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はじまりのお話
お忍び大冒険
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ある日、空ばかり見つめるぼくを見かねたじいやが、城下町に降りる許可をくれた。
「好奇心旺盛な王子様ですから、仕方ないですね。王には秘密ですよ」
「ありがとうございます!」
嬉しさのあまり、ぼくの真っ白い耳がピンと天井に向かって跳ね上がった。嬉しいと、勝手に耳が立つんだ。いつもはほんのり折れているから、まっすぐになったぼくの耳を見て、じいやも嬉しそうに尻尾を振っていた。
じいやは黒いドーベルマンと人間の亜種。しなやかで引き締まった黒毛の背中にスーツがよく似合っていてカッコイイ。便宜上じいやって呼ぶけれど、実際の年齢はよくわからない。おじいちゃんっていうよりは、精悍なおじさんの方が似合いそう。
外に出る時は、彼がぼくのボディガードだ。
「カツユキ王子の耳は目立ちますので、帽子で隠しておきましょう」
「はい」
「いいですか、怪しそうな人物と、ノーマル人間にだけは絶対接触しないように……」
「わかってますよ、心配性だなじいやは」
自衛隊の制帽に似た白いベレー帽の中に耳を折りたたんでしまいこむと、ぼくもまるで人間のようだ。鏡をみて、これじゃノーマル種との区別がつかないんじゃ……? と首を傾げた。
「大丈夫です。純血アルファの血統が、必ず危険を察知します。ベータの私にはわかりませんので、どうかご自身で身を護る術を身に着けてください。無論、有事の際には御守りいたしますが、これも運命の番探しの旅をするための修行、ということで」
「はい、わかりました」
兎に角、やってみないことにはわからない。
ぼくは王族の服を脱ぎ捨て、使用人の普段着を借りて変装すると、じいやと二人で城下町に繰り出した。
**
見るもの全てが、新しい。
うんと小さい時に一度王様と降りた時は、みんなぼくを見て手を振ったり、笑ったりするだけだったのに、今日は誰もぼくを見ないで一生懸命働いている。
賑わう人の足取り、景気よく売り物を宣伝する声。肉を捌く音。
町中のあちこちで、ベータの獣人たちが生き生きと生活している。
こんなにたくさんの人の中から、ぼくの運命のつがいを探すなんて……。けっこう、過酷。
「カツユキ様、どちらへ」
「もうちょっと、人の少ない所に」
「あまり暗い路地に入られると危ないですよ」
人酔い、したかもしれない。くらくらしてきた頭を少し抑えながら、じいやの声も聞かず早足で涼しい路地を目指した。誰もいないところでちょっと休憩したい。
どこかわからない場所で、石壁に寄りかかってため息をついた途端、後ろから誰かに肩を叩かれた。
「よう少年、どうした。体調よくないのか。随分こじゃれた帽子被ってるが……お前人間か?」
驚いて振り返ると、知らない男が立っていた。獣耳も、髭も、体毛も、尻尾も見当たらない。
これはもしかして。
(ノーマル……異世界の人間?)
