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Lv.1 ゲームフレンド ≧ リア友
4 ここは令和のディストピア
**
新型ウイルス蔓延のせいで、高校デビューは悲惨だった。
中学の卒業式は突然の中止。休校という形で三年間の中学校生活を終えた。
受験はかろうじてできたけれど、合格発表は自宅で確認するのみ。誰に会うこともなければ、会話もできない。一応形だけの登校はしたけれど、入学おめでとうと同時に渡されたのは夏休みの宿題みたいな、やっつけ仕事の自習プリントだった。
「声を出さないように。号令もいらない。教室には入らないで」
量産型ロボットのように、等間隔に位置を調整されて立つのは、同じ新品の制服とマスク。
もちろん、その中に自分もいる。
(世界が変わった)
それはまるでゲームの世界かSFの映画か。
キツい受験勉強の合間に妄想した高校生活とはかけ離れたもので。圭太がいつも没頭するゲーム世界は何ひとつ変わらず色鮮やかだというのに、現実世界だけがどこか灰色で無機質なものに塗り替えられた気分だった。
それから授業もネット配信。それも サーバーが重くてログインできませんの一点張り。時間を空けてアクセスどうぞ。そんなわけで真夜中にパソコンをつけ、会ったこともない教師が喋る動画を再生しながら、スマホゲームの周回に明け暮れる。誰とも会わないまま、ひとり自宅に閉じこもる日々が続いた。
夏を迎え、やっと登校を許可される。だが授業が始まっても隣の席との間隔は手も届かない。物の貸し借りは禁止。別クラスへの入室もダメ。友人と話しながら弁当を食べるのもNG。みんなが一斉に黒板を見つめながら、ただ黙々と食する昼休み。当然、食事中以外のマスクは外せない。それなりに声を張った挨拶も、クラスの喧騒にかき消されて誰にも届かない。
学校にいてもぼっちが当たり前のように推奨される世界。人付き合いが苦手な圭太にはそれなりに快適だが、やはり誰とも話さない学校生活なんて人類滅亡後のディストピアのようだった。
「三枝は部活入らないのか」
「えっ」
初めての個人懇談は、保護者抜きだった。
その場で担任に聞かれて初めてその存在を思い出した。だいたい、部活動紹介も体験入部期間も休校で消えてなくなったのだ。みんながどうやって部活動の情報を手に入れたのかも知らない。
「運動部はちょっと……」
「吹奏楽部とか」
「あれは運動部みたいなもんですよね」
「お前は団体競技が苦手か?」
なんか、それっぽい顔してるわと文句を言いつつ、担任は紙切れを一枚くれた。部活動紹介のプリント。文化部編。
この一枚だけで部活を決めろというのも無茶がすぎる。このまま帰宅部を決め込もうかと思ったが、せっかくなら趣味のあう友だち作りの場に活用したい。
「じゃあ……写真部で」
ここならリア充が絶対いなさそう。紙には『撮り鉄とアニオタ、聖地巡りや旅行好きのメンバーがいるよ(♡)』、と書いてあった。癖のない綺麗な字。女の先輩がいるのなら、そこまで陰気臭い部ではなさそうだし、オタという言葉にも心躍った。
圭太の入った高校は総合学科、電気建設学科、機械工学科、農業栄養学科の四つで成り立つ専門科ばかりの高校だ。撮り鉄というからには、きっと鉄道マニアがいるに違いない。多少はアニメも齧っているし、聖地巡りに付き合いながら履修するのも楽しそう。何より、ここでならオタクらしい話を堂々とできるかも……。
だがその日から何度訪問しても、部室には誰も来なかった。
顧問曰く、どうやら先輩方は揃って休み続けているらしい。その理由は中途半端に濁された。
「自粛の要請がうまく伝わってなくてねえ。レアな特急車両を撮るって言って、春休みに品川駅らへんまで行ったらしくて。それからねえ……」
一瞬で圭太は察した。
きっと件の新型ウイルスに趣味と生きがいを奪われた、可哀想な人種に違いない。
「じゃあもしかして……」
「うん、佐伯くんしか今はいないねえ」
よくそれで部活潰れてなかったな、と呆れてしまう。一人で好きに使っていいよと言われ、圭太はとりあえず秘密基地のような場所として部室をゲットした。顧問は連日会議で見に来ないし、実質一人部屋のようなものだ。
「どうせならゲーム同好会とかだったらよかったのに」
