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01 弔いの口付け
しおりを挟む「はぁっ……はっ、あ……」
組み敷いた肢体が、いっそ哀れなほどに震えている。
私の上衣を遠慮がちに掴む手は、身体の奥を暴かれる痛みを堪えるためと言うよりも、この世界にしがみつくためにこそ藻掻いているように見えた。
大丈夫か、などと言う問いを落とす気はなかった。
ただ滑らかな額に唇を寄せて、どうか少しでも彼の心が安らげば良いと、労るように触れるだけの接吻を落とす。
「団、長……おれ、初めてじゃ、ないですから……そんなに優しく、しないで……っ」
まだあどけなさの残る瞳が、不安と熱を閉じ込めた色に揺れている。
その頼りない幼さを感じさせる肢体とは裏腹に、先刻から湿った音を立てて私の指を呑み込んでいるそこは、彼の言葉通り男を受け入れ慣れているように見えた。
ぐちゅりと音を立てて指を引き抜けば、かすかな喘ぎ声と共にビクリと身体が跳ねる。
カチャカチャと手早くベルトを外してズボンを下ろし、ずるりと引き出された私の屹立に、ほぅと安堵するような吐息が耳に届いた。
新兵を抱くのは、初めてのことではなかった。
死を目前にして彼らが求めるのは、愛でも欲でもなく生の実感なのだと言うことを、私は良く知っていた。だからこそ『抱いてくれ』と請われて拒む理由はなかった。
彼らは耳にした『噂』に半信半疑で、震える声と拳で私の部屋の戸を叩き、この手で身体を暴かれても未だ不安に揺れ、自身と同じ生き物の証である生々しい逸物を見て初めて安堵の息を漏らす。
「団長も、勃ってる……」
かすれた声で呟き、ごくりと唾を呑み込んだ少年の頬を撫でて、外気に触れてヒクつく後孔に自身の物をあてがった。
「……力を抜け、ノルン」
私の声に、今更ながら耳を紅く染めてコクコクと頷いたノルンは、浅く息を吐き出して私の目を見据えた。
「っく、んぅ……あぁあっ……」
慣れている、とは言え本来ならば何かを受け入れるための場所でないそこはやはり狭く、押し戻すように……それでいて奥へと引き込むように熱くうねる。
苦悶と快感から溺れるように空を掻く指先を捕まえ、真白いシーツの海に縫い止める。
喉をそらせて、はくはくと息を漏らす姿に、一度抜くべきかと腰を引く。
初めてだとか、そうでないとか、そんなものは関係なしに、出来るだけ優しくしてやりたかった。
「その、まま……っ」
ふるふると首を横に振り、引き止めるように私の手を握り返す指先に目を細め、お前がそう言うならと覆いかぶさるようにして彼の奥まで押し込んだ。
「いっ、あぁぁああっ」
ごり、と言う感覚と共に、嬌声をあげてノルンが私の指先にしがみつく。
宙空で視線が交わり、彼のまろいヘーゼルナッツの瞳からひとしずくの涙が零れた。
そっとそれを拭ってやれば、何かの線が切れたかのように後から後からぼろぼろと泣き出すノルンに、私は浅く息を吐いて彼を膝の上に抱き上げた。
「だん、ちょ……ごめん、なさいっ……俺、おれっ……」
「良く、分かる……構わん」
抱き締めて、はちみつ色の柔らかな髪を撫ぜれば、その喉奥から引きつれるような嗚咽が漏れる。肩口を濡らす熱い雫に、まだ彼が生きている温度を感じた。
「俺のこと、忘れないで……くれますか」
「……忘れるはずもない。大切な部下だ」
囁くように告げれば、おずおずと私の首の後ろに細い腕が回された。その行為に応えるようにして抱き竦めた薄い背中から、直に心臓の鼓動がこの手に響く。
「貴方と戦えて、光栄でした……っ」
「ああ」
お前を誇りに思う、と。
私のために、死んでくれと。
ついぞ最後まで、生きろと告げてやることは出来なかった。
*
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