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Lv.1 ゲームフレンド ≧ リア友
2 ハンドルネームは《肉食べいこ》
「お、新イベント告知来てる」
「最近更新がんばってんな、運営」
「登録者数五十万人突破記念かあ。あ、配布あるじゃん、ラッキー。みんな自粛続きでヒマだからさあ、やってる奴多いのかもな。始めたばっかの俺には超助かる」
「まあ確かに。でもこのゲームやってる奴、僕の周りにはいないんだよな……」
「それな。俺もお前しか知らない」
楽し気に同意しながら話す彼の緩んだ目元とマスクの間に、皺が見える。釣られて圭太も一緒に笑う。それから訊いてみたかったことを口にした。
「なぁ。今更聞くけど、なんでユーザー名《肉食べいこ》なの」
「普通に言うなよ。『ニクタベイコー♪』だぜ、言い方」
突然歌っぽく返されたが、意味がわからなくて圭太は首を傾げた。すると太一は「あれ、ウチクビゴクモン知らない?」と苦笑した。
「アカウント作った時、焼肉食いたい気分だったから」
「焼肉?」
「例の感染症のせいでさあ、打ち上げとか仲間内で焼肉食いに行くのも駄目んなったじゃん。自粛、自粛って」
「ああ……うん」
「中学の卒業式もなくなったし。卒業旅行もクラス打ち上げも全部パー! なのに学校は休みで自習ばっか! 拷問もいいとこじゃん」
「……あ、ああ」
「だから反骨精神っていうか、集まって遊べない代わりにみんなでゲームやろうぜーってなって。そん時始めたんだ」
「なるほど……あ、じゃあ他にもコレやってる奴いるんじゃ」
「それがさあ、俺の早とちりだったみたい。誰もFCOはやってなかったんだよ。ストアにお勧めされたから、みんなこれやってるんだと思ったんだけど」
卒業式後の打ち上げだなんて、圭太には無縁の代物だった。改めて彼は違う世界の人種……リア充なんだなと痛感する。だがアプリのタイトル違いに気づかないとは。随分おっちょこちょいのようだ。そこはむしろ可愛さが増す。ネタのような裏話に苦笑していると、今度は彼の方から質問が飛んできた。
「そういえば《ケイタ》は本名? ゲームに自分の名前入れる派?」
「うん。最初は親のスマホでやってたから。どれが僕のアカウントかわかるようにしとけって言われて」
「あー把握。親とゲームしてたらそうなるわなー。てかいいなケイタん家、親とゲームできるとか。仲良さそう」
「そうか? まあお互いの趣味に対して口出しはしないけど」
圭太の家族はみんな、それぞれ何かにハマって推し活を楽しんでいる。そんな生き様を見て育った圭太はいわゆるオタクのサラブレッドだ。
FCOには元ネタがあり、十年以上年昔に流行ったアニメから派生したものらしい。アプリは親からもらったお古のスマホに入っていて、勝手にプレイしているうちに気づけばハマっていた。壮大な世界観のSFファンタジーで、史上の偉人伝をオマージュしたキャラが出てくるので勉強にもなる。キャラクターの戦闘スキルにもそれぞれ個性があって、弱い恒常キャラでも使いどころによっては最強ボスを打破できるし、やり込めばやり込むほど面白い。
ハマりすぎた結果、立派なFCOマスターになった。プレイ何年目かもう覚えていない。そんな話をすると、彼はキラキラした目で食いついてくる。
「ずっと同じのが好きってすげえな! 俺、今までみんなの好きな流行り物にのっかるだけだから憧れるわ」
「ええ、大げさな」
憧れる、だって?
典型的リア充の彼が、オタクの僕に?
引き篭って一人ゲームをするのが趣味。典型的陰キャの圭太にとってそれは勿体ないくらいの褒め言葉だ。
気恥ずかしくて顔を背けたが、彼はおかまいなしにぐいぐいと圭太に身体を近づけてくる。
「んでさ、ここのボス戦は何使ったらいい?」
「ちょ、近いって」
肩で押し返すけれど、すぐにまた人のスマホを覗き込んで耳元で話し出す。さすがはリア充。パーソナルスペースが絶妙に狭い。
この距離感には慣れないが、不思議と嫌とは思わない。人の温もりを感じる距離だ。日頃からこんなふうに友人と過ごすタイプなのであれば、確かに今の世の中は理不尽で息苦しいだろう。
小柄だからか暑苦しいとは思わないし、なぜか化粧臭いクラスの女子よりも甘い香りがする。自宅で飼っている子型犬のようで、思わず頬ずりしたくなった。寝癖はさしずめ、耳か尻尾といったところか。無性に撫でたくなる。
犬の頭を吸う時のようにすんすんと鼻を近づけてしまい、慌てて顔を背ける。
(いやいやいやいや。変態か僕は。奴は人間だぞ、しかも男)
「ケイタ?」
「な、なんだ」
「このチーム編成でいけると思う?」
「あ、あー……うん、そうだな。ここは全体攻撃で雑魚一掃するのが楽」
いきなり名前呼びも心臓に悪いし、その瞳であまり顔をじろじろ見ないでほしい。マスクでは隠せない耳を赤くした圭太はスマホ画面に視線を落とし、早口で攻略を解説する。彼はおっけーおっけーと軽く返事してすぐ戦闘開始した。
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