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Lv.2 濃厚接触ゲーム
5 凹む陽キャたち
**
友情は順調に育まれているけれど、世間のパンデミックは一向に収束する気配がない。
太一がお菓子好きだと聞いた圭太は、早速何かを買い求めるふりをして、彼の胃袋を懐柔しようと計画した。だが駅前のコンビニは重いシャッターで閉じられていた。
「えっ、閉店? なんで」
「うっそだろ。コンビニなくなったら俺たちどこで飯買うんだよ」
店頭には、『感染症拡大に伴い、当分の間閉店いたします』の一言のみ。
マスクを外して酒を飲みかわす居酒屋ならわからなくもないが、なぜこんな田舎の小さなコンビニがと疑問が残る。
いや、コンビニだけでない。ファミリーレストランもファーストフード店も、なんなら書店もスーパーマーケットも。「時短営業」の看板を掲げていて、通学途中に寄り道したくても見渡す限りシャッターだらけ。学校帰りに唯一存在する、商業施設のフードコートも閉鎖したまま。椅子や什器が積み上げられて廃墟と化している。
突然のロックダウン状態だった一年前よりはマシかもしれないが、あの状況に戻りつつある気がして圭太は身震いした。敵は一体どこに存在しているのだろうか。見えないということほど、恐ろしいものはない。
「もう、ほんっと理不尽。高校生になったら正々堂々と買い食いできるし、放課後みんなで飯食いに行くのが夢だったのに」
駅コンビニが突然閉店したことで、クラスメイトはもちろん、太一も相当困っているようだった。
通学電車で合流するなり、つらいと嘆いてばかりいる。
「学生食堂もメニュー中止だらけで、全然食べるもんにありつけないのよ」
「そうなのか。行かないから知らなかった」
「俺んちさあ、出発が早いからあんまり弁当作れないんだよな。母ちゃん起きないし、これからの季節、コンビニとか食堂で買った方が安全だと思ってたし。マジ痛手よ……」
「あ……そっか。結構遠いんだっけ? 太一の家」
「うん、朝六時より前には家出てる」
「それは確かに弁当無理だ……僕んち、六時半でもキッツいって文句言われてるのに」
太一が自宅からの最寄り駅に着く頃、コンビニは開いていても前日の残り物しか並んでいなくて物理的に買えないらしい。コンビニなんて電車が動いている限り、必ず開いているものだと思い込んでいた。このままでは太一が栄養不足で倒れてしまう。
(……あ、そうだ。放課後の部活用に、家からお菓子持ってきたんだった)
「これでよかったらやるよ、腹の足しにもならないだろうけど」
「お、カントリークッキー。これ旨いよなぁ、ありがとー!」
太一はなんの遠慮もなく、差し出した個包装のクッキーをもらってくれた。よし、明日も何か持ってこようと決意する。
すると電車は次の駅に停まり、どかどかっと乗り込む客に紛れて滝沢がやってきた。
「おっはー。あ、お菓子食ってる。手洗い消毒してからじゃないとダメなんだぞぅ」
「滝沢、おかんかよ」
けらけら笑う太一の手元にあったはずのクッキーはすでに開封され、なくなっていた。圭太はサーッと青ざめる。
(し、ししししまった……! 消毒ティッシュとか、アルコール消毒的なやつを何もしないまま食わせてしまった……! 太一が病気になったらどうすんだよ、今度こそ僕のせいに!)
