上 下
12 / 15

12. 影

しおりを挟む

    「もういいんじゃないのか?これくらい集めりゃ、娘が直々に取ってきたものなら毒も入ってないと思うから流石にどれか食べるだろ」
 「そうだね、ありがとう。ファクトって見た目によらず、本当、ポジティブで案外優しい人よね」

 私は色々と持ってくれているファクトに向かって言う。本当にこれについては感謝してる。それに、何より楽しかった。魚取りに木の実取り、壊したキンホルダーの代わりに、一緒に木で掘った桜型を二つ作った。ファクトは防衛の魔法が何故か凄く強くてまた同じような魔法を付けたらしい。私はそこまでの防衛魔法は使えないから、違う魔法を少しかけてあげた。

 満面の笑みで喜ぶ私の隣でファクトは珍しくぼーっと見つめ足が止まっている。何か失礼なことを言ったかしら?

 「どうしたの?」
 「…いや。それに、おじょー様、お父様に外出たことバレバレだけどどうせ考えてなかったんだろ?まぁ~どれほど怒られるのか目の前でみたいもんだなぁ」
 「あっ!」
 「フッ、ハハッ!まったく、なんにも考えてないんだな、おじょー様。その調子じゃ怒られるのも仕方ないな、ハハッ」

 私にはじめて手を叩いて大笑いを見せるファクト。でも、私には少し複雑。彼にここまでバカにされるなんて。確かにファクトは正しい…。いつだって。

 「ふん。でも、私だってこれでも色々考え─」
 「はいはい。それは他人の俺でも分かるさ。おじょー様のお父様だったら訳を話せば分かってもらえるだろうよ」
 「分かって貰えたらいいけど、今回は特に心配で…」
 「うん?何かあったのか?」

 立ち止まってしまった私にファクトはかなり珍しい優しい声を使って言った。彼の声にも驚いたものの、森の中、足を進める。私はファクトにサラッと元気に言ってみた。

 「私ね、一週間も会ってないの」
 「え?」
    「お父様と。倒れたって話を聞いてから、お父様の顔見れてないの。お兄様も忙しいし、お母様に聞いても教えてくれなくって…」
    「ふーん。まぁでも、誰も何も言ってないんなら最悪死んではないだろ?生きてるんだったらまたそのうち会えるし、そこまで心配しなくてもいいだろうよ」
    「そ、そう、だけど、せめて少しだけでもご飯くらい食べてくれたらいいなって思ってね。だから、だからね…」
   「おっ、おい…!」

   急に目から何かが零れ落ちた。私自身も驚き、慌ててファクトに見られないように顔を覆った。お父様が倒れた時を聞くのは、ずっと怖い。でも、今回のは何かいつもと違う気がした。こんな一週間も会えないなんてことはじめてだし。

   「おじょー様?」
   「やめて!来ないでッ!」
   「だ、大丈夫、か…?」
   「ご、ごめんね、ちょっと今…今…」
   「…」

   何故だかは分からないが咄嗟に叫んだ。けど、急な涙は止まらない。それに伴って後ろから近づいてくる足音と共に、頭から暖かいものが私を覆った。

   「これ…」
   「俺のコート。フードも付いてるし、もう乾いたし、その…ちょうどいいだろ?」
   「あ、ありがと」
   「ったく、一国のおじょー様がそんな服で、簡単に姿見せんなって前にも言っただろ?あと…その…悪かった。俺、そういう事よく分かんなくて…言い方酷かった…。えっと、だから…」

   ファクトはそっと後ろから囁くように、謝罪の言葉を放った。その言葉に深く胸が痛んだ。こんな話、ファクトも辛いこともあるだろうに、独りで胸の奥にしまい込んでるんだろうから。

   私は目を開けて、サッと振り返った。

   目の前には少し気まずそうにしているファクトの顔が─

   「おじょーッ、伏せろッ!!」




しおりを挟む

処理中です...