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Lv.2 濃厚接触ゲーム
3 それ言ってもいいやつ?
**
「サエ怒んなよ~」
「別に怒ってない」
「怒ってるよ」
眉間に寄った皺をぐりぐりっと指で扱かれる。圭太は「やめろよ」と滝沢の手を掴んだ。
「太一の情報、お前の代わりにいっぱい聞き出してやっただろ。メモっといたか?」
「……余計な真似を」
相変わらず空気は読めないが憎めない男・滝沢は、どうやら口下手な圭太に代わってわざと会話していたらしい。本当に余計なお世話だ。おかげで二人きりの貴重なゲーム時間がすっかり無くなったというのに。
「進路ガイダンスの時、あいつが将来何目指してるのか聞いてきてやるよ」
「別にそんなのいらねえよ」
「でもお前、太一と高校卒業で終わんのは嫌だろ。せめて地元就職かどうかだけでも探っとかないとな」
女々しいコンプレックスを暴露した所為か、滝沢はやたらと圭太と太一の仲を取り持ちたがる。ゲームでは何の役にも立てない代わりだと言う。そんな協力者はいらんと言いたいのだが――いざ本人を目の前にするとうまく話せない。結局滝沢のサポートに頼りがちで情けない。
圭太の拗ねた様子を知ってか知らずか、滝沢はひらひらと手を振り電気科棟へと出かけていく。進学希望の圭太はこの時間、二年三組の教室で別の授業を受ける。滝沢の取り巻きたちもこぞって居残っていた。
「なんで滝っちは就職組なんだ。あいつ成績いいだろ?」
「家の事情って言ってた。あいつチャラそうに見えるけど奨学金で学校通ってるんだって。家族が入院してるらしい」
「へえ……知らなかった。苦労してんだな」
歩夢がつらつらと話す情報を横で漏れ聞いて、圭太もぎょっとした。委員長と同意見だし寝耳に水だが、そんなプライベートな話は本人がいないところでしてもいいものなのだろうか。不安に駆られて仕方ない。学校に来ている以上、件の感染症とは関係ないのだろうが――。
「部活誘っても来ないからさ。理由聞いたら、バイトしてるって。こないだ先生からバイト許可証もらってるとこ、見た」
「まあまあ、拗ねんなよ歩夢チャン」
憮然とした顔で滝沢の個人情報をつらつら述べる歩夢に対し、周りのみんなは苦笑しながら宥めている。だが圭太にはそれが「滝沢と一番の仲良しはオレだ」とマウントとってアピールしているようにしか聞こえない。
(ありえねえ……。僕がもし滝沢の友人だとしたら、あいつの私的事情なんて絶対秘密にするのに。たとえば……男が好きだって話とか)
人様が愛でているアクキーのキャラに対し、気持ち悪いものを見るような目でディスってくるような奴だ。どうにも歩夢とは仲良くやっていけそうな気がしない。
歩夢が滝沢のことを気に入っているのはクラス中誰もが知っている。髪型もそれとなく真似しているし、仕草や文房具も「お揃い」があると大声で「一緒じゃん!」とアピールしてはおおはしゃぎするくらい。わかりやすく「舎弟」の位置にいる。
だがしかし、こんなに金魚のフンのようにくっついているくせに、高卒後の進路は真似して追いかけないのだろうか。隣に居た委員長も同じことが気になったようだが、歩夢はその質問を受けてさらに機嫌を損ねた。
「俺も就職したいって言ったら、親に猛反対された」
「あー、うん。把握……専門学科じゃねえもんな、うちのクラスって」
この公立高校には普通科がない。代わりに専門科で学び、技術を身に着け就職を目指す子には人気がある。太一の通うクラス、二組は電気工事士や建築士などの国家資格を目指す電気建設科だ。専門職を希望して来る人間が多いのに対し、圭太たちのいる三組・総合科は殆どの同級生が「偏差値で選んだ」だけという子が多い。偏差値の低い普通科の代わり、といったところだ。
他人事のように歩夢の進路での悩みを聞きながら、チラチラと彼を見るも、目が合うと何やら睨まれる。勝手に聞くな、と言わんばかりだ。
だったら僕のいない場所で話せよ……と反論したいが、二年に上がってから席変えで歩夢とは隣同士になってしまい、散れとも言えない。
(僕は滝沢なんかより、もっと太一のことが知りたい)
太一は電気工事士になるのだろうか。小柄な身体で高所作業車に乗って、颯爽と電線を処理する姿を想像してみる。――うん、小柄でも似合うな、と一人頷く。
地元就職なら卒業しても遊べるかもしれない。だが学生とは時間が合わなくて連絡どころかゲーム時間も激減するだろう。
高校で知り合った連中との付き合いは高校在学中の間だけ。――そう割り切ろうと思っていても、日に日に「もっと一緒にいたい」欲が募る。このままでは滝沢の言う通り、卒業ごときで太一への執着心を断ち切るのは難しいだろう。
とはいえせっかく連絡先を交換したのに、緊張のあまり未だ一度もメッセージを送れずにいる。
(なんでかなあ……顔も本名も知らないフレンドとは平気で話せるのに……太一には何て送ったらいいのか、全然思いつかない)
このままでは駄目だと思いつつも、圭太は滝沢からの続報を心待ちにしていた。
