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2.休日 彼女の過去
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「重い」
ㅤ目が覚めたら冨宇さんの下、言うなら彼女の下敷きになっていた。抜け出そうにも、彼女が重いので上手く抜け出せない。
ㅤやっと抜け出せた。多分三十分は余裕でかかったと思う。にしても、
「寝相悪すぎ。しかもちょっと重いし、これ自分以外だったら絶対アウトでしょ」
ㅤ起きていきなり疲れた体を無理やり起こし、自室へ戻る準備を始める。
「休日だからよかったけども。戻って朝メシだな。それじゃ、」
ㅤと、彼女の部屋を出て行った。大体朝の七時だった。
ㅤ哀良は戻ると早速朝食の準備を始めた。なにか作戦でもあるらしいのか、いつもより本気で作っている。
「朝メシくらいなら」
ㅤあの人に優しい味付けを必死に作っている。あの感じじゃ多分食生活も狂ってそうだと思ったからだ。これが彼の作戦の理由だ。
「まあ朝くらい薄味でもなんら問題ない」
ㅤ彼もあまり朝から濃いものを食べるのがあまり好きではないということもあるが。
ㅤということで、哀良特製の薄味の粥が完成。朝はこれに限るらしい。毎度の通り、うまい。やっぱりこれに落ち着いちゃう。で、食べてる途中で予想通り、
「「ガチャ」」
ㅤほら来た。
「おっ」
「まっ、入ってくださいよ」
ㅤ哀良はこれを狙っていた。なんもできないクソ人間なら、誰かの朝食を盗みに来そう、とかいう考えだ。冨宇さん、まじですまない。
「なんか作ってるじゃん、いいなぁこれ、食べていい?」
「まあ、いいですけど。丁度多く作りすぎたのでもしよろしければ」
「やったぁ」
ㅤと同時に哀良は丼に粥を入れ、ちょっと小さめの匙と一緒にそれを彼女に差し出した。お味の方はというと、
「うすい。でも朝はこんくらいの薄さでいいかも。満点」
ㅤなんか高評価を貰ったんだが。自分の料理を評価してくれるとちょっと嬉しい。
「てゆぅか、普通にくだけた会話で話してもいいんだよ?」
ㅤ自分でも年上である冨宇さんにタメなんてどうかと思うが、ここは空気を読んで、
「わかった」
ㅤとだけ言っておいた。
「あ、鍵だけは閉めさせてもらうから」
ㅤと、哀良は部屋の鍵を閉めに行く。戻ってきて早速冨宇が、
「ふーん?」
ㅤと、何かを察したかのように言ってきたので、
「何?」
ㅤと返したら、
「別に何にもしないからね?」
ㅤまあ予想通りではあった。別に冨宇さんとは昨日会ったばかりだしいきなりそういう仲まではいかないだろう、とは思っているけれど。
「別に期待なんてしていないから。そう」
「なるほどね…それじゃあ」
「…え」
「ちょっとおいで」
ㅤあのー、なんでそうなるんですか。
「いいからおいで」
ㅤ仕方なく冨宇さんの言う通りにしてみた。あの今朝の感じでくるかとおもったら、
ㅤまあそんな感じできたわな。だってあの人、急に抱きついてくるもん。
「え…え!?なになになになn…」
「今までひとりだったから、その分のね」
ㅤ過去に何かあったのかと彼女に問うてみる。
「実はね」
ㅤ冨宇さんは高校入学とともに両親に完全に見放された。昔から家庭環境が最悪だったとのことで、親の愛情というものを全く知らずに生きてきた。勿論、愛情のふりまき方というのも。まあ、というわけで、そんな彼女ではあったが、彼女には当時勉強という両親から全く評価されていなかったという武器が唯一あった。自分にはこれが向いているんだ、という強い思いがあり、更に、将来自分が困らないように勉強していろいろなことを知りたいという強い信念もあった。中三の夏。自分がそろそろ親に捨てられるだろうと思い始めた頃。自分の唯一の長所を生かしたいと高校を探していたが、経済的な問題が彼女を悩ませる。そんな時彼女に希望を与えたのが当時の担任から特待生制度を使わないかと言われたこと。勿論、彼女がこれを断るわけがなかった。その審査を受けた彼女は見事合を貰い、都内の私立新学校へと通うこととなった。その頃にはもう今のマンションにいたらしい。合格がわかってすぐここに越してきたとのこと。ちなみに高校生活は親がいないだけでかなり楽ができたとのこと。アルバイトも楽しかったし、全てが楽しかったとのこと。ちなみに彼女はこの後、都内でも難関である大学に進学したらしい。大学でも必死に勉強していたが、もう勉強に疲れたので、卒業して現在は見ての通りだらけた生活?を送っている。
「すごい人だと思う」
「そうなのかぁ。あの時はあまり意識してなかったなぁ」
「あとなんか申し訳ない気分」
「え?」
「なんか、見た目で人を判断しちゃうのって。実際冨宇さんだってだるそうに見えるけど実はデキる人だって」
「そう」
「あの」
「ん?」
「それじゃ今の仕事って」
「あー。実はね、こう見えてゲーム開発してるの。ほら、今まで学の方の勉強漬けだったからゲーム知らなくて。大学入ってから少しずつゲーム勉強してきた」
ㅤ哀良は何も言い返せなかった。ただ、凄い、としか言うことができなかった。そんな彼を冨宇が慰める。昨日と立場が逆転してしまった。まあでも。これが彼女にとっての成長なら、哀良は喜んでいるし、それを確信していた。
