貪欲なシャボン玉

青木倫

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ウサギのお面

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チャイムの響きに起こされ、机の上を見ると、世界史の教科書が乱雑に置かれている。
三時間目は空腹と眠気によって簡単には集中できない時間帯だ。まだ、頭がふわふわと浮わついている気がする。今日の授業も、マンガで見たことある名前が黒板に書かれたところまでは覚えているが、その先はどうにも思い出せない。
頭を抱えながら、机の上で散乱している教科書を片付けていると、背中から声をかけられた。
「堺くん、また寝てたでしょ。ノート見るなら貸すけど?」
彼女は神田葵。学校が始まってすぐに行われた林間学校で、男子の部屋での会話でよく話題に挙がっていた人気だった女子だ。人気だったというのは、夏休みに何かあったのか、二学期の始業式から彼女に話しかける生徒を僕は見たことがない。それから彼女は時折僕に絡むようになった。「サンキュ。」
僕は短く謝辞を述べた。
黒板から、白いチョークの粉が舞ってきて、鼻がむず痒く感じた。

放課後に有くんを待つことは僕のなかで習慣化していた。
夏の暑さも少しずつ薄れ、待っている間に汗をかくことが無くなった。
徐々に赤く染まりかけている木々の向こうに手を振っている人が見える。有くんだ。
「すまん、今日も遅れてしまって。クラスの奴らの話を聞いてたら遅くなってしまって。」
有くんは弁解しながらこちらへ走ってきた。
秋らしい、少し冷ややかな木枯らしが不意に吹いてきた。
「気にしてないよ。」と一言返す。

小学四年生の時、この町に引っ越してきた僕には、一つ心配なことがあった。
だが、その心配も杞憂に終わった。
転校初日、前日に確認した通学路を覚束無い足取りで進んでいたところ、後ろから大きな手で優しく叩かれた。
「あれ?転校生かな?」
と、僕と同じくらいの身長の男子に話しかけられた。
慣れない土地だということと、突然のことで、動揺して、おろおろと狼狽していると、
「転校生だよね?」
と再度問われた。
そのままうじうじと三分くらい過ごしたと思う。心の整理を無理矢理つけ、小さく、ゆっくりと頷いた。
彼は満足したように大きく頷き、大きく口を開き、また話始めた。
「俺、高良有。お前は?何年生?」
二つの質問が同時に飛んできて、また狼狽えかけたが、何とか正気を保ち、返事を返した。
「堺政志。四年生。」
「えっ、ホント?じゃあ同い年だな。」
同学年ということで親近感が増したのか、学校に向かう途中、次々と語り出した。
学校ではサッカーが流行っていること、あるロボットアニメにみんな夢中になってること、先生を授業前に教室から閉め出すことが日課になってることなど。それらをひとしきり話終わったあと、大きく息を吸い込んで、一呼吸おいて、有くんは話し始めた。
「でもな、最近、そんなことが、なんか、幼いことみたいに感じてきたんだよ。そう思ったときから、昨日まで友達と思ってた奴らがまるで猿みたいに思えてきてさ。」
そうやって友達を罵っている有くんの顔には陰りが多く感じられた。
学校に着くと、さっきまで友達を嘲ていた人と同じ人物とは思えないような笑顔を振りまきながら、有くんは僕が転校生だということ、みんな仲良くしてくれってことをすべてのクラスにまわって話してくれた。
その顔の変化を感じたとき、僕は有くんに一生ついていこうと決めた。
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