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Lv.2 濃厚接触ゲーム
13 マスクを外した君の真実
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「推し」とは。
自分にとって最もお気に入りの偶像であり、応援したい存在。時に憧れ、時に恋焦がれ、手の届かない相手だが一方的に愛でたいと願い、崇め見守る。そんな対象。
友達に向かって使うべき言葉ではないが、太一は笑って「オタクっぽい表現だよな」と受け入れてくれた。どう解釈してくれたのかはわからないが、圭太はこれ以上考えることをやめて、検索画面を閉じた。マック前に停めた自転車の傍で暇つぶしゲームをしながら連れを待つ。
滝沢に送った鬼連打スタンプにまだ既読は付かない。消したら消したで履歴だけ残るし、なんだったんだと勘繰られるよなと悩んでいたら、「お待たせ」と太一が勢いよろしく走り込んで来た。友人はどうしたと問うと「撒いてきた」と親指を立てた。
テニス部やクラスの友人より、自分との約束を優先してくれた。それだけで圭太はの心は踊り、浮かれ足になる。
「な、なに注文する? モバイルオーダーで僕がおごるよ」
「えーマジでおごってくれんの? なんか悪いな」
「いいよ。前、お昼少ないって言ってたし。アクキーもらった礼がしたかったし」
「アクキーっていつの話だよ。別にお礼なんてよかったのに」
と言いつつも金欠なんだと笑う太一は、圭太の誘いに遠慮することなくチキンナゲットを所望した。テーブル席でオーダーを通し、注文の品が届くのを待つ。その間に太一もマスクを外し、代わりにスマホを取り出した。
「ここだとフリーWi-Fiも使えるから助かるな」
「でも一時間しか使えないし回線遅いぞ。オンラインゲーム向きではないと思うけど」
「そうなん? ケイタってそういうの詳しいなあ。注文もスマホでするし、なんか大人っぽい」
「まあ、オタクだし。ゲーム課金のためならスマホも魔改造する」
褒め言葉に自虐で返すと太一は「魔改造て!」と笑ってくれた。だがその声はだんだんフェードアウトして小さくなる。それから手元でスマホをいじり、珍しく目を合わさないまま話し始めた。
「俺の周りはさ、オタクキモイっていう奴の方が多いんだよな。テニス部なんか女子の方が多いし、なんか言い方きついからどうしても」
「ああ……なんか察する」
「だからあんまり外では言えないんだけど。ほんとはさあ、俺もめっちゃオタクなんだよね。これはケイタにだけ、初めて教える話。これ、俺の部屋なんだけど。見て」
そう言いながら太一はアクリル板の隙間からスマホの画面をそっと見せた。
自室の写真。そう告げられたそれは、プラモデルにフィギュア。電車のジオラマのような玩具に混じって、アニメのグッズや人形がぎゅうぎゅう詰めに並べられていた。まるで小さなフィギュア専門店のショーケースのようだ。
「うわっなにこれ、すげえ」
圭太は思わず驚愕の声をあげた。同い年でこんなに大量の玩具コレクションを持つ知り合い、今まで見たことがない。奥には幼少期に好きだった戦隊もののロボットや変身グッズも綺麗に飾られていた。幼いころは皆が欲しがった憧れの超合金。変形合体ロボ。懐かしいな、と思わず呟く。
「プラモとか玩具とか、集めるのが趣味なんだけど……アニメの話ばっかしてたり、戦隊ヒーローのグッズ持ってるなんて言ったらドン引かれるだろ。だから外では周りに合わせて適当に生きてんの」
「し……知らなかった……てっきり太一は、リア充人間だと思ってた……」
「オタクだと、幻滅した?」
「まさか。それより全く気づけなかったことに驚いてる」
「あはは、じゃあ俺のリア充偽装作戦は完璧だったってこと? やったぜ、なんか嬉しい」
喜ぶところそこか、と突っ込みたくなるものの、それが太一の真の姿なのだと知った圭太はなんだか急に全身の力が抜け落ちた気がした。
彼と釣り合う、リア充なことができる人間になりたいと思っていた。だが太一側は逆に、堂々とオタクを公言して高校生活を送る圭太に憧れていたと言うのだ。こんなすれ違いってあるかよ、と苦笑が漏れる。見事なまでの両片思い案件だ。
「ケイタにあげたアクキーも全部コンプしたから写真あるよ」
「す……すげえ揃ってる。これ、いくら遣ったんだよ」
「覚えてないなあ。見つけた時嬉しくて興奮しちゃって。多分、焼肉食べ放題二回分くらい」
焼肉で換算されてもピンとこない。とりあえず駄菓子のチョコバーやチキンナゲット程度のお礼では割にあわない気がする。
「本当は持ち歩きたいけど、そんな勇気なくてさ。ケイタが代わりにつけてくれてたから、毎日眺められて嬉しかったんだ。だからもう十分、お礼代わりのことしてもらったよ」
