43 / 106
四冊目 りんごあめと白雪王子 ~絶対恋愛関係にならない二人の最後の夏休み
光の小さな決意と、キスと……③
しおりを挟む
**
景色が目まぐるしく変わる世界。
見たこともない、不思議な街並み。
だんだん見えてくる田舎じみた緑一面の景色は、どこか懐かしさを覚える気がして、光はいつまでも外を見つめたり、窓を開けて顔にぶち当たる風を楽しんでいた。
いつも後部座席でただ送迎してもらっていただけの同じ道を行き来するドライブではない。
知らない道。知らない街。
そして、壮大な山々の景色。
見るものすべてが真新しくて、楽しい。
山道に差し掛かかると、すれ違う車も徐々に少なくなってくる。
カーステレオから流れてくるのは、自分たちが作った初めてのアルバムCD曲。まだ発売前のデモ音源を音楽プレイヤーに入れて、勝行が再生してくれたものだ。勝行の歌声が、光のピアノが次々と流れるたび、光の指も一緒になって膝の上を飛び跳ねる。
「アルバムアレンジ、結構いい感じにできてんじゃん」
「ああ、でもさ、ドライブで聴くんだったら、ここのアレンジはもうちょっとテンポ上げてもよかったかも」
「じゃ、今度のライブでやろうぜ」
「そうだね。あ、もう着くよ」
カーナビで目的地を何度か確認しながら、迷わずなんとか目的地にたどり着くことができた。勝行はスピードを緩めながら慎重に駐車場内に車を停める。小高い山の中腹にある小さな山荘に、他の客は見当たらなかった。
砂利道に降り立ち、山の空気をめいっぱい肺に吸い込むと、光は楽しそうにあたりをきょろきょろ見渡し、街が一望できる丘を見つけて飛び出していった。
「うわ……すげえ、こんなに高いとこまで登ってきたのか」
「意外と早く着いたね」
腕時計を確認しながら、勝行も後を追うようにやってきた。
「海まで見える……ビルがちっせえ……」
「うん」
「風、気持ちいいなあ……」
「そうだね」
「俺らの家、全然わかんねえな」
「逆にわかったらすごいよ」
感動の言葉ばかり述べる光を愛おしそうに見つめる勝行の視線の先にあるものは、壮大な景色ではなく、楽し気にあちこち見て回る光の姿ばかりだ。
「あ、今日お祭りがあるのは、この山のふもとだから、もっと手前の下の方。見える?」
「んん……よくわかんねえな……そこまでどうやっていくの」
「お前の体調を考えると車移動かな。まあでも、歩けない距離ではないよ。山の中を通れば20分くらいかな」
別荘には予想よりも早く着いた。目的地までの往復を兼ねてのんびり散歩するにはちょうどいい距離でもあった。
「へえ……じゃあ歩こう!」
「大丈夫か?」
「平気平気、俺こういうとこ歩いてみたかったんだ」
ぶっちゃけた話、森林浴も光の療養のために考えた計画の一つだ。散歩が好きな光が嬉々として徒歩を選ぶのも予想の範疇内だったようで、勝行は優しく光の頭を撫でながら、この後の予定を順を追って説明した。
「じゃあ、一旦別荘に入って、浴衣に着替えて、それから行こう。ほら、せっかくだから、この前撮影の仕事でもらった浴衣、片岡さんが入れといてくれたんだ。あれ着ていこう」
「ああ……お前が白で、俺が黒のやつ?」
夏休み前の仕事でファーストアルバムのジャケット撮影があった。着せ替え人形のようにあれこれ着替えさせられたが、その時新曲用衣装として着用したデザイナーズ浴衣を記念にもらったのだが、ちゃんとスーツカバーに入れた状態で後部座席にぶら下がっていた。それは吸水速乾に優れた特殊な綿生地を使っているらしく、真夏の山道を散策するにはちょうどいいらしい。
「そう。下駄で山道はさすがに危ないけど、まああの浴衣だったらスニーカーで行っても変じゃないと思うんだ」
「ふーん。なんかよくわかんねえから、お前に任せる」
「ん、わかった。じゃあ行こう」
犬みたいに撫でられた頭を嫌がることもなく、気持ちよさげに受け入れた光は、勝行の後について歩きだした。
景色が目まぐるしく変わる世界。
見たこともない、不思議な街並み。
だんだん見えてくる田舎じみた緑一面の景色は、どこか懐かしさを覚える気がして、光はいつまでも外を見つめたり、窓を開けて顔にぶち当たる風を楽しんでいた。
いつも後部座席でただ送迎してもらっていただけの同じ道を行き来するドライブではない。
