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第2章 王国と魔道
第54話 襲撃
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◇
「オスロード王に謁見を」
「エルディン共和国の使者と話をしている。お待ちください」
「エルディンの使者だと!?」
時は遡り。エスメル侯爵がオスロード王都に到着した時。
彼女は王城に着き、城の執事に声をかける。エルディンと聞いて驚いていると、エルフの一団が玉座の間から現れる。
静かに横を通るエルフの一団。彼女を気に留める様子もなく素通りしていく。
「エルディンのエルフ共がなんでここに……。まさか!」
「エスメル様!」
エスメル侯爵は我慢できずに玉座の間へと駆ける。声を荒らげる執事にも目もくれず。
誰も止められない彼女は容易に玉座の間へと入った。そこで目にしたのは大量の宝。金銀財宝はもちろんのこと、魔道具の類も置かれている。
「エスメルどうした? そんなに慌てて」
「王!」
玉座から財宝を見ていた王がエスメルへと視線を一瞥する。すると彼女は力強く答えて王の胸ぐらを掴む。
「懐柔されたか! 私の町が襲われたことをこのような宝ごときでなかったことに!」
「フォッフォッフォ。被害がなかった町の事件をなかったことにするのにこのような大金をはたく。エルフは本当に馬鹿だな。フォッフォッフォ」
「……」
胸ぐらを掴む力もなくなる。それほど平和ボケした王、父に失望を強いられる。
エスメルは無言で国の王を見つめる。
「この金で復興に励め。税は安くせんぞ」
「嘆かわしい」
「ん~。フォッフォッフォ不敬な娘だ。本来ならば死刑だが、許そう。今は機嫌がいいからな。フォッフォッフォ」
「失礼する」
投げ与えてくる金銀財宝。エスメル侯爵はそれを汚いものでも見るかのように躱して答える。
玉座の間を出てアスガルの待つ馬車へと急ぐ。
「すぐに出発する。オルクスに、私の町に戻るぞ」
『こんなところには一秒もいたくない』エスメル侯爵はそう付け加えて馬車を走らせる。
「アスガル。なぜ王はあのようになってしまったんだ?」
「……不敬でございます。が! 言わせていただきますと、エルディン共和国が関係していると思われます。エルフと会い始めてから王は変わられた。金への執着が強くなったように感じます」
エスメル侯爵の問いかけにアスガルは目を見開いて答える。
「エルディン共和国。今回のことを知っている。オルディナから報告を受けているんだろう。しかし、あれだけの金を使う価値があるのか。”研究”オルディナが執着する成果が富を呼ぶか。ゾンビや魔物を大量に沸かせる研究が何の役に立つというのだろう。私なら、もっと民が笑顔でいられる研究をするんだがな」
「エスメル様……」
王都を進む馬車の中。エスメル侯爵の民を思う心がアスガルの耳だけに落ちる。彼は涙して心打たれた。
「戦争は回避されたか。だが、オルディナは続けるだろう。成果を得ていないだろうからな。ん? 雨か」
王都を出て街道を走り出した馬車。外では雨が降り注ぎ始める。
王都の外で暮らす難民が雨に打たれている。彼女はその姿を見て悔し涙を流した。
「貴族、王族がなんだというのだ。あのように金銀財宝を得てもなにも変えようとしない。未来を作る民たちが飢えて死んでも見向きもしない……。ルーザーには悪いが、オスロード王国はあの時に終わるべきだったんだ」
「エスメル様それはあまりにも」
「……すまない。少々雨に打たれ過ぎたな。失ってもいないくせに失ったように嘆いて。女々しい女だ」
エスメルは涙を拭って目を瞑る。そのまま寝息を立てるとアスガルは涙を流した。優しい主人が心を痛める中、何もできない彼は更に胸を痛める。
「ヒヒ~ン!?」
「ん? どうした?」
夜通し走っていた馬車が止まる。御者に声をかけるが返答が帰ってこない。後ろ姿だけが見える小窓に血が滴る。
「エスメル様!」
「アスガル。敵だ!」
異変に気が付いた二人は武器を構える。
アスガルは短剣を二本構え、エスメルは大剣を背負う。赤くぎらつく大剣、彼女には似つかわしくない剣。彼女の本気はこの大剣が作り出す。
「静かだ……」
馬車の中、動けずにいたエスメル。静寂に身を任せてしまっている。何も起こらなければ雨にぬれずにも済む。
そんな安堵に身を任せていると窓から火がのぞく。
「ちぃ!」
火の魔法が複数投げられる。【ファイアボール】の魔法。火をボールの形状で放つ魔法だ。馬車に当たると爆発を起こして周囲を焼く。
雨が火に触れてジュウと音を立てる。
「魔法兵。オルディナ……ではないな」
「エスメル侯爵様。お初にお目にかかります。わたくしはエルディン共和国の使者。エ……」
エスメルの呟きに白装束の集団が囲んで答える。しかし、最後まで名乗れなかった。
「名乗りはいらん。我が主人に不敬な輩の名を覚える暇はない」
アスガルが名乗り始めたエルフの喉をかききる。声を残すと闇に消えて白装束を血に染めていく。
「アスガル。私の分もとっておいてくれ」
「それはなりません。我が主には雨だけを差し上げます」
「命令を聴かない執事は不敬だぞ。まったく……」
白装束の集団の悲鳴が雨の相槌を打つ。エスメルとアスガルはいつも通りの会話を続けて突破していく。
