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四冊目 りんごあめと白雪王子 ~絶対恋愛関係にならない二人の最後の夏休み
おまけの後日談② ――ただいま
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ライブハウス「インフィニティ・シンジュク」では、長期休暇を取ってなかなか戻らないWINGSを待ちわびるファンとスタッフが、必ずと言っていいほど毎日溜息をついていた。
「ちょい、オーナー。注文間違えてっぞ」
「……」
「ちょっと、誰でもいいからオーナーつまみ出してー。裏でアイコッスでも咥えさせてー」
「あいよ」
バーカウンターでぼんやりしているおじさんこと、オーナー沢渡晃をとっ捕まえたカウンタースタッフの須藤健が、のんびり隅でハイボールを呷っていた強面の中年男・久我浩二に押し付ける。
注文ミスだらけでグラスを三つも無駄にしたらしい。須藤は「後始末が大変だっつーの」とぶちぶち文句を言いつつ、代わりに手際よく正規オーダーのカクテルやドリンクを作っていく。今日もなんだかんだでカウンターは忙しい。
「あーもう、光ぅ! 早く帰ってこーい!」
「お前さん何やってんの。奴らが来ないとほんっとダメだな」
灰皿を設置した屋外の喫煙エリア。久我は沢渡に向かって副流煙を盛大に吹きかけた。テメエ何しやがる、と対抗する沢渡からは、電子タバコのほの香る水蒸気。
「心配でしょうがねえんだよ、もうあいつら俺の息子みたいなもんだから」
「結婚すらしてねえくせに」
「うるせえ、結婚失敗したくせに」
久我は割と最近離婚したばかりだ。本人は清々しているらしく「別にんなこたどうでもいい」と二口目の煙草を肺に吸い込んだ。
「あいつ、もう退院したんだろ?」
「ああ。そのあとは勝行の運転で相羽家の別荘に行くとかなんとか、片岡さんが言ってたな。療養とか言ってたし、長居するんだろうか……」
「オーナー、久我さん。お疲れ様です」
「!?」
聞き覚えのある上品なハイトーンボイスが突如聴こえ、二人は思わず驚き振り返った。
「勝行!」
「光!」
そこには珍しくラフなTシャツ姿の二人が立っていた。休日の旅行を堪能した帰り、そのまま寄ってくれたのだろうか。普段高校の制服姿でやってくる二人とは違うその姿は、少し大人びて見えた。
「長いこと休ませていただいてすみません、なんとか元気になりました」
「オーナー、ただいま」
これ、お土産……と道の駅のビニール袋を差し出した光に飛びついた沢渡は、吸っていた電子煙草の本体も投げ捨てて伸びた髭を擦りつけた。
「おかえり、おかえり光……!」
「いっ、いたた、ヒゲいたいって、オーナー、なに、どうしたっ」
「元気になってよかった……よかったぞ!」
「なに……なんで泣いてんの?」
「泣いてねえ! こいつぁ、男の感動の再会ってやつだ!」
「えぇ……?」
不思議そうに首を傾げながらオーナーの抱擁と頬ずりを嫌がる光だが、まんざらでもない様子だ。久我は呆れた顔の勝行に肩を組みながら、お疲れと二人の夏休みをねぎらった。
「あのオッサンが役立たずで困って追い出されたとこだったんだよ。ナイスタイミング。光はもう復活できそうか?」
「ええ、多分。山荘で、アルバム一枚分全部歌わされるぐらいには元気でした」
「なんだそれ。お前ら、山でライブしてきたのか? 二人で?」
笑いながら質問する久我の優し気な笑顔を見返す勝行も、つられるように微笑んだ。
「俺たち、なんだかんだでやっぱり音楽バカなんで」
「だろうな、知ってるよ。ところで」
「はい?」
「光がまた一段と色っぽく見えるのは気のせいかな?」
「……!!!!!」
勝行の顔色がさっと変わる瞬間を見逃さなかった久我は、にんまりと悪い笑みを零した。百戦錬磨のゲイ、久我には何もかも筒抜けだ。その証拠に、光の後ろの首筋には大きく赤い花が今日も咲き乱れている。