ㅤ目が覚めたら冨宇さんの下、言うなら彼女の下敷きになっていた。抜け出そうにも、彼女が重いので上手く抜け出せない。
ㅤやっと抜け出せた。多分三十分は余裕でかかったと思う。にしても、
「寝相悪すぎ。しかもちょっと重いし、これ自分以外だったら絶対アウトでしょ」
ㅤ起きていきなり疲れた体を無理やり起こし、自室へ戻る準備を始める。
「休日だからよかったけども。戻って朝メシだな。それじゃ、」
ㅤと、彼女の部屋を出て行った。大体朝の七時だった。
ㅤ哀良は戻ると早速朝食の準備を始めた。なにか作戦でもあるらしいのか、いつもより本気で作っている。
「朝メシくらいなら」
ㅤあの人に優しい味付けを必死に作っている。あの感じじゃ多分食生活も狂ってそうだと思ったからだ。これが彼の作戦の理由だ。
「まあ朝くらい薄味でもなんら問題ない」
ㅤ彼もあまり朝から濃いものを食べるのがあまり好きではないということもあるが。
ㅤということで、哀良特製の薄味の粥が完成。朝はこれに限るらしい。毎度の通り、うまい。やっぱりこれに落ち着いちゃう。で、食べてる途中で予想通り、
「「ガチャ」」
ㅤほら来た。
「おっ」
「まっ、入ってくださいよ」
ㅤ哀良はこれを狙っていた。なんもできないクソ人間なら、誰かの朝食を盗みに来そう、とかいう考えだ。冨宇さん、まじですまない。
「なんか作ってるじゃん、いいなぁこれ、食べていい?」
「まあ、いいですけど。丁度多く作りすぎたのでもしよろしければ」
「やったぁ」
ㅤと同時に哀良は丼に粥を入れ、ちょっと小さめの匙と一緒にそれを彼女に差し出した。お味の方はというと、
「うすい。でも朝はこんくらいの薄さでいいかも。満点」
ㅤなんか高評価を貰ったんだが。自分の料理を評価してくれるとちょっと嬉しい。
「てゆぅか、普通にくだけた会話で話してもいいんだよ?」
ㅤ自分でも年上である冨宇さんにタメなんてどうかと思うが、ここは空気を読んで、
「わかった」
ㅤとだけ言っておいた。
「あ、鍵だけは閉めさせてもらうから」
ㅤと、哀良は部屋の鍵を閉めに行く。戻ってきて早速冨宇が、
「ふーん?」
ㅤと、何かを察したかのように言ってきたので、
「何?」
ㅤと返したら、
「別に何にもしないからね?」
ㅤまあ予想通りではあった。別に冨宇さんとは昨日会ったばかりだしいきなりそういう仲まではいかないだろう、とは思っているけれど。
「別に期待なんてしていないから。そう」
「なるほどね…それじゃあ」
「…え」
「ちょっとおいで」
ㅤあのー、なんでそうなるんですか。
「いいからおいで」
ㅤ仕方なく冨宇さんの言う通りにしてみた。あの今朝の感じでくるかとおもったら、
ㅤまあそんな感じできたわな。だってあの人、急に抱きついてくるもん。
「え…え!?なになになになn…」
「今までひとりだったから、その分のね」
ㅤ過去に何かあったのかと彼女に問うてみる。
「実はね」
ㅤ冨宇さんは高校入学とともに両親に完全に見放された。昔から家庭環境が最悪だったとのことで、親の愛情というものを全く知らずに生きてきた。勿論、愛情のふりまき方というのも。まあ、というわけで、そんな彼女ではあったが、彼女には当時勉強という両親から全く評価されていなかったという武器が唯一あった。自分にはこれが向いているんだ、という強い思いがあり、更に、将来自分が困らないように勉強していろいろなことを知りたいという強い信念もあった。中三の夏。自分がそろそろ親に捨てられるだろうと思い始めた頃。自分の唯一の長所を生かしたいと高校を探していたが、経済的な問題が彼女を悩ませる。そんな時彼女に希望を与えたのが当時の担任から特待生制度を使わないかと言われたこと。勿論、彼女がこれを断るわけがなかった。その審査を受けた彼女は見事合を貰い、都内の私立新学校へと通うこととなった。その頃にはもう今のマンションにいたらしい。合格がわかってすぐここに越してきたとのこと。ちなみに高校生活は親がいないだけでかなり楽ができたとのこと。アルバイトも楽しかったし、全てが楽しかったとのこと。ちなみに彼女はこの後、都内でも難関である大学に進学したらしい。大学でも必死に勉強していたが、もう勉強に疲れたので、卒業して現在は見ての通りだらけた生活?を送っている。
「すごい人だと思う」
「そうなのかぁ。あの時はあまり意識してなかったなぁ」
「あとなんか申し訳ない気分」
「え?」
「なんか、見た目で人を判断しちゃうのって。実際冨宇さんだってだるそうに見えるけど実はデキる人だって」
「そう」
「あの」
「ん?」
「それじゃ今の仕事って」
「あー。実はね、こう見えてゲーム開発してるの。ほら、今まで学の方の勉強漬けだったからゲーム知らなくて。大学入ってから少しずつゲーム勉強してきた」
ㅤ哀良は何も言い返せなかった。ただ、凄い、としか言うことができなかった。そんな彼を冨宇が慰める。昨日と立場が逆転してしまった。まあでも。これが彼女にとっての成長なら、哀良は喜んでいるし、それを確信していた。
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