つまり太一は、物理的なグッズコンプリートに鬼課金するガチオタクだった――というわけだ。
「推し」とは。
自分にとって最もお気に入りの偶像であり、応援したい存在。時に憧れ、時に恋焦がれ、手の届かない相手だが一方的に愛でたいと願い、崇め見守る。そんな対象。
友達に向かって使うべき言葉ではないが、太一は笑って「オタクっぽい表現だよな」と受け入れてくれた。どう解釈してくれたのかはわからないが、圭太はこれ以上考えることをやめて、検索画面を閉じた。マック前に停めた自転車の傍で暇つぶしゲームをしながら連れを待つ。
滝沢に送った鬼連打スタンプにまだ既読は付かない。消したら消したで履歴だけ残るし、なんだったんだと勘繰られるよなと悩んでいたら、「お待たせ」と太一が勢いよろしく走り込んで来た。友人はどうしたと問うと「撒いてきた」と親指を立てた。
テニス部やクラスの友人より、自分との約束を優先してくれた。それだけで圭太はの心は踊り、浮かれ足になる。
「な、なに注文する? モバイルオーダーで僕がおごるよ」
「えーマジでおごってくれんの? なんか悪いな」
「いいよ。前、お昼少ないって言ってたし。アクキーもらった礼がしたかったし」
「アクキーっていつの話だよ。別にお礼なんてよかったのに」
と言いつつも金欠なんだと笑う太一は、圭太の誘いに遠慮することなくチキンナゲットを所望した。テーブル席でオーダーを通し、注文の品が届くのを待つ。その間に太一もマスクを外し、代わりにスマホを取り出した。
「ここだとフリーWi-Fiも使えるから助かるな」
「でも一時間しか使えないし回線遅いぞ。オンラインゲーム向きではないと思うけど」
「そうなん? ケイタってそういうの詳しいなあ。注文もスマホでするし、なんか大人っぽい」
「まあ、オタクだし。ゲーム課金のためならスマホも魔改造する」
褒め言葉に自虐で返すと太一は「魔改造て!」と笑ってくれた。だがその声はだんだんフェードアウトして小さくなる。それから手元でスマホをいじり、珍しく目を合わさないまま話し始めた。
「俺の周りはさ、オタクキモイっていう奴の方が多いんだよな。テニス部なんか女子の方が多いし、なんか言い方きついからどうしても」
「ああ……なんか察する」
「だからあんまり外では言えないんだけど。ほんとはさあ、俺もめっちゃオタクなんだよね。これはケイタにだけ、初めて教える話。これ、俺の部屋なんだけど。見て」
そう言いながら太一はアクリル板の隙間からスマホの画面をそっと見せた。
自室の写真。そう告げられたそれは、プラモデルにフィギュア。電車のジオラマのような玩具に混じって、アニメのグッズや人形がぎゅうぎゅう詰めに並べられていた。まるで小さなフィギュア専門店のショーケースのようだ。
「うわっなにこれ、すげえ」
圭太は思わず驚愕の声をあげた。同い年でこんなに大量の玩具コレクションを持つ知り合い、今まで見たことがない。奥には幼少期に好きだった戦隊もののロボットや変身グッズも綺麗に飾られていた。幼いころは皆が欲しがった憧れの超合金。変形合体ロボ。懐かしいな、と思わず呟く。
「プラモとか玩具とか、集めるのが趣味なんだけど……アニメの話ばっかしてたり、戦隊ヒーローのグッズ持ってるなんて言ったらドン引かれるだろ。だから外では周りに合わせて適当に生きてんの」
「し……知らなかった……てっきり太一は、リア充人間だと思ってた……」
「オタクだと、幻滅した?」
「まさか。それより全く気づけなかったことに驚いてる」
「あはは、じゃあ俺のリア充偽装作戦は完璧だったってこと? やったぜ、なんか嬉しい」
喜ぶところそこか、と突っ込みたくなるものの、それが太一の真の姿なのだと知った圭太はなんだか急に全身の力が抜け落ちた気がした。
彼と釣り合う、リア充なことができる人間になりたいと思っていた。だが太一側は逆に、堂々とオタクを公言して高校生活を送る圭太に憧れていたと言うのだ。こんなすれ違いってあるかよ、と苦笑が漏れる。見事なまでの両片思い案件だ。
「ケイタにあげたアクキーも全部コンプしたから写真あるよ」
「す……すげえ揃ってる。これ、いくら遣ったんだよ」
「覚えてないなあ。見つけた時嬉しくて興奮しちゃって。多分、焼肉食べ放題二回分くらい」
焼肉で換算されてもピンとこない。とりあえず駄菓子のチョコバーやチキンナゲット程度のお礼では割にあわない気がする。
「本当は持ち歩きたいけど、そんな勇気なくてさ。ケイタが代わりにつけてくれてたから、毎日眺められて嬉しかったんだ。だからもう十分、お礼代わりのことしてもらったよ」
つまり太一は、物理的なグッズコンプリートに鬼課金するガチオタクだった――というわけだ。
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