「はは、そんな怯えた顔しなくても大丈夫だよ。随分顔色悪くてしんどそうだったからな、声かけたんだ。どうだ? すぐそこ、俺の宿なんだ。少し休んでいかないか。お代は安くしておくよ」
どうやら近くの宿の店主だったようだ。けれど何か心臓が逸る。
危険。キケン。
この男は、俺たちと同じ種族じゃない。――ノーマルだ。
気づいた途端、ぶるっと肌に寒気が走った。
「結構です」
「……おっと、冷たいなあ? 可愛い顔してるのに。なんかお前、いいとこのお坊ちゃんっぽいよな……こんなところに一人で紛れこんで、タダで帰れると思うなよ?」
「……! やめろ、触るな」
絵本でたまに見かける、悪役のテンプレートなセリフを投げかけられて、ぼくは思わず後ずさった。やっぱりこいつは人間だ。きっと王族のぼくを捕まえて、何か悪いことを企んでいるに違いない。
急いでじいやを呼ばないと。
そう思った途端、いきなり目の前から人間が横向きに吹っ飛んだ。
――ブオンッ。ガッ、ガシャーン。
空気が切れる音のあとに、木箱にぶつかりひっくり返る騒音が鳴り響く。
いなくなった人間の代わりに、ぼくの目の前には黒いたれ耳が目に映った。
「好奇心旺盛な王子様ですから、仕方ないですね。王には秘密ですよ」
「ありがとうございます!」
嬉しさのあまり、ぼくの真っ白い耳がピンと天井に向かって跳ね上がった。嬉しいと、勝手に耳が立つんだ。いつもはほんのり折れているから、まっすぐになったぼくの耳を見て、じいやも嬉しそうに尻尾を振っていた。
じいやは黒いドーベルマンと人間の亜種。しなやかで引き締まった黒毛の背中にスーツがよく似合っていてカッコイイ。便宜上じいやって呼ぶけれど、実際の年齢はよくわからない。おじいちゃんっていうよりは、精悍なおじさんの方が似合いそう。
外に出る時は、彼がぼくのボディガードだ。
「カツユキ王子の耳は目立ちますので、帽子で隠しておきましょう」
「はい」
「いいですか、怪しそうな人物と、ノーマル人間にだけは絶対接触しないように……」
「わかってますよ、心配性だなじいやは」
自衛隊の制帽に似た白いベレー帽の中に耳を折りたたんでしまいこむと、ぼくもまるで人間のようだ。鏡をみて、これじゃノーマル種との区別がつかないんじゃ……? と首を傾げた。
「大丈夫です。純血アルファの血統が、必ず危険を察知します。ベータの私にはわかりませんので、どうかご自身で身を護る術を身に着けてください。無論、有事の際には御守りいたしますが、これも運命の番探しの旅をするための修行、ということで」
「はい、わかりました」
兎に角、やってみないことにはわからない。
ぼくは王族の服を脱ぎ捨て、使用人の普段着を借りて変装すると、じいやと二人で城下町に繰り出した。
**
見るもの全てが、新しい。
うんと小さい時に一度王様と降りた時は、みんなぼくを見て手を振ったり、笑ったりするだけだったのに、今日は誰もぼくを見ないで一生懸命働いている。
賑わう人の足取り、景気よく売り物を宣伝する声。肉を捌く音。
町中のあちこちで、ベータの獣人たちが生き生きと生活している。
こんなにたくさんの人の中から、ぼくの運命のつがいを探すなんて……。けっこう、過酷。
「カツユキ様、どちらへ」
「もうちょっと、人の少ない所に」
「あまり暗い路地に入られると危ないですよ」
人酔い、したかもしれない。くらくらしてきた頭を少し抑えながら、じいやの声も聞かず早足で涼しい路地を目指した。誰もいないところでちょっと休憩したい。
どこかわからない場所で、石壁に寄りかかってため息をついた途端、後ろから誰かに肩を叩かれた。
「よう少年、どうした。体調よくないのか。随分こじゃれた帽子被ってるが……お前人間か?」
驚いて振り返ると、知らない男が立っていた。獣耳も、髭も、体毛も、尻尾も見当たらない。
これはもしかして。
(ノーマル……異世界の人間?)
「はは、そんな怯えた顔しなくても大丈夫だよ。随分顔色悪くてしんどそうだったからな、声かけたんだ。どうだ? すぐそこ、俺の宿なんだ。少し休んでいかないか。お代は安くしておくよ」
どうやら近くの宿の店主だったようだ。けれど何か心臓が逸る。
危険。キケン。
この男は、俺たちと同じ種族じゃない。――ノーマルだ。
気づいた途端、ぶるっと肌に寒気が走った。
「結構です」
「……おっと、冷たいなあ? 可愛い顔してるのに。なんかお前、いいとこのお坊ちゃんっぽいよな……こんなところに一人で紛れこんで、タダで帰れると思うなよ?」
「……! やめろ、触るな」
絵本でたまに見かける、悪役のテンプレートなセリフを投げかけられて、ぼくは思わず後ずさった。やっぱりこいつは人間だ。きっと王族のぼくを捕まえて、何か悪いことを企んでいるに違いない。
急いでじいやを呼ばないと。
そう思った途端、いきなり目の前から人間が横向きに吹っ飛んだ。
――ブオンッ。ガッ、ガシャーン。
空気が切れる音のあとに、木箱にぶつかりひっくり返る騒音が鳴り響く。
いなくなった人間の代わりに、ぼくの目の前には黒いたれ耳が目に映った。
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