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四冊目 りんごあめと白雪王子 ~絶対恋愛関係にならない二人の最後の夏休み
元気になってほしくて……⑤
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旅行計画のための下準備は欠かせない。
受験勉強もそっちのけで、練りに練った何パターンもの行程をスケジュール帳にしたためながら、勝行は毎日光の病室に通い詰めた。
夜の病室を怖がって眠れない時は、時折宿泊もした。
添い寝とまではいかなくても、手をつないであげるだけでも安心するのか、光はすんなり寝ることができるらしい。
時々は「歌って」と強請られたり、「キスして」と甘えられたりすることもあるけれど、勝行がほぼ終日ずっと傍にいるおかげか、ピアノを毎日弾いて遊べるほどには体調もすこぶる良くなった。
おかげで主治医には、
「勝行くんさ、もう宿泊申請毎回出さなくてもいいよ。いてくれた方が夜中の発作も出ないし、助かるなぁ」
などと言われてしまい、看護師たちには
「二人ともほんと仲いい兄弟ね。夏休みは勝行くんがいてくれてよかったわね、光くん」
と方々から言われ、そのたびに自慢げにドヤ顔する光の隣に立つのが少々恥ずかしかったぐらいだ。すっかり元気になった光に手を引かれながら病院のあちこちを探検し、うっかり夕食に間に合わなくて怒られたことも。
「この調子だと確実にお盆明けには退院できそうだね」
主治医に太鼓判を押され、やる気に満ちて宿題もどんどん終わらせてしまった光を見ながら、勝行は旅行行程を少しずつ精査して、最終案を決めつつあった。
もちろん、運転免許もあっという間に取得済みだ。一発試験は難しいと聞いていたが、勝行にとってはあまり造作もないことだった。難しいなと感じたのは、操作する車体によって距離感が若干つかめなくなることぐらいだったが、ありとあらゆるSPたちの車を借りて路上練習することでそれもあっさりクリアした。
「晩御飯、外で食べてくるよ」
「ん」
光がピアノを夢中で演奏している間にそう告げると、勝行は片岡を連れて近くのレストランに入った。
「よかったですね、この調子だと退院も早そうで」
「そうですね」
そんな他愛のない会話をしながら、二人は案内された席に向かい合って座り、互いに食事内容を決めて注文も通していた。
「あ、そうだ片岡さん、うちの別荘に行くためのルートを教えてもらってもいいですか」
「はい……あ、群馬の別荘までドライブですか。光さんもご一緒ですか、それはいいことですね。私もお供しますよ?」
察しのいいこの男は、一言聞いただけで三つ以上の予測回答と対応が返ってくる優秀な父の側近だ。だがしかし、最後の気遣いが勝行にとっては蛇足のサービスであった。
「片岡さんは留守番です」
「……えっ?」
勝行は出たままのメニュー表を片付けつつ、片岡の顔を見ないまま何食わぬ顔で警告を告げる。その声はあまりよそ行きではない、身内向けの冷酷なトーンだ。
「何仰ってるんですか。これは片岡さんの夏季休暇でもあるんですよ。片岡さんご自身、就労契約通りちゃんと休日を取得してください。でないと労基法違反で、相羽家が検挙されてしまいます。それでもいいと……?」
「あ……い、いやしかし……」
突然の警告に狼狽える片岡は、一層心配そうな表情でこちらを見つめる。
「プ、プライベートでの同行でも一向に構いませんが」
「だめですよ。私生活まで面倒みてくださるのはありがたいことですが、それでは片岡さんの休暇になりません」
ここ最近の自分たちは平和に過ごしている。それでも油断は大敵だ。いつまた誘拐されたり、命を狙われるかもしれない二人を心配をしてくれる気持ちはわかるのだが、片岡の場合はそれの度を越してもはや「保護者」の領域で二人を見守っているのがたまに傷である。
「わ……わかりました……」
分かりやすく肩をがっくりと落とす片岡は、怒られてしょげる光にどこか似ていた。光より俄然ガタイもよく、かっちりとした黒スーツに身を固めた三十九歳のおじさんが、十八歳の少年に説教されて背中にドロドロしたものを背負っている姿は、正直かわいいなと言えなくもない。
そんなに落ち込まなくても、と肩を震わせ鼻で笑うと、勝行は「安心してください」と笑顔を見せた。
「ドライブがてら、別荘に行くだけです。療養目的なんで、一泊だけですし、あそこには住み込みで別のお手伝いさんがいらっしゃいますから……」
そう、片岡以外の相羽家スタッフがいる場所に行くだけだ。これなら父親も「SPをつれていけ」とまでは言わないだろうという確信があった。念入りに立てたこの計画、実家の大人たちに台無しにされるわけにはいかないのだ。
極めつけに片岡が何か喜びそうなことを聞けば、この説得も完了する。ここまですべて計算済みの勝行は、アイドル向けと言われた最強の作り笑顔を披露してとどめを刺した。
「ああ、せっかくなんで、片岡さんのおすすめのレストランも、教えてもらえませんか。できたら、初心者マークの車で行けるところがいいです」
旅行計画のための下準備は欠かせない。
受験勉強もそっちのけで、練りに練った何パターンもの行程をスケジュール帳にしたためながら、勝行は毎日光の病室に通い詰めた。
夜の病室を怖がって眠れない時は、時折宿泊もした。
添い寝とまではいかなくても、手をつないであげるだけでも安心するのか、光はすんなり寝ることができるらしい。
時々は「歌って」と強請られたり、「キスして」と甘えられたりすることもあるけれど、勝行がほぼ終日ずっと傍にいるおかげか、ピアノを毎日弾いて遊べるほどには体調もすこぶる良くなった。
おかげで主治医には、
「勝行くんさ、もう宿泊申請毎回出さなくてもいいよ。いてくれた方が夜中の発作も出ないし、助かるなぁ」
などと言われてしまい、看護師たちには
「二人ともほんと仲いい兄弟ね。夏休みは勝行くんがいてくれてよかったわね、光くん」
と方々から言われ、そのたびに自慢げにドヤ顔する光の隣に立つのが少々恥ずかしかったぐらいだ。すっかり元気になった光に手を引かれながら病院のあちこちを探検し、うっかり夕食に間に合わなくて怒られたことも。
「この調子だと確実にお盆明けには退院できそうだね」
主治医に太鼓判を押され、やる気に満ちて宿題もどんどん終わらせてしまった光を見ながら、勝行は旅行行程を少しずつ精査して、最終案を決めつつあった。
もちろん、運転免許もあっという間に取得済みだ。一発試験は難しいと聞いていたが、勝行にとってはあまり造作もないことだった。難しいなと感じたのは、操作する車体によって距離感が若干つかめなくなることぐらいだったが、ありとあらゆるSPたちの車を借りて路上練習することでそれもあっさりクリアした。
「晩御飯、外で食べてくるよ」
「ん」
光がピアノを夢中で演奏している間にそう告げると、勝行は片岡を連れて近くのレストランに入った。
「よかったですね、この調子だと退院も早そうで」
「そうですね」
そんな他愛のない会話をしながら、二人は案内された席に向かい合って座り、互いに食事内容を決めて注文も通していた。
「あ、そうだ片岡さん、うちの別荘に行くためのルートを教えてもらってもいいですか」
「はい……あ、群馬の別荘までドライブですか。光さんもご一緒ですか、それはいいことですね。私もお供しますよ?」
察しのいいこの男は、一言聞いただけで三つ以上の予測回答と対応が返ってくる優秀な父の側近だ。だがしかし、最後の気遣いが勝行にとっては蛇足のサービスであった。
「片岡さんは留守番です」
「……えっ?」
勝行は出たままのメニュー表を片付けつつ、片岡の顔を見ないまま何食わぬ顔で警告を告げる。その声はあまりよそ行きではない、身内向けの冷酷なトーンだ。
「何仰ってるんですか。これは片岡さんの夏季休暇でもあるんですよ。片岡さんご自身、就労契約通りちゃんと休日を取得してください。でないと労基法違反で、相羽家が検挙されてしまいます。それでもいいと……?」
「あ……い、いやしかし……」
突然の警告に狼狽える片岡は、一層心配そうな表情でこちらを見つめる。
「プ、プライベートでの同行でも一向に構いませんが」
「だめですよ。私生活まで面倒みてくださるのはありがたいことですが、それでは片岡さんの休暇になりません」
ここ最近の自分たちは平和に過ごしている。それでも油断は大敵だ。いつまた誘拐されたり、命を狙われるかもしれない二人を心配をしてくれる気持ちはわかるのだが、片岡の場合はそれの度を越してもはや「保護者」の領域で二人を見守っているのがたまに傷である。
「わ……わかりました……」
分かりやすく肩をがっくりと落とす片岡は、怒られてしょげる光にどこか似ていた。光より俄然ガタイもよく、かっちりとした黒スーツに身を固めた三十九歳のおじさんが、十八歳の少年に説教されて背中にドロドロしたものを背負っている姿は、正直かわいいなと言えなくもない。
そんなに落ち込まなくても、と肩を震わせ鼻で笑うと、勝行は「安心してください」と笑顔を見せた。
「ドライブがてら、別荘に行くだけです。療養目的なんで、一泊だけですし、あそこには住み込みで別のお手伝いさんがいらっしゃいますから……」
そう、片岡以外の相羽家スタッフがいる場所に行くだけだ。これなら父親も「SPをつれていけ」とまでは言わないだろうという確信があった。念入りに立てたこの計画、実家の大人たちに台無しにされるわけにはいかないのだ。
極めつけに片岡が何か喜びそうなことを聞けば、この説得も完了する。ここまですべて計算済みの勝行は、アイドル向けと言われた最強の作り笑顔を披露してとどめを刺した。
「ああ、せっかくなんで、片岡さんのおすすめのレストランも、教えてもらえませんか。できたら、初心者マークの車で行けるところがいいです」
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