「今度は悪いオヤジに持ってかれないよう、気をつけろよ? あそこの、お前らがいないとポンコツになるなさけないオッサンとかな」
両翼少年協奏曲 後半につづく★
「ちょい、オーナー。注文間違えてっぞ」
「……」
「ちょっと、誰でもいいからオーナーつまみ出してー。裏でアイコッスでも咥えさせてー」
「あいよ」
バーカウンターでぼんやりしているおじさんこと、オーナー沢渡晃をとっ捕まえたカウンタースタッフの須藤健が、のんびり隅でハイボールを呷っていた強面の中年男・久我浩二に押し付ける。
注文ミスだらけでグラスを三つも無駄にしたらしい。須藤は「後始末が大変だっつーの」とぶちぶち文句を言いつつ、代わりに手際よく正規オーダーのカクテルやドリンクを作っていく。今日もなんだかんだでカウンターは忙しい。
「あーもう、光ぅ! 早く帰ってこーい!」
「お前さん何やってんの。奴らが来ないとほんっとダメだな」
灰皿を設置した屋外の喫煙エリア。久我は沢渡に向かって副流煙を盛大に吹きかけた。テメエ何しやがる、と対抗する沢渡からは、電子タバコのほの香る水蒸気。
「心配でしょうがねえんだよ、もうあいつら俺の息子みたいなもんだから」
「結婚すらしてねえくせに」
「うるせえ、結婚失敗したくせに」
久我は割と最近離婚したばかりだ。本人は清々しているらしく「別にんなこたどうでもいい」と二口目の煙草を肺に吸い込んだ。
「あいつ、もう退院したんだろ?」
「ああ。そのあとは勝行の運転で相羽家の別荘に行くとかなんとか、片岡さんが言ってたな。療養とか言ってたし、長居するんだろうか……」
「オーナー、久我さん。お疲れ様です」
「!?」
聞き覚えのある上品なハイトーンボイスが突如聴こえ、二人は思わず驚き振り返った。
「勝行!」
「光!」
そこには珍しくラフなTシャツ姿の二人が立っていた。休日の旅行を堪能した帰り、そのまま寄ってくれたのだろうか。普段高校の制服姿でやってくる二人とは違うその姿は、少し大人びて見えた。
「長いこと休ませていただいてすみません、なんとか元気になりました」
「オーナー、ただいま」
これ、お土産……と道の駅のビニール袋を差し出した光に飛びついた沢渡は、吸っていた電子煙草の本体も投げ捨てて伸びた髭を擦りつけた。
「おかえり、おかえり光……!」
「いっ、いたた、ヒゲいたいって、オーナー、なに、どうしたっ」
「元気になってよかった……よかったぞ!」
「なに……なんで泣いてんの?」
「泣いてねえ! こいつぁ、男の感動の再会ってやつだ!」
「えぇ……?」
不思議そうに首を傾げながらオーナーの抱擁と頬ずりを嫌がる光だが、まんざらでもない様子だ。久我は呆れた顔の勝行に肩を組みながら、お疲れと二人の夏休みをねぎらった。
「あのオッサンが役立たずで困って追い出されたとこだったんだよ。ナイスタイミング。光はもう復活できそうか?」
「ええ、多分。山荘で、アルバム一枚分全部歌わされるぐらいには元気でした」
「なんだそれ。お前ら、山でライブしてきたのか? 二人で?」
笑いながら質問する久我の優し気な笑顔を見返す勝行も、つられるように微笑んだ。
「俺たち、なんだかんだでやっぱり音楽バカなんで」
「だろうな、知ってるよ。ところで」
「はい?」
「光がまた一段と色っぽく見えるのは気のせいかな?」
「……!!!!!」
勝行の顔色がさっと変わる瞬間を見逃さなかった久我は、にんまりと悪い笑みを零した。百戦錬磨のゲイ、久我には何もかも筒抜けだ。その証拠に、光の後ろの首筋には大きく赤い花が今日も咲き乱れている。
「今度は悪いオヤジに持ってかれないよう、気をつけろよ? あそこの、お前らがいないとポンコツになるなさけないオッサンとかな」
両翼少年協奏曲 後半につづく★
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