知らない道。知らない街。
そして、壮大な山々の景色。
見るものすべてが真新しくて、楽しい。
山道に差し掛かかると、すれ違う車も徐々に少なくなってくる。
カーステレオから流れてくるのは、自分たちが作った初めてのアルバムCD曲。まだ発売前のデモ音源を音楽プレイヤーに入れて、勝行が再生してくれたものだ。勝行の歌声が、光のピアノが次々と流れるたび、光の指も一緒になって膝の上を飛び跳ねる。
「アルバムアレンジ、結構いい感じにできてんじゃん」
「ああ、でもさ、ドライブで聴くんだったら、ここのアレンジはもうちょっとテンポ上げてもよかったかも」
「じゃ、今度のライブでやろうぜ」
「そうだね。あ、もう着くよ」
カーナビで目的地を何度か確認しながら、迷わずなんとか目的地にたどり着くことができた。勝行はスピードを緩めながら慎重に駐車場内に車を停める。小高い山の中腹にある小さな山荘に、他の客は見当たらなかった。
砂利道に降り立ち、山の空気をめいっぱい肺に吸い込むと、光は楽しそうにあたりをきょろきょろ見渡し、街が一望できる丘を見つけて飛び出していった。
「うわ……すげえ、こんなに高いとこまで登ってきたのか」
「意外と早く着いたね」
腕時計を確認しながら、勝行も後を追うようにやってきた。
「海まで見える……ビルがちっせえ……」
「うん」
「風、気持ちいいなあ……」
「そうだね」
「俺らの家、全然わかんねえな」
「逆にわかったらすごいよ」
感動の言葉ばかり述べる光を愛おしそうに見つめる勝行の視線の先にあるものは、壮大な景色ではなく、楽し気にあちこち見て回る光の姿ばかりだ。
「あ、今日お祭りがあるのは、この山のふもとだから、もっと手前の下の方。見える?」
「んん……よくわかんねえな……そこまでどうやっていくの」
「お前の体調を考えると車移動かな。まあでも、歩けない距離ではないよ。山の中を通れば20分くらいかな」
別荘には予想よりも早く着いた。目的地までの往復を兼ねてのんびり散歩するにはちょうどいい距離でもあった。
「へえ……じゃあ歩こう!」
「大丈夫か?」
「平気平気、俺こういうとこ歩いてみたかったんだ」
ぶっちゃけた話、森林浴も光の療養のために考えた計画の一つだ。散歩が好きな光が嬉々として徒歩を選ぶのも予想の範疇内だったようで、勝行は優しく光の頭を撫でながら、この後の予定を順を追って説明した。
「じゃあ、一旦別荘に入って、浴衣に着替えて、それから行こう。ほら、せっかくだから、この前撮影の仕事でもらった浴衣、片岡さんが入れといてくれたんだ。あれ着ていこう」
「ああ……お前が白で、俺が黒のやつ?」
夏休み前の仕事でファーストアルバムのジャケット撮影があった。着せ替え人形のようにあれこれ着替えさせられたが、その時新曲用衣装として着用したデザイナーズ浴衣を記念にもらったのだが、ちゃんとスーツカバーに入れた状態で後部座席にぶら下がっていた。それは吸水速乾に優れた特殊な綿生地を使っているらしく、真夏の山道を散策するにはちょうどいいらしい。
「そう。下駄で山道はさすがに危ないけど、まああの浴衣だったらスニーカーで行っても変じゃないと思うんだ」
「ふーん。なんかよくわかんねえから、お前に任せる」
「ん、わかった。じゃあ行こう」
犬みたいに撫でられた頭を嫌がることもなく、気持ちよさげに受け入れた光は、勝行の後について歩きだした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
マネージャー~お前を甲子園に連れて行ったら……野球部のエース♥マネージャー
夏目碧央
BL
強豪校の野球部に入った相沢瀬那は、ベンチ入りを目指し、とにかくガッツを認めてもらおうと、グランド整備やボール磨きを頑張った。しかし、その結果は「マネージャーにならないか?」という監督からの言葉。瀬那は葛藤の末、マネージャーに転身する。
一方、才能溢れるピッチャーの戸田遼悠。瀬那は遼悠の才能を羨ましく思っていたが、マネージャーとして関わる内に、遼悠が文字通り血のにじむような努力をしている事を知る。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる