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四冊目 りんごあめと白雪王子 ~絶対恋愛関係にならない二人の最後の夏休み
りんごあめ、ひとつ……④
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赤くて甘酸っぱい飴の、れろっと舐める部分が小さくなってきた頃。俺の舌が赤くなってきたなーとチラ見しながら、光は柔らかいりんごをしゃくりと齧った。
何も考えずに齧り続けていたら、芯にたどり着いたらしく、黒くて苦いものが口に入る。思わずそれを茂みにペッと吐き出し、辺りを見渡した。
まだ勝行は戻ってこないが、代わりになぜかこちらをジロジロ見つける女子軍団が。何人かは男も混じっている。
(……な、なんだ……?)
その数人と目があった途端、キャーッと黄色い声をあげられて思わず慄いた。
「ごめんお待たせ」
ちょうどその人混みをかいくぐって、勝行が戻ってくるところだった。手にはたこ焼きがいくつも入ったビニール袋を提げている。
「ちょっと混んでてさ……つーか何、この人だかり。お前、なんかしたの?」
「しらねーよ、飴食ってただけだし」
何もしてないのにあらぬ疑いをかけられ、光は思わず口を尖らせた。
だが勝行はすぐに察したらしく、呆れた様子でため息をつきながらぶつぶつと愚痴るようにぼやいた。
「ああ……わかった……。お前、無駄に色気振りまく食べ方してたから……」
「はあ? 何が」
「ねえねえ君たちさあ、WINGS?」
「あのアルバムのCMみたよ」
二人でこそこそと話している間を割るように、ギャラリーからとんでもない声があがって、勝行はぎょっと後ろを振り返った。
「えっ……」
「キャーやっぱり! 君、ボーカルの子でしょ」
快活そうな女の子が大声で叫ぶと、周りが一層ガヤガヤと騒ぎ出す。勝行の顔を見ただけで、本人だとわかったようだ。
「WINGSって、だれ?」
「知らないのぉ? 今めっちゃ本人映像のプロモーションビデオ流行ってんだよ、エロカッコイイやつ」
「ああ、じゃあアイドルだよな」
「えっ、バンドじゃないの」
次々と増えていくギャラリーに囲まれ、諸々察知した勝行は、買ってきてもらったたこ焼きの袋を手に取り、中身を検分しようとしていた光の腕をつかんだ。
「……ここはちょっと……逃げるしかなさそう。光、ちょっとだけ走れる?」
「ん? ああ……わかった」
なんとなく、勝行の言いたいことがわかった光は、たこ焼きを見るのを一旦やめ、小さく頷く。
それを確認した勝行は、改めてもう一度増えてきたギャラリーに向き直ると、いつもの営業スマイルではにかんだ。
「CM見てくれてありがとう、うれしいな」
「ふえっ」
一番前を陣取ったまま、じわじわと二人に詰め寄ってきていた女子四人組が、驚きのあまり黄色い声を上げる。完璧すぎる王子様スマイルに、その後ろにいた男性たちもつい見入ってしまう。
祭りの人混みの中からも、通りすがりの数人が、なんだなんだとこちらを振り返っていく。
「いい曲いっぱい作ったから、よかったら音楽も聴いてね」
「きゃあああ、きくーっ、絶対聴くよおおお!」
「やだカッコイイーッ」
あえて遠くの方にいる不特定多数の男女に向かって言ってみたものの、手前にいる女の子たちはすっかり勝行の虜になって歓声をあげている。サインをもらおうと思ったのか、慌ててかばんに手を突っ込む男性の奥に、いい感じの隙間を見つけた勝行は光の腕をぐいっと引いた。それが、スタートの合図。
「光、いくぞ」
小声で前を向いたまま呟くと同時に、二人は全力疾走でその場を抜け出した。とっさの行動に固まっていた女子軍団が、悲鳴のような黄色い声で騒ぎ出す。
「きゃああああっ」
「やだ、まってぇー!」
「じゃあねっ」
騒ぐギャラリーから猛スピードで離れつつ、勝行はもう一度だけ振り返って笑顔で手を挙げた。
赤くて甘酸っぱい飴の、れろっと舐める部分が小さくなってきた頃。俺の舌が赤くなってきたなーとチラ見しながら、光は柔らかいりんごをしゃくりと齧った。
何も考えずに齧り続けていたら、芯にたどり着いたらしく、黒くて苦いものが口に入る。思わずそれを茂みにペッと吐き出し、辺りを見渡した。
まだ勝行は戻ってこないが、代わりになぜかこちらをジロジロ見つける女子軍団が。何人かは男も混じっている。
(……な、なんだ……?)