彼女が遅れた理由は襲撃だった。二人は無事にオルクスへと帰ってくる。
◇
「オスロード王に謁見を」
「エルディン共和国の使者と話をしている。お待ちください」
「エルディンの使者だと!?」
時は遡り。エスメル侯爵がオスロード王都に到着した時。
彼女は王城に着き、城の執事に声をかける。エルディンと聞いて驚いていると、エルフの一団が玉座の間から現れる。
静かに横を通るエルフの一団。彼女を気に留める様子もなく素通りしていく。
「エルディンのエルフ共がなんでここに……。まさか!」
「エスメル様!」
エスメル侯爵は我慢できずに玉座の間へと駆ける。声を荒らげる執事にも目もくれず。
誰も止められない彼女は容易に玉座の間へと入った。そこで目にしたのは大量の宝。金銀財宝はもちろんのこと、魔道具の類も置かれている。
「エスメルどうした? そんなに慌てて」
「王!」
玉座から財宝を見ていた王がエスメルへと視線を一瞥する。すると彼女は力強く答えて王の胸ぐらを掴む。
「懐柔されたか! 私の町が襲われたことをこのような宝ごときでなかったことに!」
「フォッフォッフォ。被害がなかった町の事件をなかったことにするのにこのような大金をはたく。エルフは本当に馬鹿だな。フォッフォッフォ」
「……」
胸ぐらを掴む力もなくなる。それほど平和ボケした王、父に失望を強いられる。
エスメルは無言で国の王を見つめる。
「この金で復興に励め。税は安くせんぞ」
「嘆かわしい」
「ん~。フォッフォッフォ不敬な娘だ。本来ならば死刑だが、許そう。今は機嫌がいいからな。フォッフォッフォ」
「失礼する」
投げ与えてくる金銀財宝。エスメル侯爵はそれを汚いものでも見るかのように躱して答える。
玉座の間を出てアスガルの待つ馬車へと急ぐ。
「すぐに出発する。オルクスに、私の町に戻るぞ」
『こんなところには一秒もいたくない』エスメル侯爵はそう付け加えて馬車を走らせる。
「アスガル。なぜ王はあのようになってしまったんだ?」
「……不敬でございます。が! 言わせていただきますと、エルディン共和国が関係していると思われます。エルフと会い始めてから王は変わられた。金への執着が強くなったように感じます」
エスメル侯爵の問いかけにアスガルは目を見開いて答える。
「エルディン共和国。今回のことを知っている。オルディナから報告を受けているんだろう。しかし、あれだけの金を使う価値があるのか。”研究”オルディナが執着する成果が富を呼ぶか。ゾンビや魔物を大量に沸かせる研究が何の役に立つというのだろう。私なら、もっと民が笑顔でいられる研究をするんだがな」
「エスメル様……」
王都を進む馬車の中。エスメル侯爵の民を思う心がアスガルの耳だけに落ちる。彼は涙して心打たれた。
「戦争は回避されたか。だが、オルディナは続けるだろう。成果を得ていないだろうからな。ん? 雨か」
王都を出て街道を走り出した馬車。外では雨が降り注ぎ始める。
王都の外で暮らす難民が雨に打たれている。彼女はその姿を見て悔し涙を流した。
「貴族、王族がなんだというのだ。あのように金銀財宝を得てもなにも変えようとしない。未来を作る民たちが飢えて死んでも見向きもしない……。ルーザーには悪いが、オスロード王国はあの時に終わるべきだったんだ」
「エスメル様それはあまりにも」
「……すまない。少々雨に打たれ過ぎたな。失ってもいないくせに失ったように嘆いて。女々しい女だ」
エスメルは涙を拭って目を瞑る。そのまま寝息を立てるとアスガルは涙を流した。優しい主人が心を痛める中、何もできない彼は更に胸を痛める。
「ヒヒ~ン!?」
「ん? どうした?」
夜通し走っていた馬車が止まる。御者に声をかけるが返答が帰ってこない。後ろ姿だけが見える小窓に血が滴る。
「エスメル様!」
「アスガル。敵だ!」
異変に気が付いた二人は武器を構える。
アスガルは短剣を二本構え、エスメルは大剣を背負う。赤くぎらつく大剣、彼女には似つかわしくない剣。彼女の本気はこの大剣が作り出す。
「静かだ……」
馬車の中、動けずにいたエスメル。静寂に身を任せてしまっている。何も起こらなければ雨にぬれずにも済む。
そんな安堵に身を任せていると窓から火がのぞく。
「ちぃ!」
火の魔法が複数投げられる。【ファイアボール】の魔法。火をボールの形状で放つ魔法だ。馬車に当たると爆発を起こして周囲を焼く。
雨が火に触れてジュウと音を立てる。
「魔法兵。オルディナ……ではないな」
「エスメル侯爵様。お初にお目にかかります。わたくしはエルディン共和国の使者。エ……」
エスメルの呟きに白装束の集団が囲んで答える。しかし、最後まで名乗れなかった。
「名乗りはいらん。我が主人に不敬な輩の名を覚える暇はない」
アスガルが名乗り始めたエルフの喉をかききる。声を残すと闇に消えて白装束を血に染めていく。
「アスガル。私の分もとっておいてくれ」
「それはなりません。我が主には雨だけを差し上げます」
「命令を聴かない執事は不敬だぞ。まったく……」
白装束の集団の悲鳴が雨の相槌を打つ。エスメルとアスガルはいつも通りの会話を続けて突破していく。
彼女が遅れた理由は襲撃だった。二人は無事にオルクスへと帰ってくる。
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