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第15話 

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「……」

「アクアス様」

 これまでの経緯を聞いて僕は怒りが込みあがってくる。
 お父様……いや、グレイスホーンがルミナさんに子供を作らせようとしたことへの怒りが天をも越えそうだ。
 周りに待機させているマナが沸々と沸騰しているみたいに気泡を作り出して二人にも見えるほどになってる。
 親が子の思い人に手を出そうとしたことを思って二人も悲しそうに俯いちゃった。
 そんな悲しくて憤る内容も僕に兄弟がいるということがわかって少し和らぐ、早く二人にも会いたいな。

「兄弟に会いたいな……」

 少し落ち着いて声をもらすとルミナさんが抱きしめてくれた。凄く悲しいけど、凄く嬉しい。まさか、僕に兄弟がいるなんてさ。それも二人で妹だよ。こんなに嬉しいことないんだけどな……。

「彼女達は今髪留めを外に投げているころですね」

「髪留め!? それって」

「はい。母の形見の」

 大切な形見の髪留めを姉妹に握らせて屋敷の外に出す。そうすれば、僕が気づく可能性が高くなる。確かに塔に入る前に外周を回っていれば気づいたかもしれない。丁度入れ違いになったってことかな。

「じゃあ、取りに行ってくるよ。エルザさん、グレイスホーンが来たらとっちめておいてね」

「はい!」

 エルザさんにこの場は任せて姉妹の所へと急ぐ。
 貴族街なので落ちているものを拾う人はいないと思うけど心配だ。急いで回収しよう。

 塔の天窓から出て屋敷全体を見下ろす。
 庭の壁際に二人の少女が走っていくのが見えた。後ろに執事と兵士がいる、今は気づかれないほうが良いかな。
 髪留めを外に投げるはずだから捨てる壁の外側で待っていよう。

「ん~。はっ! 届かない」

「だから私に任せてって言ったでしょリリ」

「うんん。このくらいできないとあの男にも勝てない! こんなことに使うのは精霊さんは怒るかも知れないけど、お願い」

 外で待っていると可愛らしい姉妹のやり取りが聞こえてくる。
 妹のリリがレレイの協力を嫌がって何かしようとしてるみたいだ。内容から言って魔法を使おうとしてるみたい。
 小さくても僕の妹だね。あの年齢で精霊の力を借りれるなんて凄いことだ。
 精霊も彼女の言うことをちゃんと聞いて水の力で壁の外へと髪留めを放り出した。

「魔法がうまいね」

「えっ!? だれ?」

 壁の外から声をかける。驚くリリとレレイ、兄だと告げると嬉しそうな声に変わっていく。

「本当にお兄様なのね! 会いたい!」

「ああ、僕も会いたいよ。ルミナさんの所にいけるかい?」

「うん! 大丈夫ですよ。あんな兵士達なんてすぐにまけるから」

「ふふ、流石僕の妹たちだね」

 リリとレレイが楽しそうに話す。彼女達も僕と会いたがっていたみたいだ。積もる話もいっぱいある、すぐにルミナさんの所に戻ろう。

 髪留めをもって塔へと帰る。そこにはエルザさんとルミナさん、それに一人の男が気絶していた。

「グレイスホーンが来たので気絶させました」

「流石の賢者も至近距離に剣士がいたらかてないね」

 エルザさんが報告してきた。僕みたいないつでも魔法が展開できる魔法使いはそう相違ないからね。
 流石に自宅でいつでも攻撃できるようにしてる魔法使いは僕くらいなものだよ。
 至近距離で剣士をいなせる人も僕くらいだろうしね。

「ルミナに迫っていったので一発でしたよ」

「……。殺意だけで人が殺せたらな~」

 わざわざ殺すこともないけれど、ルミナさんに手を出すなんて万死に値する。

「姉妹も憎んではいましたが親の死を背負うのは大変なことです。レティナ様の所に帰すという条件を突きつけるほうがいいかと」

「そうだね」

 ルミナさんの提案に頷く。縛り上げてルミナさんに使われた従順の首輪をつけよう。
 従順の首輪は簡単に外れたんだよな~。闇の精霊が首輪に住んでいるんだけど、そのこと話して外してもらったんだ。
 僕のマナを与えたら一発だったよ。マジックバッグを作ってくれた光と闇の精霊もそうだけど、僕のマナは精霊たちにとって最高のものみたいだ。

「お兄様! まいてきましたわ!」

「戻りましたルミナ姉様」

 そうこうしているうちに姉妹が帰ってきた。
 二人は僕を見つめてもじもじと手遊びを始める。

「よくやってくれたね二人とも」

 よくできた姉妹の頭を撫でる。二人は顔を見合って嬉しそうに頬を赤く染めた。

「お兄様があの男に似てなくて良かった」

「お母様に似てくれなかったら嫌っていたかもしれないから」

 二人は僕に抱き着いた。
 子供にこんなことを言わせてしまうグレイスホーン。どれだけのことをこの子達の前でしたんだ?

「二人とも、ここじゃないところで暮らす気はある?」

「「え?」」

 二人に提案するとキョトンとした表情で顔を見合ってる。急すぎたかな?

「……。そこにお母様も呼んじゃダメですか?」

「お母様か」

 正直、生まれたばかりの僕を捨てようとしたお父様とお母様は許せない。出来れば顔もみたくないな。

「正直お母様とはあまり顔を合わせたくないな」

「兄さまは誤解してます。お母様は反対したんです。兄さまを追放したことを悔やんでろくに食べてもいなくて……。私達を産んだお母様は体を壊してしまったの」

「綺麗だったお母様は見る影もなくなってしまった。だからお願いします……」

 ん~、追い出されてからの情報はないからな~。お母様は少しは常識のある人だったみたいだね。それなら会ってみるのもいいかもしれない。

「わかったよ」

「「やった~」」

 従順の首輪をグレイスホーンにつけて姉妹と共に屋敷の外へと歩いて向かう。
 もちろん、見知らぬ僕らを見た兵士や執事たちが騒ぎ出した。

「アクアス様のお通りだ! 道を開けよ!」

「何を世迷言を! グレイスホーン様のお屋敷に忍び込んでタダで出られると思うなよ!」

 エルザさんを先頭に兵士達と戦闘になる。僕はため息をついて雨を降らせた。

「な、なんだ……晴れているのに、雨、が……」

「兄さま? 何をしたの?」

「精霊達が喜んでる?」

 騒がしかった兵士達が全員眠っていく。
 精霊たちにマナをあげて眠りの雨を降らせてもらったんだ。この雨は屋根があってもお構いなしに範囲内の人を眠らせる。
 よっぽど魔法抵抗の高い人じゃないと防げないものだ。普通の魔法じゃここまで凄いものじゃない。精霊達がサービスしすぎてくれたみたい。

「お兄様。塔の鍵を手に入れた時にお父様の日記を持ってきたんです。何かの役に立ててください」

 早く帰ろうと精霊たちの作った雨の降っていない道を通って敷地内から出ようと思ったらレレイが本を手渡してきた。分厚い本で日記ってことはお父様のやってきたことが書かれているかも。

「鍵がかかってるね」

「鍵は見つけられなかったので役に立つかわからなかったのですが……」

「ううん。役に立つはずだよ。それにあける方法はあるからね」

 レレイの頭を撫でて褒める。レレイは冷静だな。
 リリもして欲しそうにしているから撫でてあげると抱き着いてきた。抱き上げてあげると頬を摺り寄せてくる。
 グレイスホーンには感謝しないとな。こんなに可愛くて素直な妹をくれたんだから。
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