その数人と目があった途端、キャーッと黄色い声をあげられて思わず慄いた。
「ごめんお待たせ」
ちょうどその人混みをかいくぐって、勝行が戻ってくるところだった。手にはたこ焼きがいくつも入ったビニール袋を提げている。
「ちょっと混んでてさ……つーか何、この人だかり。お前、なんかしたの?」
「しらねーよ、飴食ってただけだし」
何もしてないのにあらぬ疑いをかけられ、光は思わず口を尖らせた。
だが勝行はすぐに察したらしく、呆れた様子でため息をつきながらぶつぶつと愚痴るようにぼやいた。
「ああ……わかった……。お前、無駄に色気振りまく食べ方してたから……」
「はあ? 何が」
「ねえねえ君たちさあ、WINGS?」
「あのアルバムのCMみたよ」
二人でこそこそと話している間を割るように、ギャラリーからとんでもない声があがって、勝行はぎょっと後ろを振り返った。
「えっ……」
「キャーやっぱり! 君、ボーカルの子でしょ」
快活そうな女の子が大声で叫ぶと、周りが一層ガヤガヤと騒ぎ出す。勝行の顔を見ただけで、本人だとわかったようだ。
「WINGSって、だれ?」
「知らないのぉ? 今めっちゃ本人映像のプロモーションビデオ流行ってんだよ、エロカッコイイやつ」
「ああ、じゃあアイドルだよな」
「えっ、バンドじゃないの」
次々と増えていくギャラリーに囲まれ、諸々察知した勝行は、買ってきてもらったたこ焼きの袋を手に取り、中身を検分しようとしていた光の腕をつかんだ。
「……ここはちょっと……逃げるしかなさそう。光、ちょっとだけ走れる?」
「ん? ああ……わかった」
なんとなく、勝行の言いたいことがわかった光は、たこ焼きを見るのを一旦やめ、小さく頷く。
それを確認した勝行は、改めてもう一度増えてきたギャラリーに向き直ると、いつもの営業スマイルではにかんだ。
「CM見てくれてありがとう、うれしいな」
「ふえっ」
一番前を陣取ったまま、じわじわと二人に詰め寄ってきていた女子四人組が、驚きのあまり黄色い声を上げる。完璧すぎる王子様スマイルに、その後ろにいた男性たちもつい見入ってしまう。
祭りの人混みの中からも、通りすがりの数人が、なんだなんだとこちらを振り返っていく。
「いい曲いっぱい作ったから、よかったら音楽も聴いてね」
「きゃあああ、きくーっ、絶対聴くよおおお!」
「やだカッコイイーッ」
あえて遠くの方にいる不特定多数の男女に向かって言ってみたものの、手前にいる女の子たちはすっかり勝行の虜になって歓声をあげている。サインをもらおうと思ったのか、慌ててかばんに手を突っ込む男性の奥に、いい感じの隙間を見つけた勝行は光の腕をぐいっと引いた。それが、スタートの合図。
「光、いくぞ」
小声で前を向いたまま呟くと同時に、二人は全力疾走でその場を抜け出した。とっさの行動に固まっていた女子軍団が、悲鳴のような黄色い声で騒ぎ出す。
「きゃああああっ」
「やだ、まってぇー!」
「じゃあねっ」
騒ぐギャラリーから猛スピードで離れつつ、勝行はもう一度だけ振り返って笑顔で手を挙げた。
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