誰もこない部室で、圭太はひとりスマホゲームに明け暮れた。電波の通り具合も悪くない。
足りないものがあるとするなら、無料Wi-Fiくらいか。
それにしてもこんな学生生活が許されるだなんて、本当にどうかしている。この状況をネットで知り合ったフレンドに話すと、心底羨ましがられた。
「おいケイタ、お前コウコウセイだろ、学校でお勉強してる時間じゃねーの」
<部室でゲームしても配信聴いても許される学校だから>
「はー? ありえねー!」
羨ましいと叫び散らすのは、FCOの攻略やゲーム実況を配信しているVチューバー個人勢のサナ。口が悪くてとげとげしいが、FCOの立ち回りは人一倍上手い。そして圭太と同じくぼっちを極めた結果、ニートの配信者という職についた、ダメ大人のひとりだ。
真昼間から自室に引きこもって配信を続けているサナの配信コメント欄には圭太のアイコンしか並んでいない。
「はー、自由な高校生うらやま。なんだよ感染症対策ってガバすぎん?」
<先生らは感染者を出さないことに必死すぎ。アルコール消毒だのマスクだのってそっちばっかうるせえよ>
「そりゃあクラスタでも発生した日にゃ、懲戒免職もんだろうよ、責任持ちたくないからな! ゲームしてていいからとにかく大人しくしてろって言うわ、私でも。つかそういう仕事マジ無理」
リアルで人と関わるということは、本当に面倒でリスキーなことばかりだ。圭太もそう思った。
<そういうサナはプロゲーマーになるって息巻いてたのでは>
「いやーそれなー、なんてゆーかなー、プロになりたきゃ、もっと努力して上手くならないと無理だしなあ」
<ラクチンな仕事なんてないだろクz。フォロー解除すっぞ>
「うわあ待って待って。ケイタがいないとリスナーいなくなるじゃん! マジ勘弁してよ! ねえねえ!」
泣きべそをかいて必死に圭太を引き止めるサナを無視して、圭太は動画視聴アプリの×ボタンをタップした。
壊れた社会の中でどんなに隔離されても、一人快適に生きている。
いっそこのままソロを極めてもいいかもしれない。ぼんやり過ごしているうち、一学期はブラックホールへ吸い込まれるように消えて行った。
新型ウイルス蔓延のせいで、高校デビューは悲惨だった。
中学の卒業式は突然の中止。休校という形で三年間の中学校生活を終えた。
受験はかろうじてできたけれど、合格発表は自宅で確認するのみ。誰に会うこともなければ、会話もできない。一応形だけの登校はしたけれど、入学おめでとうと同時に渡されたのは夏休みの宿題みたいな、やっつけ仕事の自習プリントだった。
「声を出さないように。号令もいらない。教室には入らないで」
量産型ロボットのように、等間隔に位置を調整されて立つのは、同じ新品の制服とマスク。
もちろん、その中に自分もいる。
(世界が変わった)
それはまるでゲームの世界かSFの映画か。
キツい受験勉強の合間に妄想した高校生活とはかけ離れたもので。圭太がいつも没頭するゲーム世界は何ひとつ変わらず色鮮やかだというのに、現実世界だけがどこか灰色で無機質なものに塗り替えられた気分だった。
それから授業もネット配信。それも サーバーが重くてログインできませんの一点張り。時間を空けてアクセスどうぞ。そんなわけで真夜中にパソコンをつけ、会ったこともない教師が喋る動画を再生しながら、スマホゲームの周回に明け暮れる。誰とも会わないまま、ひとり自宅に閉じこもる日々が続いた。
夏を迎え、やっと登校を許可される。だが授業が始まっても隣の席との間隔は手も届かない。物の貸し借りは禁止。別クラスへの入室もダメ。友人と話しながら弁当を食べるのもNG。みんなが一斉に黒板を見つめながら、ただ黙々と食する昼休み。当然、食事中以外のマスクは外せない。それなりに声を張った挨拶も、クラスの喧騒にかき消されて誰にも届かない。
学校にいてもぼっちが当たり前のように推奨される世界。人付き合いが苦手な圭太にはそれなりに快適だが、やはり誰とも話さない学校生活なんて人類滅亡後のディストピアのようだった。
「三枝は部活入らないのか」
「えっ」
初めての個人懇談は、保護者抜きだった。
その場で担任に聞かれて初めてその存在を思い出した。だいたい、部活動紹介も体験入部期間も休校で消えてなくなったのだ。みんながどうやって部活動の情報を手に入れたのかも知らない。