「サエ怒んなよ~」
「別に怒ってない」
「怒ってるよ」
眉間に寄った皺をぐりぐりっと指で扱かれる。圭太は「やめろよ」と滝沢の手を掴んだ。
「太一の情報、お前の代わりにいっぱい聞き出してやっただろ。メモっといたか?」
「……余計な真似を」
相変わらず空気は読めないが憎めない男・滝沢は、どうやら口下手な圭太に代わってわざと会話していたらしい。本当に余計なお世話だ。おかげで二人きりの貴重なゲーム時間がすっかり無くなったというのに。
「進路ガイダンスの時、あいつが将来何目指してるのか聞いてきてやるよ」
「別にそんなのいらねえよ」
「でもお前、太一と高校卒業で終わんのは嫌だろ。せめて地元就職かどうかだけでも探っとかないとな」
女々しいコンプレックスを暴露した所為か、滝沢はやたらと圭太と太一の仲を取り持ちたがる。ゲームでは何の役にも立てない代わりだと言う。そんな協力者はいらんと言いたいのだが――いざ本人を目の前にするとうまく話せない。結局滝沢のサポートに頼りがちで情けない。
圭太の拗ねた様子を知ってか知らずか、滝沢はひらひらと手を振り電気科棟へと出かけていく。進学希望の圭太はこの時間、二年三組の教室で別の授業を受ける。滝沢の取り巻きたちもこぞって居残っていた。
「なんで滝っちは就職組なんだ。あいつ成績いいだろ?」
「家の事情って言ってた。あいつチャラそうに見えるけど奨学金で学校通ってるんだって。家族が入院してるらしい」
「へえ……知らなかった。苦労してんだな」
歩夢がつらつらと話す情報を横で漏れ聞いて、圭太もぎょっとした。委員長と同意見だし寝耳に水だが、そんなプライベートな話は本人がいないところでしてもいいものなのだろうか。不安に駆られて仕方ない。学校に来ている以上、件の感染症とは関係ないのだろうが――。
「部活誘っても来ないからさ。理由聞いたら、バイトしてるって。こないだ先生からバイト許可証もらってるとこ、見た」
「まあまあ、拗ねんなよ歩夢チャン」
憮然とした顔で滝沢の個人情報をつらつら述べる歩夢に対し、周りのみんなは苦笑しながら宥めている。だが圭太にはそれが「滝沢と一番の仲良しはオレだ」とマウントとってアピールしているようにしか聞こえない。
(ありえねえ……。僕がもし滝沢の友人だとしたら、あいつの私的事情なんて絶対秘密にするのに。たとえば……男が好きだって話とか)
人様が愛でているアクキーのキャラに対し、気持ち悪いものを見るような目でディスってくるような奴だ。どうにも歩夢とは仲良くやっていけそうな気がしない。
歩夢が滝沢のことを気に入っているのはクラス中誰もが知っている。髪型もそれとなく真似しているし、仕草や文房具も「お揃い」があると大声で「一緒じゃん!」とアピールしてはおおはしゃぎするくらい。わかりやすく「舎弟」の位置にいる。
だがしかし、こんなに金魚のフンのようにくっついているくせに、高卒後の進路は真似して追いかけないのだろうか。隣に居た委員長も同じことが気になったようだが、歩夢はその質問を受けてさらに機嫌を損ねた。
「俺も就職したいって言ったら、親に猛反対された」
「あー、うん。把握……専門学科じゃねえもんな、うちのクラスって」
この公立高校には普通科がない。代わりに専門科で学び、技術を身に着け就職を目指す子には人気がある。太一の通うクラス、二組は電気工事士や建築士などの国家資格を目指す電気建設科だ。専門職を希望して来る人間が多いのに対し、圭太たちのいる三組・総合科は殆どの同級生が「偏差値で選んだ」だけという子が多い。偏差値の低い普通科の代わり、といったところだ。
他人事のように歩夢の進路での悩みを聞きながら、チラチラと彼を見るも、目が合うと何やら睨まれる。勝手に聞くな、と言わんばかりだ。
だったら僕のいない場所で話せよ……と反論したいが、二年に上がってから席変えで歩夢とは隣同士になってしまい、散れとも言えない。
(僕は滝沢なんかより、もっと太一のことが知りたい)
太一は電気工事士になるのだろうか。小柄な身体で高所作業車に乗って、颯爽と電線を処理する姿を想像してみる。――うん、小柄でも似合うな、と一人頷く。
地元就職なら卒業しても遊べるかもしれない。だが学生とは時間が合わなくて連絡どころかゲーム時間も激減するだろう。
高校で知り合った連中との付き合いは高校在学中の間だけ。――そう割り切ろうと思っていても、日に日に「もっと一緒にいたい」欲が募る。このままでは滝沢の言う通り、卒業ごときで太一への執着心を断ち切るのは難しいだろう。
とはいえせっかく連絡先を交換したのに、緊張のあまり未だ一度もメッセージを送れずにいる。
(なんでかなあ……顔も本名も知らないフレンドとは平気で話せるのに……太一には何て送ったらいいのか、全然思いつかない)
このままでは駄目だと思いつつも、圭太は滝沢からの続報を心待ちにしていた。
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