フレンドコード▼陰キャなゲーマーだけど、リア充したい

さくら怜音/黒桜

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Lv.2 濃厚接触ゲーム

7 アクリル板の向こう側の世界

(ぼっち飯くらい、平気だ! どうせ弁当は毎日ぼっちなんだから)
 と心の中で叫んではいたものの、いざリア充だらけの店に入るとなると足がすくむ。クリアな押し扉から見える他人の視線が半端ない。わかってはいたけれど、田舎のファーストフード店は放課後の各種楽しみを奪われた若者たちのたまり場だった。

 思わず店内を見渡して顔見知りを探してしまう。するとちょうど入ったばかりで席を探す歩夢と委員長を発見した。向こうも気づいたらしく「三枝、マジで来たのか」と委員長が手招きしてくれる。不本意だが一人よりはましだ。
 
「俺ら、注文してくるから」
「荷物見とけよ」
「ああ……わかった」
 
 四人掛けテーブルの前には仰々しいアクリル板が備え付けられ、歩夢や委員長とは物理で一枚壁がある状態だった。呼ばれた理由はともあれ、クラスメイトとの相席は実現できた。リア充ぽくできている気がする。
 入店ミッションをクリアした圭太は心躍った。今日は高校デビュー以来、初めての寄り道。憧れの買い食いができるのだ。圭太はさっそくスマホを取り出した。それから席についたまま、さっと己の注文を済ませる。
 すると相席の二人が戻ってくるよりも先に、注文の品がテーブルに届いた。持ってきたのは――。
 
「モバイルオーダー56番のお客様、お待たせしました……ってサエかよー!」
 
 トレイに載せた大盛りナゲットをテーブルに置きながら、店員制服姿の滝沢が嬉しそうにはにかんだ。
 さすがはイケメン。何を着ていても絵になる。
 
「お前、高校生のくせにモバイルオーダーとか。生意気な」
「……対面注文せずに済むシステムは、僕みたいなコミュ障には便利なんだよ」
「なるほど? そういう発想だったら、感染症対策とやらも便利なのか。並ぶの面倒だもんな」
 
 まるで店の常連客のように振舞ってみたものの、内心はさっきまで不安で仕方なかった。
 今日ここに来ると決めた直後に店のアプリをインストールし、オーダーの方法を調べながら学内でばっちり各種設定しておいたのだ。リア充はみんなこのような便利アイテムを使っていると思っていただけに、少し拍子抜けしてしまった。
 
「えー! なんで三枝の注文、滝っちが持ってきてるの」
「なんでそいつのだけ。ずるくねえ?」
「ズルじゃねえよ。そういう注文だもん。今はこういうサービスもあるんだぜ」
 
 トレイを自ら抱えて戻ってきた歩夢と委員長が、驚きの悲鳴を上げている。入れ違いで滝沢はバックヤードに戻ってしまい、歩夢は不満そうだ。またしても彼の反感を買うようなことをしてしまった気がする。
 
「モバイル注文ってやつか。あれ、クレジットカードがないとできないんだろ」
「いや、電子マネーペイで払ってる」
「ペイだと……三枝のくせに、なんかムカつくー!」
「それって通学定期でもいけるんか?」
「いけないよ。スマホアプリにチャージするやつじゃないと無理」
「はー? なんだよそれ、何が違うんだ!」
 
 歩夢の理不尽な文句をまるっと無視してため息をつくと、圭太はマスクを顎に下げ、出来たてのナゲットに手を伸ばした。アクリル板の向こう側でリア充の二人が「これだからオタクは」と何か悪口を話しているようだが、アクリル板と周りの騒音にかき消されてクリアには聞こえてこない。このアクリル板、見た目はスケスケだが他人と距離をとるにはちょうどいいアイテムだと再認識する。
 
「あっ、ケイタ」
 
 聞き覚えのある声がして、圭太は思わずナゲットを咥えたまま振り返った。逢えたらいいなと思っていた人物が、隣の席にリュックを置いて嬉しそうに座った。
 
「太一……!」
「偶然だなあ。なんかケイタがこういう店にいるの、珍しい気が」
「た……滝沢に誘われて……」
「ああ、やっぱそうなんだ? ほんと君たちって仲いいよねえ。ラブラブじゃん」
 
 マスク越しに見える太一の可愛い笑顔に見とれていたせいで、関係を誤解されかねないことを言われていることには気づかなかった。代わりに向かい側に座る歩夢たちの表情が険しくなる。そんな会話の最中、ラケットやシューズケースを抱えた見知らぬ男が数人、太一と同じテーブル席にどかどかと座り込んできた。入学した当初から他のクラスとの交流はほとんどなく、同じ制服姿でも彼らのことは全く知らない。どうやら荷物からして太一と同じテニス部員のようだ。
 
「太一、注文いくぞぅ」
「ああうん、待って」
 
 太一を含む彼らも順番よろしく従来通りカウンターで注文を済ませ、順次食べ物をセルフで抱えて戻ってくる。それからマスクを取っ払い、ぎゃはははと大声で騒ぎながらハンバーガーやポテトに手を伸ばす。食べている間も、食べていない間もずっとマスクは外しっぱなし。声もでかい。歩夢たちもテニス部とは何らかの交流があるようで、互いの部活の愚痴大会が始まっていた。

「野球部は今年こそ、甲子園あるんか」
「あると信じて練習するしかないけど、練習時間めちゃくちゃ減らされてるしやる気がなあ……」
「マジそれな。屋外練習そとれんの人数制限とか、意味わからん」

 太一が隣の席に……と一瞬浮かれたものの、彼はやはり人気者。他のメンバーたちと仲良く話していて、圭太が話せる機会はまったく巡ってこない。運動部の愚痴は聞いてあげることができても、歩夢のように話を合わせることもできないし、感染症対策のおかげで怠惰なゲーム活動を謳歌している写真部とは随分と世界が違うようだ。圭太はアクリル板越しに太一の横顔を見ながら、ひたすらナゲットを口に放り込んでいた。

 気づけば十人を超える大所帯の中、ひとり静かに食べるだけ。食べ終わった途端、途方に暮れてしまった。帰りたい。だがみんなは話に夢中で全然帰ろうともしない。
 アクリル板で囲われたスペースに一人収まり、圭太は仕方なくスマホに手を伸ばした。
 放課後、太一と寄り道して何かを食べてみたい――その夢は叶ったけれど、何かが違う気がした。
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