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Lv.1 ゲームフレンド ≧ リア友
17 友は自分で手に入れろ
しおりを挟む「うっ……うっ……」
「あのさあサエ。お前あいつのこと好きなんだろ」
「は? ……うるさい……悪いか……今それ関係ないだろうが」
「悪かねえよ。俺も好きな奴は男だ」
「うぇえっ?」
受話器から思わぬ暴露が聞こえてきてぎょっとする。滝沢は「俺がバイってことは知ってるだろ」と鼻で笑った。確かに知っている。けれど改めて本人の口から真剣に言われると戸惑ってしまう。
「みんなには一応両方好きって言ってるけどさあ。現実では今んとこ、男が好きなんだよね」
「だ、だからなんだよ。僕の言ってる好きと、お前の好きは……ちょっと、違う、気が……」
「じゃあなんでお前、俺とつるんでくれんの? 男から恋愛対象として見られてるって思ったら、怖くねえ?」
「……見くびんなよ。僕はそんな理由で人を判断したりしない。お前は誰相手でも態度変えずに話してくれるし、人の悪口言ったりしないからで……クラスのみんなのとりまとめ役って感じで、すごいなあって……勝手に尊敬してんだよ。ゲイとかバイとか、そんなんどうでも」
「ほら、そういうとこだよ。圭太は変なとこで境界線張るくせに、いい奴判定してくれたらガードが一気に下がる」
ちょろいんだよ、と苦笑されて圭太はカッと頬を赤らめた。それも見透かしているのか、滝沢は「まあそこがお前のいいとこだから、嫌いじゃないぜ」と付け加える。
「サエってさ。いっつも一匹狼みたいにツンケンしてるくせにさ。本当はすげえ他人のこと見てくれてるじゃん。誰かの役に立てることばっかしてて、気遣いがすごい」
「……お世辞かよ」
「でもあんまり、お前の意見とか感情は見せないだろ。気遣ってばっかも疲れるじゃん。今みたいにクチが悪くて正義感の強い圭太を安藤やみんなに見せたら? まあ気が合わねえ奴もいるだろうけど、もうちょっと親密な仲間が生まれてるかもよ」
滝沢が紡ぐ言葉はどれもこれも正論だらけで、ぐうの音も出ない。
なんでも頼られることばかりで、いつも受け身。自分の意見はろくすっぽ語れない。そういう内気な性格。出会い頭に喧嘩して、嫌われてもいいと思ったからこそこの男にだけは本音がいくらでも吐けたのだ。気づいた途端、自分の弱さに反吐が出そうになる。
「……僕はみんなみたいに、簡単に気持ちを切り替えたりできない。友だちも、ゲームも……なんでも。何かを好きになったところで、ずっと好きでいるのは自分だけかと思うと怖くて……あんま、色々言えなくて」
期間限定だから。そうどんなに言い聞かせて自分を慰めても、無理だった。
一度「好きだ」と思った何かを見つけたら最後、それが変わってしまったり、なくなっていくことが受け入れられない。気に入った時間をつなぎ留めるために一生懸命できることを模索し、手を尽くす。離れていく人の心をつなぎ留めることはできないとわかっていても。
太一に「ずっと好きってすごいな」と言われても、サナのように正々堂々といられない自分なんて、弱くてダサすぎる。
「なるほどねえ……でも相手に気遣ってばかりじゃ、いいように使われて捨てられるのがオチだぜ。もっと自分の気持ちを出していけよ。全部曝け出して、ぶつかって喧嘩して。本音が言い合える奴とだけ、仲良くした方がいいと思うな。俺はね」
まあ、しょっぱなからサエの地雷踏んだ俺が言うことじゃないけどな!
なはははと笑う滝沢は、気づけばいつもの飄々とした軽口調に戻っていた。
「……んだよ。先公みたいなこと言いやがって。おっさんか」
「うるっせえ、引き篭りの厨二病。受け身ばっかとってねえで、たまには潔くアタックしにいけよ、現実世界で」
「……」
「もし明日安藤が電車に乗ってたら、背中押すくらいはしてやるよ。あいつの無実を証明するためなら、頑張れんじゃん? クソ真面目な最強剣士《ケイタ》くんはさ」
FCOで繋がった人間だけが知る、自分の理想像を滝沢に見抜かれて圭太は思わず強張った。
太一が何度も褒めてくれたあの虚像に負い目があった。現実の自分はゲーム上の剣士《ケイタ》にどうしたって勝てる気がしなくて、最初からあのキャラだけで彼をつなぎ留めようとしていたのだから。現実の問題は、現実の自分でなんとかする以外、どうしようもないのだ。
「そうだな……」
「悲しい結末になった時は、この滝沢様が抱きしめて慰めてやるよ」
「それは絶対いらん」
「秒かよ。ひっでえな」
冗談なのか、本気なのかわからない滝沢のおかしな慰めは、圭太の頬を緩ませた。
明日もし会えたら。今度こそ勇気を出してみよう。圭太は制服のブレザーを脱いで、シャツの袖で濡れた頬を拭いた。
それから改めて滝沢と翌朝の約束を取り付け、壁面のカレンダーを覗き込む。おや、と瞬きした。
「おい滝沢、明日は土曜日だぞ」
「あ……あっれー」
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