしてんだろ」
「ちょい待て」
二人に向かって走り出そうとするラウラの肩を掴んで制止させる。
「様子がおかしい」
「へ?」
「観察してよう。今出るのはまずい」
「え、う、うん。分かった」
ノウトとラウラは低木に隠れるようにして彼らを観察するようにした。
「遠いし暗いしでよく見えないな。でもこれ以上近付いたらバレるし……」
「二人で何か話してるのかな。別に変には見えないけど」
「なにもこんな離れたところじゃなくて野営地で話せばいいだろ」
「ダーシュとかノウト起こすのが嫌だったんじゃない?」
「そうだったらいいが……」
ノウトとラウラが肩を並べてフウカとレンの様子を観察していると、話しているだけに見えた彼らに変化が見えた。
「レンがフウカの肩、つかんだ」
ラウラが状況を逐一口に出す。
「レンがフウカに顔を近づ…………」
ラウラが固まった。
「えっと……」
ノウトも同様に固まる。フウカもレンに顔を寄せている。
遠いし暗いしで本当によく見えないけど、あれは、そうだ。
あの二人、どう見ても───
「キス、してない……?」
「……俺も、そう見える」
フウカとレンが顔を近づけ合ってる。どう見ても、あれはやってしまってる。
あ、そういう。ふーん。まぁ、レンはイケメンだから、まぁそういうこともあるよね的なことはわからなくもない的な感じですけど。でも、フウカと知り合ったのは昨日一昨日くらいの話だし。なんか……展開早くない? いや、別にね。いいけどね。好きにしてって感じだけど。でも、なんか。仲間同士で、というか友達のそういうところ見るのって、凄い……やだな。正確には言えないけど、なんか、いやだ。
自然と、ノウトはラウラと目を合わせていた。ラウラは複雑な顔をしている。
なんだ、これ。
───めちゃくちゃきまずい!!
あんなの見たあとに普通の反応できないよ、普通。それに、ラウラと好きって言い合ったの思い出して、顔が熱い。あー、熱いなー。やばいなー。
「ま、まままぁ、そういうこともあるよねー」
ラウラは同様を隠せてない。いや、動揺か。同様ってなんだ。
「まぁ、あるよな、うん、あるあるー」
「なななにアンタ動揺してんのー? 全くお子ちゃまなんだからなー、ノウトは」
「いやラウラには言われたくないけどね!」
「う、うるさいなっ! ……ってあれ」
ラウラが前を向く。ノウトもそれにならって見ると、フウカとレンの姿がなくなっていた。おそらく、寝るために野営地に戻ったのだろう。
「……あたしたちも、もう寝よっか」
「……だな」
「あっ、寝るって変な意味じゃないからねっ」
………いや、変な意味って、どういう意味ですか、ラウラさん。
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