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第四章 ルインズガル大陸

第十九話 殺めた代償

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「ジーニ様!」
「ん?ああ、シリカさんか...どうしたのそんなに悲しい顔して」

 目を覚ますとシリカさんが涙目で僕を見つめていた。起き上がろうと思うんだけどとても体が重いし喉も少しイガイガする、何でだろう。

「ああ、ジーニ様」

 シリカさんは泣きじゃくって寝そべる僕を抱きしめた。よく見るとシリカさんの後ろにはみんなが立ってた。

「ジーニ、あなたは一か月ほど寝込んでいたのよ」
「え...そんなに?」

 メリアお母様の言葉に僕は驚く。すると僕は頭がフラフラとして目を回した。

「ん、ジーニ様無理しないで寝ながら聞いてね」

 ララさんも真剣な目で僕を見る。

 僕がアダマイオスを殺めてから一か月。アドスバーンとヘンダークで大きな衝突が起きたんだって。それで僕らアステリアも動いてアドスバーンとシュミットそれにアルサレムと一緒にヘンダークを討ってでたんだ。

 ヘンダークは大きく後退して兵も大きく無くししばらくは大人しくなるみたい。こちらの兵力はそれほど減らなかったけど一番打撃を受けたのはアドスバーンでガイアって人が危ない状況らしいんだ。それで僕に声がかかっていたんだけど僕は意識不明だったから大変だったみたい。

「ジーニ、しばらくは自分の回復に専念してくれ。動けるようになったらガイアって人を回復しに行ってやろう」
「アイ、アダマイオスの奴隷達はどうしたの?」

 僕は疑問を口にする。どうやらアダマイオスの奴隷達はアダマイオスが死んだことで解放されたみたい。一部はアステリアで兵士として働いてくれるみたいだけど残りはアドスバーンが引き取るんだってさ。僕はほっと胸を撫でおろした。

「こんな時まで敵だった者の心配をして...ジーニ様は優しすぎます」

 シリカさんは泣きすぎで腫らせた目を擦りながら笑ってた。僕はシリカさんを悲しませちゃった。でも何で僕は気を失っちゃったんだろう。

 思い当たるのは初めて人を殺してしまった事だろうか。僕は前世でも人を殺したことはない。ましてや僕はまだ3歳だ。人の命を奪った事で背負えないほどの罪を受けてしまったのかもしれない。

 確かに僕は前世の記憶をもってる為、人を殺める事を躊躇ってた。でもそれは大事な人に危害が加わらなかった場合だけだ。ララさんの時も僕はこの怒りを抑えるのに必死だった。僕は殺める事を遠ざける一方で恐怖してたのかもしれない。前世の僕ではなくてこの世界の僕が怖がってたんだだと思う。

「ジーニちゃん痛くない?」
「フローラちゃんを褒めてあげてください。あそこからジーニ様をはこんでくれたんですよ」

 ああ、そうか。アダマイオスが作った陣で僕は気を失ったんだよね。あのままだったら流石にオークレのお姉さんが来てやられちゃったかもしれない。

 僕はフローラちゃんの頭を撫でてあげると気持ちよさそうに目を細めてた。何だか猫を撫でてるみたい。

 でもその時気付いちゃった。フローラちゃんの体が悲鳴をあげ始めてる事に。

 魔人になったばかりのフローラちゃんの時のように肌が所々ひび割れてる。僕が気を失っている間は自分で魔力の膜を張っていたんだけどやっぱり僕よりも弱い膜ではダメだったのかもしれない。

 早急にガザード大陸へと向かわなくちゃいけなくなった。でもガイアって言う人はこれ以上みたいだから先に...あ~どうしよ。

「ジーニ様が目覚めたって!」

 僕が考え込んでいると扉が勢いよく開かれてデシウスが入ってきた。そのまま僕へと抱き着くと泣き出しちゃった。

「ジーニ様、死なないでください!!」
「あう!、もう大丈夫だよデシウス」
「デシウス、そんなに強く抱きしめてはジーニ様が」

「シリカも抱き着いていただろう。私だって」
「私はいいんです!」

 デシウスと言いあうシリカさんは何だか子供みたいだった。その場にいたみんなは二人を見て笑ってた。でも何だかみんなよく見ると目の下にクマが出来てた。相当心配させちゃったみたい。

「じゃ、そろそろジーニを休ませてあげましょ」
「え!、いや。このまま私が寝かしつけます」

「ダメよ。今日はみんな別々で寝なさい」

 メリアお母様は凄い剣幕でみんなに一睨み効かせる。みんな小さくハイと返事をして僕の部屋を後にしていった。

「ふうっ。ジーニ、本当に大丈夫?」
「俺やメリアに頼ってもいいんだぞ」

 部屋に残ったお父様とお母様が心配そうに話す。僕は大丈夫と言いながら涙した。

「あれ?おかしいな...なんで涙が。うう..うえ~ん」

「大丈夫よ。今は泣きなさい」
「俺達がついてるぞ」

 僕はわけもわからずに大きな声をだして泣いた。その日は泣き疲れてそのまま眠りについた。

 その日の夢はとても怖い夢だった。アダマイオスがシリカさんを切りつけている夢だった。

 僕はアダマイオスを止めようとするんだけどタダの子供の僕には何もできなくてシリカさんは....。

 僕は何度もあぶら汗をかいて飛び起きたけど何回寝ても同じ夢を見ちゃった。僕は眠るのをやめて部屋の隅で体育座りしてた。

「ジーニ様」

 その時僕の部屋の扉が開いた。ララさんが僕が起きたのに気付いて来てくれたみたい。だけど僕は動かずに隅で縮こまる。

「ジーニ様は正しい事をしたの。だから怖がらないで」

 ララさんはそう言って僕の肩に手を置いた。僕はビクッと震えた。その様子を見たララさんは居てもたってもいられずに僕を抱きしめた。

「ジーニ様は私が守る。こう思ってるのは私だけじゃないよ。シリカだってデシウスだってフローラちゃんもそうだよ。ジーニ様はみんなの光なの。そんな闇に負けないで」

 僕を見透かすようにララさんは勇気づけてくれる。僕は泣きはらした目をララさんに向けると静かにララさんはおでこにキスをしてくれた。

 僕は安心したのか、目を瞑り寝息をかいて意識を手放した。僕のからだからネバっとした黒い靄が取れたように僕の体は軽くなっていくのを感じたんだ。

 その後見た夢はとてもいい夢だった。アステリアでまたプールに入ったり畑や農場を手伝ったり。

「ふふ、ジーニ様とってもいいお顔」

 ララはジーニの頬を突っついて笑う。そしてジーニと一緒のベッドに横たわると夢の世界へと入っていった。

 ジーニは初めて人を殺めた。人を殺める事の重さを始めて実感したのだ。どんなに悪い人でも必ず親族というものがいる。その人達からの恨みがやってくるのだ。

 それをジーニは感じ取ってしまったのだろう。だがもう大丈夫、ジーニは周りに助けられて立ち上がる。ジーニにもまた家族がいるのだ。これはどんなステータスよりも大切なモノである。

 いつも近くで見守ってくれて、いつも近くで助けてくれて、いつも近くで笑ってくれて、いつも近くで泣いてくれる。そんな家族がいるからジーニは殺めた事から立ち上がれるのだった。

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