「運動部はちょっと……」
「吹奏楽部とか」
「あれは運動部みたいなもんですよね」
「お前は団体競技が苦手か?」
なんか、それっぽい顔してるわと文句を言いつつ、担任は紙切れを一枚くれた。部活動紹介のプリント。文化部編。
この一枚だけで部活を決めろというのも無茶がすぎる。このまま帰宅部を決め込もうかと思ったが、せっかくなら趣味のあう友だち作りの場に活用したい。
「じゃあ……写真部で」
ここならリア充が絶対いなさそう。紙には『撮り鉄とアニオタ、聖地巡りや旅行好きのメンバーがいるよ(♡)』、と書いてあった。癖のない綺麗な字。女の先輩がいるのなら、そこまで陰気臭い部ではなさそうだし、オタという言葉にも心躍った。
圭太の入った高校は総合学科、電気建設学科、機械工学科、農業栄養学科の四つで成り立つ専門科ばかりの高校だ。撮り鉄というからには、きっと鉄道マニアがいるに違いない。多少はアニメも齧っているし、聖地巡りに付き合いながら履修するのも楽しそう。何より、ここでならオタクらしい話を堂々とできるかも……。
だがその日から何度訪問しても、部室には誰も来なかった。
顧問曰く、どうやら先輩方は揃って休み続けているらしい。その理由は中途半端に濁された。
「自粛の要請がうまく伝わってなくてねえ。レアな特急車両を撮るって言って、春休みに品川駅らへんまで行ったらしくて。それからねえ……」
一瞬で圭太は察した。
きっと件の新型ウイルスに趣味と生きがいを奪われた、可哀想な人種に違いない。
「じゃあもしかして……」
「うん、佐伯くんしか今はいないねえ」
よくそれで部活潰れてなかったな、と呆れてしまう。一人で好きに使っていいよと言われ、圭太はとりあえず秘密基地のような場所として部室をゲットした。顧問は連日会議で見に来ないし、実質一人部屋のようなものだ。
「どうせならゲーム同好会とかだったらよかったのに」
誰もこない部室で、圭太はひとりスマホゲームに明け暮れた。電波の通り具合も悪くない。
足りないものがあるとするなら、無料Wi-Fiくらいか。
それにしてもこんな学生生活が許されるだなんて、本当にどうかしている。この状況をネットで知り合ったフレンドに話すと、心底羨ましがられた。
「おいケイタ、お前コウコウセイだろ、学校でお勉強してる時間じゃねーの」
<部室でゲームしても配信聴いても許される学校だから>
「はー? ありえねー!」
羨ましいと叫び散らすのは、FCOの攻略やゲーム実況を配信しているVチューバー個人勢のサナ。口が悪くてとげとげしいが、FCOの立ち回りは人一倍上手い。そして圭太と同じくぼっちを極めた結果、ニートの配信者という職についた、ダメ大人のひとりだ。
真昼間から自室に引きこもって配信を続けているサナの配信コメント欄には圭太のアイコンしか並んでいない。
「はー、自由な高校生うらやま。なんだよ感染症対策ってガバすぎん?」
<先生らは感染者を出さないことに必死すぎ。アルコール消毒だのマスクだのってそっちばっかうるせえよ>
「そりゃあクラスタでも発生した日にゃ、懲戒免職もんだろうよ、責任持ちたくないからな! ゲームしてていいからとにかく大人しくしてろって言うわ、私でも。つかそういう仕事マジ無理」
リアルで人と関わるということは、本当に面倒でリスキーなことばかりだ。圭太もそう思った。
<そういうサナはプロゲーマーになるって息巻いてたのでは>
「いやーそれなー、なんてゆーかなー、プロになりたきゃ、もっと努力して上手くならないと無理だしなあ」
<ラクチンな仕事なんてないだろクz。フォロー解除すっぞ>
「うわあ待って待って。ケイタがいないとリスナーいなくなるじゃん! マジ勘弁してよ! ねえねえ!」
泣きべそをかいて必死に圭太を引き止めるサナを無視して、圭太は動画視聴アプリの×ボタンをタップした。
壊れた社会の中でどんなに隔離されても、一人快適に生きている。
いっそこのままソロを極めてもいいかもしれない。ぼんやり過ごしているうち、一学期はブラックホールへ吸い込まれるように消えて行った。
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