「電車の中が一番ヤバそうだからなあ。人の手についたりしてんだろ」
「そ、そ、そうだよな……消毒……消毒もしとけ」
「今更遅いって」
まあなんとかなるでしょ、と笑って雑談を続ける太一と滝沢にほっとするも、本当に大丈夫かなという不安は拭えない。
「コンビニなくなったの、痛いよなあ」
「俺の楽しみを奪いやがってマジでムカつく」
「太一の食い意地すげえな。……俺はバイト先がなくなったわ」
「……えっ⁉ 滝沢って駅のコンビニでバイトしてたん?」
「そうだよ。放課後、お前らと会ったことあるだろ」
他人に興味がなさすぎて、その時の自分は全く気付かなかった。だが以前太一にお菓子を買ってあげた時、滝沢が見ていたことを思い出した。
「はー、俺も次のバイト先探さないとな……」
珍しく滝沢までもが落ち込んでいる。陽キャたちの方こそ、ウイルスに汚染され、制限を課されたこの世界ではどうにも生きづらいのだろう。なんといって励ましてあげればいいかわからず、圭太は閉口した。代わりに残り一枚だったカントリークッキーを鞄から取り出し、ずいっと差し出した。
「……た、滝沢にもやる」
「お、おう? あざっす」
友情は順調に育まれているけれど、世間のパンデミックは一向に収束する気配がない。
太一がお菓子好きだと聞いた圭太は、早速何かを買い求めるふりをして、彼の胃袋を懐柔しようと計画した。だが駅前のコンビニは重いシャッターで閉じられていた。
「えっ、閉店? なんで」
「うっそだろ。コンビニなくなったら俺たちどこで飯買うんだよ」
店頭には、『感染症拡大に伴い、当分の間閉店いたします』の一言のみ。
マスクを外して酒を飲みかわす居酒屋ならわからなくもないが、なぜこんな田舎の小さなコンビニがと疑問が残る。
いや、コンビニだけでない。ファミリーレストランもファーストフード店も、なんなら書店もスーパーマーケットも。「時短営業」の看板を掲げていて、通学途中に寄り道したくても見渡す限りシャッターだらけ。学校帰りに唯一存在する、商業施設のフードコートも閉鎖したまま。椅子や什器が積み上げられて廃墟と化している。
突然のロックダウン状態だった一年前よりはマシかもしれないが、あの状況に戻りつつある気がして圭太は身震いした。敵は一体どこに存在しているのだろうか。見えないということほど、恐ろしいものはない。
「もう、ほんっと理不尽。高校生になったら正々堂々と買い食いできるし、放課後みんなで飯食いに行くのが夢だったのに」
駅コンビニが突然閉店したことで、クラスメイトはもちろん、太一も相当困っているようだった。
通学電車で合流するなり、つらいと嘆いてばかりいる。
「学生食堂もメニュー中止だらけで、全然食べるもんにありつけないのよ」
「そうなのか。行かないから知らなかった」
「俺んちさあ、出発が早いからあんまり弁当作れないんだよな。母ちゃん起きないし、これからの季節、コンビニとか食堂で買った方が安全だと思ってたし。マジ痛手よ……」
「あ……そっか。結構遠いんだっけ? 太一の家」
「うん、朝六時より前には家出てる」
「それは確かに弁当無理だ……僕んち、六時半でもキッツいって文句言われてるのに」
太一が自宅からの最寄り駅に着く頃、コンビニは開いていても前日の残り物しか並んでいなくて物理的に買えないらしい。コンビニなんて電車が動いている限り、必ず開いているものだと思い込んでいた。このままでは太一が栄養不足で倒れてしまう。
(……あ、そうだ。放課後の部活用に、家からお菓子持ってきたんだった)
「これでよかったらやるよ、腹の足しにもならないだろうけど」
「お、カントリークッキー。これ旨いよなぁ、ありがとー!」
太一はなんの遠慮もなく、差し出した個包装のクッキーをもらってくれた。よし、明日も何か持ってこようと決意する。
すると電車は次の駅に停まり、どかどかっと乗り込む客に紛れて滝沢がやってきた。
「おっはー。あ、お菓子食ってる。手洗い消毒してからじゃないとダメなんだぞぅ」
「滝沢、おかんかよ」
けらけら笑う太一の手元にあったはずのクッキーはすでに開封され、なくなっていた。圭太はサーッと青ざめる。
(し、ししししまった……! 消毒ティッシュとか、アルコール消毒的なやつを何もしないまま食わせてしまった……! 太一が病気になったらどうすんだよ、今度こそ僕のせいに!)
「電車の中が一番ヤバそうだからなあ。人の手についたりしてんだろ」
「そ、そ、そうだよな……消毒……消毒もしとけ」
「今更遅いって」
まあなんとかなるでしょ、と笑って雑談を続ける太一と滝沢にほっとするも、本当に大丈夫かなという不安は拭えない。
「コンビニなくなったの、痛いよなあ」
「俺の楽しみを奪いやがってマジでムカつく」
「太一の食い意地すげえな。……俺はバイト先がなくなったわ」
「……えっ⁉ 滝沢って駅のコンビニでバイトしてたん?」
「そうだよ。放課後、お前らと会ったことあるだろ」
他人に興味がなさすぎて、その時の自分は全く気付かなかった。だが以前太一にお菓子を買ってあげた時、滝沢が見ていたことを思い出した。
「はー、俺も次のバイト先探さないとな……」
珍しく滝沢までもが落ち込んでいる。陽キャたちの方こそ、ウイルスに汚染され、制限を課されたこの世界ではどうにも生きづらいのだろう。なんといって励ましてあげればいいかわからず、圭太は閉口した。代わりに残り一枚だったカントリークッキーを鞄から取り出し、ずいっと差し出した。
「……た、滝沢にもやる」
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